第 伍拾伍 話:月と千夜の都
日ノ本がムガルと同盟を結んでから約三ヶ月後、ムガルは隣国のイスラム最大のアラビア国家、“アッバース朝イスラム帝国”に使者を送りヨーロッパへの征伐の為に同盟者である日ノ本の軍隊と自軍の受け入れの胸を伝えた。
しばらくしてイスラム帝国の現カリフからの返事が折り返され結果は了承し、また今回の事をきっかけに日ノ本との同盟締結を胸が来た。
信長はこの返事に対しては前向きにイスラム帝国からの返事を受け止め同盟締結を了承した。
その後、補給と準備を終えた織田連合軍は欧州征伐の為に編成されたムガル帝国遠征軍と共にイスラム帝国へ向けてスーラトの港から出航した。
出航してから約三日が過ぎた日の満天の星空が輝く夜、長門の甲板に和の寝間着姿で出ていた真斗は夜空を眺めていた。
「心地いい夜の海風に当たりながら満天の夜空を見る。これ以上の贅沢な楽しみ方はないな」
そう真斗は笑顔で言っていると同じ和の寝間着姿をしたジョナサンが笑顔で現れる。
「よっ!真斗。どうした一人で星空を見て」
ジョナサンからの問いに真斗は笑顔で答える。
「ああ、ジョナサン。実は日ノ本に居る竹取と乙姫、それと会津の人達が少し心配になって」
真斗の思いにジョナサンも笑顔で同感する様に頷く。
「ああ、その気持ち凄く分かるよ。実は俺にも愛する人がバチカンに居てなぁ。第10次十字軍が成功したら告白するはずだったんだ」
そう言いながらジョナサンは水平線を見ながら少し悲しそうな表情で自身の素性を語り出す。
「実は俺はこう見えて元々は捨て子でバチカンの近くで死にかけていたんだ。でもそんな俺を助けて育ててくれたのが今のローマ教皇、インノケンティウス3世でな。実は教皇には一人娘が居て、その娘が俺の愛する人なんだ」
少ししんみりとする話しに聞いていた真斗は胸の内は少し踊った。
「ほぉーーーっそいつはいいな。じゃなおさら早く帰らないとな」
前向きな発言でジョナサンを励ます真斗であったが、当の本人はなぜか首を横に振る。
「いや、生きて帰れても第10次十字軍が失敗している時点で彼女は俺が戦死したと思っているし、それに身分の差が大き過ぎる。捨て子の俺じゃ釣り合うどころか結婚なんて」
初めは告白に前向きであったが、俯きながら今の社会の厳しさに少し絶望した様な表情をするジョナサン。すると真斗は少し強めに右手でジョナサンの背中を一発、喝を入れ込む。
「何を勝手に諦めてんだ‼︎ジョナサン!いいか‼︎時に男は身分や家柄に拘れず!好きになった人と一緒になろうと全力を尽くすんだ‼︎そうやってやる前から諦める奴はただ大バカだ!だから諦めるなジョナサン!諦めず何度でも何度でも挑戦すれば必ず乗り越えられる‼︎自分を信じろ!」
まるで実の兄に様に実の父の様に厳しくも背中を押してくれる真斗の姿にジョナサンは覚悟を決めた。
「分かった真斗!俺、やってみるよ!」
ジョナサンの熱い意志を感じる眼差しと表情に真剣な表情だった真斗はニヤリと笑う。
「おう!頑張れ‼」
そう言って二人は熱く月と星空の元で握手をするのであった。
■
ムガルを出港して約五日後、日ノ本・ムガル同盟艦隊はアラビア湾を通りクウェート港へと到着し、正式な手続きの元でアッバース朝イスラム帝国に入国した。
新たな舞台、アッバース朝イスラム帝国は昆虫の特徴を残した人種、ハシャラヒューマンで形成されたアラブ国家で統治を行うアッバース朝はイスラム教の開祖である預言者ムハンマドを先祖にしながら不平等を行ったウマイヤ朝を倒し、イスラム教本来の教えを行いながら多種多様な民族を受け入れ勢力共に国の発展を行い、今やアラビア最大の帝国となっていた。
甲冑姿で港に上陸した真斗達は初めて目にするアラビア世界に驚いていた。賑やかで行き来する多くの民達はアラビア服を着こなし、また男女の頭にはカマキリやバッタ、アリ、ハチにチョウなどの同じ虫の触覚を生やし、また背中には虫の羽を生やしていた。
「ほほぉーーーーーーっ!こいつはたまげた。オランダとイギリスが持ち込んだアラビア見聞録と呼ばれる書で読んだ事はあるが、想像以上だな‼」
などと感想を述べながら歩きながら見渡す真斗。すると突然、つい見とれてしまい誰かにぶつかり少しよろけてしまう。
「ああぁ‼これは失礼した!大丈夫ですか」
真斗は流暢なアラビア語で自身にぶつかった相手に声を掛ける。
するとターバンを頭に巻き、薄汚れたアラビア服を着こなすハシャラヒューマンの男性は笑顔で首を横に振った。
「いえいえい大丈夫ですよ。それよりジパングの方ですよ?」
「はい、そうですか」
真斗がそう答えると男は右手を自身の胸に当て一礼をする。
「お初にお目に掛かれて光栄です。ようこそイスラム帝国へ。私はしがない商人をしております“ビッラー”と申します」
真斗もビッラーと同じく右手を自身の胸に当て一礼をする。
「ご丁寧な挨拶、ありがとうございます。私は日ノ本から参られました鬼龍 真斗と申します」
真斗が話す流暢なアラビア語にビッラーは少し驚く。
「おお‼︎これは!アラビア語がお上手ですね」
ビッラーからの褒め言葉に真斗は少し照れる。
「いえいえ。国を出る前に色んな言葉を勉強して覚えただけですので」
「自身の努力を美化しないお心遣い、誠に感服いたします。もしよろしければ少しクウェートをご案内しましょうか?」
笑顔のビッラーからの申し出に真斗は何も迷う事ない笑顔で頷く。
「いいのか。ではお願いしよう」
すると真斗の後ろに居た源三郎が彼の左肩を掴み、止める。
「若!よろしいのですか‼︎出会ってまもない男の申し出を受け入れて?中には異国の人を利用して悪事を行う不届者も居ります!もう少し慎重に・・・」
と最後まで言い終わる前に真斗は自身の左肩を掴む源三郎な手をどけて、笑顔で血相を変える様に訴える源三郎に向かって言う。
「大丈夫だ爺。この者は悪い奴ではない。それどころか、このビッラーと言う商人からは何か神々しさを感じるんだ」
そう言って真斗は源三郎を諌め、改めて真斗はビッラーに先程の一礼をする。
「それではビッラー殿、案内をよろしくお願いします」
「はい、喜んで。それと貴方様は何とお呼びしたら」
「真斗で構わんよ」
「分かりました真斗様。それではまず近くの市場に行きましょう。物珍しい物が沢山ありますよ」
そう言ってビッラーは先頭に立ち、真斗達は彼の案内に付いて行くのであった。それから真斗達はビッラーの案内でクウェートを楽しみ、優雅な時間を過ごした。
だが、バグダッドへの向けての出立準備が終わった事で真斗達も惜しまれながらもちょっとしたクウェートの観光を終えて用意されたラクダと茶色い体色で四足歩行のサンドサラマンドラに乗った。
「ビッラー殿。短い時ではあったが、其方のお陰でアラビアの素晴らしさを知る事が出来た。感謝する」
サンドサラマンドラに跨った状態で真斗は笑顔でビッラーに向かって感謝を述べるとビッラーは嬉しそうな笑顔で一礼をする。
「それは何よりです。実は私もバグダッドに用がありまして、しばらく皆様とご一緒になってもよろしいでしょうか?」
ビッラーからの同行願いに真斗は少し悩む。
「現地の者が付いて来てくれるのは凄く助かるが、少し待ってくれ」
そう言って真斗は手綱を少ししならせサンドサラマンドラを走らせ、少し先に居る南蛮甲冑を着こなすラクダに乗った信長の元に向かう。
「信長様、少しよろしいでしょうか?」
身を低くしていたラクダに跨り、身を起こさせた信長に真斗は尋ねた。
「どうした?真斗よ」
「はい。実はビッラーっと呼ばれる現地の商人と出逢いましてね。彼が言うにはバグダッドに用があるので我らに同行できないかと」
信長は真斗の問いに少し悩む。現地の者の同行は大変、ありがたいが、同時に素性の知らない者を連れて行くのは些かリスクが大きかった。
しかし、真斗がわざわざ頭を下げてでもビッラーを同行させたい所を見ると怪しい人物でない事はすぐに分かり、信長は笑顔で頷く。
「いいだろ真斗。そのビッラーっと呼ばれる商人の同行を許す。道中、この国について色々と聞き出しておいてくれ。よいな」
「ははぁーーっ!」
信長からの許しに真斗は笑顔で一礼をしてビッラーの元へと戻る。そして彼に信長の許しを伝えた。
「本当ですか⁉︎ありがとうございます」
「いいんだビッラー。大した事ではないよ。それよりも旅の道中で色々とアラビアについて教えてはくれないか?」
真斗からの問いにビッラーは笑顔で軽く一礼をする。
「それはもちろんです。では私も急ぎ準備をしますので」
そう言ってビッラーは笑顔でそそくさとその場を去るのであった。
そしてしばらくして荷物を積んだ一頭のラクダに跨ったビッラーが再び現れ、合流したので早速、バグダッドに向かえて真斗達は出発した。
■
クウェートを出発した真斗達は北上しシャトルアラブ川の近くにある都市、バスラへ到着する。そして更に船でシャトルアラブ川を北上しティグリス川へと入った。
サンドサラマンドラとラクダも乗れる大型の船に乗る真斗達は左右の対岸に広がる農園地帯や行き来かう砂漠の民族達をビッラーの説明を聞きながら見ていた。
「ほほぉーーーっ小麦とはこう言った緑の無い所でもよく育つのだなぁ」
笑顔で船から感心する源三郎に対してビッラーは右隣から笑顔で補足する。
「正確には川や湖などの付近の土を耕し水路を設置するば大量に生産できます。更に源三郎様の言う通り、乾燥に強くしかも川の増水災害が無い限りほぼ大量に収穫出来ます」
「なるほど。少し我が日ノ本は主食である米と少し似ているが、育て方は違うのだなぁ」
そう言った後で源三郎は何故かビッラーに向かって深々と頭を下げる。
「ビッラー殿、実は貴方と初めて出会った時は国外の者を相手に案内を理由に金品を要求して来る小悪党と思ってしまった。だが、こうやって話してみると其方は礼儀正しくアラビアに関する文化や文明に対する幅広い知識を持った素晴らしい人だ。悪人と決め付けてしまい、大変、申し訳なかった」
自身の愚かさと非無礼を深く謝罪する源三郎に対してビッラーは笑顔で首を横に振る。
「いいえ構いませんよ。それに源三郎様のお考えは当たり前ですよ。初めて出会った時はどうしても疑いを持ってしましすし、どういう人柄かは話してみないと分からない物ですよ」
ビッラーが語った人として当然の思考に源三郎は悟った。自身が幼き真斗に口を酸っぱくしながら教えていた事、“初めて会う人はその見た目からは本質は分からない。だからこそ自ら一歩を踏み出し腹を割って話す事”を思い出す。
真斗に教えていた事を忘れていた自身を恥じりながらも過ちを繰り返さない事を決意する源三郎であった。
それから三日の船旅で真斗達は夕暮れ時にアッバース朝イスラム帝国の首都、バグダッドに到着した。
そして真斗達は船から降りるとクウェートとは比べ物にならない程の賑わいをしており、また行き来する人々はハシャラヒューマンだけでなくエルフや獣人、人間、更にはゴブリンやドワーフも居た。
「うわぁーーーーっ凄いなぁ!ここまで発展した都は生まれて見たことがないなぁ」
笑顔で周りを見渡しながら感心する真斗にビッラーが笑顔で近付き、声を掛ける。
「やっぱり圧倒されますよね。実は真斗様、今バグダッドはイタリアのローマやイギリスのロンドンに次ぐ第三の世界都市となっていましてね。その総人口は約百万人となっています」
ビッラーの口から出たバグダッドの人口数に真斗は驚く。
「なんと‼そんな人口数は日ノ本では聞いた事がないな」
「はい、ではバグダッドを案内しますね」
「ああ、よろしく頼むよビッラー」
こうして真斗達はビッラーの案内で文化などで発達したバグダッドを見て回る事となった。
少し時が経ち夜となりバグダッドの上には都市全体を美しく照らす満月が昇っており、また都市は明かりが灯り日が沈む前以上に市場などは活気を見せていた。
活気を見せる市場を歩く真斗達はビッラーの案内で地元の品や美術品、衣服、そして砂金と同じ価値を持つ様々な種類のスパイスについての説明を聞き関心をしていた。
「なるほど。スパイスとは黒以外にもこんなにも色々種類があるとは知らなかった」
スパイス専門店の前に何個もの大きな布袋に入れられ、並べられたスパイスを見ながら興味を示す真斗に対して彼の右隣に立つビッラーが笑顔で説明をする。
「元々スパイスはムガルから輸入して来た何種かの原種のスパイを元に現カリフの指示で砂漠に適し、さらに新たな味の開拓の為に品種改良を進めたお陰で今では種類が増えて食文化にも大きな影響を与えたんです」
ビッラーからの説明にさらに関心を示す真斗。すると突然、隣の店から怒鳴り声が響き渡り、何事かと気になり真斗は行ってみた。
「ダメだ!金も払わずにパンをよこせなんて‼まずは金を払いな!そうしたらパンを売ってやる‼」
パン屋の店主と思われるハシャラヒューマンの中年男性が険しい表情で地面に腰から倒れ込む汚れてボロボロの服を着こなすハシャラヒューマンの少女に言う。
言われた少女は悲しい表情で頭を下げて店主に向かって懇願する。
「お願いします!お母さんと幼い弟がお腹空かせているんです‼貧しさで今すぐには無理ですが、パンの代金は必ずお支払いしますので!」
「ダメだ!ダメだ!金が払えないんじゃパンは売らねえぞぉ。さぁ!どっか行ってくれ。営業の邪魔だ」
店主は冷たく少女を突き放し、必死に懇願した貧しい少女はパンが買えない絶望から涙を流し悲しむ。
それを少し遠くから見ていた真斗は意を決した表情でパン屋へ向かい店主に声を掛ける。
「すまないが、大量にパンが欲しんだが」
背を向けていた店主は振る向き、真斗を見て無関心な表情でフッとする。
「あんた、旅人か。金はあんのか?」
店主からの問いに真斗は首を横に振る。
「いや、この国の通貨は持っていないが、代わりになる物ならある。これで足りるかなぁ」
真斗との言葉に店主は少し首を傾げていると真斗はチャブクロを手に取り中から普通の小さな茶袋を取り出し、それを店主に渡す。
真斗から茶袋を受け取った店主は中身を確認すると驚きのあまり口を開いて固まる。
「こ!・・・これは‼砂金じゃないか!」
「これで文句はないな」
真斗が笑顔で問うと店主は態度を改め笑顔で頷く。
「ええ、問題ありませんよ。パンはいくらでも持って行って下さい」
「ありがとう。それじゃ」
そう言って真斗は再びチャブクロから小さな袋を取り出し、パンを何十個か入れる。そしてパンの入れた袋を懇願していた少女へと笑顔で渡す。
「はい、これを持って家族の元に帰りなさい」
身を低くした真斗からパンが詰まった袋を受け取った少女は少し驚く。
「あ!ありがとうございます。この御恩は必ずお返しします」
少女はかしこまった口調でそう言うと真斗は笑顔で首を軽く振る。
「お返しなんていいよ。それよりも気を付けて帰りなさい」
真斗の誠実で純真無垢な明るい笑顔に少女は立ち上がり、嬉し涙を流しながら一礼をする。
「ありがとうございます!ありがとうございます!」
少女は真斗にお礼を言って小走りで自身の家へ向かった。真斗はゆっくりと立ち上がると足を止めて一部始終を見ていた人々が真斗に向かって熱い拍手を送る。
「流石、若様ですね。まさに武士の鏡ですね」
後から源三郎達と共に来た平助が笑顔で褒めると真斗は笑顔で右手を横に振る。
「大したことじゃないよ平助。俺はただ当たり前な事をしただけだ」
すると全てを見ていたビッラーが真斗に近づき深々と球を下げる。
「真斗様、改めて感服いたしました。王の様な寛大なお心と優しさはまさに名誉に匹敵します」
ビッラーかたらの称賛に真斗は素直に少し照れる。
「ああ、ありがとう。時にビッラーよ、いくら国が豊かになってもやはり貧しい暮らしをしている人々は多いのか?」
真斗からの問いにビッラーは悲しい表情で頷く。
「ええ、残念な事に。現カリフも積極的に国外と貿易をしているのも帝国内にまだまだ存在する貧しい国民を無くす為ですが、今だに難しい問題となっています」
「そっか・・・我が国も太平の世にはなったが、いずれも貧富の格差が生まれるのかもしれないなぁ」
そう言いながら今後、起こりえる国の未来を行き来かう人々を見ながら真斗は深く噛み締める。すると源三郎が真斗の後ろからそっと近づく。
「若、そろそろ時間です。信長様達と合流しないと」
源三郎からの知らせに真斗は少しハッとなり、真剣な表情で頷く。
「そっか。ありがとう爺」
真斗は首だけを後ろに振り向かせ笑顔で礼を言うと源三郎は軽く一礼をして二、三歩後ろに下がる。そして再び前を向いた真斗は申し訳ない表情でビッラーに向かって一礼をする。
「ビッラー殿、申し訳ないがこれより信長様達と合流してアッバース朝の皇帝陛下にお会いしなければなりせんので、貴方様とはここでお別れしなければ」
お別れを聞いたビッラーは何故か笑顔となる。
「そうですか。いや実は私、現カリフとご友人関係でしてね。普段はお互いに仕事が忙しくて会う暇がありませんでしたが、今回をきっかけに久しぶりにお会いしたいのですが」
ビッラーが最後に何を言いたいのか察した真斗は笑顔で頷く。
「ああ、一緒に参ろうか」
「ありがとうございます」
お礼を言いながらビッラーは真斗に向かって笑顔で軽く一礼をする。
その後、ビッラーを連れた真斗達は約束された場所で信長達と合流してティグリス川に面したアッバース朝皇族が暮らす“アッバース宮殿”へ到着する。
アッバース宮殿はムガル帝国のラール・キラーと似ている装飾をしているが、こちらはアラビア文化を基礎にしており、その絢爛豪華さに真斗達は目を奪われる。
そして宮殿の案内人の先導の元で玉座の間に案内され、そこで玉座の前で二人の大臣を側に置いた背中に赤オレンジ色の蝶の羽を生やし、大臣と同じ美しく威厳を感じるデザインをしたアラビア服を着こなしたハシャラヒューマンの男性が待っていた。
「遥々、アラビアの地にようこそいらっしゃいましたジパングの皆々様。私はアッバース朝イスラム帝国の宰相を勤めております“ジャアファル・アル=ハーリド”と申します」
ジャアファルは笑顔で自己紹介をしながら右手を自身の心臓の前に置き一礼をする。そして信長も笑顔でジャアファルと同じ挨拶をする。
「こちらもお会い出来て嬉しゅうございます、ジャアファル様。私は日ノ本の代表で今回の欧州征伐の総大将を勤めております織田 信長と申します」
「これはご丁寧な挨拶、ありがとうございす信長様・・・ッ⁉‼⁉」
信長と共に頭を上げたジャアファルは真斗の右隣に居り、笑顔で手を振るビッラーの見て驚く。そして駆け足でジャアファルはビッラーの元へと向かうので真斗達は何事かと少し驚く。
「陛下!どうしてジパングの皆様と一緒に居られるのですか‼と言うか!宮殿を抜けて一体何処へ行っていたのですか‼」
慌ただしく問うジャアファルに対してビッラーは笑顔で答える。
「アハハハッいやぁーーーーっすまないジャアファル。ちょっとクウェートまでなぁ」
ビッラーの答えた行き先にジャアファルは驚きながら溜め息を吐きながら呆れてしまう。
「クウェートですか・・・まったく!政務をほったらかして遠くへ行かないで下さい」
などと二人の会話に割って入る様に真斗は少し恐る恐るビッラーに問い掛ける。
「あ、あのーーーっビッラー殿、これは一体?」
するとジャアファルが申し訳ない表情で深々と真斗達に向かって深々と頭を下げる。
「皆々様!大変申し訳ございません‼このビッラーと名乗ります!このお方こそ‼」
ジャアファルが最後まで言い終わる前に自信に満ちた笑顔でビッラーは着ている服を自ら剥ぎ取ると薄汚れたアラビア服の下から現れたのはジャアファルと違う神々しさと威厳を現した美しいアラビア服を着こなし、背中からエメラルドグリーンの蝶の羽を生やしていた。
そしてビッラーは右手を自身の心臓の前に置き深々と真斗達に向かて一礼をする。
「ジパングの皆々様、隠していて申し訳ございません。この私こそアッバース朝イスラム帝国を治めております第5代目皇帝、“ハールーン・アッ=ラシード”と申します」
ビッラーことラシードは自ら正体を明かすと真斗達はしばらく思考が停止するが、すぐに物凄いスピードで今の状況を理解する。
「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「ええぇーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ‼」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」
ビッラーが皇帝ラシードである真実に驚愕のあまり真斗達の口から出た驚きの声は宮殿全体を揺らす程であった。