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FIERCE GOOD -戦国幻夢伝記-  作者: IZUMIN
【第二章・欧州征伐(上)】
57/58

第 伍拾漆 話:黒い死の軍隊

 義昭、(きょう)、直虎と交わった(セッ●ス)日から二日後の朝、しばらく疲労で動けなくなった真斗はようやく体力が回復し今は源三郎達とジョナサン達を連れてまだ見ていないバグダッドの南区画にある商業(いち)を歩きながら見物していた。


 色んな人々が行き来し、様々な物が売られ賑わう商業(いち)に和服を着こなし網代笠(あじろがさ)を被った真斗は目を輝ける。


「ほほぉーーーっ流石、バクダッドだ。ここまで発展した市場は初めて見た」


 歩きながら素直な感想を述べる真斗に対して彼の右側を和服を着こなし、網代笠(あじろがさ)を被り、歩く源三郎が笑顔で説明する。


(わか)のご命令でバグダッドの最大の書物が所蔵されていますムスタンスィリーヤ学院の図書館で様々な書物を拝見し、色々と知りました。しかし、意外でした。まさか図書館でジャファル様の侍女で補佐官の“マスルール・ラル=アドゥバ”様とお会い出来とは」


 そう笑顔で語る源三郎、そして真斗の前を歩きながら美しいアラビアドレスを着こなすマスルールが笑顔で源三郎の方を向いて軽く頷く。


「いえいえ、私も遥々、アッバースへお越し下さったジパングの人々にお会い出来て光栄です」

「しかし、よろしいのですか?我らの為に自ら市場を案内人をしても?」


 真斗からの疑問にマスルールは笑顔で頷く。


「ええ、構いませんよ。それにジャファル様からも、“もしノブナガかもしくは関係者の人達と出会ったら積極的に交流しないさい”と言われておりますので」

「そうですか。それはありがとうござい」


 真斗は納得した笑顔でマスルールに一礼をする。そいてマスルールの案内で一行はまず食材や食器などを売る店が立ち並ぶ大通りへと着く。


 そしてまずはアラビアの食器や宝石などを扱う店の前で真斗達は物を手に取り、吟味していた。


「ほほぉーーーっこの首飾りと腕輪の彫刻は綺麗だな。竹取(かぐや)達のお土産にするか」


 愛する竹取(かぐや)達に対するアラビア土産を選ぶ、一方でを小袖を着こなし、市女笠(いちめがさ)を被るきょう、直虎、義昭、鬼華は目を輝かせながら自分用の宝石類を手に取り吟味していた。


「この緑の宝石が付いた指輪、いいわね。あ!この紅白色の宝石が付いた指輪は(かく)のお土産にしよう」

「この真珠の首飾り綺麗ね。こっちの真珠の付いた腕輪もいいわね」

「うんうん、この色んな宝石を付けた髪留めは私に似合いそうね。あ!こっちの耳飾りは幽斎のお土産にしよっと」

「おおっ!この青、赤、緑の宝石が付いた


 また和服を着こなし網代笠(あじろがさ)を被る源三郎、左之助、忠司、平助は職人が丹精込めて作った食器を手に取り隅々まで吟味していた。


「おおぉ!この銀を使ったお盆の形はいいな。わびさびを感じるなぁ」

「うわぁ!この金を使った細長いお茶碗は美しくていいな。お!こっちの淵が曲がった奴もいいな」

「うむ。この銅を使ったアラビアの急須は小さいが、何だか可愛いな」

「ほおぉ!この銀のフォークとナイフ、それにスプーンはとてもいいな」


 真斗達は各々の欲しい物を選び出した後は真斗が自分を含めた全員分の品代を両を換金したディルハムで支払った。


「ねぇ真斗、本当にいいの?私達の分まで支払っちゃって」


 (きょう)は心配そうに尋ねると真斗は笑顔で右手を振る。


「いいんだよ。それに俺を含めて皆の分を支払いたかったのも俺が決めた事なんだし、気にするな」


 真斗の誠実で純粋な答えに(きょう)達は感銘を受ける。無論、その気持ちはマスルールにも届いていた。


(なんと!一国の王や皇帝すら凌ぐ広大な心の持ち主なの。こんな人が極東のジパングに居たなんて‼︎)


 そう心の内で真斗の偉大さに感心するマスルール。続いて彼女は真斗達を北東にある奴隷市場を案内する事となった。


 先程の市場とは打って変わって賑やかではあるが、雰囲気は重く店の前にはハシャラヒューマン以外の人間、エルフ、ドワーフ、獣人などの種族が男女問わず首に値札をぶら下げた奴隷用の首輪を着けられ立たされていた。


 物苦しい雰囲気の中を歩く真斗達は嫌な表情で周りを見ていた。並べられた奴隷達は清潔を保つ為に体は綺麗に洗われてはいるが、着ている服は薄汚れたボロボロの生地で、しかも中には全裸の状態でいる者もいた。


「どうですか?我が国、最大の奴隷市場は。このでは同種であるハシャラヒューマン以外の人種は全て揃っていますよ」


 先頭を歩きながら笑顔で真斗達に奴隷市場を説明するマスルール。だが当の真斗達はいい気分にはなれず、逆に嫌悪感であった。


 素通りする店の前では立たされる者達や家畜の様な檻に狭苦しく入れられた者達、中には気味の為にボロボロの服を破かれ、その場で望まない性的奉仕をさせられる者達もいた。


「すまぬが、マスルール様。この国では奴隷市場は当たり前なのか?」


 そう尋ねる真斗に対してマスルールは立ち止まり笑顔で頷く。


「ええ、当たり前ですよ。奴隷は農業や荷運び、更には屋敷の召使い、用心棒にも出来る大切な存在ですので。もちろん奴隷には人権はありませんが、相手は人ですから丁重に扱う事が義務化されています」

「そっか・・・」


 マスルールの答えに納得する真斗ではあるが、その表情は嫌悪感であった。そして真斗の重い口調でマスルールに言う。


「マスルール様、実は我が国、日ノ本には鎌倉幕府と呼ばれる武士政権がかつて存在していまして、天下を平定した鎌倉幕府は平安時代まで続いていた奴隷制度を廃止する身売り禁止令を出したのです。遊郭即ち国外で言う風俗以外での人の売り買いは禁止されていて、文化の違いは十分承知していますが、それでも奴隷市場を見るのはとても心が苦しいのです」


 それを聞いたマスルールはハッとなり、申し訳ない表情で深く頭を下げる。


「それは!申し訳ありません‼知らなかったとはいえご気分を悪くさせてしまい申し訳ありません!」


 深く謝罪するマスルールの姿に真斗は笑顔で首を横に振る。


「いや、気にしないで下さい。文化やお国柄の違いは仕方がない事です。マスルール様が謝る必要はありませんよ」

「ありがとうござい、真斗様」


 そう言ってマスルールは嬉しそうな笑顔で再び深く頭を下げる。すると彼女の背後の奥になぜかサーコートとチェイン・メイルを着こなしたジョナサンが檻に入れられた奴隷達をじっくり見ている姿が目に入り、真斗は駆け足で向かった。


「おい!ジョナサン‼こんな所で何をしているんだ?」


 真斗の声に横を向いたジョナサンは笑顔で右手を軽く上げる。


「おおっ!真斗じゃないか。お前もどうして奴隷市場に居るんだ?」

「あ、いや。俺達はマスルール様の案内で市場の見学をなぁ。で、お前達は?」


 ジョナサンは真斗の問いに答える様に自分の胸元から貼り付けにされたイエス・キリストが付けられた銀製のロザリオンを取り出し、真斗に見せる。


「実は地中海からエジプトに聖戦として侵攻した第九次十字軍遠征時に組織された第一次少年十字軍に従軍した妹の“エナ”を探しているんだ」

「そうなのか。ん!?でもお前って捨て子だったよな?」


 ふとした疑問を真斗が言うとジョナサンは素直に答えた。


「ああ、そうさ。実は十の時に教皇と親しい関係だったフランスの貴族夫妻が俺の事を気に入って後継として養子になったんだ。それで出会ったのが、義妹のエナだったんだ」


 ジョナサンの説明を聞いた真斗は納得した表情で頷く。


「なるほどね。そう言えば我が国でも聞いた事があるな第一次少年十字軍の末路を」


 真斗はそう言って下顎を右手で触りながら話を続けた。


「確かエジプトの領土であるシナイ半島に上陸してモーゼが“十戒の石板”を授かったモウセ山まで侵攻したが、エジプト軍に退路を断たれて包囲された挙句、味方と思っていた十字軍国家がエジプト軍に味方し全滅。しかも何とか逃げ出した第九次十字軍の指揮官が地中海を渡る為に第一次少年十字軍に従軍した少年少女達を奴隷として商人に売り渡したとか」


 真斗がそう言うとジョナサンは悲しい表情で見せた首飾りを胸元に戻すと頷く。


「そうだ。このロザリオンは妹の、エナの物なんだ。俺がキリスト騎士団の命で休息として故郷のカンヌへ帰省したんだが、帰宅した時に出迎えた両親からエナが第一次少年十字軍に従軍したと聞いた時は驚いて急いで馬でトゥーロンへ向かったよ」


 ジョナサンの身内である妹を心配する兄の気持ちに真斗は共感する。


(確かにそうだよな。俺だっていきなり妹の愛奈が知らいない地への遠征に参加すると言ったら無理でも止めるな)


 兄としての気持ちを理解する真斗に対してジョナサンは深く溜め息を吐きながら悲しい表情で話しを続ける。


「でも遅かったエナが乗った船は既に出航していて、俺は必死に桟橋から甲板に出ていたエナに向かって手を振って叫んだけど、エナは俺の姿を見送りと勘違いして俺に向かって、さっき見せた首飾りを投げたんだよ。でも俺は」


 ジョナサンが最後に言いかけた事に対して真斗が代わって続けた。


「それが永遠の別れに思えたか。分かるよジョナサン、その気持ち。十字軍の遠征は過酷で帰って来る人は殆どいないと聞くよ」


 真斗のその言葉にジョナサンは胸元にしまった先程の首飾りを右手で再び取り出し、ギュッと握る。


「ああ。だから俺は今回の第十次十字軍に参加したんだ。カトリックの改革派の為だけじゃなく妹のエナを探す為でもあったんだ。最初のエジプトのカイロではないも手掛かりが掴めなかったけど、もしかしてと思ってバグダッドならと思ったけど、ここでも手掛かりはなかった」

「そっか・・・」


 努力が報われないジョナサンの姿に対して真斗は何と言葉を掛けていいか言葉が出なかったが、優しく右手を彼の左肩に置き無言で励ました。


 するとジョナサンの後ろからチチャクヘルムとチャール・アイナを着こなしたイスラムの兵士が馬を走らせ、向かっている事に真斗が気付いた。しかも兵士の表情はどこか慌てていた。


「第40軍だぁーーーっ!第40軍がバグダッドに攻めて来たぞぉーーーーーーーっ‼︎」


 叫ぶの様に言いながら馬に乗った兵士は砂埃を上げて去って行くと、それを聞いていた奴隷市場の人々は凍り付いた様なゾッとする表情となって賑やかさが一変、混乱したかの様に騒ぎ始めた。


 真斗達は何事かと思って辺りをキョロキョロしていると別の馬に乗った兵士が先に行った兵士を追いかける様に現れたのでマスルールが大きく手を振って前へと出る。


「そこの城壁兵よ!止まれぇーーーーーーっ‼︎私はジャファル大臣の補佐官!マスルール・ラル=アドゥバである‼︎」


 走る馬の前に出た彼女に気付き、急いで止めた兵士は馬上から右手を胸に当てて一礼をする。


「これはマスルール様!馬上より失礼いたします‼︎」

「構わん!それで一体何があった?」

「はい!実は先程‼︎ ネフド砂漠方面の砂丘より突如!第40軍が現れました‼︎完全武装で各攻城兵器も確認しまたので!バグダッドへの総攻撃は確実です‼︎」


 兵士からの報告にマスルールは苦虫を噛んだ様な難しい表情をする。


「あいつらめぇーーーーーっ!主力軍がバグダッドを離れているのを狙ったなぁーーーっ‼︎分かった!お前はすぐに宮殿に向かってこの事をすぐにジャファル様に伝えるんだ‼︎」


 マスルールからの厳命に兵士は一礼をする。


「はっ!」


 そして兵士は手綱を振るって再び馬を走らせた。


 一方、話しを聞いていた真斗は真剣な表情で鬼華に名を出した。


「鬼華!先に城壁に向かって敵がどのくらい居るか確かめて来い‼︎」


 真斗からの厳命に鬼華も真剣な表情となって一礼をする。


「はい!(わか)様‼︎」


 そして鬼華は着ている小袖と市女笠(いちめがさ)を剥ぎ取る様に脱ぎ捨て、一瞬で忍び服の姿となり、高いジャンプ力で左右の壁や屋根を飛び移りながら先へと向かった。


 そして真斗はマスルールにある事を言う。


「マスルール様!行ってみましょう‼︎我らの方が迫って来る者達を確認する事が出来ます!」


 真斗が真剣な表情で敵の偵察を持ち掛けるとマスルールは少し悩むが、すぐに首を縦に振った。


「そうね!奴らがどこまで来ているか確かめないと戦いようがないわ‼︎分かりました!では付いて来て下さい‼︎」

「はい!」


 力強く返事をした真斗は皆を連れて慌てる人々を掻き分けながら城壁へと向かった。


⬛︎


 マスルールの案内で着いたネフド砂漠に面する城壁へと着いた真斗達は城壁の上に登り、敵の位置を確認した。


「何だあの数は⁉︎まるで黒い砂が蠢いている様だ!」


 驚く真斗に対して彼の右隣に立つが険しい表情で迫り来る大群マスルールが言葉を掛ける。


「あれが第40軍!別名は“黒い死の軍隊”よ」


 大地の殆どを埋め尽くす様に行軍で鳴り響く足音と共に砂丘を続々と超える黒いチチャクヘルムまたはターバンとチャール・アイナを着こなした兵士達は左腕に黒いラウンドシールドを着け右手に黒いシャムシールやランス、ショートボーなどと言った武器を持っていた。


「第40軍?マスルール様、一体奴らは何もですか?」


 真斗からの問いにマスルールは答える。


「第40軍は解放奴隷の兵士であるマムルークで組織された軍です。元々はイスラム帝国軍に所属していましたが、ある日、40軍の指揮官であった“アジム・ラ・カシャス”が突然、軍と共に帝国を離反したんです」

「離反⁉︎なぜ離反などしたんだ?」


 真斗からの更なる問いにマスルールは首を横に振る。


「私を含めて彼と親しかった人物も理由は誰一人として分かりません。離反後は帝国内だけでなくエジプトやムガル、時にはオスマンにレバント地方(現在の地中海東部)を治める十字軍国家に対して略奪や軍事侵攻を繰り返す盗賊の集団となったんです」

「なるほど」


 ジワジワと迫り来る第40軍を見ながらマスルールの説明に納得する真斗。すると真斗の影から片膝を着いた状態で影移動の術を使った鬼華が現れる。


(わか)様、ただいま戻りました」


 突然、後方に現れた鬼華にマスルールは驚く一方で真斗は第40軍から目を背けないで真剣な表情で鬼華に問い掛けた。


「ご苦労だった鬼華。それで敵の総兵力は?」

「はい。バグダッドに向かっている敵の総兵力は確認した時点で四万弱と思われます」


 鬼華の報告にマスルールは驚愕し、鬼華の方を向く。


「何!四万だと⁉︎ダメだ!今‼︎バグダッドに居る帝国兵は城壁兵と一部、宮殿に残った近衛兵を合わせても五百未満だ!こんな兵力じゃとてもバグダッドは守り切れないわ‼︎」


 すると真斗は動揺するマスルールに対して“ある提案”を彼女にする。


「マスルール様、私に一つ提案があります。今、バグダッドに残っている兵力をマスルール様が指揮し、このまま城壁を死守して下さい。私は少数の兵士を連れて馬で城壁より飛び出し敵に向かって突っ込み、乱戦を起こして出来る限り敵の兵力を分散させます。上手く行けば主力の到着まで時間が稼げるはずです」


 真斗からの提案を聞いたマスルールは言葉を失ってしまう。


「そんな!少数で大群である敵に向かって突っ込むなんて‼︎自殺行為だわ!ならば私も出来る限りの兵を連れて一緒に行くわ‼︎」


 友を死なせたくない想いを感じる表情で同行を志願するマスルールだったが、真斗は首を横に振った。


「それはダメです!マスルール様‼︎都市を守る兵士達を統制する者が居なくなったら!それこそ敵にバグダッドを明け渡すのと同じです‼︎どうか!貴女様はここへ残って守備する兵士達の指揮をお願いします‼︎」


 深々と頭を下げる真斗の姿から伝わってくる懇願に少し迷ったが、マスルール様は首を縦に振った。


「分かりました。ではすぐに馬と兵装の用意を!」


 すると真斗はマスルールに向かって右手を横に振る。


「いいえ馬の用意だけで結構です。鬼華!道中で別れた(じい)達は今!どこにいる?」


 真斗の問いに鬼華は立ち上がり答える。


「先程!私の分身がご家老達と合流しました‼︎分身からの報告ではもう間もなく甲冑と武器を携えてこちらに到着します!」


 鬼華からの報告に真斗はキリッと真剣な表情となる。


「分かった!(じい)達には分身を通して南西の門であるクーファ門に来るように伝えろ‼」


 真斗からの命に鬼華は深々と一礼をする。


「はい!(わか)様‼」

「それではマスルール様!後はお願いします‼」


 真斗からの頼みにマスルールも真剣な表情で頷く。


「分かりました!では後で‼」


 お互いに一礼をした後に真斗は鬼華を連れて門へと向かい、一方でマスルールは急いで集めらるだけの兵士を集めに向かった。



 砂漠を行軍する武装した兵士達と共に黒い馬に跨り、黒いチチャクヘルムとチャール・アイナを着こなした第40軍の男性指揮官、アジムが軍の真ん中に居た。


「よし!バグダッドを守る兵力がいない今がチャンスだ‼お前らぁーーーーっ!好きなだけ奪え‼殺せ‼今この時より!バグダッドは我ら第40軍の‼理想郷となるのだぁーーーーーーーーーーーーーっ‼」


 それを聞いた第40軍の兵士達は歓喜の声と共に持っている武器を高々に上げる。


 そして第40軍がクーファ門まで近づいた時、突然と固く閉ざされていた門が開かれた。それを見たアジム達は嘲笑った。


「見ろ!バグダッドの連中は我らを前にして恐れおののいてい都市を明け渡しおったわぁ‼」


 そうアジムは勝利を確信した様な人を見下す様な悪意に満ちた笑顔で言った次の瞬間、開いた門の奥から兜と甲冑を着こなした真斗達とサレットヘルムやノルマンヘルム、アーメットヘルムと白いサーコートを上にしたチェイン・メイルを着こなしエティエンヌとニコラスを連れたジョナサン達がマスルールが用意した馬に跨り、真斗達は右手に和槍をジョナサン達は右手にランスを左手にヒーター・シールドを持って物凄い勢いで突っ込んで来た。


 そして先頭を走る真斗は物凄い形相で後から付いて来る皆に向かって大声で命を出す。


「全員ーーーーーーーーーーっ!一列隊形ぇーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ‼」


 真斗からの命に源三郎達は右へ、ジョナサン達は左へ展開し一列になる。それを確認した真斗は更なる命を大声で出す。


「槍!構えぇーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!」


 そして真斗を含め、皆は第40軍の兵士達に向けて槍を構える。


「掛かれぇーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ‼」


 真斗が大声で言った瞬間、いきなり真斗達が門から出て来た事に第40軍の兵士達は呆気にとられてしまい、物凄い衝突音と共に何人かの第40軍の兵士が後方に向かって叫び声を上げながら吹っ飛んで行った。


 馬を使って第40軍に突撃した真斗達はそのまま大乱戦となり、砂埃を上げながら第40軍の兵士達は果敢に真斗達を囲む様に攻撃するが、馬を失い落馬されても怯む事はなく、また槍を失っても日本刀(カタナ)とアーミング・ソードを使って逆に死兵その物となって応戦を続けた。


 たった十数人程度の真斗達に第40軍の兵士達は何とか倒そうとするが、逆に真斗達から来る鬼気迫るオーラに圧倒されていた。


「なっ!何なんだよ‼︎こいつらはぁーーっ⁉︎

「有り得ねぇーーよ!こっちは四万!相手はたかだか十数人だぞ‼︎」

「しかも!あの俺達と同じ黒くて見たこともない兵士達‼︎嘘だろ!盾も持たず剣一本で斬撃と防御をしているぞぉーーーーっ‼︎」

「くそ!くそ!何だよ‼︎あの女戦士達は!あの茶髪の女戦士‼︎軽々と男をぶん投げているぞぉーーーーーーーーーっ!」


 真斗達とジョナサン達からの予想外の奮戦に徐々に第40軍の兵士達は戦意を削られていた。だが、そんな彼らをアジムは鼓舞する。


「恐るなぁーーーーーーーーーっ!敵は手強いが所詮は人だ‼︎奴らが疲れ切った所で一気に畳み掛けろぉーーーーーーーーーっ‼︎」


 馬の上から大声で出されたアジムの命に第40軍の兵士達は持っている武器を天に向かって上げ、声を上げた。


「「「「「「「「「「おおぉーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ‼︎」」」」」」」」」」


 アジムの読みは正しかった。いくら実戦経験があり鍛えた体力を持った真斗達とジョナサン達でも、ほぼ単身で全ての敵を相手にするのは限界があった。


 ましてや熱い砂漠の中で体力と体内水分の消耗は激しく、戦闘中に真斗は一瞬、意識が遠退き危うく敵の攻撃を喰らってしまう場面が多々見られた。


 敵に囲まれながらも真斗は敵が怯んでいるうちに滝の様に流れる汗を手で拭き取り、そして愛刀の赤鬼(あかき)に付いた敵の血を払い落とすと蛟の構えをする。


 身に纏う甲冑と変わり兜の中に立ち込める流れる汗で生まれた熱気と天高く登った太陽から来る灼熱に真斗は息切れをする。


(くそ!この暑さではいつまで保つか‼︎だが、何とか敵の半数をこちらに向ける事は出来たが、主力の到着までにはまだ時間がいる‼︎)


 心の内で語る真斗。彼を囲む第40軍の兵士達はラウンドシールドを構えながら徐々に真斗との距離を詰めて行く。


(くっ‼︎こうなったら!もはや奥の手だ‼︎)


 覚悟を決めた真斗は素早く赤鬼(あかき)を鞘にしまい、そして草薙の剣を抜き天に向かって剣先をを掲げる。


 それを見た第40軍の兵士達は足を止めた。そして真斗は天に向かって大声を出す。


「唸れ天よ!轟け雷鳴よ!荒ぶれ風よ!須佐之男命(スサノオノミコト)の力の前に‼悪しき者達を打ち滅ぼせぇーーーーーーーーーーーっ!」


 そう言った後に真斗は剣を大きく振り下ろすと突然、分厚い黒い雲が雷鳴と共に現れ、瞬く間に太陽と大空を隠し風まで起き始める。


 突然の環境変化に攻撃の手を止めた、第40軍の兵士達。すると一人の第40軍の兵士が風向きが背後から来る事が気になり、ネフド砂漠の方を振り返ると驚愕する。


「お!おい‼あれを見ろ‼」


 その兵士の驚愕する声に他の第40軍の兵士達も振り返ると砂を含んだ巨大な風の壁と無数の竜巻、しかも落雷を起こしながらバグダッドに向かっていた。


「砂嵐だぁーーーーーーーーーーっ!」

「バカな‼今の季節は砂嵐は起こらないはずだ!」

「しかもなんだよ!あの大きさは‼竜巻と落雷もあるぞ!」


 想像を絶する巨大な砂嵐に第40軍の兵士達は混乱を起こす中で真斗を取り囲む兵士達を蹴散らし、源三郎達とジョナサン達が現れる。


(わか)!剣を使ったのですね!」


 源三郎からの問いに真斗は剣を鞘に戻し、頷く。


「ああ!それより(じい)達はすぐに皆を連れてバグダッドに戻れ!俺はここに残って奴らを食い止める」


 真斗の命に源三郎は驚く。


「まさか!(わか)‼︎お一人で!いいえ!例え(わか)の命とは言え聞き入れません‼︎この河上 源三郎もお供します!」


 すると真斗は怒りに満ちた表情で源三郎の胸ぐら掴んで自分の方に引き寄せる。


「これは命令だ!(じい)‼︎例え鬼龍家の家老でも!俺の命令に従えない者は‼︎この場で叩き斬る‼︎もう一度言うぞ(じい)!皆を連れてバグダッドに戻れ‼︎命令だぁーーーっ!」


 声を荒げ、源三郎に向かって命令をした真斗は突き放す様に掴んでいた源三郎の胸ぐらを離す。


 離された源三郎は今まで見た事がない真斗の怒りに唖然とするが、すぐにキリッとした表情となる。


「失礼しました(かわ)。分かりました。すぐにバグダッドへ引きます。それと一つだけお約束して下さい」

「何だ?(じい)


 先とは打って変わって落ち着いた表情で問い掛けた真斗に向かって源三郎は右手の拳を真斗の前に出す。


「何があっても生き残って下さい」

「分かった(じい)。約束する。何があっても俺は生きる」


 そう言って真斗と源三郎はお互いに笑顔でグータッチをした。そして真斗は息を大きく吸って迫って来る砂嵐に騒つく第40軍の兵士達に向かって叫ぶ。


「聞けぇーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!賊軍共よぉーーーーーーーーーーーーーーーーーっ‼︎」


 真斗の大声で嵐を見ていた第40軍の兵士達は一斉に真斗の方を向く。


「あの砂嵐は俺が意図して起こした物だ!お前達が持つ砂嵐に対する知識を無にする強力な砂嵐だ‼︎」


 真斗の言葉に何人かの第40軍の兵士達は何かを察した様に武器を構える。


「俺を倒さない限り、あの砂嵐は治まらんぞ!」


 それを聞いた第40軍全体は一斉に何かを察して真斗に向かって武器を構える。


 すると兵士達の中で馬に乗るアズムが真斗に問い掛ける。


「若者よ!お前の言っている事が本当である証拠は?」


 アジムが疑うのも無理はないが、真斗は迷う事なく赤鬼を鞘から抜き、真顔で高波の構えして答える。


「本当かどうかは倒せば分かる事だろ」


 真斗の眼差しから来る殺気と威圧にアジムは一瞬、ウッとする。


 すると真斗の右側にジョナサンが左腕のヒーター・シールドを外し、愛剣であるハルバート・ヘルムを両手で持ち八相の構えをして立つ。


「ジョナサン、何のつもりか分からんが、(じい)達とバグダッドへ戻れ。ここは俺一人で十分だ」


 真斗がそう命令するが、ジョナサンは真顔で首を横に振った。


「嫌だね。お前が何と言おうと俺も残って戦うよ」

「これは命令だ!下がれ‼︎」


 少し強く命令をする真斗にジョナサンは呆れた表情で溜め息を吐いた。


「あのなぁーーっ真斗。言っておくが、俺はあんたの部下じゃない友達だ。友達を心配して残るのは当たり前だろ」


 ジョナサンの上手い返しに真斗は面を食らったかの様にクスッと笑う。


「そうだった。お前は部下じゃない大切な俺の友達だ。分かったジョナサン!背後は頼んだぞ!」

「おう!任せろ!」


 そう言って真斗とジョナサンは勇ましい表情となる。そして真斗は第40軍の兵士達に向かって言う。


「さぁーーーーーーっ!どっからでも掛かって来やがれぇーーーーーーーーーーーーっ‼︎」


 真斗からの挑発にアズムはすぐに右手を大きく振り下ろす。


「容赦するなぁーーーーーーっ!ぶち殺せぇーーーーーーーーーーーーーっ‼︎」


 アジムからの指示に第40軍の兵士達は一斉に雄叫びを上げて真斗とジョナサンに突っ込み、真斗とジョナサンも向かって来る第40軍の兵士達は向かって雄叫びを上げて自ら突っ込んで行った。


 一方、源三郎達は真斗とジョナサンに突っ込む第40軍の兵士達を蹴散らし、先程まで第40軍からの攻撃を受けていたクーファ門まで走って戻った。


 その後、マスルールに会い事情を説明し至急、通信魔法で各城門の帝国兵士達に門を閉める命を出し、さらに各城門の上に建てらた見張り塔に作られた魔法壁の魔法陣を起動させる命を出した。


 全ての門が固く閉められ、起動した魔法陣から発した魔力でバグダッドの上空には青い円形型の魔法壁が作られた。


 自らの意思で残った真斗とジョナサンは迫り来る砂嵐に臆する事もなく果敢に第40軍の兵士達を相手に戦い、血肉や内臓、四肢、生首が飛び散る程の乱戦を繰り広げていた。


 そして遂に真斗とジョナサンは第40軍と共に巨大な砂嵐へと呑み込まれて行った。


(わか)、ジョナサン殿(どの)・・・・・・・」


 城壁の上から、砂嵐に呑み込まれた二人から目を反らす事無く見続けていた源三郎がそう呟くが、その表情と眼差しからは二人の生存を信じる意思があった。


 それから真斗が草薙の剣で起こした砂嵐は一週間も続き、第40軍の襲来を受けて織田連合軍とムガル帝国軍、そしてイスラム帝国軍の主力は急いでバグダッドに戻ったが、バグダッドの近くにある都市、ファルージャで待機する事となった。

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