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11.本屋にて

 私は今、本屋にいる。駅の近くの、新しくも古くもない、大きくも小さくもない本屋。特に買いたいものがあったわけじゃないんだけど。学校帰りにふらっと立ち寄っただけ。

 図書館とか古本屋の空気のほうが好きだから、今まであんまり来たことはない。こんな内装なんだなぁ、あんまり本の匂いしないんだなぁ。ぼんやりと、肩にかかる髪の先を指にくるくる巻きつけながら店内を回る。私の髪型は面白みも個性も何もないただのロングヘアで、ここ数年は、これがちょっと短かったり長かったりを繰り返してる。


 雑誌コーナーで足が止まった。女性向けファッション誌の表紙を飾る、ぱっちりした目とつやつやの唇が印象的なモデルさんと目が合う。

 しばし睨み合う。いや、写真のモデルさんと睨み合えるわけないんだけど。だいたい向こうは私なんて眼中にもないんだけど。


 私は、雑誌は断然立ち読み派だ。図書館で読むときはお行儀良く椅子に座り読みだ。高校生のお小遣いじゃ、そうそう毎月雑誌なんて買ってられない。

 それでもビニールで包装されたその雑誌に手が伸びてしまったのは――――――。


 「この秋こそイメチェン!秋冬のモテヘア大公開!!」の言葉に踊らされてしまったわけでは、断じてない!




   ***




 お金を払って、晴れて私の物となった雑誌をカバンに入れて、ちょっとCDコーナーをのぞく。雑誌買っちゃったからもうこれ以上何も買わないけど。見るだけ、見るだけ。

 大々的に宣伝されてる新譜や、ランキング順に並べられたアルバムなどを、ほんとに眺めるだけ眺めてたら、右のほうで、がしゃがしゃん、という音と、小さな舌打ちが聞こえた。


 そちらを見ると、棚のCDがドミノ倒しみたいになっていて、平積みのCDの山が崩れていて、ちょうどその現場から男の人が立ち去るところだった。


 ……ええと、なるほど。状況は理解した。犯人は逃亡した模様。


 迷ったのは一瞬だけで、犯行現場に行って、ぐちゃぐちゃになったCD達を元に戻していく。店員さんは気づいてないらしい。通報しますか?まぁいいや。第一発見者は現場検証を続けます。


 こういうの、見て見ぬフリができない性質で。似たようなことはよくあるし、私の仕業だと思われて言いがかりつけられることある。損な性格だと思うこともあるけど、もう諦めてる。

 そのおかげで、この前の墨汁事件の時みたいに、穂坂くんと二人っきりになれたりしたんだから、悪いことばっかりでもないかな。でもあんなことが何度もあったら心臓もたないな。やっぱり損するばっかりでいいや。


 元の状態がどんなだったかは知らないけど、まぁこんなもんでしょ、というところまでやった時、平積みCDの一番上に、もう一枚のCDが乗せられた。


 CDを置いた、ほっそりした手の主は、あっ気にとられてる私ににっこり微笑んで、下に落ちてたから、と言った。


「あ、ありがとうございます」

 一応お礼を言う。メガネをかけた、なんかボーイッシュな感じの女の子だ。近くの商業高校の制服着てるし、同年代だろうな。私より少し背が高い。そして私より細い。

「お礼なんて。あなたがこれ落としたわけでもないのに」

 彼女は笑みを崩さない。なんかフレンドリーだ。

「ちょっと遠くからだったけど、ちょうど見えたんだ。あの男の人、自分でやったくせに行っちゃって、うわー、って思ってたらあなたが片付けだして。すごい!えらい!と思って」


 ……今週の占い見るの忘れてた!今週はもしかして、うお座が褒められる週ですか!こういうことが続いてないですか!

 でも褒められちゃうと、照れるとかじゃなく、何となくいたたまれない。私は別にボランティア精神とかでやってるわけじゃないんだ。ああいうのをほっとくと落ち着かないから、やっちゃうだけなんだけどなぁ。

 そう言うと彼女は、どういうつもりでやろうと結果的には同じだよ、と言って、また笑った。確かにそれはそうだけど。でも褒められると!落ち着かないから!

「あ、でもあなただって、わざわざ離れたところからCD拾いに来たんだし」

 そっちのほうがすごいよね。

「あたしは知らん振りするつもりだったよ。あなたの行動に感動してちょっと手伝っただけー。だからぜーんぶあなたのおかげー」


 ……なんか似たようなことを、最近言われたような。今週はこういう週らしい。


 何か言おうと思うけど何を言えばいいかわからなくて、横のほうに目を逸らすと、何故か店員さんと目が合った。

 あ、私達うるさいですか。そうだよね、本屋では静かにしなきゃだよね。


 彼女もそれに気づいたらしく、出よっか、と言って私を促す。

 一緒に店を出ながら、あれ、なんで私、この子と一緒に行くことになってるんだろ、と今さらながらに気づいた。


 まぁ、この後の予定なんて特に無いから、いいんだけど。

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