アホみたいな人生でした
よし、死のう……。
そう思って、井戸の深い底を覗き込んだ時、走馬灯みたいなアレが頭の上でぐるぐる回りはじめた。
思えばアホみたいな人生だった。
自分は天才だと信じ、30歳過ぎまではやたらと偉そうだった、自分の高慢な笑顔が頭の上でぐるぐる回る。
平凡なやつだったとわかった。誰もから笑われ、蹴倒され、果てには無視されて、それまでもっていた根拠のない自信がガラガラ崩れ、あとに残ったものは借金だけだった。
いつか世に羽ばたき、誰もが知る自分になるはずだった。Xのフォロワーは100万人を軽く越え、アメリカにもファンのいる自分になるつもりでいた。
それがどうだ。今、そんなはずだった自分が、誰も知らない竹藪の中の古井戸に、身を投げて死のうとしている。
こんなものを書いて小説家になろうに投稿すれば同情されて、誰かから優しい声をかけてもらえるとか、思っている。
よし、サッサと死のう。
こんな恥ずかしい自分をこの世から消去しよう。
この文章も投稿せず、サッサと身を投げるんだ。
そうすれば借金も踏み倒せる。
「まったく……。どこまで家族に迷惑をかけるんだ」
うっ……?
父の声が空から降ってきた。
「おまえのせいで娘たちが嫁にいけなくなるぞ」
兄のいつもの見下す声も降ってきた。
「いいトシしてまだ漫画なんて描いてるの?」
母の呆れる声も降ってきた。
「「「おまえなんか家族にいらない」」」
「「「おまえなんかこの世にいらない」」」
「「「でも身を投げることは許さない」」」
そう言われるとムクムクと、何かをしてやりたい気持ちが起こってきた。
「Kちゃんの漫画、面白いね」
ふいに、懐かしい友達の声が降ってきた。
「いつかプロになれるかもよ」
「天才」
さらにムクムクと、死にたい気持ちがおおきくなった。最大になった。
「おまえ、才能ないよ」
そこに突然、ネットで名無しさんから言われた言葉が降ってきた。
「つまんねー」
「人生諦めて、早く死ねば?」
あっ。
何かがプツンと切れた。
私は古井戸にかけた手を離し、誰もいない竹藪を振り返った。夜空に浮かぶ金色の月に拳を振り上げた。
気持ちが軽くなった。生きる希望が湧いてきた。知ってるひとからけなされるのも褒められるのも死にたくなるが、知らないひとから罵倒されると楽しくなるのが私なのだ。
あぁ……
だからか。
こんな変なやつだから、わかってもらえないのか。
わかってたまるか。
盗んだバイクに飛び乗ると、夜の町へと走り出した。




