第 漆 話:想い人と歩く道
真斗が竹取の告白を受け取った翌日。
二人はより深くお互いを知る為に平安京の様々な場所を共に訪れていた。
「しかし、ここ清光からの景色は最高だなぁ」
快晴の清光本堂の舞台造りから絶景を眺めて笑顔で言う真斗の右隣には市女笠を被った竹取も笑顔で絶景を眺めていた。
「そうですね。ここからの眺めは私もとても好きなの」
「そっか、俺もだ。俺は七の時に政宗の伯父上に連れられて、ここに来てな。あの時は背が低くて伯父上に肩車して景色を眺めたのが、ここでの一番の思い出だ」
真斗の思い出を聞いた竹取はクスクスと笑う。
「真斗もそうだったのね。実は私も七の時にお爺様に連れられて来たの。それで風景をよく見たいと言ったらお爺様が肩車をして下さったの」
「へぇー。竹取も同じだったのか。なんだか似ている所があるなぁ俺達」
「ええ。本当に似た者同士なのかもね」
すると真斗と竹取はお互いに顔を合わせると大笑いをするのであった。
真斗と愛馬である轟鬼で清水寺を後にした二人は次に平安京一と言われる甘味処である“虹揚羽屋”に立ち寄り、テーブルに向かい合って座っていた。
「ここの甘味はとても美味しいのよ。私のお気に入りはこし餡団子とかき氷でね。真斗はお気に入りの甘味は?」
市女笠を取った竹取が笑顔で問うと真斗は腕を組んで少し考える。
「うんーーーーっ一杯あるが、やっぱり饅頭とみたらし団子だな」
「あら、意外と真斗って定番が好きなのね」
「ああ、そうなんだよ。でも竹取が好きな甘味も俺は好きだよ」
「うふふふふふっありがとう」
好きなお菓子を話し合っていると真斗と竹取が注文した抹茶かき氷を食べるのであった。
⬛︎
それから平安見物を終え、竹取の屋敷へと戻った二人は縁側で寄り添い座っていた。
「竹取、この中庭は凄いなぁ。池に映る“鏡月”が美しいな」
真斗からの褒め言葉に竹取は少し照れて笑顔になる。
「ありがとう真斗。実はこの“鏡月”は甲府の西湖で観られる“逆さ富士”を意識して作らせたの」
「へぇー。確かに言われてみれば、庭の作りが西湖に似ているな」
関心する真斗は目の前にある赤い銚子を手に取り黒い盃に米酒を注ぎ、飲む。
「なぁ竹取、一つ聞きたいんだが、なぜあんな無理難題な品を結婚条件にしたんだ?」
真斗からの問いに竹取は少し暗く曇った表情で中庭を眺めながら答える。
「実は私は二十の時にとある貴族へ嫁入りしたの」
そして竹取も銚子を手に取り盃に米酒を注ぎ、一口飲む。
「でも、婿は私を正妻にした事に満足して愛人にばっかり愛を注いだの。結局、私は世間を納得させる為の飾りだったの。それで別れて次に婿を取る時は気持ちを確かめる為にしたの」
竹取の過去を聞いた真斗は酒を飲み少し不機嫌になる。
「なるほどね。でも、しかしそいつは酷いな。自分の妻を大切に出来ない者は武士の風上に置けないなぁ」
「じゃ真斗は私を大切に出来るの?」
すると真斗は持っている盃を置き、笑顔で竹取の方を向く。
「ああ。例え命を差し出してでも竹取、お前を守ると約束する」
真斗の答えに竹取も持っている盃を置き、笑顔で真斗の笑顔を見る。
「ありがとう。私、真斗と出会えて凄く幸せよ」
「俺もだよ竹取。お前と出会えてよかった」
そして真斗と竹取は目を閉じて美しい月光の元でキスをするのであった。
⬛︎
二週間の時が経った蝉の声が鳴き響く晴天の朝過ぎのこと。
平安京伊達家武家屋敷では多くの下男と女中が慌ただしく大量の食器や座布団、料理の用意が行われていた。
大広間では源三郎が動き回る多くの下男と女中に指示を出していた。
「あ!君!そこの座布団はもうちょっと間を開けて!それはそこに置いて!君!屏風は鳳凰ではなく黒竜を!皆!今日は若と竹取様の婚礼の儀!しかも儀には多くの高名な者達も集まる!我ら鬼龍家の名に恥じぬようにしっかりと準備するのだ!よいな!」
源三郎からの喝に皆は作業の手を止め、気合いの入った表情をする。
「「「「「はい!ご家老!」」」」」
そして皆は再び作業を再開し、素早く丁寧に用意を行う。
一方、個別となっている和室では真斗と竹取は婚礼の儀の為に正装の準備をしていた。
「おおぉ!真斗様の正装姿、まさに伊達前ですよ!」
真斗の着ている大紋を褒める下男に真斗は照れて人差し指で鼻の下を擦る。
「そっか。しかし大紋姿は元服以来だなぁ」
「はっ。私もよく覚えております。二十になった真斗様がこの武家屋敷で政宗様より元服をお受けになったのを。あの時の真斗は大変、お美しいかったです」
「ありがとう。それより戦で亡くなった父上と母上は俺の婚礼を喜んでくれるかな?」
真斗のふとした疑問に下男は明るい笑顔で答える。
「真斗様、その様な心配はせずとも天界に極楽浄土に居られます、お父上様もお母上様もお喜びになっていますよ」
それを聞いた真斗はホッとするのであった。
「そうだよな。竹取の方はどうかな?どんな姿になるか楽しみだ」
嬉しそうに言う真斗の隣の和室では竹取が二人の女中によって白無垢の着付けをしていた。
「まぁーーーっ!竹取様!白無垢が大変お似合いですわ!」
「ええ!本当に‼︎まるで天照大神様のみたいに神々しく美しいですわ!」
色鮮やかな着物とは違い、純白の白無垢を着た竹取はまさに天女の様な美しい姿となっていた。
「この白無垢を着るのも久しぶりだわ。でも今度の婚姻は前とは違う。これは真に愛する人と共に愛を育てる始まりの日よ」
そう笑顔で言う竹取の胸の内には真斗と共に描く未来を抱いていた。そして自ら鏡を見ながら口紅を着けていく。
それから身支度を整え折烏帽子を被った真斗と綿帽子を被った竹取が同時に和室を出て廊下で出会う。
「おおぉ!竹取、いつも着ている綺麗な着物とは違って凄く綺麗だよ!」
竹取の白無垢を真斗は笑顔で素直に褒めると竹取は笑顔になる。
「ありがとう、真斗。貴方もいつもと違って高貴で男前を感じるわ」
「ハハハハッ!そっか‼ありがとう竹取。じゃ行こうか」
「ええ。私達、二人の未来を共に歩む道へ」
真斗と竹取は前を向くと腕を組み大広間へと歩み始める。そして二人の歩く廊下はまるで未来へと向かう道の様であった。