幽霊になった僕が、いじめていた君に会いに行った話
BLです。ご注意ください。
気がついたら見知った教室だった。
僕の席に座ってみる。
夕日に照らされた教室。自分の目の前には可憐な花が挿された花瓶。
そう、最後の記憶はトラックと衝突したあの瞬間で止まっている。
「はー⋯。幽霊ってやつかな⋯」
体が透けている。物には触れられるがどう考えても幽霊になっている。
「バチが当たったかな⋯」
僕は言わばいじめっ子であった。
かつての友人をいじめていた。
「最後にあいつの顔でも見ていこうかな」
いつ成仏していなくなるかもわからないんだし、最後くらいあいつの暴言聞いてからあの世に行ったほうが多少マシな地獄に行けそうだと思った。
一旦我が家に帰ってまた明日来よう。
そう呟いて席をあとにする。
シオンの花弁が揺れた。
家に着く。両親がまだ喪服姿で言い争っている。
「お前の育て方が悪かったんじゃないか!?あんなに金をかけて育ててきたのに!」
ろくすっぽ帰ってこない父親の怒号
「貴方が育児に参加しないからでしょう!!女でも他所で作ってるんじゃないでしょうね!?!」
金と男にしか興味のない母親の金切り声
──こんなのが僕の日常。消えてしまいたかった。
「あいつのいじめも揉み消してやってたのに!」そんな父親の声が聞こえてきてハッとした。
やっぱり揉み消されてたのか⋯、今更あいつのことを考えても仕方ないことだけど小さい頃はとても仲が良くてよく一緒に遊んでいた。
小学校に上がってしばらくして友人関係は選べと怒られてからずっと話さなかったことを思い出す。
「あーあ、こんなに早く死ぬならもう少し素直になればよかった。」
両親の言い争いが嫌になって自室の2階へと上がっていく
前みたいに木の軋む音すら聞こえない。とても静かな階段に自分が既に亡くなったことを自覚させられる。
上がって奥の角部屋。そこが僕の自室だ。
部屋に入ると衣類や教科書があっちこっちに散乱しているいつもと変わらない部屋。
流石少しくらい片付けいくかと思ってそっと本を集めだす
本棚の隙間から1枚の紙が転がり落ちてきた
───懐かしい。
幼少期のあいつ、ユウ⋯。ユウちゃんの写真だ。
昔はユウとコウって何だかカタカナで書くと似てるね!僕たち兄弟みたい!なんて言い合ったな
こんなに笑った顔を僕はこの後から見たことがない。ズキッと痛む。罪悪感からだろうか⋯。今更すぎる。
両親の言葉なんて無視して仲良くしてればよかった。今は友達という友達もおらず取り巻きと呼べる奴らしか居なかった。
そっと写真を棚に戻す。
「あの世に持っていけたらいいのにな。」
本を片付けて、服を軽く畳んでしまった。
ようやく一段落ついて夜も更けっていることに気がついた。
「やることもないし⋯試しに寝てみるか。」
ベッドに横になる。沈まない体に違和感を覚えるが時間が経てば少しうとうとと意識が沈んでいく感覚が出てきた。
幽霊でも寝れそうだ。沈む意識に身を任せる。
「⋯⋯⋯っ!」
教室の風景だ。まだ教室にいるのか?いや、家に帰って寝ているはずだ⋯
「やめてよ!!」
あいつの声が聞こえる。
「やめてよ!!コウちゃん!!」
「コウちゃんだってよwwwウケるなww」
取り巻きと、自分と、ユウ。
あぁ、楽しくない方の夢を見ているんだな。
それから夢に身を任せ色々な方法でいじめられていくユウを見届ける。
段々大人しくなるユウ。それでもやめない自分達
「アイツは、ユウは僕を恨んでいるかな⋯考えなくても分かるか⋯」
そろそろ起きる時間だ。この身体で謝ることしかもう出来ないならいっそのこと早くあの世に行かせて欲しい。
───寝坊してしまった⋯。何やってんだろう⋯。
時間は午後13時15分
朝から会いに行くつもりだったが予定を変更して今から向かうことにする。
歩いて行ける距離に学校があるのでのんびり歩きながら目に焼き付けるように通学路を進む
いつも生活してると気が付かないことに案外気がつくものなんだなと思う。道端に咲く花を眺めながらふと思う。
「余裕なかったんだな⋯僕」
日々親のプレッシャーに怯えながら生活していたことを免罪符にするつもりはない。でも、もっと自分が器がでかくて余裕がある人間で完璧だったら⋯そう考えずにはいられない
この無も知らぬ花のように逞しく生きていけたらまた変わったのかもしれない
いくらのんびりしていても学校には着いてしまう
覚悟してるがあいつの顔を見るのはやっぱりちょっと怖くなってきた。
でも、今更引き返せない
「えぇーーーい!悩んでるより突撃だ!!」
勢いで教室まで駆け上がる
普通に授業を受けている皆を教室の外から見るのはかなり不思議だ。
ユウに近づく。もしかしたら自分のことが見えてるかもしれない。そんな期待を胸に
ずっとしたを向いてノートに書いているユウに近づく
目の前まで来たところで顔を上げたユウと⋯
─────目が合った。と思ったが気の所為のようだ
ユウは黒板を見ている。
「なーんだ。やっぱり分からないか⋯」
ちょっとガッカリした。フィクションならここで目が合って語り合って終わりだろうから。
淡々と進む授業、何だか眠くなってくる
幽霊ってこんなに眠くなるものなんだな。透けてることと物理的ちょっと軽い?以外は特に違いがないように思う。
最後の授業の終わりを告げる鐘が鳴る
皆人一人亡くなったのに特に変わる様子なく下校や部活の準備を進めていく
ユウが席を立つ。このまま帰るのかと思っていたが僕の席に行くと、花瓶の花の水を交換するようだ。
何となくついていく、やることもないしな。
誰もいない水道までくると丁寧に優しく花の水を取り替え、茎を少し切り落とす。
「⋯もうちょっと頑張ろうね。」
そんな時、保健室の先生が通りかかる
「⋯あら、優しいのね」
「⋯⋯ええ、大切な友達だったので。」
保健室の先生にも僕がいじめてた噂くらい回ってきてるはずだ。だからこそ、含みのある言い方なのだろう。
教室に戻るユウ。もう帰るのかと思っていたら荷物を通り過ぎて窓を開けながらこちらを向いて、
今度こそ本当に目が合った。
目と共に「あのね。」と続く言葉。
「ボク、コウちゃんのこと好きだったよ。コウちゃんとは違う意味で」
そう言って窓から飛び降りようとするユウを掴んで一緒に飛び降りてしまった。あっ、死ぬ。思わずそう思ってしまった。死んでいるのに
「ボクたち兄弟みたいだね!」
そんなこと過去に言ったような気がする。ホントは恋人が良かったな。
あの日コウちゃんが死んだ日神様なんてこの世にいないんじゃないかと思った。好きな人をつらい目に合わせてそれでボクから奪ってった。ただの友達で良かったのに。それだけで、良かったのに⋯
ボクは優しいんじゃない。好きだったんだ。ずっとずっと昔から。
奇跡かと思った。高さもそんなになく下の木に引っかかって無事だった。ただ傷だらけのユウが心配ででも、どうしようもなくてただ呆然と見ることしか出来なかったが、
さっきすれ違った保健室医が血相を変えてこちらへ向かってくるのが見えた。
「⋯よかった。」
これで大丈夫だろう。すごいことをする。その勇気があればいじめくらいどうにでもなっただろうに⋯。
ユウの頬に触れた時気がついた昨日よりさらに透けていることに。タイムリミットが近いようだ。
贖罪も何も返してやれないから生まれ変わって会いに行くとしよう。
次は友達になろうと思った。