第13章「町を後に」
狙いを反れて流れてきた炎の球は、歩み来るゼームの
横に生じた蔓草の束の一閃で四散した。
ゼームの姿に気付いた炎術士の一人は、穏やかにやっ
て来るその様子に、本能的な恐ろしさを抱いていた。
炎術士達はゼームに得体の知れない恐怖感を持ちなが
らも、力任せに炎の球を次々と叩きつけた。
「!」
植物にとっては本来恐るべき火炎も、ゼームの神霊力
を受けた蔓草は、全ての炎の球をた易く叩き伏せていっ
た。
炎術士達がゼームに怯んだ隙をついて、レックスとバ
ギルも、片端から殴り倒していった。
「・・クソッ!」
一か所にまとめて投げ倒された炎術士の一人が、尚も
闘志を剥き出しに起き上がろうとした。
その眼前に素早く、朱色の輝きを放つ剣が突きつけら
れ・・炎術士の動きは止められた。
「もう終わりだぜ。大人しく帰るんだな!」
炎熱剣の切っ先を、炎術士の首筋へと動かし、レック
スは鋭い目付きですごんだ。
他の場所から加勢に走ろうとした炎術士達も、バギル
に殴り倒されたり、ゼームの作り出した蔓草の檻に閉じ
込められたり、と、誰一人レックスの所迄辿り着いた者
は無かった。
「お前達も、命は惜しかろう……。死にたくなければ、
早く帰れ。」
静かな口調で・・、この女神は命を奪うと脅かしてい
るのだろうか。
人が花を手折るかの様に、この女神ならば森を荒らす
者をた易く殺すに違いない。
相変わらず穏やかに、蔓草の檻の前で佇むゼームの様
子に、居合わせた者達は誰もがそう感じた。
炎術士達を取り囲む蔓草が、心もち、ざわざわと揺れ
ながらその包囲を狭めた。
炎術士達は、その生きた緑色の壁に自慢の炎が何の役
にも立たない事を、つくづくと思い知らされていた。
荒事を生活の糧としている炎術士達を、軽くあしらう
戦神達の力もさることながら・・その戦神達と、炎術士
達とを全て相手にしても構わないと、ゼームは言い切っ
た。
そんな女神を相手に立ち回る額の報酬など、炎術士達
には約束された覚えは無かった。それに・・命を落とさ
ねばならない程の忠誠を、雇い主に誓う筋合いも無かっ
た。
「・・分かった!も、もう帰るっっ!!だから助けてく
れぇぇっ!!」
この状況に耐えかねた一人が、恐怖に顔を歪めて絶叫
した。
ゼームの頷きに反応し、蔓草はばさばさと音を立てて
地面へと倒れた。
蔓草の包囲を解かれ、中の者達は我先に町の方角に向
けて、全力で走り去った。
その様子に、檻の外で倒れていた者達も、痛みにうず
くまっていた者達も、必死の形相でその後に続いていっ
た。
誰も後ろを振り向く者は無く、炎術士達は僅かの間に
その場から全員が逃げ去ってしまったのだった。
「おい!!待たんかっ!金なら幾らでも出すぞ!!」
ランタの叫びも、聞く者も無く、空しく響き渡るだけ
だった。
「・・クソ、役立たず共めがっ!」
悔しげに歯噛みし、拳を握り締めるランタの背に、レ
ックスは剣を仕舞いながら声を掛けた。
「お前もさっさと逃げるんだな。」
「・・何をっ!」
怒りも露に、ランタが振り向きざまにブレスレットか
ら放った火炎弾は、レックスめがけて炸裂した。
その威力はレックスやバギルの驚くものだった。
辺り一面に爆炎が充満し、レックスの体は後ろへと吹
き飛ばされ、再生を始めた草木の芽吹きも、炭化して立
ち尽くす木々の残骸も、全てのものが薙ぎ払われていっ
た。
蔓草に守られてゼームは無事だったが、油断に付け込
まれた爆発に、レックスは幾らか火傷を負っていた。
「・・セデト、ヒロト?」
ゼームが蔓草の防護壁を解いて、セデト達の居る方を
見ると、セデト達を守っていた蔓草の壁も焼け崩れてい
た。
セデトや精霊達はうずくまり、中には気を失っている
者もいた。
大した火傷も負わず、服や顔に煤がこびりつくだけに
留まっていたのは、ティラルが咄嗟に空気の壁を作って
守ってくれていた為だった。
「ははははっ!これは凄い!火神達に火傷を負わせると
はな!」
自分でも霊具の性能を知らなかったのか、ランタは細
かな文様の刻印された水晶のブレスレットを嬉々として
眺めていた。
「一介の辺境の土地神にしては、随分と質の高い霊具を
持っている様だな……。」
爆炎の衝撃に、呆然とうずくまっているヒロトを抱え
起こし、ティラルはランタのブレスレットやネックレス
に目を走らせた。
ティラルの腕の中でヒロトはがたがたと震えていた。
「・・大丈夫か?」
ゼームが近寄り、呆然と座り込んでいるセデトの手を
引いた。
「いやはや、年寄りの心臓にはきつ過ぎますじゃ。」
ははは、と空ろに笑って、セデトはよろよろと立ち上
がった。
精霊達も、気絶した仲間をそれぞれに抱え起こして立
ち上がった。
「大丈夫かの、ヒロト。」
セデトがふらふらしながら声を掛けると、ヒロトは無
言のまま、うっすら涙を浮かべながら頷いた。
ゼームはセデト達の様子を見、ティラルへと声を掛け
た。
「すまないが、後を頼む。・・この者達を町迄先に送り
届ける事にする。」
「ああ、分かった。」
ティラルはほっとした様に頷いた。
人間や精霊達をこのまま危険に晒し続ける訳にはいか
ない。ゼームを捕らえる事よりも、セデト達の安全を優
先し、ティラルは一先ずゼームに任せる事にした。
「でもどうやって?」
緑の精霊が安堵しながらも、まだ不安げにゼームに尋
ねた。
「・・逃がすものかぁっ!!」
飛び掛かってくるレックスとバギルへ一枚の符を投げ
つけて、爆風を巻き起こして蹴散らし、ランタは小さな
棒状の水晶片を、何本かゼームにまとめて叩きつけた。
「しまった・・!」
今度はティラルも隙をつかれ、水晶片を躱す事も、セ
デト達を庇って立ち塞がる事も出来なかった。
閃光と爆音が周囲に満ち溢れ・・視界の全てが白一色
に呑み込まれた。
ティラルやセデト達、それにレックスやバギルも半ば
観念して体を硬直させた。
「・・何、だとぉお!?」
ランタの疑問の声に、ティラル達は体が無傷な事に多
少の違和感を覚えながら、恐る恐る目を開けた。
凄まじい光と熱とが退き、爆発にあちこちが抉れて吹
き飛んだ地面の上に・・慎ましく花弁を広げる、一輪の
白い花があった。
その花を手に、ゼームはいつもの様に静かに佇んでい
た。あれ程の爆発にも、その穏やかな様子には何の変化
も無かった。
花を手に立つゼームの後ろは、全くランタの水晶片の
被害を受けてはいなかった。
信じ難い光景に、ランタはただ、呆然と立ち尽くして
いた。
黄色の雄しべを中央に頂く、純白の光を帯びた可憐な
八枚の花弁。掌の半分程も無いその一輪の野の花で、ゼ
ームはランタの放った爆炎の全てを防ぎ切ったというの
だろうか。
居並ぶ者達は、無事を喜ぶよりもただ呆然と、ゼーム
の掌中に咲く白い花を見つめていた。
防御の用を終えたからか、それとも流石に強烈な爆炎
には耐えかねたのか、白い花は暫くの後にはらはらと風
に流れ、焼け焦げた黒い大地へと舞い落ちていった。
「それでは行こうか・・。」
言葉も無く呆然とし続けているランタには構わず、ゼ
ームは片手を軽く振った。
二本の巨大な蔓草の束が、忽ちの内に黒焦げの地面か
ら生まれた。一本はセデト達を持ち上げ、もう一本はラ
ンタへと襲いかかっていった。
水晶片を放つ間も無く、ランタは緑色の蛇の様に荒れ
狂ううねりの中に呑み込まれてしまった。
「後を頼む。」
ゼームはまだ半ばは呆然としているティラルにそう言
い置いて、自らもセデト達を持ち上げた蔓草の上に飛び
上がった。
蔓草の束は、一つの巨竜と化したかの様に空高く伸び
上がり、シーボームの港へと向けて進み始めた。
それが本当に竜だったならば尾を揺らし、空を飛翔す
るところだったが、蔓草の竜は尾を見せる事無く、ただ
無限にも思える程にその体をずっと延ばし続けていた。
シーボーム迄はまだ何キロかはあった。この蔓草は、
それだけの長さを伸び続けると言うのだろうか。
大地の底に、何か・・緑色の巨大なロープがとぐろを
巻いて収まっている様な錯覚を抱きながら、ティラル達
は既に小さな点と化した先頭を眺めていた。
◆
呆然とゼームを見送っていたバギル達の頭は、突然響
き渡った爆音によって現実に引き戻された。
音のした方向に彼等が目を向けると、ゼームの神霊力
の影響が弱まって動きの鈍くなった蔓草が、ランタの起
こした爆発によって粉々になってしまっていた。
砕け散り、或いは炭化した茎や枝葉の積み重なった中
から、怒りに体を震わせながらランタは姿を現した。
「クソ!逃がすかっ!幻神めが!!」
ランタの両肩に縫い止められていた符が発光し、まだ
周囲でくすぶっている蔓草の残骸を更に吹き飛ばした。
自らの動きを妨げる蔓草の消滅に、ランタは満足そう
に唇を歪め、胸元に縫い付けた飛行の力を司る符に精神
集中を始めた。
「・・ゼームを追いかけるのはやめたまえ。」
ティラルは上空で待機している飛翔板に、手を挙げて
合図を送った。
飛翔板につないでいたトランクがひとりでに開き・・
中の白銀に輝く甲冑が、ティラルの足元に落下した。
「お前の相手は俺様達だぜ!」
ティラルが甲冑を身に着ける間、それを庇う様にレッ
クスは炎熱剣を構えてランタの前に進み出た。
レックスは嬉しげにランタを見据えていた。卑怯で小
心者の小悪党を成敗する事もまた、彼にとって楽しい事
だった。
「さっさと片付けて、俺達の方がゼームを追い掛けなく
ちゃな!」
呼吸を整え始めたバギルの拳が、次第に熱を持ち・・
紅い輝きが宿り始めた。
二神がランタと対峙している間に、ティラルもまた甲
冑を素早く装着し終えた。
トランクに入れて持ってきたものの、甲冑を身に着け
なければならない程の戦闘が待ち構えているとは、ティ
ラルの予想外だった。
「・・土地神殿。あなたの今迄の行動は、護法庁に連行
するのに充分な、犯罪と呼べるものだ。」
初めて、ティラルは戦いの対象となる者へと向けて剣
を抜いた。
青みがかった白銀の刀身は曇り一つ無く、日の光に銀
輪のきらめきを返した。
戦神達は、ランタの危険な霊具の重装備に、それぞれ
が真剣な表情で戦闘態勢を取ったのだった。
「ふん!戦神如きがどれ程のもんか!この霊具の力でひ
ねり潰してやる!!」
借り物の霊具の絶大な力を過信し、ランタは尊大に両
手を広げ、下卑た笑みを浮かべた。
◆
蔓草の先端がシーボームへと辿り着いた時、町は既に
無人になっていた。
ゴミなどが家々から転がり出て、道の上にも散乱して
いた。住人達が必死に逃げ出してから、まださほど時間
は経っていない様だった。
閑散とした道路や無人の家並みは、ゼーム達の乗った
蔓草が通り過ぎると、忽ち生い茂る草木の海の中に沈ん
でいった。
「・・着いた。」
昨夜、町の人間達やランタに警告を与えた港前の公園
に着くと、ゼームは蔓草のまとまりを解いてセデト達を
地面に下ろした。
数キロに及ぶ長さの蔓草は、すっかりまとまりを失っ
て町の建物や道の上にばさばさと音を立てて被さってい
った。
「あの土地神は、下手をすればシーボームを丸ごと焼き
払いかねない・・。万一、この辺りも火事になる様なら
お前達も船で逃げた方がいい・・。」
戦闘の場から逃れて一息つく間も無く、セデト達はゼ
ームに率いられて港へと入っていった。
「あ、船が出てるよ!」
ヒロトの声に海の方を見ると、出航したばかりの客船
が二つ程、港から遠ざかっているのがゼーム達の目に入
った。
「どうやら、緊急増便があった様ですね……。」
小柄な少女の姿をした泉の精霊が、更に遠くに小さな
黒点の様に見える幾つかの船を指差した。
彼等は町民課の課長達が、近隣の村や町に船の手配を
した事を知らなかったのだった。
「まだ一隻ありますね!」
岩の精霊が大きな手を挙げて、まだ残っていた古びた
貨物船を指し示した。
出航準備をし終えたのか、船員達は岸壁の上や、船の
上で思い思いにくつろいでいた。
その船が、今朝ティラル達を運んで神国からやって来
た船だという事も、ゼーム達には分からない事だった。
「まだ乗り遅れた人が居たのか。・・あなた方、神国か
ら来た火神様や風神様を見かけませんでしたかな?」
船員達と茶を飲み、パンをかじっていた恰幅のいい体
格の船長らしき男が、港に入ってきたゼーム達の姿に気
付いて歩み寄って来た。
「バギル達を待っているのか?」
ゼームが尋ねると、船長は頷いた。
「はい。あの方達が戻られる迄は出港は延期です。・・
それに、逃げ遅れた人もいるかと思いましてね。」
人のいい笑みを浮かべ、船長はセデト達へと目を向け
た。朝方この船に押しかけた町の住人達は、暫く後から
港に来た臨時の脱出便に移ってもらったのだった。
「そうか……。では、バギル達が戻って来たら、この者
達も頼む。」
ゼームの頼みに、快く船長は応じた。
「ゼーム様……。」
別れを惜しみ、セデトやヒロト、精霊達の表情が曇っ
た。
「ゼーム様は、これから何処へ行くの?」
もう、暫く前迄の戦闘の恐怖感も去り、落ち着きを取
り戻したヒロトは、ゼームの顔を見上げながら問い掛け
た。
ヒロトの問いに・・ゼームは、微笑んだのだろうか。
その瞳に柔らかな色を浮かべて答えた。
「「神々の森」へ・・。」
その答えに、セデトは惜別の感情以外のものも胸に抱
いて、表情を曇らせた。
「何の為に……?あなたは一体、何をお望みなのですじ
ゃ……?」
老学者は問いを重ねながらも、既に薄々と、ゼームの
振る舞いも思考も、人間の日々の営みの内には属してい
ない事を知っていた。
「私の願いを叶える為・・。この地上の全てを、深き緑
に沈める為に・・。」
セデトはそれ以上、ゼームに問い掛けはしなかった。
ゼームはそれだけを答えると、もはやセデト達の事な
ど忘れ果てたかの様に、次の目的地・・「神々の森」の
ある方向を見据え、足を踏み出した。
ヒロトは、ただ幼心に漠然と、ゼームへの畏敬と恐れ
の入り混じる感情を抱き、ゼームの立ち去る様子を見送
っていた。
自分の目の前を、細い剣の様な濃緑の葉が幾枚もさわ
さわと音を立てて翻り、遙かな頭上には薄い紅の色を頂
く花の蕾が揺れていた。
「・・さよなら、ゼーム様……。」
ヒロトの呼び掛けにもゼームは答えず、ただ小さな頷
きだけが返された。
やがて、彼等から離れたゼームの姿は、港の前に迄迫
る密生した草木の茂みの中に、埋もれて消え去ったのだ
った。
◆
「はぁーッははははっっっ!!」
爆炎と轟音の飛び交う中に、ランタの傲慢な哄笑が響
き渡った。
ランタの頭上に浮かぶ水晶玉の力により、バギル達は
ランタに掠り傷一つ負わせる事も出来ないでいた。
「クソっ!何て霊具の力だ!」
炎熱剣を構え直し、レックスは忌々しげにランタを睨
み付けた。
既にレックス達の周囲は、戦いの為に木々の残骸すら
残らない、黒々と焼けた荒野が広がっていた。
ゼームが遠くへと去ってしまい、森の植物の再生も起
こらなくなってしまっていた。
「一体、奴は何処で、あれ程の質の高い霊具を……?」
ランタがブレスレットから放つ炎の球を、ティラルは
やっとの事で切り伏せた。ティラルの剣撃も、真空の刃
も、ランタには毛筋程の傷を付ける事は出来ず、体力だ
けが一方的にすり減らされてしまっていた。
「ンな事ぁ、後で考えろ!」
苛立たしげにレックスはティラルに怒鳴り、ランタに
飛びかかると、力任せに炎熱剣を振り下ろした。
灼熱の炎を噴き上げ、火竜の舌の様な炎の幕がランタ
へと降り注いだが、水晶玉によって張り巡らされた障壁
に、呆気無く弾き返されてしまったのだった。
肉弾戦に持ち込もうとしたバギルの体術すらも、ラン
タには通じなかった。
「何て力だよッ……!」
熱と衝撃で血まみれになった拳に目を落とし、バギル
は歯噛みした。
そんなバギル達の様子に、見下すかの様な視線を注い
で、ランタは懐へと手を入れた。
「ふんっ!どうやらうっとおしい植物の再生も無くなっ
た様だな。好都合な事だ……!」
鼻唄混じりにランタは懐から、水晶片と符とを四つず
つ取り出して、それらを自らの前後左右に浮かべた。
一枚の符につき一行、言魂の詩が記されていた。四枚
で一つの言魂が形作られるのだった。
・・雷よ来たれ、炎の舌と共に
・・そは祭壇を央に据えて猛り
・・灼熱と雷撃の包囲以って
・・四方より撃破の御手をひらめかそう
言魂による神霊力の発動もまた、ランタ程度の平凡な
土地神には無縁の技術の筈だった。
「・・確か、こう唱えればいいのだったかな・・。」
ランタが符の一枚を覗き込む様子に、ティラルは青ざ
めた。
「!・・いかん!一旦空に……。」
上空で待機している飛翔板を呼び寄せようとティラル
が叫んだのとほぼ同時に、ランタは言魂を発動させた。
「・・「四方炎雷閃」!!」
四枚の符から凄まじい量の雷火が迸り、ランタを中心
に十字方向に疾走していった。
大地を揺さぶる轟音と閃光とが夥しくまき散らされ、
高熱と衝撃とで地面は抉り取られていった。
劫火と稲光とに吹き飛ばされる土塊の嵐の中に、バギ
ル達は逃げる間も無く呑み込まれてしまった。
「ふっ!流石の戦神達もひとたまりも無いか。」
ランタを中心に半径数百メートル四方は、一瞬にして
クレーターを連想させる窪地に変貌してしまった。
「ロウ・ゼームを始末した後で、森はゆっくりとこの符
で焼き払ってやる!・・クソ!全く、何もかも段取りが
台無しだ!!」
背中に縫い付けた細長い一枚の符に精神を集中し、ラ
ンタは空高く浮かび上がった。
眼下には、大小の黒く焼け焦げた岩塊の転がる抉れた
地面があった。
森林の除去に失敗したら、ランタはゼバエノに一体ど
んな目に合わされるのか。
恐ろしげに大きく空中で身震いし、ランタはゼームの
向かったシーボームの港を目指して飛翔した。




