第 漆拾伍 話:三日月の半島
ジェリコの武装蜂起終結から五日後、準備が整った織田連合軍、ムガル軍、イスラム軍、エジプト軍、エルサレム十字軍はオスマンに使者を送り入国する知らせをした。
そして真斗への恩返しとしてダビデを中心とした『イスラエル軍』が加わり陸路でオスマンの首都、アンカラへ向かう事となった。
早朝にエルサレムを発ったアジア、イスラム、正教会、放浪民族の一大連合軍はトリポリ、アンティオキア、エデッサを通りキルキスの都市であるアダナから西部に向かって北上し、アンカラに向かうはずであったが、西部にはトロス山脈があり流石に大軍での山脈越えは危険であり、山脈を迂回する形で北へと向かう事となった。
アダナに到着した大連合軍は山脈を迂回する準備する中で真斗は井戸の近くでバケツに入った水で濡らした手のひらサイズの研ぎ石で椅子に座り、スパタを研ぐダビデの星が描かれた白いサーコートとチェイン・メイルを着こなすダビデの後ろから真斗はそっと話し掛けた。
「なぁダビデ殿、ちょっとよろしいでしょうか?」
研ぐ手を止めたダビデは笑顔で振り向く。
「ああ、なにかね?」
「どうして我らに手を貸そうと思ったんだ?」
「貴方が信条にしている武士道と同じですよ。我々を含めて貴方は多くの放浪民族に希望を与えて救って下さった。ならばその御恩に報いるのが礼儀ではないですか?」
笑顔でダビデがそう言うと真斗は思わず笑い出してしまった。
「これは一本取られてしまった。参りましたよダビデ殿、確かに貴方の言う通り“恩には恩を、仇には仇で返す”っと武士道で教わります。貴方の士道、感服いたしました」
そう言って真斗はダビデに向かって深々と一礼をした。
それから準備を終えた連合軍は夕暮れ前にアダナを出発した。
少し開けた平野道を進む中で馬上で真斗と竹取は華岳姫からトロス山脈についての雑学を聞いていた。
「あのトロス山脈の地下には昔から旧約聖書に登場する“ノアの箱舟”が埋まっている伝説があるのよ。何でもとあるオスマンの冒険者パーティーが頂上近くの洞窟内でレクア語で書かれた木片が見つかったのよ」
歩く馬に乗りながら話しをする華岳姫の右側を歩く馬に乗りながら聞いていた真斗と彼の後ろに乗る竹取は関心していた。
「なるほど。ノアの箱舟伝説のことは和訳された旧約聖書や世界書の写本で読んだ事があったが、まさかアララト山の他にもあったとは」
「私も京に居た頃に読んだ事があるわ。でもまさかレクア語で書かれた木片が見つかっていたなんて知らなかったわ」
すると真斗と竹取の後ろから馬に乗った景が二人の右隣に現れ、華岳姫に問い掛けた。
「ねぇ母様、あの平たい石を積み上げて作った円の物がいくつもありますが、あれは何ですか?」
景が右手で指を指す左の平野には平たい石を積み上げて作った円がいくつもあり、華岳姫は笑顔で答えた。
「あれは“ヒメラの竈”よ。神話の時代にペガサスに乗った英雄ベレロポンが山脈に住まう三つ首の大蛇、ヒメラを退治した時にヒメラの死骸が永遠に消えない炎を噴き続ける石となったのよ。それ以来、ここに住まう人々は“ヒメラの炎石”を石の円で囲み、暖を取ったり篝火の火種などにして使われているのよ」
華岳姫の説明に景は少し目を輝かせながら関心する。
「へぇーーーーーっ永遠に消えない炎を噴く石ねぇーーーっ。何だか幻想的ですね」
それ以降は真斗、竹取、景は行軍中に華岳姫から様々な神話や伝承、民話などを聞く事となった。
⬛︎
それから大連合軍は三日掛けて北へと進み、エルジャス山の麓に作られた都市、カイセリを経由してアナトリア平原へと入った。
快晴の平原を各国の旗汁を掲げ大連合軍は一糸乱れない隊列でアンカラに向かって行軍していた。
「しかし、こんな巨大な平原を大軍勢で進むなんて圧巻だなぁ爺」
甲冑を着こなし馬に乗って進む真斗は笑顔で左隣りで甲冑を着こなし馬に乗って進む源三郎は笑顔で頷く。
「そうですなぁ若。まるで青空の如く広がる平原ですなぁ」
「そうねぇ真斗。でも私としては不思議な感じなの。母さんの故郷だからか、それとも私の中に流れている半魚人の血が故郷に帰る事に喜んでいるのかしら」
馬に乗り真斗の右隣りを進む景が懐かしそうな笑顔でそう言うと真斗は彼女の方を向いて笑顔で頷く。
「そうかもなぁ。その感じはよく分かるよ景。本当、血に刻まれた記憶ってのは不思議なもんだなぁ」
そう言っていると三人の後ろから馬に乗った甲冑を着こなした華岳姫が小走りで現れた。
「真斗!景!もうそろそろでアンカラに着くわ。先に行って私達を待っている出迎えの人達に挨拶しましょ」
華岳姫からの意見に真斗と景は頷く。
「そうですね華岳姫様。すまないが爺、俺と景は先に行っている」
「分かりました若」
承知した源三郎が頭を下げたのと同時に真斗、景、華岳姫は手綱をしならせアンカラに向かって馬を走らせた。
アンカラを囲む城壁の南門の前にはランスの先に小さなオスマンの国旗を掲げたイェニチェリの兵士達が横三列に並んでいた。
そして、その前では部下を連れて、馬に乗るオスマンの大宰相で男性半魚人の『パルガル・イブラヒム・パシャ』が頭にターバンを巻きカフタンを着て待っていた。
「もうそろそろでジャポンの一軍が到着するはずだ。皆、粗相がない様にな」
パルガルがそう言うと彼と同じく馬に乗って左右に並ぶ二人の部下とイェニチェリの兵士達は頷く。
「「「「「「「はっ!」」」」」」」
すると小高い丘の向こうから馬に乗る真斗が走って現れ、そしてパルガルの前で止まると真斗は右手を胸に当てて頭を下げた。
「アッサラーム・アライクム」
真斗がイスラム教徒式の挨拶をしたのでパルガルは驚きながらも関心した笑顔を見せた。
「おおぉ!イスラムの挨拶とは恐れ入りましたジャポンの人よ。ワ・アライクム・アッサラーム」
そう言いながらパルガルも右手を胸に当てて頭を下げた。
「先行で馳せ参じました。日ノ本から参りました会津城城主の鬼龍 真斗と申します」
「改めましてオスマン帝国の大宰相を務めておりますパルガル・イブラヒム・パシャと申します」
二人がお互いに自己紹介をしていると真斗の左側からゆっくりと華岳姫が前に出て、笑顔でパルガルに声を掛けたい。
「イブラヒム様、お久しぶりです」
華岳姫の姿を見た途端にパルガルは明るい笑顔となった。
「おおぉーーーっ!オルチではないか‼︎久しいのぉーーーっ!」
「お元気そうで何よりです。皇太子様はお変わりありませんか?」
華岳姫からの問い掛けにパルガルは笑顔で首を縦に振った。
「ああ、皇太子様はいつも通りお元気だ。それと二年前にお父君の跡を継がれて今はスルタンとなった」
「あら、そうでしたか。遅れながら陛下にはお祝いの言葉を送ります」
「ありがとうオルチ」
などと話していると華岳姫は真斗の右側に居る景に言葉を掛けた。
「さぁ景、貴女もイブラヒム様にご挨拶を。イブラヒム様、遅れながら私の娘、景です」
景は一呼吸してゆっくりと前へ出てパルガルに挨拶をした。
「初めましてイブラヒム様。華岳姫の娘、村上 景と申します」
右手を胸に当てて頭を下げる景の姿にパルガルは関心した笑顔をする。
「ほぉーーーーっどこを見ても母親にそっくりだなぁ。初めまして、パルガル・イブラヒム・パシャと申します」
それから信長達も到着し、パルガルと挨拶を交わしアンカラへと入った。
⬛︎
オスマン帝国、それはアナトリア半島を中心に東欧、カザフスタン、カラカルパック、トルクメニスタンを領土とするイスラム教海魚人国家。
その首都であるアンカラはアッバース朝イスラム帝国の首都であるバグダッドやアイユーブ朝エジプト王国の首都であるカイロを超える一大都市である。
モスクの様な外見をしたアンカラ城に向かう大通りでは多くの半魚人と人の足に変化させて歩く人魚の他にリザードヒューマン、ハシャラヒューマン、エジプト人、ゴブリン、ハーフリング、コボルト、正教会派の欧州人が行き来しながら賑わっていた。
そんな中を掻き分ける様に進む織田連合軍の戦列に人々は足を止めては物珍しいそうに見物していた。
「懐かしのオスマン通りだわ。今も昔も変わらない賑やかさねぇ」
馬に乗り、周りの風景を見ながら華岳姫が笑顔でそう言うと彼女の右側を馬に乗って進む真斗はそっと彼女に問い掛けた。
「華岳姫様はここをよくご存知なのですか?」
真斗からの問い華岳姫は彼の方を向き、頷いた。
「もちろんよ。ジャポンに定住する前はここで兄さん達とよく買い物や時には入手した貿易品を売っていたわ」
「へぇーーーーっそうだったんですか」
「ねぇ母様、ここの帝様派どんな人なのでか?」
真斗の右側を馬に乗って進む景が問い掛けて来たので華岳姫は笑顔で答えた。
「うんーーーーっそうね。文武両道で音楽好き。厳格な一面はあれど、落ち着いた物腰で分け隔たりを持たない聡明な人よ」
華岳姫の口から出た友人であり現オスマン皇帝の人物像に景は関心を持つ。
「そうなんですね。それはお会いするのが楽しみですね。ねぇ真斗」
景からの相槌に真斗は笑顔で頷く。
「ああ、そうだなぁ景。会うのが楽しみだ」
それからしばらくして大連合軍はアンカラ城へと到着し、パルガルの案内で信長達は皇帝の間へと来た。
イスラム式の絢爛豪華な皇帝の間の先にはターバンを頭に巻き、皇帝の威厳が伝わってくる様な華やかなカフタンを着こなして玉座に座りながら『スレイマン一世・オスマン・カーヌーニー』が笑顔で待っていた。
信長達はゆっくりと歩み寄り、片膝を着いてスレイマンに向かって深々と一礼をした。
「お初にお目にかかれて嬉しゅう存じます。日ノ本から参られました織田家当主にして関白殿下の織田 信長と申します。
脱いだ和製南蛮兜を左脇に抱え、和製南蛮甲冑を着こなし挨拶をする信長にスレイマンは玉座から立ち上がり笑顔で一礼をした。
「こちらこそ、お会い出来て光栄です信長殿。私が第十代オスマン皇帝のスレイマン一世・オスマン・カーヌーニーと申します」
「失礼致します陛下。実はここに旧友も居りまして。是非、再会と皇帝即位のお祝いのお言葉を申し上げたいそうです」
スレイマンの左側に立つパルガルがそう言うとスレイマンは頷く。
「よかろう。それで誰なんだ?」
「あの者です」
パルガルが右手で先を指すと少し奥から華岳姫が笑顔で前へと出て、信長の左隣で両膝を着いてスレイマンに深々と一礼をした。
「スレイマン様、お久しぶりでございます。それと皇帝即位、遅れながらおめでとうございます」
自分の前に現れた華岳姫の姿を見てスレイマンは大いに喜んだ。
「おぉぉーーーーーーっ!オルチではないか‼︎我が友よ久しぶりだなぁ!」
それからアクバル、ハールーン、ラムセス、ボードゥアン、ジュスラン、フルク、レイモン、ダビデと挨拶を終えた後に行われた議会で信長が行う欧州大征伐に参加する旨をスレイマンは伝え、ここに日ノ本を中心としたムガル帝国、アッバース朝イスラム帝国、アイユーブ朝エジプト王国、正教会派十字軍国家、『ハスモン朝イスラエル王国』、オスマン帝国の一大軍事同盟、『大アジア連合軍』が組織された。




