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7.なかなおり

 心の中で呟いて、もう一度小さく溜め息をついて。

 顔を上げて、教室に戻った。もう昼休みはあと少ししかない。大事な話は放課後するにしても、せめて一言だけでも謝っておきたい。




   ***




 教室に戻ると、千佳は自分の机に突っ伏していた。両腕に顔を伏せているので、表情は全くわからない。

「千佳」

 近づいていって、そぅっと呼んだ。千佳が恐る恐る、といった様子で顔を上げる。

 帰ってきた私に気づいた香苗と真由美も、側に来た。

「あの……さっきは、ごめんね。嫌な態度、取っちゃって。千佳が心配してくれてるのに、拒否ったみたいになって。無神経だった。反省してる。ほんとに、ごめん」

 千佳は何も言わない。

「香苗と、真由美も……心配かけて、ごめん」

 二人も何も言わない。

「えーっと、つきましては……おわびに、放課後、ジュースか何かでも、奢らせてもらいたいんですけど……」

 沈黙が怖くて、どんどん下手に出て行ってしまう。別に悪いことじゃないよね。穂坂君の提案した作戦の中にもあったもん、「貢いで許してもらう作戦」が!

「で、その時、あの、もし良かったら……」

 どうしても言いよどんでしまう。でもここが肝心なところ。

「そ、相談したいことがあって……。聞いて、くれないかな」

 言った。言い切った。この意地っ張りの私が。でも、多分三人ともこれをずっと待っててくれたんだと思うんだ。

「…………」

 沈黙が怖い。何か言って、と思っていると。

「うわぁっ!」

 いきなり席を立った千佳にがばぁっと抱きつかれた。

「唯子ぉ!!」

「うわぁ!何!」

「あたしこそごめんねぇ!しつこく聞いたりして!相談?聞く聞く!超聞く!何でも言って!」

「あ、ありがと……」

 香苗と真由美のほうを伺うと、二人ともほっとしたような、安心した表情だった。ほんとに心配かけちゃってたんだな、と思うと申し訳無い。

「いいかな?」

 と問いかけると、二人とも笑顔で、うん、と頷いてくれた。

「じゃあ、よろしく」

 と言いながら、小柄な千佳の頭をよしよしと撫でる。顔を上げた千佳はもうすっかり笑顔になっていて、それを見て私もすごく嬉しくなった。




   ***




 というわけで、放課後です。

 約束どおり、みんなにジュースを奢って――――千佳はカルピス、香苗はサイダー、真由美はレモンティー。ちなみに私はカフェオレ。こういう時は見事にみんなバラバラだ――――私たちは今、教室に居る。

 私の相談を聞く、という名目の尋問だ。香苗の部活が始まる時まで。

 全く、昼休みまではみんなシリアス顔だったのに、今はすっかりそんなこと忘れたって感じで、どことなくうきうきしてる。私以外は。

 どうせ、私の「相談」がどんなものかも、察しているんだろう。女子高生が大好きな話題だ。かく言う私も好きだ。ただし、自分が無関係な時に限る。

「それで、相談ってなーに?唯子」

 千佳が促す。その笑顔は、可愛いんだけど、ちょっと恐ろしく感じるのは気のせいかな。なんか話したくなくなってきた……。

 でもちゃんと話します。

「実はね……」

 やっぱり彼女達の顔を見て言う勇気が無くて、私は俯いたまま。


「好きな人が、できて」


 やっと言った後に、ちらっと顔を上げれば、彼女達の目がキラリと光った。


 言ってしまった。

 もう、逃げられない。恋バナに食いつく彼女達からも。



 自分の気持ちからも。

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