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FIERCE GOOD -戦国幻夢伝記-  作者: IZUMIN
【第二章・欧州征伐(上)】
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第 陸拾肆 話:地下迷宮(下)

 メガロサウルスとの激しい戦いで戦死者だけでなく負傷者も多く出し、現状の探索隊は出発した時の半数以上にまで減少していた。


 予想以上の被害に、夕暮れ時に行われた協議の結果、ジュスランとレイモンは動ける騎士達と冒険者達と共に戦死者の遺体を持って転移魔法で地上に戻る事となり、一方の真斗はロバートとロバートとフルクを中心に騎士達と冒険者達を合わせた二十五人で再編した部隊で第四階層に向かう事となった。


 その日の夕食は倒したメガロサウルスを解体し、得た肉とあちこちにあった小さな洞窟内で採集した野草を使った料理が振る舞われた。


 トルコのギュウェチとレバノンのファラーフェル、イスラエルのピタが出される中で真斗は日ノ本の料理を作っていた。


「あの真斗様、今日の日ノ本の料理はなんですか?」


 エナが笑顔で尋ねると真斗は笑顔で平べったい岩に置いたまな板で食材を切りながら答える。


「今日は薄く切ったギガノトサウルスの肉と野草の玉ネギを使った“すき焼き丼”だ」


 初めて聞く料理名にエナは首を傾げる。


「スキヤキドン?それはどんな料理ですか?」

「米、ライスを使った料理だ。凄く美味くて病み付きになるぞ」


 真斗はそう言いながら調理を始め、まずフライパンを焚き火で熱して油を入れ全体に回すと薄く切ったギガノトサウルスの肉と玉ネギを入れる。


 そしてよく火が通るまで炒めると木製の小さなボールに入ったタレを入れ、さらに炒める。熱で弾けるタレの音に食欲を刺激する甘いタレの匂いに皆は惹かれた。


「うーーーーん。美味そうなぁ匂いだ。怪我をしている身だけど、食欲が出て来たよ」


 少し大きな石に腰を置き、負傷した左腕を包帯で巻き、首に掛けた白い布で動かない様にしたジョナサンが嬉しそうに言うと調理する真斗は笑顔で頷く。


「そうだろうジョナサン。よーーーし、これでいいな。後は」


 そして真斗は出来たすき焼きが入ったフライパンを別の平たい石の上に置くと今度はフライパンを置いた石の上に重ねた丼を手に取り、地面に置いてある大きな鉄の鍋の蓋を開け、あらかじめ炊いておいた麦飯を丼へと入れ、最後の仕上げに木製のお玉でフライパンのすき焼きを乗せて行った。


「はい!完成だ。すき焼き丼だ」


 そう言って真斗は皆に出来立てのすき焼き丼を笑顔で配って行き、自分とジョナサン、そしてエナの分を作り終えるとようやく夕食に入った。


 真斗の作ったすき焼き丼をスプーンで食べた騎士達と冒険者達はその美味さに驚きと歓喜の声を出していた。


「何だこれは⁉︎甘い香りとは裏腹にほんのり塩っぱく食欲が湧く!」

美味(おい)しい!美味(おい)しいわ‼︎このソースが肉と炊いた麦に絡まる事で食べる手が止まらないわ!」

美味(うま)い!今まで生きて食べて来たどんな肉料理より別格の美味さだ‼︎」

「これがジパングの料理⁉︎信じられない!食べれば食べる程に逆にお腹が空くわ‼︎」


 一方のジョナサンとエナも初めて食べるすき焼き丼の美味さに驚いていた。


美味(うま)い‼︎玉ネギの甘辛とソースの甘塩っぱさ!そして何より焼いた事で溶け出した肉の脂が絡まる事で生まれる美味さはまさに一つの芸術だ‼︎」

「本当ね!義兄(にい)さん‼︎別々にして食べるライスと主食をスープ皿に入れて一つにする事だけで!こんな美味しい料理になるなんて!」


 少し大きな石に腰を置き、感激の笑顔で感想を述べる二人の姿に丼を手に少し大きな石に腰を置く真斗はクスッと笑った。


「それはよかった。んじゃ俺はこの食べ方で味わうか」


 そう言って真斗はカゴに入った白い生卵を一つ、手に取ると持っている丼の淵で割ってすき焼きの上に落とし箸で掻き混ぜ、そして口へと掻き入れた。


 口の中に広がる生卵のまろやかさが合わさったすき焼きとタレを吸った麦飯の美味さに真斗は喜ぶ。


「ん〜〜〜〜〜っ♪これだよ♩これ♩すき焼きには欠かせない生卵があってこそ♫すき焼き丼の真の美味(うま)さは完成するんだ♬」


 まるで子供の様に喜びながら美味しそうに食べる真斗の姿にジョナサンとエナは思わず生唾を飲んだ。


「なぁーーーっやってみないか?生の卵を掻けて食べるって何だか美味(おい)しそうだよな」

「ええ、そうね義兄(にい)さん。やってみましょう」


 そう言ってジョナサンとエナもカゴに入った卵を手に取り割ってすき焼き丼に乗せて食べる。するとまるで全身に稲妻が走ったかの様な衝撃がジョナサンとエナを襲った。


 口の中に広がる、この世の物とは思えない美味(うま)さに思わず二人は歓喜の涙を流してしまう。


「何だよこれは‼こんな料理が本当に存在していたなんてぇ!」

「信じられないわ‼︎ただ生の卵を乗っけて一緒に食べただけなに⁉︎」


 真斗達の食べ方を少し遠目で見ていた者達は同じ食べ方をした結果、大絶賛となり以降、十字軍国家内ですき焼き丼は新たなソールフードとして根付くのであった。


⬛︎


 翌日の朝にはジュスランとレイモンは負傷者と戦死した者達の亡骸を持って転移魔法で地上へと戻った。


 一方のフルクとロバートは真斗達を連れて予定通りに第四階層を目指して螺旋階段を降りていた。


 階段を降りている時に真斗は後ろにいるジョナサンに言葉を掛けた。


「なぁーーっジョナサン、本当に大丈夫か?いくら片腕だけを負傷しただけとは言え片腕で戦うのはかなり厳しいぞ」


 歩きながら振り返り心配する真斗に対してジョナサンは笑顔で右手を横に振った。


「大丈夫だ真斗。一応、片腕だけで剣が振える様に練習はしているから問題ないさ」

「そっか。それならいいんだ」


 少し安心した様に笑顔になる真斗。すると話している内に階段が終わり、最下層である第四階層に到着した。


 第四階層は今までに階層とは違い、まるで宮殿の様な作りをした大きな廊下とデザインをしていた。


「ここだけ今の階層と大きく違うなぁ。て事はジョナサン、これは当たりかな?」


 真斗が辺りを見渡しながらそう言うとジョナサンも笑顔で頷く。


「ああ、こいつは間違いなく宝物庫だろうな」


 少し先へ進んで行くと巨大な両開きの扉の前に着き、扉には洪水で流される人達や動物達の姿の光景が真ん中にあり、その上には方舟に乗った人達と動物達の姿の光景、そして下には地下迷宮へ逃れる人達と動物達の姿の光景がイコンとして刻まれていた。


「ほほぉーーーーっこいつはすごいなぁ。でも・・・どうやって開くんだ?」


 真斗の言う通り扉にはドアノブの様な物は一切なくピッタリと閉まった扉を開けようと皆で手分けして仕掛けを探す。


 するとエナが扉と扉の境目で何かを見付ける。


義兄(にい)さん!これを見て‼︎」


 エナが大きく呼ぶと左右に分かれて探していた真斗とジョナサンは駆け足で彼女の元に向かった。


 そしてエナは手で土汚れを払い落とすと魔法陣が現れた。


「ねぇ義兄(にい)さん、この魔法に魔力を注げば扉が開くんじゃない?」


 エナの推測にジョナサンは頷く。


「ああ、きっとこれが扉を開ける為の魔法陣だ」

「んじゃ開けてみますか」


 真斗がそう言うとエナは頷き、右手に手の平を魔法陣に置き魔力を注ぎ始めた。


 すると魔法陣と共にイコンが白金色に輝き出し、轟音と共に扉がゆっくりと左右にスライドして開き始めた。


 扉が完全に開くのと同時に閉ざされていた空気の壁や柱に掛けられている松明と天井に提げられている多くのシャンデリアの蝋燭が独りでに火が灯り、全体を明るくし中を見た真斗達は言葉を失う程に驚愕しながら中へと入った。


 中にあったのは隙間なく置かれた古代エジプト、古代メソポタミア、古代バビロニア、古代ヒッタイト、古代イスラエルの時代に作られた美術品や書物などの数々に、さらに奥には金銀宝石などの財宝が入った箱が山の様に積まれていた。


 まさに宝の山に多くのロバートとフルクを含めた騎士達や冒険者達は大興奮していた。


「こいつは・・・想像以上にすごいなぁ‼︎これだけの数の宝物(ほうもつ)を!一体どうやって運び入れたんだ‼︎」


 興奮する真斗は前を歩くジョナサンに問うと同じ様に興奮するジョナサンは首を横に振った。


「それは分からないけど!ここにある財宝の量は下手をしたらギルガメッシュの宝物庫を超えるかもな‼︎」


 二人が子供の様に発見した財宝に喜んでいる中でエナは書物の中を漁っていた。


「うーーーーん。どれもこれも一般技術の資料だけね。魔法学に関する書物はないのかしら?ん!」


 エナは積み重なった本の中から一冊の布に包んだ本を見付けて手に取った。


「何かしらこれ?」


 不思議に思いつつエナは本を包む布を取り、中を確認すると驚愕する。


「これって‼︎」


 エナは急いでジョナサンの元に走って向かい、そして見付けた本を彼に見せた。


義兄(にい)さん!義兄(にい)さん!すごい本を見つけたわ‼︎」

「すごい本?」


 ジョナサンは不思議そうな表情でエナが持って来た本を手に取る。


 その本はまるで乾燥して干からびた皮膚の様に表紙がグニャグニャしており、また開いたページは赤黒いインクで書かれた解読不可能な文字で埋め尽くされていた。


 真斗も覗き込む様に本の中身を見て不思議そうな表情で首を傾げた。


「何だこの文字は?色々な文献をエルサレム大図書館で見たけど、これは何と言うか異様と言うしか」


 真斗がそう言った後に突然、エナは一旦、ページを閉じ再び表紙を戻すと自ら右の親指を歯で切って流れ出す血を表紙に垂らす。


 すると垂らした血が一瞬で表紙に吸われると迷路の様な五角形に、その真ん中に瞳があるマークが浮かび上がり、それを見た真斗とジョナサンは驚く。


「おい!ジョナサン‼この印はまさか!」

「ああ!そうだ真斗‼エナ‼この本は!」


 二人の確信にエナは少し興奮した笑顔で頷く。


「ええ、そうよ。この本の名は“|كتاب العزيف《キターブ・アル=アズィーフ》”、すなわち“ネクロノミコン”よ」


 そう。エナが見つけた本こそ失われし旧支配者達のあらゆる魔術知識が記された禁忌にして最古の魔術書、|ネクロノミコン《日本語では“死霊秘法書”》であった。


 その後、真斗とジョナサン、ロバート、フルクを交えた話し合いでネクロノミコンを含めた書物や美術品、そして軽い財宝を持って転移魔法で地上に帰還したのであった。

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