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FIERCE GOOD -戦国幻夢伝記-  作者: IZUMIN
【第二章・欧州征伐(上)】
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第 漆拾肆 話:鬼神の武士道

 翌日の朝には織田連合軍は分かれてエルサレム、トリポリ、アンティオキア、エデッサで物資の調達を行いながらオスマンに向かう準備をしている最中にある出来事が起きていた。


 後にムガル軍とイスラム軍もエルサレムに到着しエルサレム十字軍とエジプト軍と共に欧州征伐の準備と話し合いをする中で真斗と竹取(かぐや)は和服姿で洋服姿のジョナサンとエナ、ロバートと共にロバートの屋敷で会話をしていた。


「しかし、改めて真斗の夫人殿(どの)はまるで宝石の様に美しく煌めく東洋の(はな)ですね」


 椅子に座り向かいに座る真斗の右側に座る竹取(かぐや)に向かって笑顔で褒めるロバートの言葉に竹取(かぐや)は少し照れる。


「そんな(はな)だなんて。でもありがとう」

「ねぇ竹取(かぐや)さん。真斗様とどの様な出会いをしたんですか?」


 竹取(かぐや)の左側に座るエナが笑顔で尋ねる姿にロバートの左側に座るジョナサンは一喝する。


「こら!エナ!いくら何でも失礼だぞ。ちゃんと様と言いなさい!申し訳ありません竹取(かぐや)様!義妹(いもうと)がご無礼を」


 頭を下げて謝るジョナサンに対して竹取(かぐや)は笑顔で首を振った。


「いいえ、構いませんよ。楽しい会話の時くらいは堅苦しさを抜きにする物ですよ」


 竹取(かぐや)の寛大な姿にジョナサンは感銘を受けた。


「重ね重ね、ありがとうございます」


 そんなジョナサンに向かって真斗とロバートは笑顔で声を掛けた。


「堅苦しいよジョナサン。もうちょっと気軽になっても(バチ)は当たんねぇよ」

「真斗の言う通りだ。会話を気軽に楽しんでは駄目って言うルールはこの世にはないからなぁ」


 真斗とロバートに諭されたジョナサンは確かにと言う笑顔をした。


「それもそうだなぁ。少し俺は固すぎたんだなぁ」


 そう言ってジョナサンは改めて心を楽にして皆との会話を楽しむのであった。


 するとそこに武装した一人のテンプル騎士団のゴブリン男性が慌てた表情で扉を押し開け、部屋に入って来た。


「ゴッドフリート将軍!大変です‼ジェリコで武装したユダヤ人を中心とした放浪民族達が!蜂起を起こし‼都市を占領しましたぁーーーーーーーっ!」


 その報告を聞いたロバートを含めた真斗達が驚き、椅子から勢い良く立ち上がった。


⬛︎


 エルサレムから北東に位置するヨルダン川の付近にある城壁都市『ジェリコ(現在のエリコ)』は世界最古の書である旧約聖書に繰り返し登場する都市として知られている。


 今、そんな歴史のある都市は武装蜂起したユダヤ人達によって占拠されている。


 甲冑と鎧を身に付け、ジェリコを包囲するエルサレム十字軍の野戦テントに馬で到着した真斗達は馬から降り、テントへと入った。


「レイモン殿(どの)!状況はどうなっていますか?」


 真斗は歩きながら武装しテーブルに広げたジェリコの正確な地図を見て戦略を練るレイモンに問い掛けるとレイモンは真斗の方を向いて答えた。


「ああ、真斗殿(どの)。正直言ってよくないです。都市から逃げて来た民の話だと蜂起したユダヤ人の他にネフィリムの一族も蜂起に加わっている様だ」


 ネフィリムの名を聞いたジョナサンは驚く。


「何ですって⁉︎あの巨人族がユダヤ蜂起軍に居るのですか?」


 ジョナサンからの問い掛けにレイモンは少し厄介な表情で頷く。


「ああ、そうだ。しかもユダヤ軍を指揮しているのが、“ユーダス・マタティア”とその息子の“ユーダス・マカバイ”、そしてネフィリム族を指揮しているのが、“ダビデ・イスラエル”と“ゴリアテ・ガテ”だそうだ」


 レイモンの口から出た四人の指揮官の名にロバートは驚く。


「なんと!ユダヤの王と巨人族の王が居るのか⁉こいつは厄介な戦いになりそうだなぁ。それで蜂起軍の要求は?」


 ロバートの質問にレイモンは彼にヘブライ語で書かれた紙を彼に差し出し、それを受け取ったロバートは内容を読み上げた。


「“エルサレム王国はただちにユダヤ民族、ネフィリム民族、ロマ民族の安息の地としてジェリコ地域を割譲せよ。さもなくば我らはヤハウェ(ユダヤ教の唯一神)の名の元に戦って安息の地を勝ち取る”っと。なるほど、これはますます厄介な事になったなぁ」


 深く頭を抱えながら悩むロバート。一方で真斗はレイモンに問い掛けた。


「そう言えばレイモン殿(どの)、以前に大図書館でユダヤ人やその他の放浪民族って開拓技術が優れていると書物で読みましたが」

「ああ、そうです真斗殿(どの)。彼らの様な国を持たない放浪民族は行く先々の土地を切り開く能力が高く。我々、十字軍国家もユダヤやその他の放浪民族を重宝している」


 笑顔でレイモンの口から出た答えを聞いていた真斗は納得する。


「なるほど。では正直、彼らとは戦いたくないのですね?」


 真斗の更なる問い掛けにレイモンは苦笑いをしながら頷く。


「本心ではそうだ。でもだからと言って彼らの要求を受け入れ、ジェリコ地域を割譲させればここを収めるエルサレムの貴族達からの反感は強い。最悪、王国の分裂を招くきっかけになるかもしれない。全く厄介な問題だよ」


 レイモンの話しを聞いていた真斗は口元を隠す様に右手で下顎を触り、心の内で考えた。


(ユダヤ人を含めた放浪民族達はかつての正教会の信者達と下級亜人種達と同じ想いを抱いている。彼らだって自分達の国を持ちたいと願っている。もし蜂起軍がエルサレム十字軍と戦えばカトリックに付け入る隙を作ってしまうかもしれない。どうすればいい。何か不満や遺恨を残さず穏便に蜂起を治める方法は?)


 自身が持つ多くの知識を絞って解決策を考える真斗の目の前に世界地図が入った。そして日本列島のとある場所に目が止まり、いい解決策が閃く。


「レイモン様!お願いがあります‼︎」

「おう。何かね?」


 突然、真斗が声を掛けて来たのでレイモンは少々驚くが、すぐに冷静に態度で真斗の方を向いた。


 そして真斗は真剣な表情でレイモンに向かって深々と頭を下げた。


「お願いです!今回の蜂起を治める任を私に‼︎この鬼龍 真斗に一任させて下さい!」


 真斗からの突然の申し出にその場に居た一同全員が驚愕した。


「おい!真斗‼︎それは正気か⁉︎」


 驚くジョナサンに向かって真斗は真剣な表情で頷く。


「ああ、俺は本気だよ‼︎蜂起を起こした人々が歩んだ歴史を思うと居ても立っても居られないんだ!」


 言葉一つ一つから伝わって来る迷いのない真斗の本気にジョナサンを含め皆は納得する。


「分かった真斗。君の意思を尊重して君が帰るまでは攻撃をしないようにしておく」

「ありがとうございます!レイモン様。竹取(かぐや)、君はエルサレムへ戻るんだ」


 安否を心配する真斗から指示に竹取(かぐや)は真剣な表情で首を横に振った。


「いいえ。もう貴方の帰りを待ちたくないのよ!お願い‼︎私も連れて行って!」

「馬鹿!危険すぎる竹取(かぐや)‼︎お前だけでも生きろ!」

「嫌よ!真斗のいない平和な世を生きても無意味だわ‼︎だったら一緒に行くわ!生きるも死ぬも一緒よ‼︎貴方が拒否しても私は喰らい付いてでも一緒にいる覚悟よ!」


 竹取(かぐや)の一歩も引かない強い姿勢に真斗は根負けし、頷く。


「分かった竹取(かぐや)。ただし絶対に俺の側を離れるなよ!」

「ええ!分かったわ‼︎」


 こうして真斗の提案でエルサレム十字軍はしばらくの間、停戦する事となった。


⬛︎


 その後、真斗はレイモン達に自身が思い付いた解決策を懇切丁寧に話した後に甲冑を脱いだ状態で竹取(かぐや)を連れて馬で蜂起軍が占領するジェリコへと向かった。


 ジェリコに向けて馬を走らせる中で真斗は真剣な表情で後ろに乗る竹取(かぐや)に向かって問い掛けた。


竹取(かぐや)!分かっているが、蜂起軍が話し合いに応じなかった時や危険となったら俺に構わずジョナサンの元に逃げろ!いいな?」


 真斗の後ろからギュッと彼のお腹を両腕で握る竹取(かぐや)は笑顔で頷く。


「分かったわ!でもどんな時でも私は絶対に貴方の側を離れないから‼︎」


 それを聞いた真斗は少し嬉しくなったのか笑顔を見せる。


「ありがとう!竹取(かぐや)


 などとしているとジェリコの城門前まで着くと真斗は両手で掴み手綱を引いて馬を、その場に止めた。


「ジェリコを占領する蜂起軍の兵士達よ!私はジパングから来た武士(サムライ)‼︎鬼龍 真斗である!エルサレム十字軍の代理として和平の話し合いに参った‼どうか!城門をお開け下さいませぇーーーーーーーーーーーっ!」


 真斗の大きな呼び掛けに城壁上や城壁の向こうからは誰一人として返事はなかったが、閉ざされていた門がゆっくりと開いたので真斗は小さく手綱を揺らして馬を動かし都市へと入った。


 都市内には男女合わせてダビデの星(六芒星)が描かれた白いサーコートとチェイン・メイルを着こなし、頭にサレットヘルムやノルマンヘルム、アーメットヘルム、バシネットヘルム、グレートヘルムを被りダビデの星(六芒星)が描かれたカイト・シールドとヒーター・シールドを左手に備え、右手にアーミングソードやショートソード、ブロードソード、バトルアック、メイス、そして小さいダビデの星(六芒星)が描かれたの旗を付けたハルバートとランスを右手に持って武装したユダヤ人やネフィリム人が(いくさ)の準備をしていた。


 そんな中を進む真斗と竹取(かぐや)は少し緊張しながら進んで行くと小高い丘の上に建てられた『テル・エッ=スルタン城』へと到着した。


 城門前には数百人は居る蜂起軍兵士を後ろに控え、ダビデの星(六芒星)が描かれた白いサーコートとチェイン・メイルを着こなしたマタティア、マカバイ、ダビデ、ゴリアテの四人が立って待っていた。


 馬を止め竹取(かぐや)と共に下馬した真斗はマタティア達に向かって一礼をした。


「はじめまして皆様。ジパングより参りました武士(サムライ)の鬼龍 真斗と申します」


 敵同士でありながら丁寧に自己紹介の挨拶をする真斗に向かってマタティアも真斗に向かって一礼をした。


「はじめまして真斗様。私が蜂起軍の指揮官をユーダス・マタティアと申します。失礼ですが、そちらの貴婦人は?」

「こちらは私の妻であります竹取(かぐや)です。訳あって連れて来ました」


 真斗が代わりにマタティア達に竹取(かぐや)を紹介すると彼の右隣に立つ竹取(かぐや)もマタティア達に向かって一礼をした。


「はじめまして皆様。鬼龍 真斗の正室であります鬼龍 竹取(かぐや)と申します」


 長く美しい黒髪に女神ヴィーナスに匹敵する美しい顔立ちに思わずマタティア達は息を呑んだが、すぐに冷静となってマタティアは真斗に問い掛けた。


「それで鬼龍殿(どの)、危険を承知で自ら出向いて我々と和平の話し合いをしに来たそうですね?」


 マタティアからの問い掛けに真斗は真剣な表情で頷く。


「はい、そうですマタティア様。お願いいたします!どうか話し合いをさせて下さい‼︎」


 そう言って深々と頭を下げて必死に懇願する真斗の姿にダビデの左側に立つ、190cmはあるゴリアテが首を振った。


「それは出来んよジパングの者よ。これは我らが安息の地を得る為の大勝負。戦いの準備が始まった時点で賽は投げられたのだ」


 冷たい表情で重くあしらうゴリアテの姿に真斗は屈する事なく、ある事を口にした。


「まだ(いくさ)を止める事は出来ます!マタティア様‼︎お願いです!お話しだけでも‼︎」

「私からもお願いします‼︎」


 そう言って真斗と竹取(かぐや)はその場で土下座をした。


 地に額を着ける二人の姿に流石のマタティアも了承した。


「分かった。では二時間だけ話しを聞こう」


 それを聞いた真斗は安心した表情をする。


「ありがとうございます」


 こうして城の応接室に案内された真斗と竹取(かぐや)はマタティア達に日ノ本の北方にある蝦夷地(現在の北海道)のさらに最北にある島、樺太島(サハリン島)への移住を提案した。


「極東にある未開の島か。しかしなぜ日ノ本は我らを受け入れたいのだ?」


 椅子に座るダビデがテーブルを挟んで向かいの席に座る真斗はテーブルに広げられた日本地図を使って説明を始めた。


「実は今、天下を統一した信長様は完全なる太平の世を築く為に未だ未開の地である蝦夷地と樺太島の開拓と移住を行っているのです」


 真斗の話しによると天下統一前から信長は奥州地方(現在の東北地方)を通って流れて来たアイヌ民族の文化に興味を示し、統一後はアイヌとの交流と交易を計画し統一が完了したのと同時に早速、蝦夷地のアイヌ民族の元に使者を送った。


 それから日ノ本が積極的に国際貿易を行うのと並行して様々な揉め事はあったが、順調にアイヌとの交流と交易は行われ、さらに蝦夷地を通じて樺太アイヌと千島アイヌ、ウィルタ、ニヴフとも交流と交易が行われ、これまで以上に日ノ本は大きく発展した。


 その後、北方先住民族達との間に結ばれた平和共存の条約によって和人(日本人)の蝦夷地、千島(クリル)列島、樺太島への開拓移住が行われたが、ある問題に直面した。それは自然環境であった。


 蝦夷地、千島列島、樺太島は奥州地方の想像を超える極寒で、さらに寒暖の差も激しく移住する和人(日本人)達にとっては過酷であった。しかも移住の為に取り入れた羽後国(現在の秋田県)の伝統的な建物である合掌造りですら最北の寒さをしのぐ事が出来ず、開拓移住が停滞気味であった。


 だが真斗がエルサレム大図書館で閲覧したユダヤ人文化に関する書物でユダヤの建築物が激しい暑さと寒さに耐えれる優れた技術であると知ってからは停滞気味の北方開拓移住に活かせると考え、さらに迫害を受けるユダヤ人などの放浪民族達に安住の地を与えられると思い付いたからである。


 全てを聞いたマタティア達は無表情で軽く下を向きながら軽く手を動かすか小さく深呼吸をした。


「すまない真斗殿(どの)、少しの間だけ外してくれないか?」


 マタティアの右隣の椅子に座るマカバイが真斗と竹取(かぐや)に向かって言うと二人は何も言わずに椅子から立ち上がり、応接室を出た。


「ねぇ真斗、彼らは私達の話に乗ってくれるかしら?」


 少し不安そうな表情で竹取(かぐや)は真斗に問うと真斗は自信に満ちた笑顔で頷く。


「大丈夫さ竹取(かぐや)。彼らならきっと乗ってくれるさ。秀吉様が前に俺に対してこんな事を言ってくれたんだ。“腹を割って話す時は自分の心を信じて話せば相手は必ず耳を貸す”ってなぁ」


 真斗の言葉通り、マタティア達は真斗の話しに対して意見を出し合っていた。


「極東か・・・私はいいとも思うぞ。旅人や商人の話しでは信長は気難しい人ではあるが、筋を通せば話しの分かる人物だと聞く」


 マタティアの左隣に座るダビデが賛成の意を示すと彼の左隣に座るゴリアテが不安そうな表情で異を唱えた。


「しかし、行って開拓し定住したとしても先住民族との関係はどうする?元々と住んでいた彼らの土地に我らが居座ったら民族間で摩擦が生まれるかもしれんぞ」


 不安を口にしたゴリアテに対してマカバイが反論する。


「それについては日ノ本に中間を頼むとしよう。先住民族と長く交流をしている彼らであれば我らと先住民族達の間の問題を解決してくれるかもしれない」


 一方、目を閉じて皆の意見を聞いていたマタティアは目を開け、右腕を上げて意見を出し合う皆を静止させ、口を開いた。


「我らは常に他者から迫害を受けて来た。安住の地を求めて彷徨えど行く先々で戦争や内乱などに巻き込まれていた」


 そう言いながら固い決意が感じられる表情でマタティアは樺太島を指差した。


「戦わずして我らの国を作れるのであれば、行く価値は十分にある。よし!真斗殿(どの)の提案に乗ろう‼︎ダビデ!ゴリアテ!二人はただちに兵達に戦いの中止を伝えよ!」

「「はっ!」」


 二人は椅子から勢いよく立ち上がってマタティアに向かって一礼をした。


 その後、再び真斗と竹取(かぐや)を交えた話し合いでユダヤ人を含めた放浪民族達の極東への移住が決まり、ただちに蜂起軍は武装解除し真斗と竹取(かぐや)はこの事を急いでレイモンの元に戻り伝えた。


「なるほど。確かに妙案ではあるな」


 少し経った後にレイモンのテント内で和製南蛮甲冑を着こなして来た信長の前で真斗は今回の事を説明していた。


「彼らの建築技術は停滞している北方開拓に活かせますし、その褒美として樺太島を与えれば彼らとの繋がりは強固な物となります」

「ふーーーむ・・・よし、いいだろう真斗よ。そなたの提案を採用しよう。早速で悪いが、その者達の元に連れて行ってくれ」


 信長からの名に真斗は深々と頭を下げた。


「ははぁーーーっ!」


 それからは信長、秀吉、家康を交えた話し合いの結果、ユダヤ人を含めた放浪民族達への領土の割譲が決まった。その為に一旦、彼らを日ノ本に連れて行きアイヌを含めた北方先住民族達と話し合いをする事となった。


 一方、蜂起軍の兵士達を含めた放浪民族達はダビデの説明で極東への行く事に賛同し武装解除に至った。


 ただし多数のユダヤ人が聖地エルサレムを離れる事に反対していたが、真斗は彼らに『陸奥国(現在の青森県)に属する戸来村(とらいむら)にはゴルゴタで処刑されたキリストは実は弟のイスキリが身代わりとなった事で生き延び、そのまま当時の戸来村(とらいむら)まで落ち延び、村の人々に敬愛されながら昇天した伝承がある』っと説明した。


 真斗の説明で極東行きを反対していたユダヤ人達は大いに賛同し、戸来村(とらいむら)を第二のエルサレムと認識した。


 その後、話し合いを終えた真斗が城を去ろうとした時にダビデが彼に声を掛けた。


「真斗殿(どの)、行く前に少し聞いてもいいか?」


 馬に乗ろうとした真斗は振り向き、ダビデに向かって笑顔で頷く。


「はい、何ですかダビデ殿(どの)

「なぜここまで我らに救いの手を差し伸べる?貴方様に何の得があるのですか?」


 ダビデの問い掛けに真斗は迷いのない自信に満ちた笑顔で答えた。


「得なんてありません。ただ私は武士道(侍の心得)を重んじただけです」

「ブシドウ?」

「はい。武士道(侍の心得)にはこう言う教えがあります。“敵とて人間。弱り苦しんでいる敵を助けてこそ、(まこと)の武士である”と。私はこの国に来てユダヤを含めた放浪する人々の苦しみを知りました。だからこそ私は純粋な気持ちで争いをせずに皆さんを救いたいと思ったからです」


 真斗はそう言ってダビデに向かってゆっくりと深々と一礼をすると馬へと乗り、手綱を軽く振って馬を走らせ、ジェリコを後にするのであった。

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