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不死鳥の剣  作者: TE☆TSU☆JI
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それぞれの帰国

 大広間に入って来たレンとエレナをマルスとラーズが冷やかした。

 「おうおう、昨日は相当激しかったな」

 「お盛んな事で」

 レンは、マルス達の冷やかしに慣れていたが、エレナは慣れておらず顔を赤くしたのを見てマルス達は、図星だったのかと思い急に黙り込んだ。ヨーゼフがマルス達に余計な事を言うなと言う意味を込めた咳ばらいを一つして朝食を食べ始めた。相変わらずシーナとカイエンの食べる勢いは、凄まじくあっという間に食べていく。二人の食べっぷりを見てレンとエレナは、くすりと笑い自分達も食べ始めた。朝食を食べ終えレンは、戦没者を祀ってある墓地に行くと言い皆で行く事となった。戦没者を祀った石碑の前でレン達は、祈りを捧げた。その後、シドゥの墓に参った。同行しているテランジンは、こらえられなくなり男泣きに泣いた。レンは、ヨーゼフにシドゥの母と弟に会いたいと言い城で会う事となった。

 「シドゥの母ミーシャにございます若様」

 「弟ルディにございます」

 謁見の間に通された二人は、酷く緊張した面持ちで挨拶した。レンは、シドゥの活躍ぶりを二人に話した。隣でテランジンが静かに頷き聞いている。

 「シドゥが居たからこそ僕は今までやってこれました、本当にありがとうございました」

 「そ、そんなもったいないお言葉」

 「兄は軍人です、戦場で死ねた事は本望だったでしょう」

 レンは、モリア家を貴族に取り立てたいとヨーゼフに言った。ヘブンリーからずっと自分を守ってくれた者の家族が平民として暮らしていて生活状況もあまり良くないと聞いていたからだ。ヨーゼフも同じ事を考えていた様だった。ミーシャとルディは、とんでもないと断ったが、テランジンがせっかくだから貴族にしてもらえと言った。

 「良いじゃないですかお母さん、ルディ、若様直々のお申し出だ」

 「左様、母上殿、ルディ殿、シドゥの働きはそれ相応のものですぞ」

 「ははぁ…でも」

 と、ミーシャは、困惑した。レンは、ミーシャに歩み寄り言った。

 「お願いです、どうかお受け下さい」

 と、目の前で言われたミーシャは、レンの美しさに一瞬見とれてしまいハッとした。そして、小さく頷いた。良し決まったとヨーゼフが手を打ち爵位は、追って伝えると言い二人を帰した。

 「若、閣下ありがとうございます」

 と、テランジンが礼を言った。その後、大臣や貴族を呼び相談しモリア家を伯爵とする事が決まった。本人が生きていれば当然最高位の公爵にするつもりだったが、遺族にそこまでの爵位は与えられない。夜になり戦勝祝いの祝賀会が催された。その中に若い獣人兵三人も参加していたがあまり浮かない顔をしている。彼らは、ロギリア帝国に帰ると国民にベアド大帝の死を告げねばならなかった。レンは、心配になり三人に声を掛けた。

 「ベアド大帝や共をした方々の事は本当に残念でした」

 「レオニール王子…」

 「僕、ティガー王子宛に手紙を書きます、最後を見た者として」

 「俺達も書くぜ」

 と、いつの間にか傍に居たマルスとラーズが言った。これはありがたいと若い獣人兵達は、大いに喜んだ。三日後、レン達の書いたベアド大帝の息子ティガー王子に宛てた手紙を持った若い獣人兵達は、ルークが艦長を務める軍艦でロギリア帝国に向かう事となった。

 「頼んだぞルーク」

 「ああそうだ、ロギリアはとても寒い国だからしっかり防寒具を身に付けてね」

 「はい殿様、兄貴…じゃなかった閣下」

 「馬鹿、閣下は止せ」

 若い獣人兵達を乗せた軍艦を見送り城に戻ったレン達は、まだ世界のどこかに身を潜めているイビルニア人の討伐の事をトランサー国内にいる各国の大使を招いて会議を行った。

 「かなりのイビルニア人がまだ残っているのですな」

 「はい、ベルゼブは世界中にイビルニア人を送っています、まだまだ油断出来ません」

 「我が国ではまだイビルニア人が現れたとの報告がありませんが急ぎ国元へ連絡します」

 討伐は、各国が独自で行う事とした。会議を終え夕食をとり皆で雑談をしているとマルスが真面目な顔をして話し出した。

 「俺、明日ジャンパールへ帰るよ、国内のイビルニア人も気になるしな」

 「そうか…じゃあ俺も帰ろうかな」

 と、ラーズも言い出した。レンは、少し寂しく思ったが引き留める訳にもいかず分かったと言った。シーナとカイエンがまだ国には帰りたくないと言い張ったがカイエンは、アストレアに今後は龍神としてドラクーンを守る立場にある者がいつまでも国を空けていてどうするのと諭され帰る事になった。

 「そ、そうだった俺っちぁ龍神になったんだったなぁ」

 「そうだったね、ドラクーンじゃドラコが色々準備をしてるんじゃないかい?」

 「お兄ちゃんの事だから何か固っ苦しい儀式とか準備してるよきっと」

 と、シーナが言うと皆が笑った。そして、アストレアとアンドロスは、ジャンパールとドラクーンに立ちより帰る事にした。

 「皆が急に帰っちゃうと僕どうしていいか分からないな、あははは」

 と、レンは、寂しげに笑った。そんなレンを見てマルス達は、後ろ髪を引かれる思いがした。

 翌日の朝、ジャンパール皇国の軍艦とランドール王国の軍艦が並んで港に泊まってあった。

 「じゃあなレン、イビルニア人討伐が終ったらカレンとコノハを連れてまた来るよ、斬鉄剣もその時持って来るぞ」

 と、マルスは言いアルカトとの戦いで折れた斬鉄剣を鞘包みで持ち軍艦に乗り込んで行った。

 「レオニール、次に会う時はあなたの結婚式と戴冠式の時かしら、元気でね、エレナ良いお嫁さんになるのよ、テランジン、ヨーゼフをしっかり助けてあげてね」

 「レオニール、皆、元気でな」

 と、アストレアとアンドロスは言いヴェルヘルムを連れジャンパールの軍艦に乗り込んで行った。先にマルス達を乗せた軍艦を見送った。

 「それじゃあ俺も行くかな、レン、エレナを大事にしてやれよ」

 「うん」

 と、ラーズの言葉にレンは、素直に返事をした。

 「ところでランドールでイビルニア人の目撃情報があったそうですな殿下」

 と、今朝ランドールの役人からヨーゼフが聞いた。

 「そうなんだヨーゼフさん、でも父上が居るから大丈夫だよ、父上は練気を操れるようになったからきっと先陣切って討伐に向かってると思うよ」

 「そうでしょうなぁ、はははは」

 「じゃあ落ち着いたらまた来るよ」

 と、ラーズは言って軍艦に乗り込み出港して行った。レン達は、ふねが見えなくなるまで見送り城に戻る事にした。城に向かう魔導車の中でヨーゼフが気になる事を言った。

 「若、テランジン、アルカト達四天王の他に名を名乗るイビルニア人は居ませんでしたか?」

 「ううん、居なかったと思うよ、ねぇテランジン」

 「はい、聞いていませんね、閣下どういうことですか?」

 と、レンとテランジンが言った。レンの隣りで不安気に話しを聞いているエレナに気付き話しは城内のヨーゼフの部屋でする事にした。

 「閣下、先ほどの話しはどう言う事でしょう、四天王以外の名のあるイビルニア人とは?」

 と、テランジンが話しを始めた。ヨーゼフは、難しい顔をして何か思い出している様子だった。レンは、四天王以外の名のあるイビルニア人が一体どんな者なのか気になった。名があると言う事は、上位者の中でもトップクラスの者だろう。

 「そう確かサリン、ソーマン、アルシン、奴らは拙者らが戦った戦争の時、四天王と対決する前に戦いました、いずれもなかなかの手練れでござった…今回の戦争では居りませなんだか?」

 と、ヨーゼフが言った。何故、今になってヨーゼフが聞いたかと言うとレン達の口から一度も三人の名が出なかったからであった。名のあるイビルニア人は、必ず自分の名を言う。レンとテランジンは、顔を見合わせてヨーゼフに聞いた事が無いと答えた。

 「ふうむ…アルカトら四天王が復活したのならば必ず奴らも復活していそうなのですが…まぁ居らぬのならそれに越したことはございませんからな」

 「しかし、まだ世界中にイビルニア人の生き残りが居ります、その中に居るかもしれませんね、当分は警戒を強めた方が良さそうだ、海の連中に警戒を強めるよう言っておきましょう、陸は…」

 と、テランジンが言いかけたが口をつぐんだ。シドゥが生きていれば当然シドゥの仕事である。

 「陸軍のサイモン大将に言っておこう」

 と、ヨーゼフが訳知り顔で言った。ヨーゼフもまたシドゥが生きていたらどれほど心強いかと思った。翌日、議会でレンは、トランサー国内のイビルニア人捜索及び討伐令を発し国民にも夜の外出を極力控えるよう触れを出した。

 

 一方、帰国したマルスやラーズも国で生き残りのイビルニア人討伐を話し合っていた。ジャンパール議会の壇上に立ったマルスは、真剣な顔をしてイビルニア人の捜索及び討伐を訴えていた。ランドールでは既に数人のイビルニア人を捕殺していたのでラーズは、帰国後すぐにイビルニア人討伐に父インギ王と共に加わった。

 「父上、捕殺したイビルニア人が今の所全て下位の者と言う事がどうもせませんね」

 と、ラーズがインギに言った。インギもおかしいと思っていた。

 「そうだな…中位の者も居てもおかしくないのだが、これでは会話が出来ん」

 イビルニア人の下位の者はろくに喋れないのである。まともに喋れるイビルニア人は、中位以上の者だからだ。そして、インギもまたサリン、ソーマン、アルシンと言うイビルニア人を思い出していた。

 「ラーズよ、ベルゼブや四天王以外に名のあるイビルニア人を知らないか?」

 「えっ?名のあるイビルニア人がまだ居たんですか?知らなかったな」

 「何だ、知らなかったのか…ふうむ奴らは四天王ほど強くないが、なかなかの手練れだった、夜の闇にでも紛れ込んで襲ってきたら厄介だぞ」 

 と、インギは、その昔フウガとヨーゼフにくっついて戦争に参加していた時の事を思い出した。その時は、真夜中に奇襲を受けたがフウガやヨーゼフが直ぐに駆けつけて来てインギは、事なきを得た。

 「おそらく奴らも復活しているだろう、この世界のどこかに隠れ潜んでいる事に間違いない、半島が無くなった今、どこに居てもおかしくないからな」

 と、インギは、ラーズに言った。ラーズは、魔導話を使いマルスに連絡を取った。レンに連絡を取らなかったのは、ヨーゼフが居るからだ。ヨーゼフなら当然、父インギと同じ事をレンに話しているだろうと考えたのだった。

 「マルス、名のあるイビルニア人の事を聞いてるか?」

 と、ラーズは言った。何も知らないマルスは驚いた。魔導話越しに丁度折れた斬鉄剣を眺めていた。

 「何?名のあるってアルカト達以外にそんなのが居たのか?」

 「ああ、父から聞いたよ、サリン、ソーマン、アルシンと言うそうだ」

 「ふうん、ヨーゼフは何も言ってなかったよな、忘れてたのかな…そんな訳ないか、アルカト達と戦ったんだから当然その連中とも戦ってたと思ったんだろうな」

 「多分な、父の話しだと四天王ほど強くはないがなかなかの手練れだそうだ、ジャンパールにそいつらが現れたら気を付けろよ」

 と、ラーズは心配して言ったがマルスは、鼻で笑って答えた。

 「ふふん、ラーズ君、君は誰に言っているのかね?私は四天王の一人ジルドを倒した男だぞ、そんなサンピン共にやられてたまるかよ」

 「ははは、そうだったな、それなら俺も四天王の一人グライヤーを倒した男だぞ、しかし奴らは奇襲が得意だそうだ気を付けるに越した事は無い、トランサーはどうだろう?ヨーゼフさんが居るから大丈夫だと思うけど」

 「ああ、心配ないだろうが一応俺から連絡してみるよ」

 と、マルスは言ってラーズとの会話を終え数日後、レンに連絡を取った。

 「やぁマルス元気かい?」

 「ああ、元気だ、ところでアルカト達以外の名のあるイビルニア人の事知ってるか?」

 「うん、ヨーゼフから聞いたよ、君はどうして知ってるの?ああ、アストレア女王から聞いたのかい」

 と、レンは不思議に思ったがアストレア達から聞いたのかとも思った。

 「いやラーズから聞いた、何でもあいつの親父が言ってたんだってさ、女王はジャンパールに来てからほとんどタケルヤ様の祭壇の部屋に居るよ」

 「そうなんだ、でも一体どこにいるんだろう、その名のあるイビルニア人…こっちもこの間イビルニア人を捕殺したけど下位の奴でまともに話せないからテランジンが直ぐに首を刎ねてたよ」

 「そうか、しかしこの世界のどこかに居るはずだ気を付けろよ」

 「うん、分かってるマルスも気を付けてね」

 そう言ってレンは、魔導話を切った。今、この世界中の国々でイビルニア人討伐が行われているが、サリン、ソーマン、アルシンと言うイビルニア人を倒したとの情報は、まだ無かった。レンは、不安を感じた。ラムールが戻っていない不死鳥の剣には刀身が無く折れた斬鉄剣は、ジャンパールにある。下位から中位程度のイビルニア人なら今帯びている剣で戦えるが、上位者で名のあるイビルニア人とこんな剣で戦う事が出来るのかと思うと不安が増した。

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