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FIERCE GOOD -戦国幻夢伝記-  作者: IZUMIN
【第二章・欧州征伐(上)】
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第 漆拾弐 話:避けられぬ修羅の道

 ガルビーヤの戦いから三日が経過した夕暮れ時、昨日の朝方に氏康達はカイロに凱旋するやいなや多くのエジプトの民達から救国者として盛大に出迎えられた。


 カイロのみならずエジプトの各地の都市でも戦勝が祝われ、また氏康達の活躍は各地の吟遊詩人の手によって歌として伝わった結果、彼らの肖像画や彼らをモデルとした物語などが数多く作られた。


 そんな氏康達の事を尊敬し讃える中でアルカホーラ城の大広間では氏康達の活躍を労う為の祝勝パーティーが盛大に開催されていた。


「氏康殿(どの)、此度の戦いエジプト全土を代表として心から感謝を申し上げる。本当にありがとう」


 そう言い、用意された玉座に座るラムセスは目の前で和服を着こなし片膝を着いて頭を下げる氏康に向かって深々と頭を下げた。


「ありがたき幸せです陛下。こちらこそ、この北条 氏康、(いくさ)に参加した武将達を代表して感謝を申し上げます。ありがとうございます」


 そう言って氏康は正座をして深々と頭を下げると彼の後ろで正座で控えている和服を着こなした源三郎達も深々と頭を下げた。


 その後、信長達やエジプトの貴族達などを交えた戦勝パーティーはラムセスの乾杯と同時に始まり、用意されたワインや料理を飲み食いしながら楽しんでいた。


 そんな中で源三郎は人目を避け一人、氏康を人気(ひとけ)のない薄暗い廊下に連れ出した。


「どうした源三郎?大事な話があると言ってこんな所に連れ出すなんて」


 少し驚いた様な表情で言う氏康に対して背を向ける源三郎は氏康の方へと体を向けると深々と彼に向かって頭を下げた。


「突然、こんな所に連れて来てしまって申し訳ありません。実はお話ししておきたい事がありまして」

「分かった。では申してみよ」


 許可を出した氏康に向かって源三郎は頭を上げ早速、話を始めた。


「実は今回の十字軍の襲来ですが、どうやらエジプトの神官長でありますイムホテップが裏で手を引いていたようです」


 源三郎の口から出たとうんでもない話の内容に氏康は驚いた。


「馬鹿な⁉︎出会った時はきな臭い奴だと思っていたが!まさかエジプトを‼︎ラムセス王を裏切っていたのか!」

「はい。どうも怪しいと直感で思い、密かに鬼龍家のくノ一であります鬼華を使って奴の周辺を探らせたところ、伝承鳥を使ってバチカンと密接していた様です」


 源三郎の調査結果に氏康は深刻な表情となり、ある事を源三郎に尋ねた。


「それで源三郎、なぜ奴は、イムホテップはエジプトを裏切ったんだ?」


 氏康の問い掛けに源三郎は少し目を背けるながら少し悲しい表情で答えた。


「はい、どうやらイムホテップにはアナクスナムと呼ばれる宮廷の踊り子で王直属の魔術士と恋愛関係でしたが、一回目の十字軍のエジプト侵攻の際に連れ去れてしまい捕虜交換として身代金を払えば返すと十字軍が要求して来たのですが、ラムセス王は身代金を渋ったそうです。その結果・・・」

「殺されたっと言うわけか」


 氏康の口から出た答えに源三郎は苦虫を噛んだ様な表情で頷く。


「それが原因で愛する人を見捨てた国王、エジプトを恨み、その無念を晴らす為に裏切った訳か」


 氏康の憶測に源三郎は頷くとある事を話し始めた。


「それともう一つありまして、イムホテップは今回の十字軍を手引きした罪をラムセス陛下に被せるつもりです」


 イムホテップの次なる計画に氏康は言葉を失うかの様に驚く。


「何だと‼︎もしそんな事になれば!我ら日ノ本との同盟はなくなり‼︎間違いなく信長様はエジプトを征伐対象として報復に出るぞ!一刻も早くこの事をラムセス陛下に伝えないと‼︎」


 氏康は慌てながら振り返りと駆け足でパーティー会場へと戻ろうとしたが、源三郎は走って彼の前に出て止める。


「いけません氏康様‼︎イムホテップは間違いなくクロ(確信犯)ですが!明確な証拠がない以上‼︎我々の話しはタチの悪イタズラ話として受け流されてしまいすし!もし真相を嗅ぎ付けた我らをイムホテップはどんな手段を使ってでも日ノ本がエジプトへ報復する為の道具にされるかもしれません‼︎」


 源三郎の言っている事は正論である。家臣が主人を裏切る話しが耳に入っても本当に裏切るのか明確な証拠がない以上、処断する事は難しい。


 ましてやこの中世の世では民に対する威厳が最も重要であり、民から愛されている者に裏切りの疑いがあっても証拠がない以上、不用意に処断すれば民からの支持はなくなり最悪、内乱の引き金になってしまう。


「ではどうすればいい源三郎!このまま放っておけば日ノ本は間違いなくエジプトと戦う事になるぞ‼︎」


 慌てる様な表情で源三郎の両腕を掴む氏康に対して源三郎は優しく振り払う。


「打つ手はあります。ただし、この方法はあくまでも他に打つ手がなくなった時の奥の手です。まさに汚れ仕事ですが、やりますか?」


 真っ直ぐな視線と真剣な表情となって問う源三郎に対して氏康は揺るぎない覚悟を決めた表情で頷いた。


「構わない!避けられない道となった以上は‼︎腹を括るしかない!」

「分かりました。では、その手ですが、」


 源三郎はそう言って氏康に奥の手を事細かに誰にも聞こえない様に伝えた。


⬛︎


 パーティーへと戻った源三郎と氏康は何事もなかった様に楽しみながら、その一方で左之助、忠司、平助そして信長にイムホテップの企みを密かに伝えた。


 そして深夜、パーティーはお開きとなり、参加達は上記で城を後にする中でイムホテップは四人の護衛を連れて神殿へと戻って行った。


 その様子を見ていた源三郎達は(きょう)、直虎、義昭に用事があるからと言い残し光が消えたスラム街へと向かった。


(十字軍は敗れたが、まぁいい。後は王に内通の罪を被せて軍事力に勝るジパングと戦わせて滅ぼせば、いいだけの事だ)


 イムホテップはそう心の内で語り、笑っていると護衛の兵士達が突然と狭い路地の真ん中で立ち止まる。


「どうした?急に・・・‼︎」


 目の前の護衛二人の間からイムホテップは路地の奥に黒い和服姿に顔を隠す様に頭に黒い雨笠を被った男性が二人、行手を塞ぐ様に立っていた。


「お前達は誰だ?そこを退け!私はエジプトの神官長、イムホテップ・アヌビスだぞ!」


 イムホテップが強く二人の男に向かって発するが、二人は無言であった。すると更に後ろの護衛二人の前にも黒い和服姿に黒い雨笠を被った二人の男性が左右の細道から現れて行手を塞ぐ。


 そして青白く輝く半月の月が雲に隠れた瞬間、行手を塞ぐ四人の男達はイムホテップに向かって走り出し、狭い路地にも関わらず刀を抜いて護衛四人を斬り捨てた。


 護衛が居なくなった事で腰を抜かし、後退りするイムホテップに辻斬り(殺し屋)の一人がゆっくりと近寄る。


「まっ!待て‼金が目的ならいくらでもやる!だから命だけは‼」


 必死に命乞いをするイムホテップであったが、近寄って来た辻斬りは何も言わず冷徹で冷酷な眼差しで鮮やかな刀捌きでイムホテップの首を斬り、そして心臓を突き刺して絶命させる。


 そしてイムホテップを殺した男は片膝を着いて被っている黒い雨笠をクイッと上げる。


「左之助、例の“あれ”を」

「はい、ご家老」


 左之助は頷き、懐から何を出して身を低くする源三郎に渡す。そして左之助から受け取った物をイムホテップの死体の側に置いた。それはホルスが刻まれた金のメダルであった。


「よし!では帰るぞ皆」


 源三郎がそう言いながら手に愛刀に付いた血を懐から出した和紙で拭き取り、鞘に納めると左之助、忠司、平助も懐から出した和紙で刀に付いた血を吹き取り鞘へを納めた。


「「「はい!ご家老」」」


 三人が返事をすると源三郎を先頭にその場を駆け足で去って行った。


 実は源三郎達には鬼龍家の家臣としての顔の他にもう一つ、別の顔を持っていた。それは凄腕の辻斬り(殺し屋)であった。


 元々、彼らは九州で活動していた忍び崩れ(忍者を辞めた者)の凄腕の辻斬り(殺し屋)でかの有名な剣豪、『宮本 武蔵』ですら四人の腕を“天下無双に匹敵する辻斬り(殺し屋)四人衆”と評した。


 ある日、とある下級武家の依頼で源三郎達は島津 義弘を暗殺する為に夜な夜な島津家の屋敷に忍び込んだが、寝間着の義弘に気配で(さと)られ、しかも狭い屋敷内と言う源三郎達の有利な空間であったにもかかわらず義弘に圧倒され、最後は捕縛されてしまった。


 本来であれば処断されていたが、四人の噂を耳にしていた義弘は彼らの腕を見込んで島津家へと誘った。当初は島津家に入る事を拒んでいた四人であったが、義弘が抱く薩摩と九州の人々の願う太平の世を築く夢を聞いた事で武士の魂に目覚め、雇い主である下級武士を裏切り島津家、特に義弘を主人として鞍替えしたのであった。


 その後は義弘の家臣として(いくさ)を駆け抜けるのと同時に義弘の夢の為に辻斬り(殺し屋)として島津家に意見対立する武士や敵対する武士を闇夜に乗じて暗殺していた。それは鬼龍家に仕えてからも変わらず、しかも源三郎達が辻斬り(殺し屋)である事は当主のみしか知らない事実となっている。



 時は遡り源三郎達がイムホテップを暗殺する前。イムホテップの裏切りを信長に伝えたところラムセスが何故その様な事をしたのか真意を知る為に人気(ひとけ)のない部屋に呼び出し、源三郎達を交えてイムホテップの裏切りを話した。


「なるほど・・・まさかイムホテップが」


 椅子に座り項垂れる様に顔を下に向けるラムセスに対して腕組みをする信長が問い掛けた。


「なぜ身代金を支払わなかった?払っていればイムホテップが貴方やこの国を裏切りる事はなっかたのに」


 少し怒りを感じる口調の信長に対して罪悪感と後悔に満ちた表情でラムセスは事の発端を話し始めた。


「うむ。実はアナクスナムは私を主体とした国際的な交流による国の発展を目指す海国(かいこく)派と対立する元老院議会の保守派が王家に送り込んだ刺客だったのだよ」


 ラムセスの口から出た意外な事実に信長を含めて源三郎達は驚く。


「なんですと⁉それは本当ですか?」


 驚く氏康にラムセスは彼に向かって頷く。


「ああ。保守派は自国の文化と文明を尊重し、尚且つ国外の文化と文明を異端と見なして嫌っている。だから国際交流を行い他国の文化や文明なんどを取り入れて国を強化する私の政治方針を嫌っている」

「だから保守派は王の元にアナクスナムを刺客として送ったと言う事ですね?」


 源三郎の指摘にラムセスはそうだと言っている様な表情で頷く。


「そうだ。目的は私を含めた王家を堕落させる事だった。だが私の元にも忠誠心ある密偵がいてなぁ。彼から報告からアナクスナムの正体を知った。だが彼女が明確に保守派と繋がっている証拠がない以上、王家に信頼を寄せる国民の事を考えると無暗に処断する訳にもいかなかった。だから・・・」

「あえてアナクスナムを十字軍の捕虜にして彼女の処断を肩代わりさせたと」


 氏康が真意を突くとラムセスは切羽詰まった様な苦しい表情で頷く。


「ああ・・・苦肉の策だったよ。この事をイムホテップに話せば彼はファラオの次に強い権力を持つ神官長の立場を使ってアナクスナムを保護する可能性がある。そうなってはイムホテップは彼女を通じて保守派の操り人形になる恐れがあったからだ」


 自身が進める方針の元で信じる国の未来の為とは言え苦渋の決断をしたラムセスの心境に皆は同情する。


「その気持ちは理解出来る。俺が目指した太平の天下統一も決して修羅の道を行かなったわけではなかった。謀略、策略、そして暗殺、敵対する者だけでなく時には目指す未来(あす)は同じでも意志の違う家臣を手に掛けた事もあった」


 信長が少し悲しみを感じる様な同情する表情でこれまで自身が行った天下統一の中で歩んだ修羅の道を語るとラムセスは苦笑いをした。


「ふふっやっぱり国が違っても目指す未来の為に苦渋の決断は避けられないっと言う事か」

「それでどうしますか陛下?イムホテップをどうするのかは貴方様の意志で決めて下さい」


 氏康がそう問い掛けるとラムセスは迷う事無く意を決した表情で答えた。


「彼を・・・イムホテップを暗殺する。こんな事を信長に頼むは申し訳ないが、」


 ラムセスが何を言わんかを察した信長は笑顔で頷く。


「ああ、分かっている。任せろ」

「では信長様、そのお役目は我ら鬼龍家にお任せ下さい」


 源三郎が自ら名乗りを上げると信長は少し疑う様な眼差しで問い掛けた。


「お前一人で大丈夫か?暗殺と言っても相手は高い身分の者だ。護衛をする者もそうとな手練れのはずだ」


 すると源三郎の左右に左之助、忠司、平助が笑顔で立つ。


「ご心配ありがとうございます。しかし私だけではありません。鬼龍四天王と謳われる我らが役目を果たしますゆえ」


 源三郎の揺るぎない自信に満ちた姿に信長は納得した笑顔をする。


「そうか、では頼む。後の事は私とラムセスで何とかする」

「はい。ではすぐに準備を行います」

「ちょっと待ってくれ源三郎殿(どの)


 源三郎達が暗殺準備の為に部屋を去ろうとした時に椅子から立ち上がったラムセスが近付いて来た。


「これを殺したイムホテップの側に置いてくれ」


 そう言ってラムセスは懐から何かを取り出し源三郎に渡した。


「これは?」


 ラムセスが源三郎の右手に渡した物はホルスが刻まれた金のメダルであった。


「それは元老院議員、特に保守派を示す“ホルスのメダル”だ」


 ラムセスがそう説明すると源三郎は察した。


「なるほど。今回のイムホテップ暗殺を元老院の保守派が行った事にして名目上、処刑とする形で粛清する考えですね陛下」


 源三郎の鋭い洞察力から導き出した答えにラムセスは関心した笑顔で頷く。


「その通りだ。なんせ保守派は民から嫌われているしイムホテップとも対立している。そのメダルが死体の側にあったとなれば民達は保守派を激しく弾圧するしイムホテップの裏切りも日の目を見る事はない。暗殺方法は君達に任せる。頼んだ」

「ははぁーーーっ!」


 言いながらラムセスに向かって頭を下げた源三郎は左之助、忠司、平助を連れて準備の為に部屋を後にした。


 部屋に残ったラムセスは信長にそっと話し掛けた。


「信長よ。俺が今、国の未来の為に行っている事は間違っているのか?もしそうだとしたらイムホテップはおろかアナクスナムを殺さずに済んだかもしれない」


 椅子に再び座り、項垂れる様に顔を俯き自身の行動を後悔するラムセスの背中を信長は笑顔で優しく撫でた。


「そんな事はない。お前のやろうとしている事は決して間違いないではない。だが人生の道には必ず避けようのない修羅の道は来るのだ」


 すると氏康もラムセスの前に立つと身を低くして笑顔で励ました。


「信長様の言う通りだ。俺も小田原北条氏の安泰の為に数え切れない(いくさ)をした。天下を望んでいなくても自身が望む未来(あす)の為に修羅の道を歩んだよ」


 ふと氏康の脳裏に自ら天下を望まなくとも太平の世の為に修羅の道を行く真斗の姿が浮かんだ。


「あいつも・・・源三郎達の主人で、俺のもっとも尊敬出来る友の・・・鬼龍 真斗も俺達以上に修羅の道を進んでいるのだから」


 二人からの励ましでラムセスは顔を上げ気力を取り戻し、覚悟を決めた。


「ありがとう信長、氏康。俺もエジプトの王として修羅の道を進む覚悟で新たな国の未来を作ってみせる!」


 源三郎達が辻斬りを行った翌日にはイムホテップの暗殺は国全体を揺るがす大事件として瞬く間に国民の間に広がった。


 無論、源三郎達が現場に残したメダルが証拠となりイムホテップを暗殺した犯人は元老院の保守派達となり、ラムセスと共に国民からの支持が厚いイムホテップを暗殺した保守派は激しい弾圧と批判を受ける事となった。


 裁判の結果は即時、斬首刑となり保守派達は最後まで無実を訴えたが、前々から国民からの支持が低い保守派達の訴えに国民は耳を貸す事はなく保守派は全員、首を刎ねられた。

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