壱。
この作品は、筆者の惣三郎が、こえ部用に書き下ろした短編シナリオです。
壱。
兄 モノローグ:――しきりに鳴く、油蝉の声がする。
じりじりと照り返す日差し。
吹きだす汗。
頬に貼りつく髪。
久々に数日の夏季休暇が取れた私は、
東京の喧騒から離れて、
幼いころよく訪れた避暑地の別荘に来ていた。
夏になると必ず、毎年ここで時を過ごすのが恒例となっている。
多忙で、まともな休みもとれぬ東京とは打って変わって、
ここでは、全くやることがない。
「さて、どうしたものか」、と、散々試案したあげく、
結局、読書でもするかと、焦がれるような熱い日差しから逃れて、
私は、庭にある大きな木の下に寝転がった。
見上げると、大木の枝が 無数の木の葉を茂らせ、
その幾重にも重なる木の葉の隙間から、時折、憎らしい夏の日差しをちらちらと覗かせている。
私は、目に飛び込んできた日の光を避けるようにして目を閉じた。
油蝉がうるさいぐらいに鳴いている。
蝉は、長い地下生活を経て、脱皮を何回か繰り返した後、やっと成虫となるが、
地上に出てからの命は短命で、1~2週間ほどであると、
どこかで聞きかじった覚えがある。
そう考えると、この、わずらわしいはずの彼らの鳴き声も、
逝き急ぐかのような、切ない叫び声のようにも聞こえてきて、
頭ごなしにそう悪いものと決め付けられたものでもないな……なんて、
そんなことを ぼんやり考えていたら……。
ふいに目の前に、人の気配がしたので、
私は はっと驚いて 目を開けた。




