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夜這いと懺悔

『失礼するぞ』


「さっさと帰れ駄女神」


あれから時間が経ち、夜になった。俺は客室であろう場所に通され、そこに置かれたベットに寝転んでいると女神が入ってきた。


『むう。一応、私も立派な淑女だぞ?其方は少しくらい動揺せぬか』


「んな事言われても……まさか夜這いでもあるまいし。何の用だ?」


『初手からボケを潰すでないぞ。空気が読めんな其方は。……少し、聞きたいことがあってな』


「聞きたいこと?」


『あの少女の事だ。私はまだまだ、にわか?と言うものであるとは分かっているのだが、そんな私でも分かるほど、其方への態度が他の者たちよりも緩いと感じてな。あれは一朝一夕で出る態度ではないぞ?』


「……聞いたところで、何にもならないと思うぞ?」


『それでも聞きたいのだ。其方らとはこれからも良い付き合いがしたいからな』


いい付き合い、か。……まぁ、神と言うからには信用できるんだろう。


「ここから先の話は他言無用だ。勿論、焔たん……いや、熾火楓(おきびかえで)にもな」


『あの少女の事か?』


「そうだ。俺とあいつは所謂、幼馴染ってやつでな。親同士の仲が良かったから自然と俺達も仲良くなった。……あの頃のままなら、きっとあいつはアイドルなんて目指さなかっただろうけどな。ま、結果論か」


『……なにかあったのか?』


少し気が引けるが、何かあったあとでは遅い。そして、あいつはきっと話さない。だから、俺が話さないと。


「あいつにとっての転機は2つ。1つは小4で両親の離婚と再婚。楓の両親が離婚したこと自体は然程重要じゃない。問題は結婚相手だった」


あの男とおばさんが結婚してから楓の家の全てが変わった。楓は家で子供として扱われなくなった。金を渡して家事を全て任せる。もはやハウスキーパーだったという感じだった事を話した。


「そして2つめ。同時期に発生した楓へのいじめ。これは当時、あいつの事が好きな男子がいるという噂が出た。そして、その男子はクラスのイケメン。そのせいで他の女子からの妬みを買っていじめられた。その男が庇えば庇うほどいじめは悪化して、最終的には階段から突き飛ばされるまでになった」


あの時は俺が傍にいて衝撃を受け止めなければ、今よりも深い心の傷と後遺症が残っただろう。


『其方がどうにかすることは出来なかったのか?』


「さっき言ってたクラスのイケメンってのが俺だ。……これのせいで俺は外に出る時、この絶望的に似合わないメガネをかける羽目になった」


『…それは、』


「あと、うちの家にもよく招待した。少しでも心の余裕になって欲しいって思って。……でも、現実は残酷だった。あるとき、あいつは俺に対して私が可愛いかと問いかけてきた。俺は迷わず可愛いと答えたえた。そこから楓の中の何かが狂い始めた」


今まで拒絶された分、承認されることを求めた。見た目で、存在で否定されてきたから、見た目と、存在で肯定されることを望んだ。そして、明かりとなって誰かに見つけてもらえることだけを願った、火灯焔というアイドルが完成した。


「きっと、俺があの時に庇う以外のなにかをしていればこうはならなかったのかもな」


今まで何度も考えてきた、答えの出ない問いを呟く。その呟きを拾うように、神が話し始めた。


『其方の話を聞いて、少しだけ其方の事が分かった。……どうしようもなく傲慢な男だと』


「……は?」


『其方は言った。自分が庇えば庇うほどいじめが酷くなると。其方は言った。自分が可愛いと言った時から少女が狂い始めたと』


「それがどうなって俺が傲慢だという答えに…」


『なぜ、其方は庇うのをやめなかった?』


「……っ」


『なぜ、其方は自分のせいで少女が狂ったと分かった?それは心の中で、己以外が本当の熾火楓という人物を完全に理解できていないと思っていたからではないか?己以外が、熾火楓という少女を救済できないと、そう信じ込んでいたからではないのか!』


「黙れッ!!」


俺は神の胸ぐらを掴んで馬乗りになり、ベットに押し倒す。


「自分の子供を娘として見ない両親!いじめだと分かっていながらなんの行動も起こさなかった教師と友人!あいつにとって頼れるのは俺と、俺の両親くらいしかいなかったんだよ!実際に見ている訳でもないお前が!知ったような口を利くな!」


『……確かに、其方の言う通りかもしれない。傲慢であるなとも言うつもりは無い。だが、それを理由にして其方自身を責めるのはお門違いというものだろう』


「でもっ!俺が、あの時、あの場に居なければあいつは……!」


『目を覚ませ!このたわけが!』


「っ?!」


『今!其方がしなければならない事は過去に思いを馳せ、自責の念に駆られることでは無いだろう!?そんな事をする暇があるなら!本当にしないといけない事を見つけるのだ!其方は何を想ってあの少女の傍に居た?!何を願ってあの少女に寄り添った?!思い出せ!其方は、逆叉流星は!熾火楓に何を望んだのかを!』


なにを想って、なにを願って、何を望んだか。


「……俺は、ただ。好きな人に幸せでいて欲しかった。心からの笑顔で笑って欲しかった。無理をしているなら、頼って欲しかった……!」


こんな事、言うつもりは無かったのに。涙が止まらない。……そういえば、俺。1度もあいつからお願いされた事ないや。庇った時も、家に招いた時も、俺が勝手にした事だった。


『最後に1つ、言うことがある。……本当の孤独を知った人間にとって、お節介程幸せな行為はない。それが例え、言葉に出せなくても、だ』


「それは……」


『あぁ、今言ったことは()()()が言った言葉ではないぞ?それと、今から少女の部屋に行くが……着いてくるか?』


「……行かねーよ。こんな時間だと夜這いになっちまうだろ?」


『クックック……!その意気だ。また明日会おう』


「神様!……あんたのおかげで俺のすべき事がなんとなく分かった。ありがとう」


神は笑って部屋を出ていった。きっと、あの気安い感じが素なのだろう。俺はこの日、久しぶりに夢を見た。俺と楓が出会った頃の、まだまだ人見知りだった頃の夢を。

逆叉が最初、ござる系だったのはアイドルとしての火灯焔の支えになるためでもある。そしてオフでは熾火楓の支えになるために普段通りという安心感で楓を包む。簡単に言えば暴走しがちな優しい男の子。

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