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 暫く神様に祈り続けていると扉のノックが鳴った。応答すると、扉の向こうからメイドの声が聞こえた。


「レイルーク様、奥様とお連れ様が到着されました。応接間までお越し下さい」


(キター!!)


 慌ててベッドから飛び降りた。


「わっわかった。しゅぐいく。......シンリー、いこうか?」

「はい、お供致します。お洋服の皺は......大丈夫そうですね。では、参りましょうか」


 少しドキドキした気持ちで部屋を後にした。




 ***




(あっっという間に着いてしまった......)


 本日二回目の応接間の扉を前に、レイルークは大きく深呼吸をした。


 (ドキドキして仕方がない。......よしっ!)


 覚悟を決めて自ら扉にノックした。


「かーたま。レイルークでしゅ」

「どうぞ」


 部屋の中から母様の声で返事が返る。

 シンリーが扉を開けてくれたので、意を決して中へと入った。


「レイ!!」

「どぅわあぁ!!」


 部屋に入ると同時に、白い腕によって勢いよく抱き上げられ、公爵嫡子からぬ声を上げてしまった。


 いきなり視野が高くなってびっくりしたが、自分を見上げる美しい笑顔にこちらも自然と笑顔を浮かべた。


 腰まであるサラリとした美しい金髪を三つ編みで一つに束ね、ドレスではなく男装の様な出立はどこぞの歌劇団の男役トップスターの様だ。

 しかしアメジストのような紫の瞳は、とても慈愛に溢れている。


「ただいま、レイ!! 昨日から私に会えなくて寂しかっただろう!! 泣いてなかったか? ケーキは食べたか? ん? ああそうだ! 誕生日おめでとう!!」

「か、かーたま。おかえりなたい。あいがと、そしてプレジェントもあいがと......」

「おおっ早速身に付けてくれているのか! うんうん、良く似合っている!!」


(いつもながら、美しい容姿と言動が一致してない......)


 大きな声で滑舌良く喋っているこの美女こそ、ルシータ・アームストロング。

 レイルークの今世の母親、その人である。


「その装飾の緑玉はな! この母がアームストロング領の、とあるダンジョンで偶然見つけた物だ! ボス部屋で見つけたので価値はあると思うぞ!」


(また一人でダンジョンに潜ったのかな? だとしたらちょっと心配だけど、でもボスを倒すなんて凄い!!)


「しゅごい! かーたまあいがと! ボク、たいしぇちゅにしゅる!」


 ルシータは女性でありながら剣士だ。貴族でも珍しい魔法剣士。それも超一流の。


 剣に魔力を纏わせて戦うその姿は、美しい剣舞の様だとか何とか。実際見た事がないので上手く想像出来ないが、凄そうなのは分かる。


「あれ? かーたま。ルシアたまのおこしゃんはどこ?」


 ルシータに抱っこされながら辺りを見回しても、それらしき子供は見当たらない。


「ああっ、レオから聞いたのだな! あの子は客間の寝室で休ませている! ......母親を亡くして間もないのに貴族の揉め事に巻き込んで混乱していると思ってな。レイ、お前もだろう? なので明日、改めて紹介しようと思う!!」


(......そうか、母様色々考えてくれてたんだ。ちょっと肩透かしを食らった気分だけど、いきなり顔合わせじゃなくて良かったかも)


 言動はやや脳筋ぽいが、思いやりのある優しい母親なのだ。


「わかったー。じゃあ、どんなこかおしえて?」


 今の内に情報収集しておかなくては。


「そうだな! 心づもりは必要かもしれないな!」


 レイルークをソファーに下ろすと、ルシータはテーブルを挟んだ向かい側に座った。


 背もたれに腕を乗せてスラリと長い脚を優雅に動かして脚を組むその姿は、無駄にかっこいい。


 ......貴婦人としては失格だとは思うが。



「さて、何から話せば良いか! レイはまず何から聞きたい?」


 そう聞かれてふと気がつくと、応接間にはルシータとレイルーク以外誰もいなくなっていた。

 今ならば深い所まで踏み込んでも良いという事なのだろう。



 色々と聞きたい事が山積みだが、一番最初に聞きたい事は決まっていた。



「......いもーとのルシアしゃまと、きちんとおわかりぇできた? かなしーの、もうだいじょーぶ?」


 意表を突かれたのか、一瞬ルシータの笑顔が消えた。



 組んでいた脚を戻すと姿勢を正して真っ直ぐレイルークを見つめた。


 その顔は、これまでに見たことも無いと思える程に力の抜けた様な微笑みを浮かべていた。


「......本当に、レイには敵わないな。そこを突かれるとは思わなかったよ」


 いつもの声とは違う、幾分落ち着いた声だ。


「心優しい私のレイルーク。私は大丈夫だよ。......私はね、ルシアが平民になった後も目を盗んではよく会いに行っていた。貴族にいた時よりも元気になって、とても幸せそうだった。

......いっぱい話をして、いっぱい思い出を共有した。そしてルシアの最後を看取る事が出来た。......まあ散々泣き喚いてしまったけどね!」


 肩をすくめて苦笑いを浮かべると、いつもの調子に戻って話を続けた。


「さて、それでは肝心のルシアの子供について語ろうか!」

「......うんっ!」

 

 母は強い。悲しみを乗り越えてきちんと前を向いてる。

 

 レイルークも安心したように笑顔を浮かべた。

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