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不死鳥の剣  作者: TE☆TSU☆JI
102/206

ベアド大帝の死

 急にレン達が居る辺りが重苦しい空気に包まれた。何だと思い周りを見回すとバリバリと雷のような音を立てて空間が歪んでいる。そして、歪んだ空間から見覚えのある手が伸びて来た。

 「あぁ?!ベ、ベルゼブ!!」

 「何っ?!」

 何とベルゼブが現れた。時空の狭間で斬り飛ばされた腕が見事に再生されていた。そして、左手にアルカトの首を持っていた。その首をレンに投げ付けた。レンは、思わずアルカトの首を受け取りベルゼブと交互に見た。

 「すまぬ、レオニール…父を…父を止める事は出来なかった…」

 首だけになったアルカトが言うとレンの手の中でサラサラと砂の様に消えて行った。

 「ア、アルカト」

 「グルゥゥゥゥ裏切り者めが、余を父と呼び愛の尊さを説こうとは、どこまでも愚かな奴よ」

 歪んだ空間から完全に姿を現したベルゼブは、レン達に魔掌撃ましょうげきを放った。危ないと、テランジンが真空斬で弾き返した。

 「若、早くふねにお乗り下さい、不死鳥の剣の刀身がまだ戻っていないでしょう?」

 「そうだレン、ここは俺達に任せろ!」

 と、テランジンとラーズがベルゼブに立ちはだかった。マルスは、半島を切り離した時にほとんど力を使い切っていて戦える状態ではなかった。アンドロスもベルゼブにやられた傷で思う様に動けない。ヘブンリーの迷いの森の番獣ヴェルヘルムは、アストレアを守る事でいっぱいだった。

 「リヴァーヤの力は素晴らしい、まさか暗黒の世界から抜け出せる力が身に付いていたとは思わなんだわ、グルワハハハハ」

 それを聞いたリヴァーヤは、怒りの雄叫びを上げた。

 「ベルゼブ、お前に私の力を悪用させん!喰らえ!!」

 と、リヴァーヤが叫ぶとカッと口を大きく開きベルゼブに光線を吐いた。ベルゼブは、咄嗟に防御した。

 「さぁ今のうちにみんな艦に乗ってってブラッキーが言ってるよ」

 と、ブラッキーの言葉をシーナがレン達に伝えた。リヴァーヤは、自ら吐き出す光線でベルゼブを歪んだ空間に押し戻そうとしている。

 「この地を黒流穴こくりゅうけつに落とそうとしているのだろう、そうはさせんぞ!」

 ベルゼブは、必死で抵抗しているが思う様に動けないでいた。その隙にまずアストレアとヴェルヘルムを艦に乗せ、続いてアンドロス、レン、マルスが乗り込んだ。その間テランジンとラーズは、真空斬や真空突きでベルゼブを攻撃している。そして、ベアド大帝ら獣人達が艦に乗り込もうとした時、ベルゼブがリヴァーヤの光線を跳ね返した。跳ね返した衝撃でテランジン達、地上に残っていた者達が吹っ飛ばされた。

 「グルゥアアッ!お前達ぃ生きては返さぬぞ!グルゥワァァ!」

 と、ベルゼブがリヴァーヤに向け魔衝撃を放った。魔掌撃をまともに喰らってしまったリヴァーヤは、気を失ったのか海に沈んでしまった。

 「ああ、リヴァーヤが?!この野郎!」

 と、ラーズが真空斬で応戦しテランジンが直接斬りかかろうとした時、後方から大砲の玉がベルゼブを襲った。左右から交互に放たれる。海からカツとシンが砲撃していた。

 「お頭ぁ、皆ぁ早く艦に乗って下さい」

 「おお、有りったけの玉を撃て!さぁラーズ殿下、ベアド大帝、艦に急ぎましょう」

 と、テランジンは、二人に艦に乗るよう促した。ラーズは、大丈夫と思い艦に乗り込んだ。

 「グルゥワァ、ゆ、許さんぞぁグワァァァァ」

 さすがのベルゼブも至近距離から放たれる大砲の玉に苦戦している。

 「さぁ大帝、早く艦にお乗り下さい」

 「いや、テランジン殿、あのままではベルゼブを暗黒の世界に押し戻す事は不可能じゃ」

 「し、しかし」

 テランジンの肩を軽く叩いたベアドは、ベルゼブに大きな戦用いくさようの斧を向け叫んだ。

 「氷棺ひょうかん!」

 するとベルゼブを厚い氷が包み出した。

 「うおぉぉ、な、何だこれは?こ、氷?はっ?ベ、ベアドだな、貴様何をしたぁ?」

 「ふふふ、その氷の棺桶の中に入りお前は今一度暗黒の世界に行くのじゃ、わしとな」

 それをテランジンの軍艦の甲板から聞いたレン達は、驚いた。

 「た、大帝様、何を言うのですか、早く艦に乗って下さい」

 「レオニール殿、軍艦の大砲であやつを押し戻す事は出来んのじゃ、それに龍神が言っていたであろう、これからは若い者の時代、こう言う仕事はわしらじじいの仕事じゃ、それにあの世にはフウガもおる、龍神もおる、今のわしにはあの世の方が楽しそうじゃ」

 「で、でも…」

 「心配する事はないよ、わしら獣人もドラクーン人同様に暗黒の世界から抜け出せる手立てはある」

 そう言うとベアドは、ベルゼブに向かって歩き出した。その後を獣人達が付いて行く。

 「大帝様、お供致しまする、大帝様にお仕えして五十有余年、ここでお供せねば我が先祖に叱られまする」

 と、年老いた獣人が言った。ベアドの側近だろう。続いてもう一人年老いた獣人も同じことを言った。ベアドは、涙を流し二人の手を握り礼を言った。この間、軍艦からの砲撃は止めている。

 「我らもお供致しまする」

 と、若い獣人兵が三人言うとベアドは、首を横に振り言った。

 「駄目じゃ、これはわしら年寄りの仕事、お前達は国に帰りこの事を知らせるのじゃ、わしの後は息子のティガーが世継ぎじゃ、お前達はティガーを助けてやってくれ、頼んだぞ」

 「大帝様ぁ…」

 そうベアドに言われると若い獣人兵達は、泣き崩れた。気を失って海に沈んでいたリヴァーヤが戻って来た。レンは、ベアドがベルゼブを暗黒の世界に連れて行く事を話した。話しを聞きリヴァーヤは、雄叫びを上げベルゼブに言った。

 「ベルゼブ、もう二度と私の力を使えなくする」

 と、リヴァーヤは言うと真っ直ぐベルゼブを見つめた。すると氷で固められたベルゼブから何かが抜け始めた。

 「グルゥワァァァァ、や、止めろぉ!」

 リヴァーヤが奪われた力を取り戻した。リヴァーヤに力を奪い返されたベルゼブは、怒り狂って暴れようとしたが、氷で身体を固められて動けずどうする事も出来ないでいた。そこへ、ベアドと側近二人が近付いて行く。

 「リヴァーヤ、これでもうこやつは二度と暗黒の世界から出れんだろう、さぁベルゼブお前が居るべき暗黒の世界へ行くぞ」

 と、ベアドは言い側近達と氷で出来た棺桶の様に固めたベルゼブを抱えた。

 「は、放せぇぇ」

 「諦めろ、テランジン殿、わしらが時空の狭間に入りきったら真空斬をここへ撃ってくれ、そうすればここが塞がるはずじゃ」

 と、ベアドは、ベルゼブが出て来た歪んだ空間を指差し言った。

 「心得ました」

 と、テランジンは、涙を拭い答えた。ベルゼブを抱えたベアド達がゆっくりと歪んだ空間に足を踏み入れる。歪んだ空間に半分ほど入った時、ベアドは振り返りレンに言った。

 「あっそうそう、レオニール殿、ヨーゼフにはゆっくりこっちに来いと伝えて下され、お前さんはまだまだ生きてやる事があるとな」

 「た、大帝様ぁ!」

 レンは、泣きながら叫んだ。ベアド達は、歪んだ空間に入りきるともう一度振り返りにっこり笑ってあの大きな毛むくじゃらな手を皆に振った。ベルゼブが何か叫んでいる様だったが何も聞こえなかった。ベアドは、テランジンに合図を送った。テランジンは、一礼して真空斬を放った。真空波が歪んだ空間に当たると歪みが消えベアド達も見えなくなった。元に戻った。皆、一言も発さず沈黙した。アストレアは、静かに祈っていた。まさか、ベアド大帝もが逝ってしまうなどとは、誰も考えもしなかった。

 「さぁ皆ここから離れて、ベアドの事は残念だが今は一刻も早くこの半島を黒流穴に落とさないといけないよ」

 と、リヴァーヤが沈黙を破った。残された三人の若い獣人兵達とテランジンが最後に軍艦に乗り込み半島から少し離れた。そして、リヴァーヤ達海獣が半島を取り囲んだ。しばらくすると半島の淵から水しぶきを上げ始めた。大きな波を起こしテランジンの三隻の軍艦が大きく揺れる。半島が山のあった所から沈み始めた。

 「凄い、沈んでるよ、テランジン潜水して様子を見よう」

 と、レンが言うとテランジンは、ルークやカツとシンに潜水するよう命じた。軍艦が変形して潜水艦になり海に潜るとアストレアとアンドロスが驚いた。

 「な、何このふね、海に潜れるの?」

 「どういう仕掛けだ?」

 「あはは、人間にはこんな物を作れる奴が居るんですよ」

 と、テランジンが自慢気じまんげに言った。アストレアは、普段絶対に見せる事のない少女の様な顔をして海の中の世界を窓から覗いていた。半島が完全に海の中に入るとブラッキーが艦に近付いて来た。シーナと何か話している。

 「ブラッキーがね、黒流穴はずっとずっと底にあるからついて来れる?って言ってるよ」

 「分からないがとにかく見届けよう」

 と、テランジンは、半島が落ち行く速度に艦を合わせ動かせた。どれ程海に落ちたのか光が届かない深海まで来たので照明を付けると目の前に凶悪な姿をした魚が艦の目の前に居た。

 「きゃあっ!」

 と、アストレアは、驚きアンドロスにしがみ付いた。シーナがまたブラッキーと話し始めた。

 「あはは、ブラッキーがあいつは見た目があれだけどホントは良い奴なんだって言ってるよ」

 「あ、あらそうなの」

 と、アストレアは、少し顔を赤らめて言った。そして、艦に限界が訪れた。ギシギシと妙な音を立て始めたのだ。

 「若、限界です、これ以上潜れば艦が潰れますよ、上昇します」

 「うん、残念だけど仕方がないね」

 テランジンは、艦をゆっくりと上昇させるよう命じた。光りが差し込む辺りまで上昇した時、リヴァーヤとブラッキーが艦に近付いて来た。

 「半島は完全に黒流穴に吸い込まれていったよ、これでもうイビルニア人に脅かされる事はないだろう」

 と、リヴァーヤが言った。艦内に歓声が沸き起こった。

 「さぁ人間達よ、これでもう私とも会う事は無いだろう、海を汚さんでくれよ、ご機嫌よう」

 そう言うとリヴァーヤは、どこかへ行ってしまった。ブラッキーはまたシーナと何か話している。

 「うん、うん、じゃあね、ブラッキーがね、リヴァーヤ様はああ言ってるけど僕は別だよって、またどこかで会おうねってさ」

 「そうか、んじゃあなブラッキー元気でな」

 「またどこかで会おうね」

 と、レン達は、ブラッキーに手を振った。ブラッキーは、お返しにと前びれを振りリヴァーヤが行った方へ泳いで行った。艦は、ゆっくりと時間をかけ上昇し海面に出た。そして元の軍艦に戻しレン達は、甲板に出た。

 「終わった、全て終わった」

 と、マルスが感慨深く言った。その目には、涙を浮かべている。レンの目にも涙が光った。まさか最後にベアド大帝を失う事になるとは思ってもいなかったが、これで全ての決着がついたと思うと何とも言えない気持ちになった。主を失った若い獣人兵達は、海に向かって叫んだ。

 「大帝様ぁ無事に半島は落ちましたぞぉどうか、どうかご無事にあの世に辿り着いて下さい!」

 「大丈夫さ、大帝様ならきっと無事に辿り着けるさ」

 と、ラーズが獣人兵達を励ました。しばらく海上で過ごし夕暮れになりレン達は、これからどうするかと言う話になった。

 「ここの海域からだとランドールとヘブンリーが近いですがラーズ殿下、女王、国に帰られますか?お送りしますよ」

 と、テランジンが言うとラーズは、頭を掻きながら照れ臭そうに言った。

 「う~ん、もう皆ともお別れってちょっと寂しいな、トランサーに連れて行ってくれよ」

 「そうね、せっかくだから私達もトランサーに連れて行ってもらおうかしら」

 と、アストレアも言った。シーナとカイエンも当然まだ帰らないと言い若い獣人兵達もトランサーに連れて行って欲しいと言った。ベアドの死をどうやって伝えるかまだ気持ちの整理がついていないようだった。

 「俺もトランサーに行くぜ、まだ国には帰らん」

 と、マルスも言ったのでレン達は、トランサーに向けて艦を動かした。レンは、皆で帰国出来る事が嬉しかった。

 「さぁ帰ろうトランサーに」

 


 


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