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病弱だったお姫様が完治したら、俺にだけ重すぎる愛を向けてくる件

作者: Romanoff726
掲載日:2026/05/03


俺の通う学校には、“お姫様”と呼ばれている少女がいる。


小柄な体に、銀色の髪。そして紫色の瞳。


どこにいても視線を集める、異様なほど清らかな雰囲気の少女。


女子は憧れ、男子は遠くから眺めるだけの存在。


──月城紫乃つきしろ しの


そして彼女は、俺の幼馴染だ。


紫乃は昔から体が弱かった。


起立性頻脈症候群(POTS)。


立ち上がるだけで心拍が跳ね上がり、めまいや頭痛に襲われる。


ひどい時には、そのまま意識を失うこともあった。


中学の頃はほとんど学校に来られず、通信制に近い生活をしていた。


だから今、同じ高校に通えていること自体が、奇跡みたいなものだ。


一時間目の前の教室。


俺は席に座り、適当にラブコメ漫画を読んでいた。


その時だった。


「ミナト! おはよう!」


教室のドアが開き、紫乃が入ってくる。


いつも通り、空気を一瞬で変える存在感。


整った制服、そして場違いなほど明るい笑顔。


「……おはよう、紫乃」


「ちゃんと寝た?」


「普通」


「また夜更かしでしょ」


「してない」


紫乃は小さく笑って、当然のように言う。


「決めた」


「何を」


「毎朝モーニングコールしてあげる」


「いらない」


「え〜? 美少女に起こされるんだよ?」


「別に嬉しくない」


周囲の視線は昔から慣れている。


それでも紫乃は気にしない。


むしろ一度、俺のことを悪く言った生徒が、翌日から口を閉ざしたことがある。


理由は聞かない方がいいやつだ。


「ミナト」


「何だ」


紫乃が少しだけ真面目な目をする。


「私はね、どう思われてもいいの」


「急にどうした」


「でも一つだけは譲れない」


一拍置いて、はっきりと言った。


「ミナトのことを悪く言うのは、絶対に許さない」


教室の空気が一瞬だけ止まる。


だが紫乃は何事もなかったように微笑んだ。


「ミナトは、いい人だから」


昼休み。


俺がパンを持って席に戻ると、そこにはすでに紫乃が座っていた。


正確には、俺の隣の席に。


「……そこ、別のやつの席だろ」


「今日は借りてる」


「許可は?」


「もらった」


当然のように紫乃は弁当箱を取り出す。


「これ、ミナトの分」


「いらないって言ってるだろ」


「パンばっかりだと体に悪いよ」


「お前は俺の母親か」


「違うよ」


少しだけ笑って、紫乃は箸を差し出してくる。


「幼馴染」


周囲の視線が一気に集まる。


学校の“お姫様”が、地味な俺の隣で弁当を広げている。


異常な光景だった。


「月城さん、一緒に食べない?」


男子生徒が恐る恐る声をかける。


紫乃はそちらを見て、柔らかく微笑んだ。


「ごめんなさい」


「私はミナトと食べるので」


空気が固まる。


「……いや、俺は別に了承してないけど」


「でも一緒に食べてるよ?」


「強制だろそれ」


「うん」


即答だった。


紫乃は満足そうに頷き、俺のパンを取り上げる。


「没収。代わりに卵焼き食べて」


「なんでだよ」


「健康管理」


「お前絶対母親だろ」


「違うってば」


紫乃は少しだけ頬を膨らませた。


そして小さく呟く。


「明日はお弁当、私が作ってあげる」


「今日のは何だったんだよ」


「練習」


紫乃は俺を見て、静かに笑った。


「大丈夫。拒否されないようにするから」


その瞬間、気づいた。


もう彼女は、昔のように守られるだけの少女じゃない。


身体は治った。


けれど──


愛情だけは、むしろ手のつけられない方向に育っていた。

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