第 漆拾参 話:竹取(かぐや)の妙案
時は戻りエルサレム、全てを聞いた真斗は源三郎に向かって言葉を掛けた。
「そっか・・・俺がいない間にそんな事が。すまないな爺、それに皆も。色々と心配と迷惑を掛けた」
謝る真斗の姿に源三郎は笑顔で首を横に振った。
「いいえ若。謝らなくても我らは大丈夫ですから」
それを聞いた真斗は少し安心した表情をする。そして今度はソファーに座る竹取に話し掛けた。
「それで竹取、どうしてお前が爺達と一緒にいるんだ?」
真斗から見て右のソファーに座る竹取は意を決して答えた。
「実は随分前にバグダッドから折り鶴が来て、貴方が盗賊との戦いの中で砂嵐に巻き込まれて行方不明になった事を知ったの。それで私、居ても立っても居られなくて」
「なるほど。それで一人でここまで来たと」
察した真斗の答えに竹取は頷く。
「でも私だけじゃなくて帰蝶様やお市様、それに寧々様、まつ様の他にも信長様達の事が心配で一緒に来たの」
自分以外にも多くの正室の方々が一緒に来た事に真斗は少し驚く。
「何と⁉︎お前以外にも信長様達の奥方様達が一緒に来ているのか?そいつは凄いなぁ。ところで爺、あのエジプトの王女は一体なぜ俺を婚約者と言い張っているだ?」
真斗からの問い掛けに源三郎は困った表情で答えた。
「はい、実は言いますと・・・」
源三郎の話はこうだ。メリトアメンは源三郎達の口から語られる真斗と呼ばれる人物に興味を持ち文化交流の際に彼女から何者なのかを聞きに来た。
源三郎は素直にメリトアメンに真斗が自分達が仕える主人である事を説明し、更に真斗は自画像を彼女に見せた。
真斗の自画像を見たメリトアメンは一瞬で恋に落ちてしまい、それ以降はしつこい様に真斗について聞き来る事なり、またなぜか結婚式のプランを考え始めた。
その後、源三郎達は日ノ本の補給船団に便乗して来た竹取達と合流する事になったが、メリトアメンが竹取に真斗の結婚する時の秘訣を聞いた事で事態はややこしくなってしまった。
竹取はメリトアメンに対して自身が真斗の正室であり、結婚する年齢に達成していない子供とは結婚は出来ないとキッパリとメリトアメンに言い放ち、流石に諦めたと誰しも思った。
だがメリトアメンは挫ける事なく真斗の自画像を持って父であるラムセスと母であるネフェルタリに真斗への嫁入りを宣言してしまう。
二人はこの事について源三郎達を城へと呼び出し、メリトアメンを真斗へ嫁入りさせる気、満々であった為、源三郎達は真斗を見つけメリトアメンの嫁入りさせるかは彼次第と一旦は了承を保留にさせたと言う。
⬛︎
源三郎の口から出た全てを聞いた真斗は大いに呆れてしまう。
「そんな〜〜〜っ爺、なぜその時にキッパリと断らなかった?」
真斗がそう言うと慌てた様な表情で源三郎は首を横に振った。
「断る事なんて出来ませんよ若!メリトアメン様はエジプト王家の第二王女です‼︎もし断ったりなどしたら王家を侮辱したと捉えられ!最悪、日ノ本との関係に亀裂が出来てしまいますよ!」
それを聞いた真斗は掻きむしる様に頭を手で抱えながら大きく溜息をした。
「だよな!くそ‼かと言って彼女を迎い入れたら、それこそ我が一族は終わりだ!」
「そうですなぁ若。こいつや相当、厄介な事ですなぁ」
他国の王族の者を自国に迎い入れる事に真斗と源三郎は深刻な表情で悩む。それ程、大きな問題と言う事である。
自国内での婿入り嫁入りはあくまで領主内での事で例え戦となって敵対しても大きな問題にはならいが、他国間、特に王族に連なる者を一族に迎い入れる事は頭痛を起こす程の深刻な問題なのである。
もし他国間で戦が起これば迎い入れた一族が辿るのは最悪のみである。もし自国側に組みし戦に勝ったとしても戦った相手国と友好関係を結んでいる他国から嫁婿を人質にして戦った卑怯者として国際的に国と共に孤立し、外圧で衰退する事がある。
また仮に迎い入れた嫁婿の国側に立って戦に勝っても負けても自国の民達から国賊と見なされ一族が没落してしまう可能性があった。
これは日ノ本のみならず国外でも同じで他国から自国への嫁婿の迎い入れは極力、避けているのが現状なのである。
なので真斗、特に鬼龍家はメリトアメンと言う爆薬を抱え込んでしまったのである。
「どちらに転んでも待っているのは最悪だ。もはや俺が描く未来はここで終わりなのかもしれない」
そう言いながら酷く落ち込みながら完全に諦めた様な暗い表情をする真斗に対して竹取がそっと言葉を掛けた。
「真斗、まだ諦めるのは早いわよ。私に妙案があるの」
竹取の口から出た希望の言葉に俯く真斗はハッとなり、竹取の方を向いた。
⬛︎
翌日の朝、軍を引き連れてラムセスもエルサレムへと到着しボードゥアンと他の十字軍国家の領主に謁見した。
その頃、真斗は源三郎達を含めた信長達をジョナサンとロバートと共にエルサレム内を案内していた。
ロバートは信長達を正教会赤十字病院を案内し、十字軍国家内で医療技術が高いトリポリ伯国に次ぐエルサレムの国立総合病院の医療技術と設備を見学していた。
一方、ジョナサンはエナと共にキリシタン大名である吉継、勝成、按針、そしてガラシャと五郎八を聖墳墓教会を案内していた。
「おお!ここがかの有名な聖墳墓教会かぁーーーっ‼」
「内装も素晴らしい!何か神々しさを感じる造りだ‼」
人生初めて足を踏み入れた聖墳墓教会の内装のデザインに目を輝かせる様に見る吉継と勝成。
一方の按針、ガラシャ、五郎八は真の十字架を前にして感激していた。
「これがイエス・キリスト様が張り付けにされたと言う真の十字架!すごい‼︎聖遺物なのか不思議な温かみを感じる!」
「ああぁ!まさか本当に真の十字架をお目にかかれる事が出来るなんて‼︎」
「主よ!この五郎八にこの様な機会を与えて下さり、ありがとうございます‼︎」
その頃、真斗と竹取はワイバーンを使って官兵衛、行長、おたあ、マリアを連れてエルサレムの北部にある『ガリラヤ湖』へ来ていた。
そしてガリラヤ湖の湖畔にある小高い丘の上に建てられた『パンの奇跡の教会』を訪れていた。
「義父上‼︎私は本当にイエス・キリスト様が奇跡を起こした場所に居るんですね!」
晴天の青空の元、美しい湖が一望、出来る大きなバルコニーに出て感激する、おたあの後ろから行長が笑顔で彼女に近づき笑顔で頷く。
「ああ。そうだぞ、おたあ。私も夢ではないかと思っている程に心が昂っているよ」
「夢に描いていた聖地巡礼が、こんな形で叶うなんて!真斗様、心よりありがとうございます」
「私からも深く感謝している真斗。ありがとう、生きている内にこの様な素晴らしい体験が出来た」
真斗の左右に立つマリアと官兵衛は彼に向かって深々と頭を下げると真斗は笑顔で右手を横に振った。
「いえいえ。私はただ皆様の憧れを叶えてあげたまでですマリア殿、官兵衛殿」
「ねぇ真斗、ここから見える湖って本当に美しいわね」
真斗の腕を掴んで側に立つ竹取がそう言うと真斗も前を向き竹取と共にバルコニーの先に広がるの神秘と一言では言い表せない美しい自然豊かな湖の風景を見ながら笑顔で頷く。
「ああ、そうだなぁ竹取。俺も初めてここへ来た時にこの風景を見て感激したよ。本当に何度見ても美しい場所だよ」
その後、ワイバーンを使って官兵衛達も教会へ来ては共に湖の風景を眺め、そして教会に保管されている聖遺物、聖釘の一つを拝見し、その後は教会の聖堂で神父から洗礼と祝福を受けた。
それから真斗達はエルサレムへと戻り、信長達と合流し、共に市場や各十字軍国家の騎士団分支部、聖誕教会、嘆きの壁、ゲッセマネの園などを見て回り聖地エルサレムの文化や風習を知って行った。
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その日の夜に用意された屋敷に戻った信長達はエルサレムで知った様々な知識を見直しながら書物に鮮明に書き残していた。
一方、真斗は後から到着しボードゥアンと謁見していたラムセスと竹取とメリトアメンを交えて婚姻の件について大広間で話し合っていた。
ソファーに座るラムセスは真斗から聞かされた問題に少し罪悪感を感じていた。
「そっか。つい娘のめでたさで忘れていたよ。すまない真斗殿、今回の婚姻の件は無かった事にする」
ラムセスの左隣に座り聞いていたメリトアメンは驚く。
「そんな!父上‼︎どうにかならないのですか?」
必死に懇願するメリトアメンであったが、ラムセスは彼女に向かって首を横に振った。
「メリトアメンよ。すまないが、こればかりはどうしようも出来ん。他国同士の結婚とはお前が想像しているより複雑でややこしくてな」
ラムセスの口から出た突き付けられる現実に呆然とするメリトアメン。すると二人の会話に割って入る様に真斗のソファーに座る真斗が声を掛けた。
「お二人共、実は我が正室であります竹取がある妙案を思い付きまして、それなら結婚出来るかもしれません」
真斗の口から出た信じられない言葉にラムセスとメリトアメンは驚いた表情で真斗と竹取の方を向く。
「本当ですか⁉︎本当に真斗様と結婚出来るのでか?」
まだ少し疑うメリトアメンに真斗は揺るぎない自信に満ちた笑顔で頷く。
「ええ、出来ますよ。詳しくは妻の竹取が説明いたします」
そう言って真斗の右隣に座る竹取は軽く二人に向かって一礼をした。
「はい。他国同士の結婚は様々な事が絡まり合って非常に複雑となっています。なので今回はメリトアメン様を結婚としてではなく猶子、すなわち養子として鬼龍家に嫁がせるのです」
竹取の妙案、それはメリトアメンを養子として鬼龍家に迎え入れると言う物であった。
あまりにも突拍子な竹取の案にラムセスはキョトンとしながら問い掛けた。
「養子?それは即ち、どう言った事なのですか?」
ラムセスの問いに竹取は手振りで説明を始めた。
「普通の嫁入り婿入りでは大きな危険があります。しかし養子と言う形で嫁入り婿入りさせれば双方どちらかの一族とは赤の他人、即ち絶縁したと言う世間に対する言い訳が立ちます」
事実、前田 慶次は前田家に使える家臣の子で腕の良さを見込まれ養子として前田家に迎い入れられた。もし仮に慶次の実家が裏切りや謀反を起こしても慶次本人は既に前田家の人間である為、世間から変なレッテルを貼られる心配はない。
これは他国同士の結婚でも言える事であり、竹取は養子縁組と言う抜け穴を活かしたのだ。
竹取の説明を聞いたラムセスは納得した表情をする。
「なるほど。確かにそれなら問題は解決出来る。いやはや竹取殿、恐れ入りました」
ラムセスは嬉しい笑顔で竹取に向かって頭を下げると彼女は笑顔で首を横に振った。
「いいえ陛下。私はただ知っている知識で解決案を出したまでですので」
「ええっ⁉それじゃ私は真斗様と結婚出来るんですか?父上」
驚くメリトアメンにラムセスは笑顔で頷き、答えた。
「ああ。出来るとも。それで真斗殿、改めてどうか私の娘であるメリトアメンを貰ってはもらえないだろうか?」
深々と頭を下げるラムセスに真斗は笑顔で頷いた。
「武士に二言はなし。分かりました陛下。まだまだ力不足かもしれませんが、メリトアメンは必ず私が守り幸せにします」
真斗は固い決意の元、ラムセスに向かって頭を深々と下げながらメリトアメンを嫁入りを受けた。
「不束者ですが、真斗様、竹取様、よろしくお願いします」
そう言いながらメリトアメンはソファーから立ち上がり、二人に向かって頭を下げる。
そしてお互いに頭を上げると真斗は笑顔で竹取に向かって言葉を掛けた。
「今回は本当に助かったよ竹取。心からありがとう」
真斗からのお礼の言葉に竹取は少し照れる。
「いいのよ真斗。それより真斗の助けになって私も嬉しいわ」
その後、真斗はメリトアメンを養子として鬼龍家に嫁入りした事を報告。信長を含めた他の者達は大いに祝福する一方で日ノ本とエジプトとの関係はより一層、深く固く結ばれる事となった。




