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レイルーク公爵令息は誰の手を取るのか  作者: 宮崎世絆


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 アームストロング領へ続く扉をレイルークが開き、ユリアをエスコートしながら中へと入る。


 シシルが扉を閉めた音で、レイルークはようやく安堵の息を吐いた。



「つっかれたー……」


「レイ」


 気が抜けた状態で突然手を強く引かれ、レイルークは、そのままユリアと正面に向き直る。


 その拍子で反対の手に持っていた薔薇が床に落ちてしまった。



「ね、姉様?」


「……レイ」


 神妙な顔のユリアは、エスコートしたままのレイルークの手を両手でギュっと力強く握る。



(? どうしたんだろ。……あ、もしかして僕がいない間に、もっと嫌なことでも言われたんじゃ……)



「姉様。変な嫌味を言われてたみたいだけど、大丈夫? あ、あの、さっきはごめん。領主達を押し付けて……」


 もしかしたら嫌味で落ち込んでいるのかと思い、ユリアを労わる。


「そんな事、どうだって良いわ」



 違ったらしい。



「レイ……」


 レイルークの名を呼ぶばかりで、手を握る力は弱まらない。


 緩むどころか、更に力が強くなった。



(姉様どうしたんだよ。いつもと様子が……)



「レイは……あの子達の誰かと、婚約、するの……?」


「へ」


 思わぬ質問にレイルークは戸惑いながらも、とりあえず今の自分の考えを伝える。


「えっと。あ、あのさ。僕は婚約とか、そもそも婚約者を誰にするかなんて、まだこれっぽっちも考えてないよ! それなのに何で……あの子達が。あんな事を言い出したのかは……分からないけど……」


「レイ」


何を思ったのか、ユリアは両手を広げてレイルークを抱きしめた。

背丈的に不可抗力で、レイルークはちょうどユリアの胸元に顔がすっぽりと収まってしまった。

それなのに、ユリアはそのままきつく抱きしめてくる。



恐ろしい位の弾力が、レイルークの顔を包み込んだ。



(!??!)



心底驚いたレイルークは慌てて離れようとするが、きつく抱きしめられて身動きが取れない。

押し返せばいいのだが、ユリアにそんな乱暴な事はしたくない。


(ねねねね姉様! ははは離れてー!! ここには! 気配を完全に()したシシルが居るんだよーー!!)


 まだ十五歳にも満たない年齢にも関わらず、既に豊満な胸に埋もれて本気で理性がやばい。ついでに息もやばい。


(待て自分! 落ち着け自分! 僕もまだ十歳だ、色々とまだ早い!! でも酸素は今すぐ欲しい!!)


 何とか煩悩を抑え込み、呼吸を確保する為に何とか顔をずらそうと横を見る。

 すると、気配を消して壁際に佇むシシリルと目があった。



(た、助けて、シシル!!)



 願力で助けを求める。


 しかし何を思ったのか。シシルは爽やかな笑顔でサムズアップ(応答)した。



(シ、シシルーー?! お前それでも側近かーー!?)



「レイ」


 胸が顔から離れた。


 プハッと息をしてユリアを見上げると、予想以上に近いユリアの美顔があった。

 あまりの近距離にレイルークは一瞬で真っ赤になった。



(ちちち近いって姉様!!)



「レイ」

「は、はいっ!」


「……どうして。あの子達、あんなにレイルークの事を慕っているのかしらね?」

「あ、あの……」


「ふふ、大体の想像はついてるわ。誠実に対応しただけ、でしょうね。レイルークは優しいもの。……慕われてもしょうがないのは……分かっているわ」


 見つめ合うユリアの瞳に、何故なのか涙が浮かんでくるのをレイルークは呆然と見つめる。


「分かってるの。……いずれ、私の側から居なくなってしまうって……分かってる」


 儚い笑顔を浮かべながら震える声で、言葉を紡ぐ。


「……分かっている。つもり、なのに。でも……どうしても……。私は……」



 そこまで言うと、ユリアの瞳から、一筋の涙が落ちた。



 今まで見たこともなかったユリアの涙に羞恥心は消え失せ、姉が何故これ程までに傷ついているのかレイルークには分からず、ただ呆然とユリアを見つめるしかなかった。



(なんで……)



「……ごめんなさい。変な事を、口走ってしまったわ」


「……ううん。僕の、軽率な行動が悪いんだ。……ごめんなさい。姉様にまで迷惑ごとに巻き込んでしまって……」


 ユリアの瞳からまた一雫、涙が溢れた。

 それを見たレイルークは心底後悔したような顔で、ユリアの目元を優しく拭った。


「本当にごめん……。姉様、泣かないで……」


レイルークまで泣きそうになる。そんなレイルークの表情を見て、ユリアは弱々しく微笑んだ。


「違う、のよレイルーク。巻き込まれたなんて、思ってないわ。……ごめんなさい、突然泣いたりして。私は大丈夫よ。ちょっと疲れただけだから。少し……気が抜けちゃっただけ」

「姉様、僕は……」


 ユリアは自分の頬に添えられたレイルークの手に、自分の手を添えて瞳を閉じた。


「ありがとう、レイ。いつも側に居てくれて。今日も一緒に居てくれたから、私……頑張れた」


「姉様……」


「……もう少しだけ、このままでも、良い……?」


「もちろん」


 これ以上は何も言わずに、ユリアが落ち着くのを待つ。



 美しいステンドグラスの部屋に、静寂が続いた。



「……ありがとう。もう、大丈夫よ」


「そ、そう。よかった……」


普段通りの口調に戻ったユリアにホッと肩の力を抜いた。



「あの、姉様。母様が心配だし、そろそろ、帰ろう? もしかしたらもう生まれているかも、知れないし」


 そう口にした途端、改めて母ルシータの事が心配になってきた。


 レイルークの心情に気が付いたのか、ユリアは何故か苦笑した。



「ええ。確かに、お義母様が心配ね。帰りましょう。……ねえレイ。私ね、思った以上に疲れているみたいなの。少しだけ、腕を借りながら帰っても良い?」


「う、うん、もちろん!!」

「ふふ、ありがとう」


 ユリアはレイルークの腕に両手を回して、ぎゅっと強く抱きしめた。


 ムニュっと素晴らしい弾力が二の腕に伝わる。



(胸ーー!! 姉様! ムニュって胸がーー!?)



「さ、早く帰りましょう?」


 そう言うとユリアがそのまま歩きだしたので、レイルークは腕に胸を押し付けられたまま、密着して歩かざるを得なかった。


(む、胸が……! それに、あ、歩きにくい……!)


 シシル助けを求めようとシシルを見た。


 シシルは、先程レイルークが落とした薔薇を持ち、気配を消しながらこちらを見ている。



 そして、再び爽やかな笑顔でサムズアップ(応答)した。



(オイ! お前(シシル)ーー!! 後で覚えとけよーーっっ!!)

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