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不死鳥の剣  作者: TE☆TSU☆JI
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思わぬ出来事

 地球に人や動物たちが住み暮らすように大宇宙には、地球に良く似た環境を持った星が存在する。

 これは、そんなある星で起きた話し…



 海上に二隻の軍艦が並んで同じ方向に進んでいる。一隻は、真新しい建造したてのふねで、もう一隻は、少し古びた艦だ。ジャンパール皇国の艦である。

 「閣下」

 と、少し古びた艦の操舵室で中年の士官が、望遠鏡を覗きながら言った。閣下と呼ばれた男は、中年の士官の後ろで、椅子に座り居眠りをしていたが、その声で目覚めた。

 「なんじゃ、どうした?」

 と、大あくびをかきながら椅子から立ち上がり白髪混じりの立派な髭を蓄えた高齢の男が中年の士官の隣に立った。中年の士官は、男に望遠鏡を渡した。

「どれ?」

と、男は、望遠鏡を覗き込んだ。

男の名は、フウガ・サモン。ジャンパール皇国の軍人であり政治家でもある。

「やっと到着したな」

と、フウガは、安堵の色を浮かべた。二隻の軍艦で向かった先は、トランサー王国。若い国王夫妻の王子誕生の祝いで、ジャンパール皇国皇帝の名代としての訪問だった。皇帝の名代ならば軍人政治家で無く皇族の誰かがなれば良かったのだが、これには、理由があった。

 トランサー国王 レオン・ティアックの妻ヒミカは、ジャンパール皇帝イザヤ・カムイの妹でフウガは、ヒミカが幼少の頃、教育係りを務めた事があった。そんなフウガを懐かしみジャンパールの訪問団は、フウガを入れるようイザヤ・カムイに頼んだ。それならと、妹思いの兄イザヤは、自分の名代としてフウガを送った。

 「あのお転婆姫もついに母親か…」

 と、フウガは、子供の頃のヒミカ王妃を思い出しくすくす笑った。そうこうしている内に艦が港に着いた。港には、人が集まっている。ジャンパール皇国の訪問団を心から歓迎している様子だ。

 艦を動かしている水兵達は、艦に残りフウガ達の訪問団は、直ぐにトランサー城に向かった。フウガ達を城まで案内する役人が、しきりにフウガに話しかけた。

 「サモン閣下、お目にかかれて光栄です」

 と、案内の役人は、目を輝かせて言った。10年前、この世界では、大きな戦争があった。その戦争でフウガは、大活躍して世界にその名を馳せた。

 「そうかい、ありがとう」

 と、フウガは、照れ臭そうに答えた。

 訪問団は、城下の大通りを馬車で通った。参道には、ジャンパールの英雄フウガ・サモンを一目見ようと人々が集まっている。

 「閣下、大人気ですな」

 と、馬車に同席したジャンパール側の役人が、にこにこしながらフウガに言った。

 「何で幌をつけてないんじゃこの馬車は」

 と、フウガがぼやいた。

 「トランサー国民に閣下のお姿を見せたいとのレオン陛下のご意思です」

 と、トランサーの役人が言った。

 「わしは、見世物ではないぞ」

 と、フウガが苦笑交じりに言った。馬車は、どんどん進みトランサー城の大門前で止まった。

 「開門!」

 と、案内の役人が大きな声で言うと門は、ゆっくりと開いた。馬車が城内に入っていき少し坂になった道を越えた辺りで停車した。ここからは、歩く事になる。綺麗に整備された庭や木々に囲まれながら一行は、レオン国王、ヒミカ王妃が待つ謁見の間に向かった。

 「こちらです」

 と、案内の役人が謁見の間にフウガ達、訪問団を通した。役人は、部屋の中央の玉座に座っているレオン国王、ヒミカ王妃に向かって最敬礼をし一歩下がってフウガ達、訪問団に最敬礼をして謁見の間から出て行った。

 「お久しゅうございます、陛下、此度こたびは、王子誕生まことに祝着至極しゅうちゃくしごくに存じます」

 と、レオン国王にフウガは、言った。

 「本当に久しぶりだ、俺もヒミカも早くフウガに会いたいと願っていた、ヒミカの輿入れの時、てっきり付き添って来ると思っていたからな」

 と、レオン国王は、言って笑みを浮かべながら王妃ヒミカを見た。ヒミカ王妃は、微笑み返した。フウガは、自分が知っているヒミカとは、別人の様に感じた。ヒミカ王妃は、椅子から立ち上がってフウガに歩み寄った。腕には、ひと月前に産んだ息子レオニールを抱いている。

「あの時は、本当に残念だったわ、あなたにわたくしの花嫁姿を見て欲しかったのに、さぁレオニールよ、抱っこしてあげて」

と、ヒミカは、フウガに息子レオニールを抱かせた。フウガは、恐る恐るレオニールを抱いた。

 「おほ、ひ、久しぶりでござるな、赤ん坊を抱くのは」

 と、フウガは、慣れない手つきで抱っこした。レオニールは、真っ直ぐにフウガの顔を見つめている。そして、微笑んだ。

 「まぁ、フウガを気に入ったようね」

 と、ヒミカは、にこやかに言った。部屋全体が和やかな雰囲気に包まれたが、その様子を快く思っていない者がただ一人いた。

 ザマロ・シェボット、トランサー王国大臣、レオン国王の叔父であり後見役である。ザマロが十二歳頃、王族のシェボット家に養子に出された。先代の国王である兄、グランデ王が亡くなった時、次は、自分が王になれると思っていたが、グランデ王の遺言でまだ歳若い息子のレオンを国王にする様に弟ザマロは、その後見役にと言われた。

 「さぁさぁ、ジャンパールの方々、今日は、お疲れでしょう、今宵は、ゆるりと休まれ明日晩餐会をやりましょう」

 と、そのザマロが言った。ジャンパール訪問団は、城内に用意された部屋に案内されフウガだけは、レオン、ヒミカ国王夫妻の部屋に呼ばれた。

 「しかし、出産祝いに軍艦一隻をくれるとは、ジャンパールは、太っ腹だな」

 と、レオンが、お茶を飲みながら言った。海軍力に自信の無いトランサー王国にとっては、ありがたい贈り物である。明日、その軍艦の受領式を行い後は、晩餐会の予定だ。

 「おかみもそうとう喜んでおられます」

 と、フウガは、答えた。ジャンパール皇国皇帝、イザヤ・カムイにとってレオニールは、初めて出来た甥である。妹や甥が住む国の海軍力が乏しいと知り、ヒミカが、懐妊かいにんしたと聞いた時に造らせたのである。

 「兄上たちは、元気にしてる?」

 と、ヒミカがレオニールを寝かしつけながら言った。

 「はい、それはもうお達者です」

 と、ヒミカがトランサー王国に輿入れした後の事をフウガは、色々話した。そうして夜もけ込みフウガは、国王夫妻の部屋を辞し自分に用意された部屋へと向かった。部屋に向かう途中、城内を警備に当たっている若い士官2人に声を掛けられた。

 「サモン閣下」

 フウガを見つめる二人の目は、緊張と尊敬に溢れていた。

 「夜回りかい?ご苦労さん」

 と、フウガは、二人に言った。

 「自分は、テランジン・コーシュ少尉であります」

 「同じく、シドゥ・モリア少尉であります」

 と、若い士官は、自己紹介した。

 「ふむ、コーシュ少尉にモリア少尉か、士官になって夜回りとは、ご苦労じゃな」

 「いえ、自分達で志願しました」

 と、フウガは、少し皮肉を言ったつもりだったが、二人は、大真面目に答えた。巡回警備など士官がする仕事ではないが、ジャンパール皇国からフウガ・サモンが来ると聞いて二人は、上官に頼み込み巡回警備に当たらせてもらった。

 「お会い出来て本当に光栄です、閣下は、自分達の憧れです」

 「閣下の武勇伝をお聞かせ願いたいのですが、夜も更けておりますので、明日お聞かせ願いますか?」

 と、二人は、目を輝かせて言った。

 「そうかね、そんなにわしの話が聞きたいのかね?じゃあ、明日の晩餐会でな」

 と、フウガは、ちょっと照れ臭そうに言った。テランジンとシドゥは、嬉しさの余り叫びそうになったが、グッと堪えた。

 「ありがとうございます、では、失礼します、おやすみなさい」

 と、二人は、フウガに最敬礼をして巡回警備に戻っていった。そんな二人を見てフウガは、ちょっと複雑な思いをした。自分を尊敬し憧れてくれるのは、ありがたいが、戦争で活躍した自分をあまり誇りに思っていないからだ。

 フウガは、用意された部屋に入り明日の受領式に備え寝床に着いた。


 翌朝、朝食を部屋でとり、他のジャンパールの訪問団と共に軍艦の受領式のため軍艦を碇泊させてある港に向かった。天気は、快晴で式典を催すには、絶好の天気だ。トランサー側は、レオン王をはじめ役人や音楽隊などが既に到着していた。もちろん警備兵の中には、昨夜出会ったテランジン・コーシュとシドゥ・モリヤもいる。

 「おはよう、フウガ、良い天気だ、先ほどふねの中を見せてもらったが、あんなのうち(トランサー王国)では、造れんよ」

 と、レオンが言った。トランサー王国にも軍艦などを造る施設はあるが、ジャンパール皇国の造る艦には、及ばない。ジャンパール皇国は、周りが海で囲まれた島国で船が無ければ他国との貿易や漁も出来ない、そして自国も守れない。当然の如く造船技術は発達する。

 「義兄上あにうえは、本当に太っ腹だな」

 と、レオンは、義兄であるジャンパール皇帝イザヤの贈り物を嬉しく思った。そんなレオンとフウガのやりとりを少し離れた場所でレオンの叔父ザマロ・シェボットが苦々しく見ていた。

 そして、受領式が始まり昼食は、新造艦の甲板に用意されたテーブルでとった。式が無事に終わった後、試運転も兼ねてジャンパール海軍の指導のもと新造艦でトランサー王国の周辺の海を軽く回り日が落ちる前に港に戻った。大砲の射撃は、明日行う事になりフウガ達ジャンパールの訪問団は、トランサー城で行う晩餐会に行くため城に戻った。新造艦を動かして来たジャンパールの水兵達は、新造艦を降りトランサーに一緒にやって来たもう一隻の少し古い軍艦に移った。

 城に戻ったフウガ達は、城内の大広間に用意された晩餐会会場に入った。音楽も鳴っていて良い雰囲気だ。レオンとヒミカの国王夫妻のあいさつの後、晩餐会が始まった。皆、飲み物を片手にあちこちと動き回り会話を楽しんでいる。レオンとレオニールを抱いたヒミカは、玉座に座り楽しそうに皆を見ていた。

 フウガは、若い士官を探してした。昨夜出会ったテランジン・コーシュとシドゥ・モリアに自分の話をすると約束していたからである。

 「どこにおるんじゃ?」

 と、フウガは、周りをキョロキョロ見回した。居た、レオンとヒミカが座る玉座の少し離れた所で辺りを警備していた。二人を見つけたフウガは、ゆっくりと二人に歩みよった。

 「やあ、そこに居たのか、探したぞ」

 と、フウガは、にこやかに二人に声をかけた。二人は、申し訳なさそうな顔をして答えた。

 「すみません閣下、陛下のお傍に配置されたので歩き回ることも出来ず…」

 「なに、気にする事はないよ、こちらから行けば良い事」

 と、フウガに言われテランジンとシドゥは、感激した。フウガは、昨夜に約束した自分の話をしてやった。主にフウガ自身が加わった戦争の話だ。テランジンとシドゥは、目を輝かせて聞いていた。

 「何の話をしてるんだ?」

 と、いつの間にかレオンとヒミカがレオニールを抱いて傍に来ていた。フウガは、テランジンとシドゥを紹介した。

 「皆が酒を飲んで楽しんでいるのに警備に就いてもらって、すまない」

 「晩餐会が終わったら、あなた達もたっぷり飲んで食べてね」

 と、レオンとヒミカが、フウガに紹介された二人に言った。テランジンとシドゥは、国王夫妻に直接声をかけられ感動の余り泣きそうになった。そんな二人を見ながらフウガは、ふと気付いた。

 「ところで陛下、ザマロ大臣の姿が見えませんが」

 と、軍艦の受領式には、出席していたザマロ・シェボットの姿がない事を不思議に思った。一国の大臣なら他国との晩餐会には、出席するものだろうと。

 「ああ、叔父上なら何やら急用が出来たとか言ってたな」

 と、レオンは、答えた。

 「急用でござるか?まぁそう言うことなら仕方ありませんな」

 と、何となく気になって聞いたフウガだった。夜も次第にふけて行き晩餐会も終わりを告げようとした時だった、突如、城内のどこかから大爆音が聞こえた。その瞬間、大広間の扉が荒々しく開き数十人のトランサー兵がなだれ込んで来た。

 「何事かっ?」

 と、レオンは、ヒミカとレオニールの前に立ち怒鳴った。フウガもレオンの横に立ちいつでも刀を抜ける状態をとった。ジャンパールの訪問団とトランサーの役人などを取り囲む様にして立っている兵士達の間から指揮官らしき男があらわれこう言った。

 「これよりトランサー国王は、レオン・ティアックに代わりザマロ・シェボット様が国王になられる、一同そう心得られよ」

 「何だとっ?お、叔父上は、どこにいる?答えろっ!」

 と、レオンは、信じられないといった表情で言った。大広間全体がざわついた。晩餐会の余興とのん気な事を言う者もいたが、フウガは、これは、本気だと直ぐに感じた。兵士達の目が血走っている、震えている者もいる。

 「やれやれ、とんでもない事になってしもうたな…」

 と、フウガは、溜め息混じりにつぶやいた。

  


 

                       

             

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