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「お、おおきなかがみだね。はこんでくれてあいがと」
お礼を言われるとは思っていなかったのか、顔を赤らめて最高礼をする使用人達。
レイルークはソファーから飛び降りると、テクテクと鏡の前に歩み寄った。
初めて見る自分の姿が大きな鏡に映し出される。
若草色のお高そうな服を着た、小さなーーー。
天使がいた。
顔まわりを前上がりにカットしたボブベースのミディアムで、ストレートな髪は金髪と若草色の色が混ざったような……。上手く表現出来ないが、比喩するなら木漏れ日の様な珍しい髪。
森林浴で木々の上を見上げると、葉の間から太陽の光が見えてキラキラと輝いている。あんな感じ。
象牙色のプルプルの肌にプルンプルンの桃色の唇。
そして一際目をひくのは大きな瞳。
右の瞳はエメラルドのように美しい緑、左の瞳はアメジストの様な紫。
(オッドアイ......)
父親の眼の色は緑。母親の眼の色は紫。上手く両方を受け継いだ。と言ったらいいのか。
とにかく一言で言えば。
「にゃにかのシュジンコウなのか? ぼく」
「レイルーク様?」
呆然として思わず呟いてしまったが、慌てて天使の微笑みを浮かべた。
「いいね! かっこいい! ぼく、すごくきにいっちゃった!」
「!!」
とびっきりの笑顔に皆顔を赤らめている。あまりの初々しさに身悶えそうなのか、掌を握り締めて僅かに震えている者までいる。
「オホンッそれはようございました。とても良くお似合いでございますよ」
シンリーは少し顔を赤らめながらも、落ち着いた口調で褒めてくれた。
「他のプレゼントは他の者が整理しておきますので、レイルーク様はそろそろお昼食に参りましょうか。誕生日ケーキがございますよ」
「けーき!」
(自分の容姿端麗な件は後で考えるとして、今はお昼ご飯だ! 公爵家なだけあってご飯美味しいんだよ! ケーキも楽しみだし。難しい事は寝る時にでも考えよう!)
何だか精神まで幼児化している気がしたが。悩んでも何も変わらないのだから、悩むだけ損だと思う。
シンリーに連れられて長い廊下を歩きながら、ボンヤリと前世の自分を思い出した。
(前世は……やっぱり少し心残りだけど。折角転生したんだ。この世界で、色んなことを一生懸命頑張ってみたい。何せ魔法が存在するんだし! 早く魔法を使ってみたいな!!)
耳に飾られたストロングの花芯である魔法石を、優しく指で撫ぜた。
豪華な昼食を食べた後、レイルークは遊び部屋でシンリーとは別のメイド達に絵本を読んでもらいながら、まったりと過ごしていた。
暫くすると、何やら廊下が急に慌ただしくなったことに気が付いた。
「あれ? もちかちて、とーたまおかーたま、かえてきた?」
読み聞かせをしていたメイドも扉の方に目を向けた。
「はい。そうかもしれませんね。もしそうであれば、シンリー様が知らせに来るかと思いますが......」
丁度その時、部屋の扉がノックされた。
「レイルーク様。シンリーでございます」
「どーぞ」
扉を開いたシンリーは、一礼するとこちらに歩み寄った。
読み聞かせをしてくれていたメイドは絵本を閉じると、他のメイド達と本棚に絵本達を片付け始めた。
「レイルーク様。旦那様がお帰りになられました。レイルーク様をお呼びでございます」
「え? とーたまだけ? かーたまは?」
「お帰りになられたのは旦那様だけでございます。私も詳細は存じ上げておりませんが、至急レイルーク様をお連れするようにと、申し付けられております」
(一緒にラシュリアータ辺境伯の元に居た筈なのに、父様だけ先に帰ってくるってことは。……母様の実家で何かが起こっているんだな)
「わかった。いこうシンリー」
「はい。では参りましょうか」
シンリーに連れられて再び長い廊下を歩き出した。
トコトコテクテク歩きながらレイルークは思った。
(いつも思うけど、幼児に公爵家は広すぎるって......)