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レイルーク公爵令息は誰の手を取るのか  作者: 宮崎世絆


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 ユリアに負けず劣らず美人に成長した物静かなデュエットに案内され、お馴染みとなった執務室へと案内された。


 レイルークはデュエットを下がらせて、自ら扉をノックする。

 レオナルドの応答を受けて扉を開けた。

 ユリアが先に部屋へと入れるように、さりげなく立ち位置をずらした。


 ユリアは笑顔で礼を言うと、レイルークより先に中へと入った。


「お義父様。ご用と伺い、参りました」


「ああ、待っていた。早くこちらに座りなさい。レイルーク、お前もだ」


 相変わらずの美丈夫のレオナルドが、向かいのソファーに座るよう促す。

 しかし、何やらいつもと違う様子に、若干の訝しさを感じながらもユリアと共にソファーに座った。


「……それでお義父様。私達にお話とは?」


「うむ……。……他の公爵共が、面倒事を寄越してきた。まずはソレを見せた方が早いか」


 忌々しそうにレオナルドは、セバスに何か視線を送る。


 セバスはレオナルドの執務机に置いてあった、見るからに豪華な書状を持ってきてテーブルへと置いた。

 その書状には、四つある公爵家が共同で使用する、特別な刻印が使われていた。この刻印を使う書状は、全ての公爵が同じ内容を確認しているというもの。


「……拝見します」


 ユリアは書状を手に取ると、レイルークにも見える様に広げて読み始める。


 レイルークも、行儀が悪いが横から内容を確認した。長々しい内容を要略するとこうだ。


「一週間後、十歳の魔力測定完了の祝儀をやるから来いってことか……?」


 ユリアも読み終えたのか、書状を握りしめている。


(姉様……書状が皺くちゃになってますよ)


「やはり、こう来ましたか……!」

「え? 姉様、どう言う意味?」


「レイルークをお披露目しろと言う事だ」


 憤慨しているユリアの代わりに、レオナルドが説明してくれる様だ。


「公爵の次期後継者である子が十歳になると、他の次期後継者と顔合わせさせる古い風習がある。だが魔術学園が創設されてからは、この風習が行われる事は無くなったが。

……今年は、他の公爵家にも丁度十歳になる子が二人もいる。公爵家の子が同じ歳で三人揃うのは珍しい。その為、公爵同士の交流会を催す事とする、などと……!」


(……落ち着いて父様、魔力が漏れてるよ)


「三つの公爵が同意したのなら、こちらは従うしか無い。一つ上の子供も参加するとなると……アイツらは、結託して内々に話を進めてたとしか思えん。姑息な奴等め……!」


(えーと。……まあ成程。つまり、僕のことが心配、という事だね!)


「大丈夫です父様。心配なさらずとも、公爵嫡子としての相応しい対応を立派に演じて…ご披露して見せますよ? 次期後継者として、アームストロング公爵家の名を汚す様な事は致しません」


 立派な公爵令息の様に演じてみせる。どうだ!


「レイ……。そうじゃない。奴等はお前を一目見たく……いや。あわよくば、お前を手に入れたがっている。喉から手が出る程、欲しがっているのだ。

祝儀中、どんな手を使って来るか分からん。それが一番心配なのだ」


「ええ!? そんな、僕はアームストロング公爵の跡取り息子ですよ? そんな事……」

「最悪、戦が起きる。と言う意味だ。レイルーク」



(……そ、そんな、戦、って……)


 その言葉に、流石に言葉を失う。



 レオナルドは疲れた様に、額に手を当てた。


「シータがいれば安心だったのだが、身重の身体だ。一緒に連れては行けない。どちらも心配だが、アイツらは私がシータの側を離れないと見越して、今回の話を寄越したのだろう。周到な事だ」

「お義父様、勿論私が一緒に行きます。レイルークの側を離れず、守りきって見せます。お義母様に稽古も付けてもらっていますので。……()れます」


「……ユリア、頼まれてくれるか」

「はい。命に換えても」


 (……ユリア姉様は、僕の騎士かアサシン(暗殺者)か何かなのだろうか……)



 殺伐とした空気の中、突然扉のノックが鳴った。

 そしてレオナルドが応答する前に、勢いよく扉が開かれた。


「失礼致しまーす! 祝儀に向けて式服を誂えますのでー、レイルーク様をお連れ致しまーす!!」


 ターコイズブルーの髪の色を後ろに一つ括りに結んだ、元気な近衛兵が入室してきた。


 レイルークはその名を呼んだ。


「シシル」


「……シシルさん。扉をノックし忘れるランディよりはマシですが、旦那様の応答を待たずに扉を開ける側近がありますか!! ……シンリーさんに、後で報告しておきます」

「ああっっ! 姉さんに告げ口するのだけは、ご勘弁下さい! セバス様ー!!」


 そう、この子はシンリーの歳の離れた弟さん。歳は確か十七歳。


 シンリーは、身重のルシータの専属侍女に戻った。

 そのタイミングで、シシルがレイルークの側近となったのだ。冷静沈着なシンリーと同じグレーの瞳だが、性格は正反対の、垢抜けた陽気な人だ。


「丁度いい。レイルーク、私達はこれから大事な話をしなくてはならない。シシルと行きなさい。服は、喪服でも見繕っておけば良い」


(それは着たくないです、父様……)


「レイ、何も心配しなくて大丈夫だからね」


 反論する暇も無く、シシルと共に執務室を追い出された。……もの凄く疎外感を感じる。


(……僕、次期公爵当主なのに……)


「さ、行きましょーか、レイルーク様!」

「うん……そうだね……行こうか……」




 連れて来られた場所は、衣装部屋の隣にある、広いフィッティングルーム。大抵ここで寸法を測る。普通なら仕立て屋を呼んで採寸するのだが、今日はいない。

 誂えるとシシルは言ってたが、今回は時間が無いので、ここにある従来の服を使うのだろう。



「レイ!!」



 突然、隣の衣装部屋から、お腹を大きくしたルシータが入ってきた。


 いつもの男装ではなく、白いドレス姿はまさに貴婦人そのもの。後ろには、式服を持ったシンリーが控えていた。


 レイルークはびっくりしながらも、ルシータに近寄った。


「か、母様! なぜこんな所に! もういつ産まれるかわからないのだから、安静にしてないと駄目じゃないか!!」

「ハハハ! 何、二人目なのだから、そんなに心配要らない! 寝たきりより、動いた方が良いしな! そんな事より、祝儀に着ていく服を見繕っておいた! 少し手直しすれば問題無いだろう!」


 お腹に響かない様、やや声のトーンは小さめだが、いつもの元気で美しい母だった。


「母様、僕の為に……ありがとう。僕さ、頑張って英俊豪傑を演じてくるよ!」

「ハハハ! レイは今のままで十分さ! だがまあ、精々高貴ぶって近寄らせない様に頑張れ! おっと、それから。一週間後の戦いに向けて、レイに餞別だ!」


(……あれ? すぐに開戦するの……? 僕、初陣?)


 ルシータは拳をレイルークに向けて突き出して手を開いた。

 手のひらの上には、綺麗な金色の指輪が置かれていた。


「この指輪を、利き腕の指に嵌めてごらん。指は、どの指でも良い!」

「わ、分かった」


 レイルークはとりあえず右手の人差し指に嵌めてみる。すると、ブカブカだった指輪が、レイルークの指のサイズにぴったりフィットした。


「わ、ぴったりになった」


「この指輪はな、異空間収納が出来る魔導具の一種さ! この中央の魔法石が異空間と繋がっているんだ! そうだな、大体馬車一台分位の荷物は入るだろう!」

「ええ?!」


 確かに指輪の中央には、小さな黄色い魔法石が埋め込んであった。


「これで剣などの武器を収納しておく事が出来る! いざとなったら使うが良い!」


(ああ……。やっぱり、公爵同士の戦争が…始まるんだね、母様……)


 覚悟を決めたレイルークは、指輪を着けた指で拳を握りしめた。


「母様! 戦い(とうじつ)迄に、僕に合った武器をどうか見繕っては頂けないでしょうか!!」

「ああ勿論だ! この一週間で、レイルークに最も相応しい剣を授けようではないか!」


 ルシータとレイルークは頷き合った。




 そして、祝儀の日の当日を迎えた。

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