17.下手な会話と後悔と
観戦に徹してからは、ただ楽しかった。誰かがストライク出したり、すごく惜しいところで負けたり、ノリのいい会話を聞いてるだけでも楽しかった。半田さんと桑野さんにいじられてたじたじになる金子くんの姿は、申し訳無いけど涙が出るほどおかしかった。
そして、真剣な顔の穂坂くんも、おどける穂坂くんも、笑顔の穂坂くんも、どれもかっこよかった。恋は盲目、と言われてもしょうがない。全部かっこよく見えてしまう。
やっぱり、来てよかったなぁ。
「唯子、楽しい?」
サクが隣に座った。
「ボウリング、すっごい嫌そうだったからさ。もしかして、やっぱり無理やりつれてきて悪かったかなー、とか考えてた」
そ、そんなに顔に出てたかな。駄目だ、あまりの苦手意識に、周りを気遣う余裕を失くしちゃってたみたいだ。心配かけちゃったかな。
「……楽しいよ。ボウリングは、超苦手だってだけで……嫌いじゃないし。あ、見るのは好き!だから今、楽しいよ」
「ほんと?」
「ほんと」
「そっか。安心した」
サクを見ると、ほっとしたような顔をしてる。強引に見えて、ちゃんと周りを見て、気遣えるんだな、サクは。すごいな、と素直に思った。
「うん、誘ってくれてありがと」
サクははにかみながら、どーいたしまして、と笑った。あ、その顔、可愛い。
「サクー。次、お前の番ー」
穂坂くんの呼び声に、サクは立ち上がった。その背中をぼんやり見ていると、今度は穂坂くんが私に話しかけてきた。
「何話してたの?」
「私が楽しんでるかどうかって、サクが心配してくれて……」
「ああ、確かに江本、すげえ嫌そうな顔してたもんな」
「いやっごめんなさい!嫌っていうか苦手なだけで!見るのは好きだよ、超楽しいよ!」
「そうなの?」
「そうだよ!って……ちょうど同じような話を、サクとしてたんだよ」
「あ、そうなんだ」
「うん。あ、穂坂くん、さっきの連続ストライク、すごかったね。おめでとう」
「あー、ありがと」
うわ、スマイルゲット。珍しいものじゃないけど、これは私オンリーに向けられたものですからね。レアです。ごちそうさまです。
「ほら、そろそろ穂坂くんじゃない?頑張ってね」
でもうろたえてしまって、つい「早くあっちに行けば」みたいなことを言ってしまった。失礼な態度だと取られなければいいけど。
嬉しいけど、あんまり近いのは無理だ。ちょっと離れたところから見てるくらいが一番いい。
至近距離でごく当たり前のように会話するサクような態度のほうが、自然なんだってことはわかってるけど。
***
それから何ゲームかして、ゲームセンターに行って数時間過ごすと、もう辺りは薄暗くなっていた。
みんなそれぞれ自転車や電車に乗って帰途につき、私は一人、バスに乗った。
今まで賑やかだった分、一人での帰り道は寂しい。
千佳たちと遊んだ後もいつもそうだけど、今日はまた少し違うみたい。
後悔、みたいなものが少しある。
桑野さんがスロットに強かったりとか、半田さんがUFOキャッチャー上手かったりとか、金子くんの意外なレーシングゲームの手腕とか、サクのイメージ通りな格闘ゲームの無双ぶりとか、穂坂くんと森くんの落ち物ゲーム対戦の勝負がなかなかつかなかったりとか。
一つ一つの場面が楽しかった。みんな気さくで話しやすくて、常に楽しそうだった。
もちろん穂坂くんも。
ただ、穂坂くんが話しかけてくれたときは、すごく嬉しいくせに、何を言えばいいかわからなくなって、自分からすぐに会話を終わらせてしまうことが多かった。
嫌なやつだと思われたかな。つまらないやつだと思われたかな。
あの時、ああ言えばよかった、こう言えばよかった。
そんなことばかり考えて、後悔してる。
本当は、振って湧いたような幸運、今日の出来事を感謝こそすれ、後悔するなんて馬鹿げてる。上手に会話できなかった、なんて完璧な自業自得だし。
話しかけられれば動揺したり困惑したりして、そのくせ、ああすれば、こうすれば、って後悔ばっかり。
それでも話しかけてほしいと思うし、笑いかけてほしい。
どんどん強欲になっていく。欲ばかりふくらんで、反対に態度は消極的になる。
これも、恋の一つの側面かな、と思った。
次に学校で会った時、どんな顔すればいいんだろう。自分の変化は、やっぱり恐い。




