悪役令嬢たちの控室
「はぁ……お疲れ~」
うんざりした気持ちを隠そうともせずにアリシアは部屋の扉を開けた。
「あーお疲れ~アリシア。あの仕事は今日でオールアップ?」
「うん、ようやくだよ~。マジで疲れたし」
「今回はー? 修道院追放エンド? それとも処刑?」
最近開発された魔道具を手元でいじりながらマリアンナが尋ねた。アリシアは椅子にドンっと腰を下ろすとテーブルの上のお菓子をポリポリと食べ始めた。
「それなんだけどさぁ、ちょっと聞いてくれるぅ? 一応追放エンドだったんだけど送られた先が絶海の孤島だったのよ」
「えぇ! それめっちゃダルいやん」
「でしょー? んで、その孤島ってのが魔物の巣窟とかでマジ最悪」
「えっ!? 実際に連れてかれたん?」
「そうだよー。そんなの『アリシアは孤島に送られ魔物達によって命を落とした』くらいの説明文でいいじゃんねぇ。こっちは爬虫類系のモンスターに囲まれてガチで大変だったちゅうの」
腕をだらりと伸ばしてアリシはテーブルに突っ伏した。そんな彼女に憐れむような視線を向けたのはソファーに横になっていたリリアナだった。彼女はゆっくりと起き上がると大きな欠伸を盛大にこぼす。
「ふぁぁあ。アリシアおかえり~。なんか大変だったんだねぇ」
「あーゴメン、起こしちゃった?」
「ん~大丈夫。十分寝たから。今回の作者って【我、愛戦士】さんだっけ?」
余程お腹がすいていたのか、アリシアはまだお菓子を食べ続けていた。
「そうそう。初めて呼ばれたんだけど、もういいわ。次は丁重にお断りする」
「あの人ってずっと悪役令嬢物ばっかり書いてるよね? もうネタ切れなんじゃない?」
「確かにそれな。ヒロイン役の人も『えっ? またその台詞?』みたいな顔たまにしてた」
ひとしきり愚痴をこぼした後、お菓子を食べる手がようやく止まったアリシア。喉を潤すように果実酒を一気に飲み干した。
「ぷはぁっ! ようやくお酒が解禁されるわ。そういえばマリアンナはもう次決まったって?」
「うん来週から~。三毛猫ジョーラっていう書き手さんみたいよ」
「誰それ?ww」
鼻で笑いながらアリシアが聞き返す。
「なんか悪役令嬢物は初めてっぽいね。ちょっと不安だよねぇ」
「とりあえず悪役令嬢物書いとけーみたいなノリだったらヤダよね」
二人の会話にリリアナも参加する。その言葉に他の二人が大きく頷いた。
「悪役令嬢だからってPV伸びるわけじゃないからね。上位作品はもっとこう、奥が深いじゃない?」
少し酔いが回り始めたアリシアが力説する。その言葉にマリアンナも続いた。
「そうそう。結構余裕ぶって書いてたら全然PV伸びなくて。それで慌てて急に展開変えたりしてね。それでもダメな時はタイトル変えたりね」
「「わかるー」」
相槌を打つ二人の声がぴたりと揃った。丁度その時、部屋をノックして入ってきたのは支配人だった。
「みんなお疲れ様。えーっとマリアンヌさん? さっき連絡入って三毛猫ジョーラさんの件、バラシになったから」
「あらあら。やる気まんまんでしたのに。残念ですわ」
「また別のが入ったら連絡するから。あっアリシアさん。今回は大変だったね。ギャラはちょっと上乗せしとくから」
「あら、あれくらいたいした事ありませんわ。お気持ちだけ受け取っておきます」
いつの間にか居住まいを正していたアリシアが、ふわりと扇子で口元を隠しながら笑った。そして支配人が部屋を出て行くと「ふぅー」と三人一斉に息を吐いた。
「急にキャンセルなんてどうしちゃったんだろね?」
アリシアがパチンと扇子を畳みながら言った。
「体調でも壊したか……あるいはプロットの段階で行き詰ったか。まぁいずれにせよしばらく休めそうだからゆっくりしよー」
そう言ってマリアンヌがぐっと背伸びをした時、リリアナが二人に顔を寄せながら囁いた。
「もしかしたらさ、その三毛猫ジョーラって人、私達の会話を聞いてたりして」
……
「「「まさかねーー!!」」」
三人同時に「ないないない」と手を横に振った。そして彼女達のガールズトークは夜更けまで続いた。
作者の多くがこう思うだろう。
彼女達なくして物語は語れない。
マリアンヌ「そこのあなた!☆をつけてからプラウザを閉じなさい!」
リリアナ「そうよ!せめてリアクションくらいちゃちゃっと押せるでしょ!」
アリシア「こんなヘボ作者でもそれなりに時間かけてるんだから、慈悲を与えなさい!」
作者「……お願いします」




