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「あぅ？ あうあ、うぅあうあ？」
（あれ？ ここは、何処なんだ？）
豪華なベビーベッドに横たわった赤ん坊は、現代の日本では滅多にお目にかかれないであろう豪華な天井をボンヤリと見つめながら呟いた。
あうあーとしか喋れない自分に戸惑いつつ、頭を動かして辺りを見渡すがここには誰もいないようだ。
何とか起き上がろうとするが、思い通りに身体が動かずジタバタと手足を動かす事しか出来なかった。
自分の手を見ると、小さな紅葉の葉の様にちっちゃいおててだった。
（あー……何となくだけど、状況が分かったかも）
とりあえず無心で天井をジーーーと見つめてみた。
今、自分に起きている現実を……赤ん坊となった現実を、冷静に受け止めようと思ったからだ。
「ぅあうあううあうあううあああぁっっっーーー！！」
（って直ぐに受け入れられるかあぁっっっーーー！！）
つい今、本当に今さっきまで、リビングのソファーで新作アプリゲームをプレイしていた。
そしたら、ついウトウトとそのまま眠ってしまった。
ただそれだけなのに。
目が覚めたらいきなり赤ん坊になってて、よくわからない豪華な部屋で寝かされていた。まじカオス。
（落ち着け。僕は、誰だ？ ……僕は宮崎玲、だ。……うん、間違いない。……何で、何で平々凡々の高校一年であるこの僕が、アニメで見た異世界転生のテンプレな展開を体験してるんだ！？ まだ入学したてだったのに！ 辛い入試試験を突破して、晴れてハッピーな高校生活を謳歌しようと思っていたのに！！）
「あう、あうあうあ？！ うあああうあうあうう？！ あうあうあうああっあうう！ あうあうあー！！」
（僕、死んじゃった？！ うたた寝で死ぬか普通？！ まだ彼女もいなかったのに！ あんまりだー！！）
混乱する頭を抱えたまま、足をバタバタさせた。
赤ん坊の体に精神が引っ張られているのか、気が付けば大声で泣き叫んでいた。色々考えたいが上手く思考が纏まらない。
「レイルーク様？」
扉の開く音がして、誰かが近づいてきた。
混乱してひどく泣き叫ぶ赤ん坊である自分を、メイドらしき女性が優しく抱き上げた。
「よしよし。そんなに大声で泣いてどうしたのですか？ 大丈夫、大丈夫ですよ」
首の座らない自分を優しく抱きながら背中を優しくトントンと叩かれた。
「大丈夫、大丈夫」
しばらく背中をポンポンされると幾分落ち着きを取り戻した。
「......あうあうあーあううあう」
（......取り乱してごめんなさい）
とりあえず謝っておく。
「怖い夢でも見ましたか？ ふふっ旦那様と奥様が居なくて寂しくなってしまったのかしら？ 大丈夫ですよ、明日になれば会えますからね」
優しそうに微笑むメイドさんらしき女性は、なんと紺色の髪にグレーの瞳だった。地球だとコスプレ以外では見ることはまず無い。
（本当に、ここって異世界なんだ……）
泣き止んだことで赤ん坊が落ち着いたと思ったのか、元いたベビーベッドに優しく戻してくれた。
「おやすみなさいませ。レイルーク様」
（レイルーク……様？ 僕の名前、かな？）
静かに部屋から出て行ったメイドさんが呼んだ名前を復唱してみた。
（レイルーク......何だか高貴そうな名前だな。しかもメイドさん、赤ちゃんに対して礼儀正しく様付け）
豪華な部屋、節度を持ったしっかりとしてそうなメイドさん。数少ない情報だが、ある一つの可能性が頭をよぎった。
（まさか貴族！？ 中世な異世界ですか此処！！）
