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不死鳥の剣  作者: TE☆TSU☆JI
111/206

妙薬

 奇声を上げ襲い掛かって来る下位のイビルニア人達は、サリンとソーマンに命じられている通り、まともにレン達と剣を交えようとはしなかった。

 「何だよこいつら、ちょろちょろ逃げ回りやがって」

 と、ラーズが叫ぶように言った。いつものイビルニア人とは、どこか様子が違うと思った。レンもマルスもテランジンとヨーゼフも同じように感じていた。レンは、修復から帰って来て少し短くなった斬鉄剣が思いのほか扱いやすくなっている事に気付き驚いていた。

 「こ、こんな時に言うのも何だけどマルス、斬鉄剣が少し短くなったおかげでとても扱いやすくなったよ」

 「そうか、そりゃ良かったなっと!」

 と、顔を隠しているマルスがイビルニア人を一人殺した。その様子を壊れた扉からこっそりとサリンとソーマンが見ている。

 「ソーマン今マルスと聞こえたが」

 「そんなはずはない、俺がこの手で殺したはずだ」

 「あの顔を隠している男…まぁ良いそろそろ出るか」

 「良し、行くぞっ!」

 と、サリンとソーマンは、同時に大広間に入った。そして、一気にヨーゼフとテランジンに襲い掛かった。剣と剣がぶつかり合う音が大広間にこだまする。

 「久しぶりだなぁヨーゼフ・ロイヤー」

 「おお貴様はサリンではないか」

 と、ヨーゼフとサリンが鍔迫り合いの中、久しぶりに会った知人の様に言った。テランジンもソーマンと鍔迫り合いを繰り広げている。

 「森でお前を見た、なかなかの腕だな」

 「ふん、森のどこで見ていたか知らんがここから生きて帰れるとは思うなよ、そらっ!」

 と、テランジンがソーマンを蹴り飛ばした。ソーマンは、素早く体勢を整え身構えた。

 「おい、ソーマン相手が違うぞ」

 と、マルスは言うと顔を晒した。ソーマンは、何故といった顔をして言った。

 「き、貴様は死んだはずでは…」

 「ああ、あの時俺も死んだと思ったが、お前が出て行った後にドラクーン人がうちに来てな治療してもらった」

 「な、何ぃドラクーン人だと」

 「話しは終わりだ、行くぞ!」

 と、マルスは言い真空斬を放った。ソーマンは、紙一重で避けたが真空波が大広間の壁に当たり壁が大きく裂けた。マルスがばつの悪そうな顔をしてレンに言った。

 「うわぁやっちまった!すまんレン、壁壊しちまった」

 「良いよそんなの、それよりも早くこいつらを片付けよう」

 レンは、攻撃を仕掛ける素振りを見せては、逃げ回る下位のイビルニア人に手間取っていた。テランジンがヨーゼフの加勢に回った。さすがのヨーゼフも一年近く戦闘から離れていると身体が鈍っていたようでサリンに押され気味だった。

 「閣下!」

 テランジンがサリンの側面から斬りかかった。サリンがヨーゼフを押し退けテランジンの一撃をかわすと同時に今度は、テランジンに斬りかかった。

 「閣下こいつはお任せ下さい」

 「す、すまぬ」

 「ククク、良いのか俺に気を取られて今頃お前達の大事な何かが大変な事になっているぞ」

 と、サリンが謎かけの様な事を言った。

 「大事な?何の事か?」

 と、テランジンは、サリンの攻撃を受け流しながら聞いた。サリンは、ほくそ笑みながら答えた。

 「あの厳重に警備された部屋に何かあるのだろうと思ってな」

 テランジンの顔が険しくなった。話しを聞いていたヨーゼフが慌てて言った。

 「いかん、テランジン、エレナ様達が危ない!行け!」 

 「ははっ」

 テランジンは、サリンからサッと身を引きエレナ達が居る部屋へと全力で走って行った。サリンは、わざと見逃した。テランジンが大広間から出て行った事に気付いたレンがやっと目の前の下位のイビルニア人の首を刎ねヨーゼフに駆け寄る。

 「テランジンどうしたの?」

 「若、エレナ様達が襲われているようで今テランジンを行かせたところです」

 「何だって?」

 レンとヨーゼフの様子を見て大満足のサリンだった。

 「その様子だとよっぽど大事な何かのようだなクフフフ」

 と、サリンがへらへらしながら言った時レンの真空突きがサリンの頬を切り裂いた。どす黒い血が飛び散った。

 「この野郎、殺してやるからさっさとかかって来い」

 と、レンは、珍しくマルスが吐きそうな台詞せりふを言った。よほど腹が立ったのだろう。サリンは、頬から流れ出る血を拭うとレンに襲い掛かった。その頃、エレナの部屋を守るミトラとクラウド、近衛兵達の激しい攻防戦が繰り広げられていた。そして、テランジンがエレナの部屋に通じる廊下に出た時、クラウドが中位のイビルニア人に斬られ蹴り倒され部屋に侵入するところを見た。

 「クラウドッ!」

 「テランか、部屋に入られたエレナ様が!」

 テランジンは、クラウドの傷が浅い事を確認しエレナの部屋に入った。中からエレナ達の悲鳴が聞こえる。そして、テランジンの目に映ったのは、シーナが龍の姿に変身してイビルニア人の攻撃を防いでいる所だった。

 「シーナッ!」

 「あっ兄ぃ」

 テランジンは、直ぐに斬りかかった。中位のイビルニア人は、右手に持った剣でテランジンの攻撃を防ぎ壁際まで飛び下がった。左手には、鉄の爪を装備している。

 「シーナ、外のミトラに加勢してやってくれ、それと先ほどこいつにクラウドが斬られた、後でいいから治してやってくれ」

 と、テランジンが一気に言った。

 「分かった、じゃあ頼んだよ」

 と、シーナは言って部屋の窓から飛び出しミトラ達に加勢した。テランジンは、姿勢を低くし剣を構えている。夜と言う事もあり中位の者でも上位者に近い力を目の前のイビルニア人は持っていた。

 「私も戦う!」

 と、コノハが、刀を抜き構えテランジンの横に並んだ。中位のイビルニア人は、ゲラゲラと笑い言った。

 「ギャハハハ何とも頼もしい助っ人ダナ、ではその助っ人から殺してヤロウ」

 と、コノハに襲い掛かった。当然テランジンが立ち塞がり攻撃を防ぐ。撃剣の音が部屋に響いた。

 「この力、中位の者とは思えんな」

 「グフフフ夜は我々を強くする」

 コノハは、隙を見たのかイビルニア人の太ももを斬り付けたが全く効いていない。

 「あれぇ?何で斬れないの?」

 「コノハ様どうかお下がり下さい」

 「私も戦うんだから、えいっ!」

 と、テランジンの言葉を聞かずコノハは、もう一度イビルニア人に斬りかかったが今度は、鉄の爪で弾かれ刀を落とした。そして、テランジンを押し倒した。

 「ここに居る全員を殺してやるわキィイェェイ」

 と、壁際に居たエレナ、カレンそしてヨーゼフの娘リリーに襲い掛かった。

 「きゃぁぁ!」

 と、一番年長者であるリリーがエレナとカレンを抱き庇った。

 「グゥエェェェ」

 間一髪テランジンがイビルニア人の後ろから首根っこを掴み投げ飛ばした。家具に激突し家具がバラバラになった。

 「このクソ野郎が…エレナ様お許し下さい、部屋が滅茶苦茶になってしまいますが」

 と、言いテランジンは、真空斬を数発放った。中位のイビルニア人は、避け切る事が出来ず、まともに当たりバラバラになり部屋も滅茶苦茶になった。

 「もう大丈夫です」

 と、テランジンがエレナ達に振り向き言うとリリーは、恐怖で張り詰めていた気持ちが一気に爆発したのかテランジンに抱き付こうとしたが、リリーよりも早くコノハとカレンが抱き付き泣いた。

 「うわぁぁぁぁん怖かったよぉ」

 抱き付く間を失ったリリーは、ふとテランジンと目が合った。リリーは、恥ずかしさの余り顔を真っ赤にした。そんなリリーの様子をエレナは、見逃さなかった。

 「兄ぃこっちも片付いたよ、あはは兄ぃモテモテだね」

 と、元の姿に戻ったシーナが言った。テランジンは、照れ臭そうに頭を掻いた。

 「シーナ、俺はまた大広間に戻る、廊下に居るクラウドの怪我を治してやってくれ」

 と、テランジンは、言い残しエレナの部屋を出ようとした時リリーがテランジンに声を掛けた。

 「あの…」

 「ん?何か?」

 「お、お気を付け下さい」

 と、リリーは、年甲斐にも無く頬を赤く染め言った。テランジンは、笑顔で答えた。

 「はい、行ってきます」

 と、テランジンは、レン達が戦っている大広間へ向かって行った。テランジンが出て行くとエレナ、コノハ、カレン、リリーは気が抜けたようにその場にへたり込んだ。

 「はぁ~テランジンさんって渋い大人の男って感じでかっこいいなぁ」

 と、コノハがしみじみと言った。リリーは、うっとりとした目で宙を見つめていた。そんなリリーの様子を見てエレナは、リリーがテランジンに恋をしたのではないかと感じた。

 大広間では、事態が急変していた。下位のイビルニア人を全て殺したレン達だったが、サリンとソーマンには、かなり苦戦していた。ヨーゼフとラーズが傷を負っている。

 「こやつら以前とは比べ物にならぬほど力をつけている」

 と、ヨーゼフは、斬られた左腕を右手で押さえつけながら言った。ラーズは、ソーマンの伸縮する剣で腹を刺されていたが、ジャンパールでマルスが負ったほどの深手ではなかったので大事に至らなかった。

 「ちくしょう、妙な剣を持ちやがって」

 と、ラーズが腹を押さえながら言った。レンとマルスは、ヨーゼフとラーズの前に立ちサリンとソーマンに対峙している。

 「クフフフフ我々も驚いている、四天王やベルゼブ様を倒したというお前達を相手にこうも戦えるとはなグハハハハ」

 「そうだ、ソーマン覚えているか、ベルゼブ様が復活し我々をこの世界に呼び戻してくれた時だ、ベルゼブ様が我々に妙薬をお与えになられた、あの妙薬のおかげかも知れんな」

 「おお、もちろん覚えているとも、きっとあの妙薬のおかげだろう」

 サリンとソーマンは、レン達の事を気にもせずべらべらとしゃべっている。そこへテランジンが大広間に戻って来た。左腕を斬られ膝立ちになっているヨーゼフと腹を押さえ同じく膝立ちになっているラーズを見てテランジンが驚いた。

 「閣下、ラーズ殿下!」

 「テランジン気を付けよ、こやつら想像以上に手強いぞ!」

 と、ヨーゼフが叫ぶように言うとサリンがテランジンに襲い掛かった。その瞬間、今度はレンとマルスがソーマンに斬りかかった。大広間に撃剣の音が響き渡る。

 「むぅん!」

 サリンの一撃をテランジンが受け止めた。エレナの部屋に行く前に立ち会った時よりも遥かに力が強くなっていると感じた。

 「キシシシ、二人掛かりでその程度か?」

 と、レンとマルスの攻撃を易々と受け流しているソーマンが言った。マルスもまたジャンパールで戦った時よりもソーマンの力が増していると感じていた。

 「どうも妙だな、こいつら二人だけになって急に強くなったぞ」

 「そうみたいだね、こ、攻撃が当たら…うわぁ!」

 と、レンの右太ももにソーマンの伸縮する剣が突き刺さった。

 「レンッ!」

 「若っ!」

 レンの太ももから剣を抜き素早くソーマンが跳び下がった。そこへマルスの真空斬がソーマンを襲った。ソーマンの左肩が大きく裂けたが痛みを感じないイビルニア人には、無意味であった。

 「ククク蚊ほどにも効かんわぁハハハハ…ハァウ…キキ、グググううグルゥゥゥ」

 と、どういう事かソーマンが急に苦しみ出した。痛みを感じないはずのイビルニア人が身体を斬られて苦しみを見せるなど初めて見た。

 「どうしたソーマン、その程度どうと言う事もなかろうが」

 と、ソーマンの様子がおかしい事に気付いたサリンが言った時に出来た一瞬の隙をテランジンが見逃すはずがなかった。テランジンの剣が正確にサリンの首元をとらえたが、それよりも早くサリンは、反応して身を引いたが引き切れず首半分をテランジンに斬られた。

 「ぐおぉう!」

 サリンは、首を押さえ飛び下がった。どす黒い血がドボドボと流れている。

 「危ない危ない、もう少しで首を落とされるところだった」

 と、サリンは、ニヤリと笑いテランジンに言ったが、その直後ソーマンと同じように苦しみ出した。

 「何だこいつら、どうなってんだ?」

 と、マルスは、叢雲むらくもを構えつつサリンとソーマンを見た。

 「グオォォォォウ…わ、我々は一体どうなっているのだ…く、くううう」

 と、サリンがソーマンにフラフラと近付いた。ソーマンもまたサリンに苦しみながら近付いた。レン達は、攻撃をする事を忘れサリンとソーマンの様子を見た。サリンがソーマンに倒れる様に寄り掛かると何とサリンの身体がソーマンにめり込んで行った。

 「ななな、何だぁ?どうなってんだ?気持ち悪い」

 と、マルスが叢雲を構えるのも忘れ言った。レン達の目の前でサリンとソーマンは、合体し真っ黒い肉の塊の様になった。そして、ごわごわと動き人型に形成されていく。その様子を見ているレンは、思わず吐きそうになった。

 「き、気持ち悪いものを見せるなぁ!」

 と、レンは、黒い塊に真空斬を放ったが、真空波は塊に吸収されてしまった。しばらくして塊がはっきりとした人型になり頭の部分に顔の様なものが現れた。

 「グルゥゥゥゥ…サリン達に余の血を混ぜた薬を飲ませて正解だったな、しかしアルシンが居ないのが残念だ」

 と、聞いた事のある声で人型が話した。その声は、この大広間に居る誰もが知っている声だった。

 「そ、そんな…まさか」

 「う、嘘だろ?なな、何で」

 「ううむ…ベルゼブ」

 そう、サリンとソーマンが合体し黒い塊となり、そこから出来上がった人型の正体は、ベルゼブだった。目の前の人型は、不完全だがベルゼブの顔をしている。大広間にベルゼブの笑い声が響いた。

 

 

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