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不死鳥の剣  作者: TE☆TSU☆JI
109/206

作戦

 マルス達が乗る高速艇は、何の問題も無くジャンパール領パルア島に到着した。この島には、アイザ大将率いるジャンパール海軍第七艦隊が控えていた。マルスは、ヤハギ中将と共にアイザ大将に会い話しをしていた。

 「お久しゅうございます殿下、イビルニア人に襲われたと聞き及んでおりますがお怪我は?」

 「ああ、ドラクーンのシーナに治してもらってる最中だよ、ところでこの辺りに怪しい船は見なかったか」

 と、マルスは、アイザ大将に報告が上がってるかと思い聞いてみた。

 「特に怪しい船は見ておりませんが、我が国の民間船を数隻この辺りで見かけました」

 と、アイザ大将は答えた。直接見た兵士は、特に怪しむ所は無かったと言っていた。マルスは、顎に手をやり少し考え言った。

 「確認はしなかったのか?」

 「はぁ、乗っている者が一目で我が国の者と分かったそうで」

 「な~る…」

 「何か気になりますか?」

 と、アイザ大将は、マルスの様子を見て心配になり聞いた。

 「うん、あらゆる事を考えてさ…例えば人の顔の皮を剥いで被ってるとかな」

 「ええっ?ふ、覆面の様にでございますか?」

 「ああ、例えばだよ」

 と、マルスの言葉を聞いてアイザ大将とヤハギ中将は、顔を見合わせて驚いた。確かにイビルニア人ならやりかねないと思った。

 「し、しかしもし殿下の仰る通りであれば既にソーマンとか申すイビルニア人は我が領海から出ていると言う事になりますな」

 「かもしれねぇな」

 アイザ大将は、冷や汗を流した。これが本当なら責任問題である。マルスは、アイザ大将に気にするなとだけ言ってヤハギ中将と二人高速艇に戻った。

 「殿下、民間船を見た者に会わずともよろしいので?」

 「ああ、話しを聞いても始まらん、それよりトランサーに急ごう」

 マルス達は、トランサー王国へと向かった。

 

 トランサー王国領海内の小さな無人島にレンを狙うサリンと残る下位中位のイビルニア人二十人の姿があった。サリンは、思いのほか警戒が強い事に手をこまねいていた。

 「あれほど警戒が強いとは…特にあの小柄な軍艦…」

 と、サリンは、テランジンの三隻の軍艦の一つであるふねを見て呟いた。テランジンの舎弟であるカツが艦長を務める艦だった。艦の乗組員全員が元海賊達である。

 「サリン様いかが致しましょう、ここへ来てもう一週間になりますぞ」

 と、中位のイビルニア人がサリンに言った。

 「まぁ焦るな、必ず抜け穴はあるはずだ」

 この日の夜、サリンにとって嬉しい者が島に来た。マルスを殺したと思い込んでいるソーマンだった。イビルニア人は、イビルニア人同士お互いがどこに居るのか分かるのだろうかソーマンは、迷う事無くサリンが居るこの島にやって来た。

 「何だまだってないのか?俺はマルス・カムイを仕留めたぞ」

 と、ソーマンは、得意気に言った。サリンは、少し驚いた様子で言った。

 「ほう、もう仕留めたか、で、確認したのか?」

 「ふん、こいつで腹を刺した、腹を深々と刺されて生きている人間など聞いた事がないわ、フフフ」

 と、ソーマンは、かつてグライヤーから貰ったと言う剣をサリンに見せながら答えた。サリンは、面白くないといった顔をした。ソーマンは、ヘラヘラしながら言った。

 「こんなところでいつまで油を売っているつもりだ?さっさとトランサーへ行こう」

 「分かっている、しかしここの警戒が余りにも強くてな、あれだ」

 と、サリンは、丁度巡回に来たカツが乗る艦を指差し言った。ソーマンも何となくだが、あの艦に手を出せば厄介だと気付いた。

 「ふむ、なるほどな…だがいつまでもこんなところに居ても仕方がない、面倒だが遠回りしよう」

 と、ソーマンがサリンに言った。サリンも渋々了承しソーマンを含めたイビルニア人達は、夜の闇に紛れてトランサー王国領海ぎりぎりにある無人島を隠れ蓑にして回り込んだ。そして、一週間かけてトランサー王国の南側の無人島に到着した。

 「フフフ、遠回りして正解だったな、この辺りは警戒が薄いように思える」

 「うむ、あの厄介な艦の姿も見えん、侵入するなら今夜だな」

 と、サリンとソーマンは、言いイビルニア人達は、夜を待った。夜になり頃合いと思ったサリン達は、行動に出た。ソーマンがジャンパールでやったように適当な艦を見つけて艦を奪い取った。

 「この国の海軍はあの艦以外どうと言う事はないな、こんなに容易たやすく上陸出来るとは」

 と、艦を入り組んだ岩場に寄せてソーマンが言った。操った海軍士官を殺した後、イビルニア人達は、艦を降りた。とうとうトランサーに侵入を許してしまった瞬間だった。

 

 この日の夜、レンは、サリン達イビルニア人より先にトランサーに到着していたマルスと自分とヨーゼフが国政を見る部屋でヨーゼフを交えて三人で話しをしていた。

 「なぁレン、俺がトランサーに来てからイビルニア人を見たとか報告は無いのか?」

 「うん、今の所何も聞いてないよ、ねぇヨーゼフ」

 「はい、若、殿下、拙者の耳にも入っておりませぬ」

 マルスは、難しい顔をして言った。

 「う~む、おかしいな…俺を刺したソーマンって野郎は絶対にここに来るはずなんだ」

 「サリンと二人で我々を殺そうと思っておるのでしょうなぁ」

 と、ヨーゼフが髭を撫でながら言った。

 「テランジン達海軍の警戒がきついから入れないんじゃないかな」

 と、レンが言うとマルスは、首を横に振り言った。

 「甘いぞレン、ソーマンはうちの艦を乗っ取って上陸して来たんだぞ、テランジンの艦を乗っ取る事は出来ないだろうが他の者の艦ならどうだ?」

 「気になりますな」

 と、ヨーゼフが言った時、扉を叩く音がした。ヨーゼフが入れと言うと血相を変えた海軍士官が直接レン達に報告して来た。

 「大変な事が起こりました、先ほど南の警戒に当たっているはずの艦に連絡を入れた所返事が無く、他の艦に様子を見に行かせた所、丁度死角になる岩場に艦が停泊していて中の様子を見たら皆殺されてると報告がありました」

 「何だって?」

 「レン、ヨーゼフ奴らもうこの国に侵入したぞ」

 と、マルスは、立ち上がりながら言った。

 「や、奴らとはまさかイビルニア人ですか?」

 と、海軍士官が言うとマルスは、黙って頷いた。レンとヨーゼフも椅子から立ち上がった。

 「おぬしは急ぎテランジンに登城するよう伝えてくれ」

 と、ヨーゼフが海軍士官に言った。海軍士官は、大慌てで部屋から出て行った。

 「南に兵を送ろう」

 と、レンが言うとマルスが止めた。

 「止めておけ死人が増えるだけだ、それより城内におびき寄せ一気に片付けた方が早い、エレナ達の部屋だけ厳重に警戒しろ」

 「連中の狙いは拙者達ですからな」

 「分かった、そうしよう」

 と、レンも納得した。ヨーゼフは、クラウドとミトラを呼び出し近衛師団の名誉に懸けてエレナ達を守るよう言い渡した。

 「頼んだぞ、クラウド、ミトラよ、エレナ様らの傍に蟻一匹近付けるな」

 「ははっ!我ら命に代えてもお守り致します」

 何も知らないエレナ達は、部屋の外がやけに騒々しいと気になった。

 「どうしたのかしら?急に慌ただしくなったけど」

 「イビルニア人が出たんじゃないかな」

 と、シーナがソファーに寝そべりながらぼそりと言った。部屋に居たエレナ、コノハ、カレン、ヨーゼフの娘のリリーが顔を見合わせた。

 「そんな…」

 そこへレンとマルスが部屋にやって来た。エレナは、慌ててレンに聞いた。

 「レン、この騒ぎはまさかイビルニア人が出たからなの?」

 「うん、残念ながらね、さっき海軍の人が僕達に伝えに来たんだ、南の方でふねが乗っ取られて上陸したみたいなんだ、シーナここに居てくれるかい」

 「良いよ、ぼくに任せて」

 と、シーナは、特に心配している様子も無く軽く答えた。シーナは、四天王やベルゼブ以外のイビルニア人など気にもしていなかった。

 「私も戦う」

 「私も」

 と、突然コノハとカレンが言い出し二人が入っていた箱型の大きな鞄から刀を二本取り出した。

 「何を言い出すんだお前達は、大人しくここに居ろ、それにどこから持って来たんだよ、その刀」

 と、マルスが呆れたように言った。コノハは、真面目な顔をして答えた。

 「へ~んだ、私だって刀の二本や三本くらい持ってるもんね、それにフウガにはちゃんと剣術を教えてもらってたし、ひょっとしたら私にだって真空斬が出来るかも」

 「馬鹿、遊びじゃないんだぞ、死ぬぞお前達!」

 と、マルスが怒鳴ったが、コノハとカレンは、どうやら本気らしく頑としてマルスの忠告を聞かなかった。マルスは、勝手にしろと言って部屋から出た。

 「二人とも本当に怪我じゃすまないよ、この部屋から出ないようにエレナ、シーナ二人を説得してくれるかい?」

 と、レンは、困ったといった顔をして言った。リリーは、呆れたようにコノハとカレンを見ている。レンは、エレナに目配せをして部屋から出て行った。

 「コノハ、カレン本当に危ないからしなさい」

 と、エレナは、二人に言った。

 「分かっちゃいないわねお姉ちゃん、私はこの部屋に入って来たイビルニア人をやっつけるだけよ、シーナさんだけじゃ大変でしょ?」

 と、コノハは言いシーナを見た。シーナが大あくびを掻いていた。

 レンとマルスは、最初に居た国政を見る部屋に戻った。ヨーゼフがテランジンと話しをしていた。レン達が席に着くとテランジンが話し出した。

 「若、殿下、今閣下と話していたのですが、城を守る兵士達にわざと我々が居る場所をしゃべらせてはいかがでしょう?」

 「イビルニア人共は数日後に城の近辺までやって来るでしょう、その時わざと連中の耳に入るよう城の内外でしゃべらせるのです、そして悟られぬようわざと連中が城に忍び込み易いよう警備兵を配置します」

 と、ヨーゼフが言った。マルスがふむふむと返事をしながら言った。

 「なるほどなぁ、それなら無駄な死人も出さずに済むな」

 「左様、そして我々は毎晩必ず大広間で話しをすると吹聴するのです、当然殿下の事は伏せておきますが」

 「大広間なら戦い易いね、下位や中位のイビルニア人ならシーナやクラウド達が何とかするだろうしね」

 「左様でございます若」

 翌朝、陸軍の士官達を集めヨーゼフが話した。昨夜立てた作戦を聞いて士官達は、驚いていた。

 「で、ではわざとレオニール様や閣下を狙い易い様にするのですか」

 「そうじゃ、この方が無駄な犠牲者を出さずに済むし、いざ戦闘になったらお前達はイビルニア人共を城の外に出さぬよう包囲すれば良いだけじゃ」

 と、レンの傍でヨーゼフが言った。士官達は、納得し直ぐに行動に出た。部下を町や村に派遣し酒場など人が集まりそうな場所で世間話でもするかのようにレン達の事を話させた。

 「レオニール様やロイヤー閣下それにお二人が最も信頼される海軍のコーシュ大将は毎晩お城の大広間でお話しをするそうだよ、一体何を話されているんだろうねぇ」

 「この国の行く末でも話しておられるのだろうか」

 などと話しをさせた。それから三日後、レン達の狙い通りサリンとソーマンの耳に入った。そして、何の疑いも無くサリン達は、トランサー城近くの森まで来た。

 「この国の警備はどうなっているのだ?抜け穴だらけではないか、ククク」

 「ジャンパールでは苦労したがここは楽で良いな、これなら早く片付けられそうだな」

 と、ソーマンが言ったがふと考えた。海ではあんなに厳しい警戒網が敷かれていたのに陸がこんなに警戒が薄いとはおかしいと思ったのだった。まるで自分達を招き寄せている様な気がした。

 「サリン、どうもおかしいぞ、ジャンパールと違い過ぎる」

 「それはお前、ジャンパール人とトランサー人の違いではないのか?人間の事など良く分からんが国が違えば考え方が違うのだろう」

 と、サリンは、あまり気にしていない様子だった。ソーマンは、やはりおかしいと言いもう少し様子を見ようとも言い出した。

 「ふむ、まぁ良いここまで来たんだソーマンお前の言う通り少し様子を見ようじゃないか」

 と、サリンが言った。そして、この日不幸が起きた。偶然にも森を犬と散歩していた町の者がサリン達を目撃したのだった。イビルニア人の特徴を聞いて知っていた町の者は、恐怖で叫び声を上げてしまった。

 「おい、見られたぞここに居る事が知れたら厄介だ、奴を殺せ」

 と、サリンが下位のイビルニア人に命令した。命令されたイビルニア人が町の者と犬を瞬殺し死体を森の中へ隠した。サリン達は、森の奥深くへ場所を移動し一番高い木に上りそこから見える城やその付近を見る事にした。

 「この警備態勢…隙があるような無いような微妙だな」

 「確かにな、それに城の中が気になるな、奴らは毎晩城の大広間に居ると聞いたが」

 「まぁこの程度なら直ぐにでも潜入出来そうだが様子を見よう」

 と、サリンとソーマン、下位中位のイビルニア人達は、城に潜入する頃合いを見る事にした。この日の夜もレン達四人は、大広間でサリン達が来るのを待っていた。

 

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