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FIERCE GOOD -戦国幻夢伝記-  作者: IZUMIN
【第二章・欧州征伐(上)】
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第 陸拾弐 話:地下迷宮(上)

 塔の入り口前ではテンプル騎士団、聖ラザロ騎士団、ホスピタル騎士団、聖墳墓騎士団の騎士達の他にエルサレムギルドの冒険者達が集まっていた。


 今回の迷宮(ダンジョン)探索の部隊は四つに分けられ、聖墳墓騎士団と冒険者チームの『剣の修道医師団』で編成された第一分隊、聖ラザロ騎士団とホスピタル騎士団で編成された第二分隊、冒険者チームの『黒の三日月』と『モーセの聖石巡教』で編成された第三分隊、そして真斗達が参加するテンプル騎士団と冒険者チームの『銀の門の東方魔術師会』で編成された第四分隊となった。


 そして物資を持って塔の中へと入り、建設時に作られた大きな地下室に出来た大きな竪穴へ松明とランタンを手に入る。


 竪穴の向こうには明らかに高度な技術で作られた地下へと向かう巨大な空洞の螺旋階段があり、探索隊は地下へと向かった。


 松明を持って階段を降りる真斗は先の見えない闇へ一歩一歩、進むにつれて伝わって来る狂気に満ちた重苦しい空気に少し汗をかく。


「何だ!この異様と呼ぶには言い難い空気は。まるで死神が俺達を誘っている様だ」


 緊張と恐れで固まった表情で今の状況を呟く真斗に後ろにいるジョナサンが話し掛ける。


「その気持ちは分かるよ真斗。でも迷宮(ダンジョン)とはこう言う物なんだ。我々の常識を超える未知がそこにある。そして人々はその未知へと挑むんだ」


 真斗は納得したかの様な苦笑いをする。


「そうだな。日ノ本のことわざで“好奇心は猫を殺す”があるかなぁ。とりあえず慎重に行こう」

「そうだな真斗」


 そう言って二人は迷宮(ダンジョン)へ向かう階段を降りているとエナが途中で躓いてしまう。


「おい、エナ。大丈夫か?」


 片膝を着いて躓いたエナは右足の足首を右手で掴みながら答える。


「ええ、大丈夫よ義兄(にい)さん。ちょっと足首を捻っただけよ」


 すると真斗は胸元から手拭いとチャブクロから木製で円形型の小さな入れ物を出し、そして入れ物に入っている塗り薬を真斗は優しくエナの捻った右の足首に塗って手拭いで縛った。


「これでよし!この塗り薬は(じい)の、俺の大切な家臣が作ってくれた薬でなぁ。効き目は抜群だ」


 真斗が明るい笑顔でそう言うとエナは一瞬、ドキッとしてしまったが、すぐに慌てた様に一礼をした。


「あ、ありがとうございます真斗様」

「いいてことよ」

「ありがとう真斗」


 ジョナサンも笑顔でお礼を言うとエナを優しくゆっくりと立ち上がら再び階段を降り始めた。



 探索隊が最初に到着したのは地下迷宮(ダンジョン)第一階層、古代密林が広がる空間であった。


 巨大な空間の天井には人口太陽があり、環境は東南アジアやインド半島に似た湿度の高さに探索隊は生い茂る草木の中を進んでいた。


「しかし、何だこの暑さは。今まで経験した暑さとは比較にならんぞぉ」


 滝の様に流れる汗を拭きながら愚痴を溢しながら密林を進む真斗に対して後ろを歩くジョナサンも苦笑いで話し掛ける。


「そうだなぁ真斗。まったく、この暑さは本当に堪えるよ」


 すると真斗は立ち止まり、鋭い目つきで周りを見渡しながら鞘に収まっている赤鬼(あかき)を少し出し、警戒する。


 急に態度を変えた真斗にジョナサンは近付き問い掛けた。


「おい!どうした真斗。何か居るのか?」


 真斗は周りを見渡しながら、まるで鬼すら恐れさせる程の殺気を撒き散らしながら答える。


「ああ、ジョナサン。左右の密林の奥だ。上手く風景に溶け込んではいるが、気配を感じる。こちらの動きを観察し、襲撃する機会を窺っている」


 それを聞いたジョナサンはアーミング・ソードを抜き、大声で叫ぶ。


「全隊‼警戒!警戒せよぉーーーーーーーーーっ‼左右の密林に何か居るぅーーーーーーーーーーーっ!」


 それを聞いたジュスラン、レイモン、ユリア、ロバートもすぐに剣を抜き、そしてロバートはすかさず指示を全隊に飛ばした。


「総員!警戒体制ぇーーーーーーーーーーーーっ‼盾持ちは槍を構えて密集陣形だぁーーーーーーーーーーっ!」


 ロバートからの指示に各騎士団の盾持ちの騎士達は急いで隙間なく肩を寄せ合いカイト・シールドを斜めに置き構え、持っているランスを構える。


 そして冒険者達も武器を構え、魔術師達も後方援護の体勢を取る。


 一方の真斗とジュスランも愛用の刀と剣を抜き、そしてエナも戦闘体勢を取った。


 どこから来た風で靡く草木の葉っぱの騒めく音に戦場などで身に付いた視線を感じ取る集中力を高めた皆の緊張感が一気に高まった。


 真斗は赤鬼(あかき)を構えながら密林の奥に潜む未知の存在に警戒をしていると風が突然と吹き止む。すると突然、密林の奥から人を軽く超える何かが飛び出し真斗に襲い掛かった。


「チェストォーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ‼」


 そう叫びながら真斗は素早い動きで避けると、その流れで何かの首を斬り落とす。そして倒された物は太古の支配者、肉食恐竜の『ヴェロキラプトル』であった。


 そして真斗は大声で皆に向かって叫ぶ。


「皆の者ぉーーーーーーーーーーーっ!来るぞぉーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ‼」


 真斗が言い放ったのと同時に左右の密林の奥から体に風景に溶け込む色をした羽毛を生やしたヴェロキラプトルの群れが相手を威嚇する鳴き声をさせながら一斉に襲い掛かって来た。


 だが、真斗がいち早くラプトルの存在に気付いた為、騎士達は構えたカイト・シールドでラプトルの一撃を防ぎながら一斉にランスで突き始める。


 だが中には騎士達のカイト・シールドを飛び越え、内側に複数の個体が侵入した。しかし、真斗を含めた後方の者達は冷静にお互いの背後を守りながらラプトルを確実に倒す。


 攻撃を受けたラプトル達の悲痛な叫び声とラプトルの一撃を喰らい悲鳴を上げる者達の声、そして何より生々しい肉が斬られ刺され、血が噴き出す音が周囲一帯に響き渡る『人(VS)恐竜』の激しい乱戦となった。


 乱戦の中で真斗は鬼の様な形相で襲い掛かって来るラプトルを素早い動きで避けながら愛刀の赤鬼(あかき)で刺したり斬ったり、時には片手で首根っこを掴み投げ飛ばしたり、顎に向かって膝蹴りを食らわすなどで次々と向かって来る脅威を倒して行った。


 一方のジョナサンも殺気に満ちた表情で愛剣のハルバート・ヘルムを振いながら素早い動きで避け、そしてラプトルの首や胴体を斬っては刺すなどして倒す中でエナは無詠唱で火と風の魔法攻撃を繰り出し、危うくなった者達の背後を守っていた。


 そして遂にヴェロキラプトルの群れは襲った真斗達、探索隊が自分達の想像以上の強さを見せた為、敵わないと判断し群れのリーダーであるメスのヴェロキラプトルが甲高い鳴き声を出し、生き残った個体を引き連れて退散した。


 ヴェロキラプトルの群れが逃げ出したのを見た皆は持っている武器を高々に上げながら歓声を上げた。



 その日の人工の星空が煌めく夜、少し開けた場所に設置した野営テントで戦闘で負傷した者達の手当てと戦死した者達の弔いを行っていた。


 積み上がった薪の上に丁重に布で全体を巻き、乗せられた戦死した者達の死体。そしてロバートは火の点いた松明を持った騎士達に合図を送り薪に染み付いた油に点火し火葬を始めた。


 燃え盛る炎と黒煙を上げながら灰となって行く死体の光景にジョナサンはロバートに右側に近づき問い掛ける。


「ロバート将軍、よろしいのですか。火葬はキリストの教えに反する行いですよ」


 苦渋の決断の様な表情でロバートはジョナサンの方を向き答えた。


「分かっている。でも遺体を持って進むのは愚行だ。せっかく勇猛果敢に戦った者達の遺体が原因で探索隊に疫病が流行ってしまえば、彼らの勇姿は不名誉になってしまう」


 するとロバートは持っているバスタード・ソードの刃先を地面に刺して前を向き、再び遺体が燃える炎を見る。


「だからこそ、主の教えに反してでも彼らの名誉を守ろう」


 一切迷いのないロバートの答えにジョナサンは納得した表情をする。すると真斗もロバートの左側に近づき悲しみを感じる真顔で頷く。


「そうですね。ロバート殿(どの)の言う通りだ。勇敢な者達が“人々を苦しめる害悪な存在”となるよりも“仲間を命がけで守った戦士”として眠らせよう」


 真斗がそう言うとロバートが片膝を着くとジョナサン達、キリスト教徒達も片膝を着き始める。そしてロバートは頭を俯き、祈りを始めた。


「主よ。どうか我にのみ教えを反した罪の罰をお与え下さい。彼らはただ私の指示を受け実行したまでです。どうか彼らの行いに慈悲をお与え下さい。そして勇敢に戦った者達の魂を、どうか主の元にお導き下さい。アーメン」


 そしてジョナサンを含めた他の者達も片膝を着き祈りを捧げた。また他のイスラム教徒やユダヤ教徒と冒険者達も弔いの言葉を捧げ、真斗も手を合わせ仏教に伝わる弔いの言葉を捧げた。


 弔いが終わった後は倒したラプトルの肉を使った夕食が出された。トルコの伝統料理のケバブやレバノン料理のシャワルマ、そして肉料理に欠かせない野菜料理はビタミンなどのバランスが取れたイスラエル・サラダが振る舞われた。


 一方で真斗は卵、小麦、そして乾燥し細かく砕かれたパン粉で少し分厚く切られたラプトルの肉に塗し鍋一杯に熱した油へと入れる。


 さらに揚がるまでの間に真斗は木製のボールに卵と少々の塩と砂糖、そして切った玉ネギを入れ混ぜると熱したフライパンに入れるタイミングでカツを揚げ、素早くまな板に乗せ包丁で切ってフライパンに入れた卵の上に乗せる。そしてボールに残った混ぜた卵をカツの上に掻け、蓋をする。


 しばらく経って蓋を開けると黄金色に輝く卵に包まれたカツが出来上がり、それを炊いた米が入った丼へと入れ『カツ丼』を完成させた。


「どうぞ皆さん!食べて下さい‼我が日ノ本の伝統料理のカツ丼です!美味しいですよ‼」


 真斗は笑顔で大量に作ったカツ丼を一つ一つ丁寧に手渡しする。


 カツ丼を受け取った皆は初めて食する味に感激の声を上げていた。


「何だ!この料理は⁉今まで食べた事がない味だ‼」

「美味しい!美味しい!食べる手が止まらない‼」

「ああ!これは本当に美味しい‼日ノ本の食文化は素晴らしい!」

「ライスが甘いタレと合わさる事で!肉の歯ごたえと淡白な卵の美味さを高めている‼」


 そして真斗も自分の分を手に取り、ジョナサンとエナの居る所へと向かった。焚き火を囲む様に横に置かれた丸太に座るジョナサンとエナはフォークでカツ丼を食べていた。


「ねぇーーっ義兄(にい)さん。このカツドンって呼ばれるジパングの料理!凄く美味しいわ‼」


 人生で初めて食するカツ丼の美味しさに感銘しながら感想を述べるエナに対して彼女の右側に座るジョナサンも笑顔で頷く。


「ああ、そうだなエナ。実はジパングにはカツ丼以外にもまだまだ美味い物がいっぱいでなぁ。刺身って言う魚料理があってな。これが魚を生のままで食べる料理なんだ」

「えぇーーーーっ⁉魚を生で‼そんな食べ方をしたら、お腹を壊しちゃうでしょ」

「確かに生では食べられない魚はあるけど、基本は生で食べられるよ」


 そう笑顔でカツ丼を持ちながら現れた真斗がジョナサンの代わりに答え、そして彼女の左側に座る。


「刺身だけじゃないぞ。鍋料理や野菜料理、それに揚げ物なんか何処の国の料理よりも負けない美味さだぞ」


 真斗が少し自慢げに日ノ本の料理を教えると聞いていたエナは関心した笑顔となる。


「そうなんですか真斗様。では時間がある時にでもジパングの料理を教えて下さい。私、実は料理作りが好きなので」


 真斗はエナからの願いに明るい笑顔で頷く。


「ああ、いいぞ。俺の知る限りの色々な日ノ本の料理を紹介しよう」


 そう言って真斗は箸を使ってカツ丼を食べ始めるのであった。



 ラプトルの襲撃から翌日の朝には第一階層の探索を再開。密林の奥を進むに連れてラプトルの他にアロサウルスやテクノサウル、シルヴィサウルス、ケントロサウルス、ホマロケファレ、スティラコサウルスの群れと遭遇、そしてメソポタミアの様な造りをした建物を大きな木のツタや根っこに覆われた居住区を発見した。


 探索隊は建物内の調査を行ったが、中は散乱し貴重な物は発見されなかった。


 真斗も愛刀の赤鬼(あかき)を使ってツタや根っこを斬って室内を調査していた。


「うーーーむ。長い時が経っているから室内は散乱しているなぁ。ん!これは・・・」


 真斗はとある一室の床に倒れた本棚の下に一枚の折り畳まれ、薄茶色に変色した紙を見付け、手に取った。


 その後、広場と思われる広い場所に集合した真斗はロバートに見付けた紙を手渡した。


「おおぉーーーーっ!これはこの地下迷宮(ダンション)の見取り図だ。これなら探索の移動が楽になった。ありがとうございます、真斗殿(どの)


 ロバートが笑顔で真斗に向かって一礼をすると真斗は笑顔で首を横に振る。


「気にしないで下さい。皆様のお力になったまでですよ」


 その後、探索隊は居住区を後にし先へと進むが、途中でヴェロキラプトルよりも大きなメガロサウルスと遭遇。単体とはいえラプトル以上の乱戦となり、犠牲者も出た。


「ジョナサン!俺に合わせてくれ‼奴の臑を絶つ!」

「分かった!真斗‼」


 真斗からの指示にジョナサンは返事をし、そしてタイミングを合わせて二人はメガロサウルスの噛み付き攻撃を避け、足元に飛び込むとすれ違う様にメガロサウルスの臑を斬った。


 臑を斬られた事で苦痛に満ちた咆哮を上げながら前から倒れたメガロサウルスに騎士達と冒険者達はアリの様に群がりメガロサウルスを倒すのであった。


 そして倒したメガロサウルスを解体し肉を調達した後は真斗が見つけた地図を頼りにツタで覆われた階段を発見し探索隊は更に下へと向かったのであった。

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