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クローバー(3)  作者: ディライト
プロローグ
1/14

Prologue

どうも、ディライトと申します。クローバーシリーズ早くも3作目となりました。(1)(2)まで読んでくださった方、お気に入り登録してくれている方、ユーザー登録してくれた方、感想、評価くださった方、本当にありがとうございます!

(3)で初めてクローバーをクリックしていただいた方、是非とも(1)から読んでいただけると嬉しい限りです。今回も遅筆であると思われますが、どうぞよろしくおねがい致します。

今作も全10回を予定しており、1回約6000字~8000字になります。そのほかに今回は登場人物である三葉の短編などあわせて全13回くらいになるかと思います。

こんな小説に感想、評価くださった日には1日中福笑いのように顔面が緩んでいると思われます。


ではクローバー(3)スタートです!

 クローバー(3)


「残り五分だ! しっかり見直ししとけよー!」


 路上演説をする議員のようにやかましい声量で、タンクトップと青ジャージズボンの我が二年D組担任岩崎いわさき勲夫いさお教諭が、二つのダンベルを交互に上げ下げしながら叫ぶ。

 その声に浅い眠りから一気に覚醒させられた俺、草野くさの春樹はるきは、机に突っ伏していた身体をゆっくりと持ち上げると、抗いようもない暑さが全身を襲ってきた。

「……ぐぁ」

 シャーペンのテスト用紙を叩く音だけが聞こえる教室で、俺の口から首を締められたアヒルのようなうめき声が出る。


 夏。夏。夏。夏真っ盛り。夏って字は見るだけで暑くなってきやがる。窓の外では蝉が喧しく不愉快なハーモニーを奏でているし、その蝉を彩るが如く太陽がこれでもかとスポットライトを当てまくっている。教室内では一定のリズムで暑苦しい筋肉馬鹿教師がふっふと息を吐きまくって、さらに暑さの不快指数を高めている。あんた数学教師だろうが。


 体育教師のような数学教師を睨みながら、俺は見直しのために早々に終わってしまった数学の問題に目を落とす。数学なんて朝飯前どころか起床前過ぎて、開始十五分で全ての問題をコンプリート済みだ。……なんてことは勿論あるはずはない。言葉通り起床前なので、テスト用紙に記されている古代ギリシャの暗号にしか見えない問題はさっぱり理解できない。というか理解する気もなく、早々に俺は机に平伏した。かといって安眠できるほどの気温と枕ではないため、ワイシャツ下に伝う汗に気持ち悪さを感じながら、必死に夢の中へ入ろうと目を瞑っていた。夏はとにかく寝苦しいし、全くと言っていいほどやる気が起きない。三十度を越す教室で期末考査とかもはや答えさせる気ないだろう。頭が沸騰して正常な思考能力が失われているんだから。

 というわけで、終了五分前の見直しなんて自分の名前が書いてあるかを確認するだけの作業である。名前書けたら五点くらいくれてもいいのに。

「よぉーし、終了だ! 後ろから回してこい!」

 タンクトップ型拡声器が終了の合図を叫んで、前期の期末考査は全て終了。クラス内では一斉に「終わったー!」だの「自由だー!」だの「夏だー!」などの黄色い歓声があがる。


「ハルキ、どうだった……?」

 俺の席の横でテスト成果を聞くふんわりとした声がする。振り向くとそこには、クラスメイトの碧原みどりはら一葉ひとはが表情に曇り空を展開させていた。背中まで流れる綺麗な絹のような栗色髪に、誰もが振り返るような精美な顔のつくり。吸い込まれるような綺麗で真ん丸な瞳に、長い睫毛がさらにそれを引き立たせる。滑らかに描かれる鼻筋に、とれたての果実のような弾ける唇はまさに芸術。神様がスペシャルオーダーメードで……ってこれは前にも言ったな。とにかく、神様特注品としか思えないほどの超絶美人。それが碧原一葉だ。しかし人とふれあうと慌てたりドジったりする一面もある。

「どうだも何も、全く勉強できなかったからなぁ……」

「……だよねぇ」

 お互い苦笑いを向け合って、大きく溜息を吐いた。そんな一葉とは、何を隠そう同居生活をしているのだ。とはいっても、俺と一葉の二人でというわけではなく、一葉の妹の二葉、三葉も一緒にである。そんな非常識な事になった発端は四月のことだった。大企業社長のご令嬢と噂されていた当時の一葉とは、髪の色が同じだったいうちょっとしたきっかけで顔見知りとなった。その後一葉に関してはなんの音沙汰もなかったのだが、三人で暮らしていた碧原三姉妹のアパートが火事に見舞われたところにたまたま居合わせた俺が、一人暮らしをしている俺のアパートへと一葉たちを匿った。話を聞くと、一葉は全くお金持ちなんてことはなく、根も葉もない噂だったことがわかった。そこで今後の住居に困っていた一葉のために、近しい付き合いの大家のおばちゃんに相談に行ったところ、おばちゃんの驚天動地な提案によって、俺と碧原三姉妹はどういうわけか同居生活をすることとなってしまったのだ。

 そこから平穏を愛する俺の日常は、一気に非日常へと移行していった訳だが、その辺りは今まで語ってきたので割愛する。人生ってのは本当何が起こるかわからんものだ。


「毎晩毎晩ゲームばかりやってるからいけないのよ」

 がっくりと肩を落としていると、俺の前の席からハスキーな声が聞こえてくる。そこには同じくクラスメイトの花咲はなさき嘉穂かほが、悪戯な笑みを浮かべながら後ろに振り向きくすくすと喉を鳴らしていた。セミロングの巻いた黒髪、凛と主張する細い眉に、切れ長奥二重な眼。薄く伸びる小さな鼻に、小ぶりな唇が特徴的。大和撫子という言葉は彼女のために用意されたもののように思わせる、それが花咲嘉穂だ。

 彼女は俺の部屋のちょうど下の階に住んでいる、いわばご近所さん。そのためなのか、俺たちの生活音は全て筒抜けであるらしく、よく俺たちの生活のあれこれに突っ込んでくる。ちなみに彼女が下の部屋に住んでいるということを知ったのはちょうど一ヶ月前のことで、それまでは俺たちの生活を知っているような口ぶりで、必死に同居生活を隠している俺たちを揺さぶって遊んでいたりしていた。とんだドSである。……ま、まぁ花咲のお陰で今の同居生活が続いているって点もあるんだけどな。

「フタバとミツバにせがまれると付き合わずにはいれないんだよ……。ってお前も俺たちの生活音をじっくり堪能してるんじゃない!?」

「いいじゃない。私が楽しいんだから」

「楽しむな!」

 俺の突っ込みに花咲はまた妖艶な微笑を浮かべる。

「カ、カホはテストできたの?」

 話題を変えるように一葉が花咲に問いかける。

「ん、まぁまぁね」

「花咲にしては面白くない答えだな」

「じゃあ、すごくできたわ」

 できたんかい。

「そうだよ、カホ中間考査の時もすごい点数とってたよ」

「マジで? 下で俺たちの生活音聞いてニヤニヤしてないで教えにきてくれれば良かったのに……!」

 皮肉交じりに悔しそうな眼を向けてやると、花咲は何やら少々考える素振りを見せた後、

「ゲームに付き合わされたらたまらないわ」

 と微笑を返した。


「なになにハルっちゃ〜ん、べっぴんさん二人捕まえちゃって〜もう~」

 三人で他愛のない会話を繰り広げていると、言い回しが昭和な金髪黒縁メガネ右耳ピアスの腐れ縁であるチャラ男こと筑紫つくし正志まさしが、身体と紫マフラーを揺らしながらやってきた。

「たまたま席替えでそうなっただけだろ」

「だーくそぅ! なんでハルっちゃんだけそんな素晴らしきポジションなのに、俺の回りは男だらけなんだ! 目の前にはむさ苦しい勲夫ちゃんが仁王立ちしてるしよぉ!」

 窓際の最後方を引き当て、更にはクラスでも一、二を争う美人コンビに囲まれるなんていう妙に無駄なくじ運を発揮し、クラスのひがむ連中の蔑む目が痛かったこと痛かったこと。

「ま、それはいいんだけどさ!」

 いいんかい。

「今日は半日で終わりだしよ、これからみんなでファミレスで例の旅行の話しようぜ!」

 筑紫はそう言って、汗だくの顔を綻ばせる。例の旅行とは、六月くらいからしようしようと考えていた件である。それにしても流石にこの時期にマフラーはないだろう。見ているだけで暑苦しい。こんな焼けるような暑さの中でも巻いているのには何かしら理由があるのだろうか。あまりに肌身離さず年中無休で巻いているため、今まで理由を聞くに聞けなかったのだが。

「旅行ってどこか当てがあんのか?」

「ないない! だからみんなで決めるんじゃん! なぁ佐久間ー?」

 そう言って、花咲の前の前の席に声を掛ける筑紫。その先に眼を向けると、机に突っ伏している男が顔を上げる。

「そう……だな……」

 飾り気の無い無造作な黒髪、しかし爽やかかつその甘いフェイスと、文武両道な多才な面を併せ持ち、学校の人気を独り占めしているこちらも腐れ縁、佐久間さくま恵介けいすけの姿があった。しかしその整った顔のパーツは全てへの字になって、生気の失われた表情をしていた。

(佐久間くんどうかしたのかしら?)

(元気ないね……)

(なにやら、テストの成果が過去最低だったみたいだ)

 一葉と花咲も心配そうな面持ちで佐久間の寂しそうな背中を見つめる。

「おーい佐久間~、これからファミレスで旅行の相談するんだけどよぉ――」

「行くぞ!」

 少し同情した筑紫が佐久間に呼びかけると、全てを言い終える前に佐久間がダッシュでこちらにやってきた。

 なんで眼が血走ってるんだよ。

「佐久間がテストできないなんて珍しいな」

「そうなんだよ! 聞いてくれよハルキ!」

 ちょ、顔近い!

「なんていうかさ、イマイチやる気が出なくて、全教科一問ずつは確実に間違ってしまったんだ……! これについてハルキどう思う?」

 うん、自慢にしか聞こえないんだが。

「そうじゃなくてな、こんなにやる気が出ないのは初めてなんだ……。でも今旅行の話を聞いたら一気にやる気が出てきてしまった。これについてはどう思う?」

 それはいつもやる気のない俺への皮肉と取ればよろしいのかな?

「旅行に行けるのが嬉しすぎておベンキョーに集中できなかったんだろ~佐久間~?」

 筑紫が会話に割り込んできて、佐久間の肩に腕を回す。すると佐久間は少し顔を赤らめて黙り込んでしまった。その様子に一葉はぽけーっと首を傾げている。一方花咲は何かを察したようで、頬杖をつきながらニヤニヤと妖しい笑いを佐久間と一葉に向けている。俺も佐久間が言わんとしていることがだんだんわかってきた。要するに佐久間は、一葉と一緒に旅行に行けるから舞い上がってやがんだ。忌々しい。

「佐久間くん、海なんてどうかしら?」

 花咲が悪戯な笑みを浮かべる。

「……海か?」

「想像してみて……ほら」

 佐久間は遠い眼で上のほうを少し眺めてから、

「うお!!?」

 鼻辺りを押さえながら悶え始めた。

「ね?」

 ちょこんとウインクをしながら俺のほうにも悪戯な微笑を向けてくる花咲。

 俺は悶えたりはせんぞ。想像はしちまったが。

「ま、続きはファミレスでってことで!」

 筑紫がにししと白い歯を見せ、右腕を突き上げる。

「アオイも呼んでいいよね?」

「もちろんですとも!」

 そう聞いてから、一葉が大親友の枝村えだむらあおいに声を掛けると、教室の後ろのドア傍の席から跳ねるように飛んできた。彼女は肩ぐらいまで伸びる薄茶髪に前髪を青のヘアピンで留めている。まん丸大きなくりっとした瞳に、猫のような口の形が特徴の、太陽のように明るい女の子である。

「およ? なんだいなんだいみんなで何やら悪巧みかいっ!?」

「アオイちゃんも夏休み旅行いくっしょ?」

 筑紫がここぞとばかりに問いかける。

「旅行の話!? 行くよ行く行く! 断られても強引についていく所存だよっ!」

 すごいポジティブだ。見習いたい。

「そうこなくちゃ! んじゃ決まりだ! この六人で旅行行くぜ!」

「どこ行くのか決まってるのかい?」

「それを今から皆でファミレス話し合おうって思ってさ~!」

 筑紫のその言葉を聞くと、葵は何やら思案顔になり、うんうんと唸り始めた。

「あ……あれ? アオイちゃん?」

「……皆、海行きたいかな?」

「行きたいぞ!」

 唐突な葵の発言に最初に答えたのは佐久間だった。っていうかどんだけ楽しみなんだよ佐久間。

「皆も行きたいかな?」

 葵は俺たちにも眼を向けてくる。葵の言わんとしている事がいまいち読み取れないながらも、俺たちはそれぞれ顔を見合わせてから、こくこくと頷いた。

「そっかい! んじゃこの件はあたしに任せてくれないかいっ?」

「どこか当てがあるのか?」

 俺が問うと、葵は腰に手を当てて鼻高々。

「ふっふ~ん。まぁまぁ皆期待して待っていてくれぃ! んじゃ、私は一足早く交渉に向かうよ!」

 そう言って自分の席へ戻り机の脇に掛けてある鞄を取ると、「朗報を待てっ!」と叫びながら教室から足早に去っていった。

「……な、なんかあんのか? アオイのやつ」

「……さ、さぁ……」

 葵に一番近しい一葉に問うても、期待した答えは返ってこなかった。というか葵、まだ帰りのHRは終わってないぞ。



 ◇◇◇



「「ただいま~」」

 葵の私にお任せ発言によって結局ファミレスに行く事はなくなり、ショッピングモールハナオカで一葉と買い物を済ませて我が家へ帰宅。

「ハルキ、ヒトハおっかえり~!」

 元気印を顔に貼り付け、笑顔で迎えてくれたのは碧原家次女二葉ふたばだ。家系であろう栗色ショートカットヘアー、姉の一葉に負けず劣らずの整った顔つき。活発で小六にしては子供っぽいが、挨拶はきちんとできたりする素直な娘だ。

「なぁなぁ、今日のゆーはんは!?」

「焼鳥の親子丼だ。ってまだ二時だぞ……」

「わお、うまそー! 待ちきれないよ~!」

 この通りちょっと食いしん坊でもある。

「……ハルキ、ヒトハ、おかえり……」

 そしてもう一人、囁くような声量で、遠慮しがちな微笑をくれたのは碧原家三女、三葉みつばだ。姉二人に同じくして栗色な髪をおさげにして右肩に下げている。やはり精美な顔つき。しかし性格は二葉とは正反対で、落ち着いていて感情をあまり表に出さない。料理も完璧にこなしたりして、小四とは思えないほど大人びている。しかし一緒に過ごしてきてわかってきたことだが、かなりの恥ずかしがりやだと思う。そしてちょっぴり寂しがりなのかもしれないとも思ったりしている。

「おう、ただいまミツバ」

 こちらに寄ってきた三葉の頭を撫でてやると、気持ちよさそうに眼を細めた。

「ヒトハ、ハルキ、WeeやろWee!」

 二葉がテレビラックからコントローラーを引っ張り出して笑顔を振りまいてくる。

「え~また~? もう、そのせいでテスト全然できなかったんだからねっ」

「ヒトハも一緒になって騒いでたじゃん!」

「そ、そうだけど……っ」

 一葉もあまりにハマりすぎて、教科書出してるところ全く見なかったからな。中毒性が高すぎて困っているところだ。また筑紫たちがプレイしに来ても困るし、売却することも考えなければ。

「フタバ、風呂掃除は終わったのか?」

 俺が眼を細めて問いかけると、ぎくっと音がするほどうろたえて、眼を泳がせている。

「……え~っとね、うん……後でするよ! ゲーム終わってから!」

「やる前にだ」

「む~! 最近ハルキうるさいぞー! 細かい男は嫌われるよって国語の授業でならったぞ!!」

 どんな授業をしてるんだ我が母校は。

 っていうか俺細かいかな!? 結構傷ついたぞ!

「……ハルキ」

 そこに俺の裾を掴む三葉の声。

「…………わたしは、うるさいと思ってない、から……」

 と、頬を朱色に染めながら言ってくれた。

 三葉~! やっぱり三葉は俺の味方だったのか! やべーめっちゃ嬉しいよ!

「あー! ミツバはすぐにハルキポイントあげようとするんだ! バカバカ!」

「そ、そんなことしてないもん! このフタバカチン!」

「にゃにー! チンまでつけたのか! フタバカでいいじゃんか!」

 フタバカはいいのか。

「フタバはユウタポイントでもあげてればいいんだ!」

「なんでユウタがでてくるんじゃ!」

 ポカポカと小突き合いが始まる。こんな喧嘩はもはや日常茶飯事。喧嘩するほど仲がいいとはまさにこの二人のためにある言葉だ。三葉もこの瞬間だけは言いたいことを本音で言い合ってるみたいだし、俺としてはこの小突き合いはいいものだと思っている。

 ちなみに雄太ゆうたとは大家のおばちゃんの一人息子だ。六月に皆で遊園地に行ったときに二葉が仲良くなった中一男子である(アホ)。

「もう! 二人ともやめなさい!」

 一葉が見かねて二人を制す。

「じゃあヒトハはハルキポイントどのくらいなんだ!?」

「……へ? わたし?」

 二葉が急に矛先を一葉にすげ替える。

「……わたしのほうが上……」

 三葉も口を尖らせて一葉を睨んでいる。

「わたしとハルキは同級生だよ! 今度旅行も行くし、わたしの方が……う、うえだよ!」

 言っている途中から顔を赤らめ口ごもりながらもそう答えた。

 小学生相手に対抗するなよ。嬉しいけども。

「へ? リョコーって?」

 二葉がきょとんと顔の赤い一葉を見上げる。

「あ……、そうだよ、フタバとミツバをどうしようか?」

「そういやぁそうだよな。俺たち学校の友達と夏休みに旅行に行こうって話になってるんだけどな」

「ええええ!! ずるいよずるいよ!」

 二葉は抗議の構えを見せる。三葉も珍しく凛々しい顔つきでうんうんと頷きながら二葉に同調している。

「連れて行くわけにも……行かないしな……」

「うん……」

 一葉が妹たちを連れてきたなんてことになれば、また色々葵が気にすることになりそうだった。何故かは知らないが、葵は一葉をどんなことからも助けたいと考えているらしいし、一葉もまた、葵には迷惑を掛けたくないと一点張り。人の事情には首を突っ込まないことにしているが、気になるところではある。

「……俺たちはやっぱり旅行はやめにしとこう」

「うん、そだね。フタバとミツバを置いていけないもん」

 それが得策だ。俺たちはもう家族同然なんだから。


「……行っても、いいよ……」

「へ?」

 俯きながら聞こえるか聞こえないかの声量で三葉が囁く。

「……いつもお世話になってるから……」

「ミツバ……」

「ミツバ本気なのか!」

 二葉が納得いかなそうに三葉の両肩を掴む。三葉はこくりと小さく頷いて、

「……そのかわり、帰ってきたら一緒に……皆で……コレいきたい……」

 そう零しながら、一枚の紙を手渡してきた。

「花岡小学校夏祭りイベント開催……か」

 懐かしい。俺もよく母親に連れられて何度も行った。小学校のPTAが主催している夏祭りだ。

「へ~、小学校でこんなのやってるんだぁ」

 一葉も隣から覗き込んで笑顔を浮かべる。

「わかった。皆でいこう。絶対だ」

 そう言って俺は三葉の前に小指を差し出す。きっと少ない勇気を振り絞って言ってくれたのだ。この約束は守らないわけにはいかない。

「……ん」

 俯きながら三葉もゆっくりと小さな小指を絡めてくる。

「――ゆびきった!」

 テンプレートのリズムに乗せてから指を離すと、三葉は控えめながらもはにかむような笑顔をくれた。

「でも、どうするの? 二人だけじゃ危ないよ?」

「おばちゃんに預かってもらえるよう頼んでみるよ」

「え!? ユータんち!?」

 不満そうに口をアヒルのように尖らせていた二葉が、エサを持ってきた主人に気付いた子犬のように顔を上げる。

「ん? ああそうだな」

「おお! あやつのうちか! ユータは飽きないからいいな!」

 一転してご機嫌になる二葉。随分と知らぬ間に仲良くなったみたいだな。まぁちょくちょく遊びに行ってるようだったしな。

 よし、とりあえず雄太は後でコブラツイストをかけておこう。

「ミツバもそれでいいか?」

 三葉にも確認をとると、

「…………ん」

 今度は三葉が口を尖らせ機嫌が悪そうに答えた。

 あれ? おばちゃんち嫌かな?


 ppppppppp……


 とそこに話の腰を折るように鳴り響く無機質な携帯の着信音。

「あれ? ハルキのも?」

「みたいだ」

 どうやら同時にメールが届いたようだ。


『差出人:枝村葵 タイトル:海いくよっ! 本文:店長のサーフィンサークルで使ってるペンションとプライベートビーチゲットだぜっ!』


「おお! マジで!?」

 店長サーフィンなんかやってんのかよ!? いきなりイメージがファンキーになったんですけど!

「アオイどんなコネクションが!?」

 どうやら一葉のメールには、単純にプライベートビーチへ行くということしか書いてないのだろう。葵がショッピングモールハナオカの向かいの小さなスーパー南田で禁則のアルバイトをしていることは俺以外では秘密であるからな。

「こりゃ楽しみだな」

「うん!」



 そう、この時はまさかあんな事件が起きるとは夢にも思っていなかったのだ。

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