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不死鳥の剣  作者: TE☆TSU☆JI
105/206

狙われたラーズ

 ここは、かつてテランジンやルーク達元海賊が根城にしていたデスプル島。テランジン達が生活していた要塞の様な家に彼らは隠れ潜んでいた。イビルニア人上位者の生き残りサリン、ソーマン、アルシンである。無人島となったデスプル島は、彼らにとって良い隠れ家になっていた。

 「やはり本当にイビルニア半島は海に沈められたようだな」

 「うむ、我々の帰る場所がなくなってしまった訳だ」

 「で、どうするんだ我々は?このままこの島で暮らすのか?」

 と、サリン、ソーマン、アルシンがテーブルを囲み話していた。元来イビルニア人は、個人主義である。誰かと行動を共にする事を嫌う。しかし、戦争のような非常事態になれば部隊を作り事に当たる。帰る国が無くなった今、彼らにとっては、非常事態と言えよう。

 「ベルゼブ様はトランサーのレオニール・ティアックとジャンパールのマルス・カムイとか言う小僧共にやられたと聞いた」

 と、アルシンがランドールに潜入した時に聞いた話しをした。

 「その後、一度またこの世に現れて今度はロギリアのベアドに暗黒の世界に連れて行かれたそうだ」

 「何と言う事…四天王はどうした?奴らは何をしていたのだ?」

 と、サリンが言った。

 「ふん、奴らもまたレオニール・ティアックとマルス・カムイ、ランドールのラーズ・スティール、トランサーのテランジン何とかにやられたそうだ」

 と、またアルシンが答えた。ソーマンは、何も言わずただ話しを聞いていた。サリンは、椅子から立ち上がり窓を見た。外で下位と中位のイビルニア人が島の警戒に当たっている。

 「今…」

 と、ソーマンが重い口を開いた。

 「今、世界中でイビルニア人討伐が行われている、この島にもいずれはランドール軍が来るだろう、人間など怖くはないが、ただ危険な者が居る事は確かだ」

 「フウガ・サモンやヨーゼフ・ロイヤーの事か?フウガ・サモンは死んだそうだがヨーゼフ・ロイヤーはまだ生きているだろう」

 と、サリンが言うとソーマンは、首を横に振り言った。

 「あの二人の事ではない、ベルゼブ様や四天王を倒したと言う人間の事だ、今回の戦争にはヨーゼフ・ロイヤーは参加していないそうだ」

 「フウガ・サモンとヨーゼフ・ロイヤーが操っていた練気とか言う技を使えるそうだな」

 と、アルシンがこれまたランドールで聞いた話しをした。三人は、苦虫を噛み潰したような顔をした。戦争後、トランサー、ジャンパールでは、練気を使えそうな者を集め訓練して練気部隊を作ろうとしている。

 「人間のくせに生意気な技を持っている」

 と、サリンが吐き捨てる様に言った。

 「で、どうする?このまま指をくわえて人間共に殺されるか?俺は名のある者としての誇りが許さん、こうなったらベルゼブ様を倒したと言うレオニール・ティアックとマルス・カムイを地獄に送らねば気が済まんわ」

 と、テーブルを叩きながらソーマンが言った。サリンとアルシンもその通りだと言った。

 「俺はトランサーに潜入してレオニールとヨーゼフ、テラン何とかを暗殺しよう」

 と、サリンが言った。

 「では、俺はジャンパールに行きマルス・カムイをろう」

 と、ソーマンが言うとアルシンは何度か潜入しているランドールに行くと言った。

 「今、この島に下位中位の者が合わせて六十人居る、二十人ずつ引き連れて事に当たろう」

 と、アルシンが言った。

 「練気を操れる者さえ消してしまえばこちらのもの、必ず殺してやる」

 と、サリンが呟いた。


 ランドール王国内では、連日イビルニア人討伐が行われていた。インギもラーズもまさか自国の領内にあるデスプル島に三人が居るとは、思いもしなかった。イビルニアとの戦争から二ヶ月が過ぎていた。

 「父上、もう我が国にはイビルニア人が居ないようですね」

 「うむ、その様だが例の三人がまだ見つかったとは聞いていない気を緩めてはいかんぞ、ラーズ」

 「はい、父上」

 と、城内でインギとラーズは話していた。数日後、南ランドールにイビルニア人の目撃情報が入った。インギは、ラーズを連れ自ら討伐に向かった。

 「どこで見たのだ?」

 「はっ、陛下港町の住人が夜偶然見かけたそうです」

 と、インギの問いに港付近の警戒に当たっていた兵士が答えた。

 「海軍は何をやっていたんだ」

 と、ラーズがいきどおった。どうやらランドール海軍の中に連絡が取れなくなった部隊があるとの事でインギは、最悪の事を考え兵士達に命を下した。

 「この付近の海岸を調べろ、きっと何かあるはずだ」

 数時間後、インギの思った通りの事が起きていた。入り組んだ海岸に連絡が取れなくなった部隊の死体と真っ黒な船体をしたイビルニアの船が発見された。

 「ラーズよ、見ろイビルニアの船だ警戒に当たっていた部隊は全滅か…一体どれほど奴らが侵入して来たか」

 インギは、死体を回収させ手厚く葬るよう命じた。そして、インギの従兄弟になるライン・スティールのやかたに行った。しばらくここを拠点に討伐をするようだった。南ランドールと王家の墓を管理しているラインは、インギ達を歓迎した。

 「陛下、毎日大変そうですな、ラーズもな」

 「そう思うのならお前も手伝え」

 「叔父上、お久しぶりです、父上駄目ですよ叔父上は戦には向きませんよ」

 と、ラーズが言うとインギは、それもそうかと納得した。ラインは、子供の頃から武芸は苦手だった。その事をインギは、良く知っていた。

 「当分この館を拠点にする、ライン良いな?」

 「はい、どうぞご自由に」

 と、ラインは、明るく答えた。港町でイビルニア人を見たとの情報を得た五日後の夜、異変が起きた。ラーズがラインの館に居ると知ったアルシンが動き出したのだった。アルシン以下二十名のイビルニア人は、警備の目を掻い潜り音も無く館に侵入した。館の警備に当たっていた兵士達は、急にイビルニア人が近付いた時に感じる嫌悪感や不快感を感じた。

 「な、何だ急に気分が悪くなって来たな」

 「ああ、何かこう嫌な感じが…ぐふっ?!」

 「ど、どうした?がっ?!」

 警備兵は、音も無くイビルニア人に殺された。アルシンは、手下のイビルニア人に片っ端から殺していけと命じた。

 「さぁラーズ・スティールはどこに居る?ククク」

 アルシンは、ゆっくりと廊下を歩きラーズがどこの部屋に居るのか探し始めた。ラインの館の全ての部屋に人が居る訳ではない。運悪くアルシンに見られた者は、容赦無く殺された。インギ、ラーズとライン夫妻と子供達は、二階の部屋で眠っていた。異変にいち早く気付いたのは、ラーズだった。ラーズは、剣を取り父インギの部屋に行き話した。

 「館が変です、この感じ…イビルニア人が侵入している様です」

 「んん?…なるほどそうだな、良し退治するぞ」

 「はい、父上」

 と、二人は、部屋から出て兵士達にライン夫妻と子供達が居る部屋を守らせた。二人は、剣を鞘から抜きイビルニア人の気配を感じる方へ向かった。階段を下り廊下に出ると血の匂いが立ち込めている。二人は、床に転がる兵士とイビルニア人の死体を確認しながらゆっくりと進んだ。

 「皆殺されている…この館に何人奴らが忍び込んだのか」

 「はい、油断出来ま…父上っ!!」

 と、突然部屋から飛び出た影がインギに襲い掛かった。インギは間一髪かわして影に目掛けて剣を振るった。撃剣の音が廊下に響いた。

 「どこから侵入した、イビルニアの者よ」

 「ククク、お前が知ってドウスル?」

 中位のイビルニア人の様だった。ラーズが加勢しようとしたがインギが止めた。

 「ラーズよ、この程度の奴なら余一人で十分だ」

 その言葉通りインギは、あっという間に中位のイビルニア人の首を刎ねた。ラーズがホッとしたのも束の間、今度は、ラーズに襲い掛かる影が現れた。危ないとラーズは、横っ飛びに避け剣を構えた。影は落ち着き払ってラーズを見ている。

 「ほほう、貴様がラーズ・スティールだな、その後ろの男…そうかあの時の小僧かフウガ・サモンとヨーゼフ・ロイヤーの尻にくっ付いていた、グフフフ」

 「くっア、アルシンか…」

 と、インギが言った。

 「そう、覚えていてくれたかそれは光栄だな、我が名はアルシン、今宵はラーズ・スティールの命をもらいに来た」

 と、アルシンが言い終わった時、インギが真空斬を放った。真空波がアルシンの右頬を切り裂いた。

 「うおっ?!」

 アルシンが驚き身構えた。インギは、不敵に笑い言った。

 「ふん、余の息子を殺しに来ただと?ラーズを殺したければまずは余を倒す事だな」

 「ど、どういう事だ?れ、練気技を使えるのはラーズ・スティールだけではないのか?」

 「残念だったなぁアルシン、余はイビルニアの地でラーズ同様に練気を体得した、あの頃の余ではない」

 「ふふ、どちらでもいいさ、この館に居る者は全員皆殺しだ!シェアァァ」

 と、アルシンは言うと物凄い速さで二人に襲い掛かった。アルシンは、両方の手に剣を持っている。そして、間合いを詰めれば真空斬や真空突きを放てない事も知っている。

 「ククク、どうだ?この間合いからはさすがに撃てないだろう、そらそらそら!」

 と、アルシンは、インギとラーズを徐々に追い詰めた。

 「上に居る連中は今頃どうなっているかなクク…俺の手下どもが皆殺しにしてるだろうよ」

 「父上、ここは俺に任せて下さい、ライン叔父が心配だ」

 と、ラーズがアルシンの攻撃を防ぎながら言った。インギも心配だった。下位のイビルニア人なら問題ないだろうが、中位のイビルニア人を相手にしているかも知れないと思うとライン夫妻や子供達を守らせている兵士達では、かなりの苦戦を強いられるだろう。

 「ラーズお前を信じる」

 そう言ってインギは、二階のラインの部屋に向かった。アルシンは、わざとインギを通した。

 「良いのか?二人なら俺に勝てたかも知れんぞ」

 「何をほざく、俺はお前達の四天王グライヤーを討ち取ったラーズ・スティールだ」

 と、ラーズは、叫ぶように言うと気を溜め込んだ剣を真横に払った。当然、アルシンは剣で受け止めたがラーズの気を帯びた剣がアルシンの剣を叩き斬った。アルシンは、跳び下がって折れた剣を見た。

 「な、何?俺の剣が折れただと」

 「練気を帯びた剣で斬れない物は無い、次はお前の首を斬り飛ばしてやる」

 「くっ!な、生意気な…キィィヤァァ!」

 アルシンは、折れた剣を捨てもう一方の剣を両手に構えてラーズに斬りかかった。その頃、二階に上がったインギは、ラインの部屋の前で苦戦する兵士達を助けに向かった。

 「へ、陛下お逃げ下さい!」

 既に殺されている兵士や傷を負ってやられそうになっている兵士達がそこに居た。イビルニア人も数人首を刎ねられ死んでいた。アルシンが連れて来た下位中位のイビルニア人は、十人程に減っていた。

 「お前達良くやった、後は余に任せい!おい、イビルニアの者よ残っているのはお前達だけか?」

 と、インギはゆっくりとイビルニア人達に近付き言った。

 「キキキ、何しにここへ来たのか知らんがお前達はここで死ぬのだ、カカレ!」

 と、中位のイビルニア人が下位のイビルニア人に命令した。イビルニア人達が一斉にインギに襲い掛かった。インギは、気合と共に攻撃に出た。普段から剣の修行は欠かさずやって来た。おまけにイビルニアに行き練気も体得した。真空斬で一人二人とイビルニア人の首を刎ね今度は、気を帯びさせた剣で直接斬りかかりあっという間に襲って来たイビルニア人を皆殺しにした。残りは、中位のイビルニア人だけとなった。

 「どうした?後は貴様だけだぞ」

 「グググ…何と言う事だ、こ、こんなはずでは」

 と、中位のイビルニア人は、後ずさりしながら呟き、きょろきょろと目だけを動かせ逃げ道を探った。下位中位のイビルニア人は、仮面をしている。その意味は、醜い顔を隠すためとも言われていた。仮面のおかげでインギに逃げ道を探っている事を気付かれていないと思った中位のイビルニア人は、自分の後ろに居た兵士を倒し逃げようと試みた瞬間、インギの放った真空突きが中位のイビルニア人の頭を捕えた。頭は、粉々に潰れた。

 「ふん、誰が逃がすかよ、お前達大丈夫か?」

 と、インギは、剣を鞘に納め傷付き倒れている兵士に近付き言った。そこにラインが恐る恐る部屋から出て来た。イビルニア人の死体や自国の兵士の死体などを見て気を失わんばかりに驚いていた。

 「安心しろライン、ここはもう片付いた」

 「そ、そうですか…ラ、ラーズは?ラーズはどこです陛下」

 「うむ、下でアルシンと言う上位者と戦っているはずだ」

 そう言い残して後の事は、生き残った兵士に任せインギは、また一階に戻って行った。


 「何だもう終わりか?」

 と、ラーズは、剣をアルシンに向け言った。インギが二階へ上がった後、ラーズとアルシンは、激しい攻防戦を繰り広げた。結果ラーズは、アルシンの左腕を斬り飛ばしていた。片腕となったアルシンは、既に逃げの体勢を取っていた。

 「くっ…まさかここまで強いとは…さすがグライヤー殿を討ち取っただけあるな、今日の所は諦めよう、いづれまた貴様の命をもらいに来るぞ」

 と、アルシンは言い窓から飛び出ようとした瞬間無数の鋭く尖った真空波がアルシンを襲った。

 「連撃!」

 ラーズの放った真空突きが容赦無くアルシンの身体や手足を貫いた。ドサリとその場に倒れたアルシンは、立つ事も這う事も出来ないでいた。

 「畜生!こ、この俺が無様な…こ、殺せ」

 「いいや、まだ望み通り殺す訳にはいかん、聞く事がある」

 と、ラーズは、仰向けに倒れているアルシンに近付き言った。丁度インギも駆けつけて来た。

 「ったか?ん?まだ生きているじゃないか」

 「父上、こいつに聞く事があるでしょう」

 「ああ、そうであった、アルシンよ、サリンとソーマンはどこだ?」

 と、二人は、アルシンを見下ろし言った。アルシンは、ヘラヘラ笑った。下位中位のイビルニア人の顔は醜いが上位のイビルニア人になるとどういう訳か顔が人間に近くなる。アルシンの顔も人間に近い。ラーズは、人間に近い顔をしたアルシンが返って憎たらしく思い今すぐにでも踏み潰してやりたいと思った。

 「答えろ、残りの二人はどこに居る」

 「さぁなどこに居るかな我々はいちいち他人の行動に興味を持たんのでな」

 「この野郎!」

 と、頭に来たラーズがアルシンの顔を蹴った。口からどす黒い血を吐きながらアルシンは、憎らし気に笑った。インギがラーズをなだめアルシンを真っ直ぐ見て言った。

 「残りの二人はトランサーとジャンパールに行ったな」

 一瞬だがアルシンの顔色が変わったのをインギは、見逃さなかった。

 「やはりな、理由はこうだ、この世で練気を扱える者の抹殺だろう、まさかベルゼブのかたきだからと言う理由ではなかろう、お前達に忠誠心など無いだろうからな」

 アルシンは、黙り込んで何も言わない。

 「もう良い、ラーズこいつの首を刎ねろ」

 「はい、父上」

 そして、ラーズはアルシンの首を刎ねた。翌朝、事後処理を軍の者に任せインギとラーズは、城に帰った。城下は、大騒ぎになっていたが国王も王子も無事だと知らせると直ぐに騒ぎは収まった。

 「父上、ご無事で何よりです」

 と、長男のヨハン太子がインギに言った。インギは、うむと頷き玉座に腰を下ろした。インギは、大臣達を集め話した。

 「昨日、ラインの館でイビルニア人達の夜襲を受けた、その中に名を持つ上位のイビルニア人が居たがその者はラーズが討ち取った」

 「おお、さすがラーズ殿下だ」

 「しかし、まだ油断はならぬ、後二人、名を持つ上位者がいるサリン、ソーマンこやつらはおそらくトランサーとジャンパールに向かったと思われるが引き続き我が国の警戒を怠らぬように」

 「ははっ、承知致しました陛下」

 話しが終りラーズは、自室に入り魔導話を使いマルスに連絡を取り昨日の事を話した。

 「ほほう、そんなのが居たのか、面白いジャンパールにそのサリン、ソーマンとか言う奴が現れたら俺がぶっ殺してやるよ」

 と、マルスは、自信たっぷりに言った。

 「馬鹿野郎、遊びじゃないんだぞ、俺には父上が居たしレンにはヨーゼフさんやテランジンがついてるがお前は一人じゃないか、たった二十人の下位中位のイビルニア人に何人殺られたと思ってるんだ」

 「分かってるよ、出来る限り被害は最小に抑えるさ、軍部の連中に注意しておくよ」

 と、マルスは、ラーズの気持ちを察し素直に言った。後は、雑談となりラーズは、魔導話を切った。

 「あいつ…ほんとに大丈夫か?」

 と、ラーズは、妙な胸騒ぎを感じながらマルスを心配した。そして、ソーマン率いるイビルニア人達が乗る黒い船がジャンパール皇国領海内に侵入しようとしていた。

 

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