表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/29

英雄の責務、凡人の感謝

国民の熱狂と涙を受け止めた式典は終わり、陽は西に傾いていた。

太郎は、宮殿の奥に用意された、彼のためだけの居室で、義足を外し、深いソファに身体を沈めていた。

そこには、玉座に座る「神」ではなく、一日の責務を終え、疲労を浮かべた「男」の姿があった。

静かなノックの後、重い扉が開かれた。

ミハドに導かれ、入ってきたのは、彼の「家族」だった。

太郎が生涯で愛した女性は、八人。

そのうち、戦火や病で失った二人を除く、六人の「妻」たち。エイミーも、その中にいた。

そして、その妻たちとの間に設けた、十二人の「実子」たち。

彼らは皆、とうに成人し、父の血と、母たちの聡明さを受け継ぎ、今やアナスル連合国の最も重要な役割――軍事、経済、内政、諜報、そして「子供たち」の教育――を担う、国家の柱そのものとなっていた。

彼らは、父であり、夫である男の前に、一列に並んだ。

その顔には、日夜国を背負う者としての緊張と、英雄の妻として、英雄の子供として、決して恥ずしくない様に、と常に気を張って生きてきた者だけが持つ、誇りと厳しさが刻まれていた。

だが、その瞳の奥には、ただひたすらに、父の安否を気遣う、家族としての深い愛情が揺らめいていた。

太郎は、ソファに身を預けたまま、その一人一人の顔を、ゆっくりと見渡した。

自分が「自由」を求めて日本に隠遁している間、この重すぎる「責務」を、全て彼らに押し付けているという事実。

その負い目が、彼の片目を、微かに伏せさせた。

やがて、彼は、静かな、しかし、居室にいる全ての者の心に染み渡る声で、言った。

「いつも、ありがとう」

その一言を聞いた瞬間。

鉄の女エイミーも、最強の将軍となった息子も、国家の中枢を担う娘も、張り詰めていた糸が切れたかのように、その厳しい顔を、ほんの少しだけ、緩ませた。

彼らにとって、その一言こそが、全ての苦労に報いる、最大の報酬だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ