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15.ラッキーデー

お気に入り登録ありがとうございます。

がっかりさせないようにがんばります。

 予期せぬ穂坂くんの登場に一瞬意識が飛びそうになって、我に返った時にまず確認したのは、今の自分の格好だった。私、別に変な格好してないよね!?チュニックにレギンスにブーツ、至ってフツーの無難な格好。おかしくないよね。おかしくないよね?


 頭ではそんなことを考えつつ、軽くパニックに陥っているものの、何も言わず固まっている私を、サクが不審がる。

「えーっと、唯子?」

「!はい!?」

「どーしたの。超ビックリしてる。恒輝がいるのがそんなに意外?」

 あ、名前呼び捨てなんだ。そうだよね、中学からの友達だし、おかしいことでもないし……。

 まずそんなところに反応してしまう自分が情けない。

「修也もいるよ?」

 しゅうや?誰だ、と思ってサクが指したほうを見ると、おお!

「森くん?」

 森くんだ!特進クラスの!学年トップの!さすがの私でも顔と名前を知ってる森くん!

 森くんは私のことを知らないんだろう、首をかしげている。そうだよね、同じクラスになったこともないしね。しゃべったこともないしね。

「3組の江本さん。特進クラスと普通クラスは階が違うから知らなくてもしょうがないよな」

 穂坂くんが紹介してくれた。そうだった!問題はこっちだった!森くんの登場で逸らされていた意識が戻される。休日に穂坂くんとか。私服の穂坂くんとか。どうしよう。私どうすればいいの。


 混乱する私を置いて、サクがどんどんほかの人達を紹介してくれる。

「恒輝と修也知ってるなら、話は早いねー。で、唯子。こっちが金子(かねこ)(すぐる)、こっちが半田(はんだ)琴美(ことみ)。仲良くしてやって?」

「卓は目つき悪いけど、こう見えて礼儀正しい剣道少年だから」

「琴美は見た目ギャルだけど、実際中身もギャルだから」

 茶化すように口を挟んでくる穂坂くんと桑野さんに、金子くんと半田さんが食ってかかる。それをサクと森くんが笑って眺める。仲が良いんだなぁ、ということがよくわかって、同時に、自分が部外者だということがよくわかる。

「そして、今日のゲストの江本唯子です!」

 サクが大げさに紹介するものだから、さらに居た堪れなくなる。ああ、やっぱりついて来ないほうがよかったかな。確実に私、浮いてる。サクの社交性を少しでも分けてもらいたい。

「じゃあ、みんな揃ったことだし、移動しよっか」

 楽しげに歩く集団の最後尾を、緊張気味でついていく。かっこわるいぞ、私。


「江本さん、髪切ったんだ?」

 あからさまに緊張している私を哀れに思ったのか、隣に来て話しかけてくれたのは穂坂くん。でも相手が相手なだけに、余計緊張しちゃうんだってば。

「ああ、はい。さっき切りました」

 なんで敬語?落ち着け私!

「さっき?まじで?」

「うん、そして美容室から出てきたとこで、」

「あたしが発見、捕獲、そして強制連行!」

 と話に入ってきたのはサク。心強い味方の登場!ありがとう助かった!でも捕獲とか強制連行って、そんな物騒な。と思っていると。

「強制連行って、おまえ……」

 私の心の声を穂坂くんがツッコミにしてくれた。

「じゃあ江本さん、サクに強引に連れてこられた、とか?ごめん、なんか予定とかあったんじゃ……」

「あ、違う違う。何も予定無かったし。前から、一緒に遊ぼうとは言ってたし、せっかく偶然会ったんだし、と思って」

「そうそう、ちゃんとあたしは唯子の意見を尊重しました!渋る唯子をちょっとしつこく誘っただけで!」

「それを『強引』って言うんじゃねえの?」

「いや……違う……よ?」

「なんでそこで目ぇ逸らすんだよ?」

「今日、いい天気だよね!」

「なんでそこで話逸らすんだよ。ってか曇ってるし」

「恒輝、細かいことにこだわりすぎじゃない!?」

「細かくねえよ」

「じゃあ、しつこくない!?」

「おまえほどじゃない」

「ああ言えばこう言うー!」

 穂坂くんとサクの漫才がおもしろくて、つい声を上げて笑ってしまった。いいなぁ、こういうノリで会話できるんだ。


「ってかさあ、俺としては、サクと江本さんが知り合いだったってのが意外」

「知り合ったのだってついこの間だけどね。数日前だよ」

「運命の出会いってやつ?そんで、今日が運命の再会!」

 サクってば言うことがいちいち大げさだなぁ。でもサクってほんと、人の緊張とかほぐすの上手だな。さっきまでの私はちょっと硬かったんだろうと自分でも思う。

 穂坂くんも、サクみたいなタイプなんだろうけど、今の私にとっては、彼こそが私を一番緊張させる人だ。でもサクのおかげで、穂坂くんの前でも自然に笑えてる。サクの存在がありがたい。


「でもさ、唯子髪切って、ちょっと印象変わったのに、すぐに気づいたあたしってすごくない?」

 サクの言葉に私もうなずく。それもそうだ。会ったのなんて、一回だけなのに。

「あたし、人の顔覚えるの得意なんだー」

 いいなぁ。私、人の顔覚えるの苦手。

「確かに江本さん、ちょっと印象変わったよね。いや、いい意味で、だよ?明るくなった感じ?」

 うわあああ、ちょっと、不意打ち!単純な私の脳は、なんかいい感じの言葉をもらったと受け止めているんですが、いいんでしょうか!穂坂くんの言葉は私にとって重みが違うんです!うわ、どういう反応すればいいかわかんない!

「そ、そう、かな?」

「だよねー。前のストレートロングも好きだけど、これもいいよねー」

「うん。俺は似合ってると思う」

 そんな言葉に加えて、ダメ押しのような笑顔。勝てる気がしません。

 こんなに言ってもらっていいのかな。


 緊張もほぐれてきたし、みんなの空気はあったかいし、サクとは話せば話すほど楽しい。

 そして穂坂くんがいる。


 サクについてきてよかった。素直にそう思えた。

 今日のうお座は一位かな。

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