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参。

参。


兄モノローグ:――私は 弟が嫌いだった。

その無邪気な笑顔が 特に癇に障った。

どんなに私が弟に故意に意地悪な態度で接しても、

私を避けるどころか、逆に弟は益々

兄さん、兄さんと妙に私にまとわりついてくるようになった。

私は、この無神経な弟に対して、強い嫌悪感を抱かずにはいられなかった。

この弟さえいなければ……。

そう、何度思った事だろう。


いつの頃からだったろうか。

弟が本物で、

私は偽物である。 

そんな小さな疑問が私の心の中にくすぶり始めたのは。

次第にその小さな疑問は、疑念へと変わり、

長い長い時間をかけて、私の中で、ある、はっきりとした確信に変わっていった。


――弟が本物として存在する限り、私の存在は永遠に偽物であり続けるのだ……と。



弟「兄さん~!」


兄モノローグ:――遠くで私を呼ぶ、弟の声がする。

弟は蝉の抜け殻を取ろうと、必死で大木の木の枝の上にしがみつきながら、

前方に手を伸ばしている。


弟「兄さん、ほら、あったよ、こんなにたくさん!」


兄モノローグ:――声のする先に、弟の、あの笑顔があった。

無邪気な笑顔。


弟「あっ……」


兄モノローグ:――無神経な笑顔。


弟「た、助けて……兄さん」


兄モノローグ:――全てを根こそぎ奪ってく笑顔。


この弟さえいなければ……。


そう。


お前さえいなければ……。


本来なら兄として、

弟の手を力強く握って引き上げてやらねばならぬはずの、この私の右手に……。

私は、どうしても力を込めることができなかった。

必死にすがる弟の手がじわりじわりと徐々に下へと滑り抜けて行く。


弟「に、……兄さ……ん?」


兄モノローグ:――弟の顔がみるみるうちに曇って、疑心と恐怖に醜く歪められていくのがわかる。

その顔をみた瞬間。

今しかないと、私は確信した。

この機会を逃せば、私は一生、弟の偽物として生きて行く他はない。


だから、私は――

今度は はっきりとした悪意を持って、すがる弟の手を一気に突き払ったのだった。



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