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19.疑惑

 やば。誰か近くに居たの?うっかり穂坂くんに見惚れて気づかなかった……。


「迷惑なんすけど」


 …………はい?

 何、いきなり。


 吊り目がちの彼が睨むと、結構迫力があってちょっと怖い……けど、ちょっと待って。私は睨まれるようなことした覚えは無いよ!?


 それでも何か勘違いしているらしい彼は、苛立ちを滲ませて言葉を続ける。

「こっちが真剣に部活やってんのに周りでぎゃーぎゃーと……。そういうの、いい加減にしてほしいんですよね。恒輝のどこがいいのか知らないっすけど、ちょっとは周りの迷惑も考えてほしいっつーか……」

「ちょ、まっ、待って。えーっと……違う、よ?」

 多大な勘違いをしているようだから、何とか彼の話を遮る。それでも言い方が弱くなっちゃうのは、下心が全く無いとは言い切れないからだ。

 彼が言ってるのは多分、真由美も言ってた「ファンクラブ」のことなんだろう。本当にあるんだ、ということと、彼女たちの行動力にちょっと驚く。確かに周りから見たら迷惑だろうな。彼が、こんなところに入り込んでる部外者にピリピリしちゃってもしょうがないのかも。


 でも突き詰めてみれば、私も彼女たちとそう変わらないのかもしれない。その思いが、私に強く否定することを躊躇わせてしまう。

 すると彼は……そんな言動から、私をファンクラブの一員だと確信してしまったみたい。ああ、私の馬鹿!

「何が違うんすか。こんなとこまでフラフラ来てあいつのこと見てたじゃないですか。いつも来るやつらみたいに群れてなくても、やってること一緒じゃないっすか」

 あああ確かにそうだけど、そうなんだけど!理由があるのー!私には穂坂くんを見るためだけにこんなところまで来る度胸は無いのー!

「違うの、届け物があって」

「どうせ差し入れとかタオルとかでしょ。意味無いっすよ。あいつ、いっつも断ってますから」

「ち、違う。せ、先生から、頼まれて」

「あ、そういう嘘ついて呼び出すんですか。で、告白でもするんですか」

「何それ……」

 なんでこんなこと言われなきゃなんないの。

 もともとちょっと人見知りだから知らない人と話すのは苦手なのに、相手からは勘違いで敵意を向けられて。

 何とか弁解したいのに、うまく伝えられないまま、こんなことまで言われて。


 ……さすがにちょっと怒りたい。


「…………」

 何も言わずに不機嫌オーラを出してみる。何も言わないのは作戦じゃなくて、何を言えばいいのかわからないからってだけなんだけど。


 私に一応敬語を使ってるところを見ると、彼はどうやら一年生らしい。私が二年生だってことは、学年ごとに色の違う校章を見ればすぐわかるから。それで年上だと判断して敬語を使ってるんだろう。これが先輩だったら何も言えずに引き下がるところだけど、相手が年下ならちょっとくらい言い返したい。


 よし、私がんばれ。


「……勝手に勘違いして、そういうこと言うのはひどいんじゃないの」

「は?」

「私は、世界史の先生に、穂坂くんに返しそびれたノート渡しといてくれって、頼まれただけ」

「……それを口実にして、近づこうとでもしてたんですか?」

「だからっ、違うってば!なんでそう穿った見方しかできないわけ?」

「じゃあなんでずっとあいつのこと見てたんですか?」

 うっ。見惚れてたなんて言えない!

「それはっ!声をかけるわけにはいかないけどノート渡さないわけにはいかないし、どうすればいいのかなぁって考えてただけで!」

 苦しい言い訳だけどそう言うしかない……。

「ふーん」

 信じてなさそう……うぅ。

「じゃあ!あんたが渡しておいてよ!呼び捨てにするくらいなんだから仲いいんでしょ?」

「仲がいいわけじゃないんすけど。でもいいんですか?せっかくのチャンスなのに」

 何のチャンスだ!私が穂坂くんのことが好きなのは事実だけど、こいつにそう思われるのは嫌だ!思い込みで失礼なことを言われるのも我慢ならない!

「だから違うってば。私は穂坂くんのファンとかじゃないし、実際先生に頼まれて、ちょっと迷惑っていうか、誰かに預けられるならそうしたいと思ってたし。ちょうどいいからあんたに頼む。ただ、これが無いと宿題できないから、今日中に絶対、渡しておいて」

 はい、と薄っぺらいノートを彼に渡す。嘘は言ってない。ファンではないし。誰かに託けようと思ったのも事実。


 ノートに書かれている「2-4-26 穂坂恒輝」の文字を見て、私の言ったことが嘘ではないと理解したらしいけど、それでもまだ彼は眉間に皺を寄せて不機嫌そうだ。

「私が届けに来たことも言わないでいいから。私は別に穂坂くんと仲いいわけじゃないけど一応顔見知りだし、怪しい者じゃない。部活の邪魔したりしないし差し入れも呼び出しもしない。だから、えーっと、少しは信用してくれないかな」

「……先輩の、名前は?」

「覚えてもらわなくていいから教えない」

 名前を言わないと信用してもらえないかも、と思ったけど、私の名前がこんな事情で穂坂くんに耳に入るのは嫌だったから言わなかった。

「…………渡しときます」

 結局彼は、渋々、って感じで了承してくれた。


 まぁ、なんだ。すっごく失礼なやつだけど、実際にサッカー部の人は迷惑してるんだと思う。だから私のことも疑って、あんな言い方しちゃったんだろう。私が彼らの立場でも確かに嫌だと思うだろうから、失礼なことを言った件は……不問に付す!相手は年下だし!うん、心が広いね、私!


「じゃ、よろしく」

 そう言って早足で彼から遠ざかった。「あ!ちょっと!」と声が聞こえたけど、聞こえないふりをした。

お久しぶりの投稿です。お待たせしてすみませんでした……。

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