第 伍拾参 話:勝利と喜びと
パティム渓谷の戦いから三日後、真斗達はラクシュミー達と共にヴィシャーカパトナムへと向かった。
そしてラクシュミーは長政と話し合いをしていた大臣にパティム渓谷での日ノ本軍の活動を聞かせながら今回の行き違いを些細な事して日ノ本と同盟を結ぶ様に説得した。
一方、真斗は源三郎、左之助、忠司、平助、氏康、水頼、長親と共に九鬼水軍のフリゲート艦である『妙高』の船室で長政からの説教を受けていた。
「お前達は一体何を考えているのだ!ムガル側から出された約定を反故にし‼︎あまつさえムガルとカスティーリャ=アラゴンとの戦に独断で参戦するとわ!下手をしたら我々はムガルから追い出されていたぞ‼︎」
大紋を着こなし椅子に座りながら怒った表情で説得する長政。そして目の前では真斗達が大紋を着こなし正座で深々と頭を下げていた。
「申し訳ありませんでした長政様。全てはこの私、鬼龍 真斗の独断です。罰をお与えするのであれば私のみにして下さい」
全責任を一人で引き受ける覚悟で真斗は宣言したが、長政は深呼吸をして落ち着いた表情となる。
「まぁしかし、お前の独断専行のお陰でムガルに我ら日ノ本に対しての疑念は晴れて、オランダとイギリスと共に同盟を結ぶ事となった」
長政の口から出たいい知らせに真斗は深々と下げて真斗は頭を上げ、笑顔になる。
「ほっ!本当ですか!長政様‼」
「ただし、罰は受けてもうらうぞ。会津城城主、鬼龍 真斗よ。これより貴様には独断専行の罰として貴様に付いて行った者達と共にラクシュミー様率いるムガル軍と共に半島南部にあるカスティーリャ=アラゴンの砦を攻略せよ」
長政からの罰と言うなの命に真斗は真剣な表情となって再び頭を下げる。
「ははぁーーーっ!」
時は少し経ち夕暮れ、信長が乗るフリゲート艦、『金剛』の甲板上で信長は目の前のテーブルを挟んで皇帝代理のラクシュミーと共に用意された同盟締結書に名前を書き込み、正式に日ノ本とムガルの同盟は結ばれた。
その日の夜、ムガル軍の主力がヴィシャーカパトナムに到着し、ムガル王宮の別邸の大広間で信長達を交えた軍議が行われていた。
「半島の西部と南部にあるカスティーリャ=アラゴン軍の各砦は陸と海で挟撃する方で攻撃した方がいいと思います」
兜を脱ぎ甲冑を着こなし床に胡座をし、目の前に広げられた正確なインド半島の地図を指差しながら作戦を提案する光秀。
すると向かいで胡座し、頭に白いターバンを巻きチャール・アイナを着こなしたムガル軍の男性士官が手を挙げて、光秀に問う。
「あのーっミツヒデ殿、海から攻撃する際に敵の艦隊が来たらどうしますか?敵も反撃の為に船を出しますぞ」
そんな士官からの問いに光秀は首を横に振り、答える。
「それについてご心配なく。カスティーリャ=アラゴン軍の使うガレオン船は射程の短い大砲を使っているので我ら日ノ本の使うフリゲート艦のアームストロング砲なら長距離から砲撃、出来ますので例え港を出発されても待ち伏せして撃退する事が可能です」
光秀の答えにその場に集まったムガル軍の士官達は大いに驚く。続いて白いサーコートとチェイン・メイルを着こなしたジョナサンが今回の砦攻略の話しを皆にする。
「半島に築かれたカスティーリャ=アラゴンの砦はほぼ全て同じレンガを使用した構造です。その為、見張り塔と城壁が接している部分はどうじても継ぎ目が他と比べて弱いんです。ここをジパングが使うアームストロング砲で集中攻撃すれば崩せるはずです」
その後も互いの意見を出し合いながら砦の攻略を練り、細かい修正を行いながら作戦開始は三日後となった。
軍議がひと段落し、甲冑を着こなし参加していた真斗は一人、バルコニーから見える星々が輝く夜空を眺めていた。
「星空が綺麗だなぁ。日ノ本の星空も負けず劣らず美しいが、こっちは夜空が青くてまるで海に居る感じだなぁ」
輝く星空を笑顔で眺めながら一人、堪能していると後ろからジョナサンが笑顔で現れる。
「よっ!真斗。しかし、インドの夜空がこんなにも美しくかったなんて知らなかったよ」
そう言いながらジョナサンは真斗の右側に行くと真斗は笑顔で左手をジョナサンの右肩に優しく置く。
「お疲れジョナサン。お前の持つ砦に対する知識のお陰で順調に策が練れたよ。本当に助かった。ありがとう」
そう言いながら真斗は左手を退けるとジョナサンは少し照れ臭かったのか歯の下を指で摩る。
「いいって事よ。それより真斗、本当に沖合から砦を攻めるのか?」
ジョナサンが問いたのは軍議の時に真斗が提案した沖合から砦に向かって小型船で上陸する“鰯戦法”の事で真斗は笑顔で頷く。
「ああ、攻めるぞ。カスティーリャ=アラゴンの砦は艦船を寄せ付けないように海側に接する見張り塔と城壁上には大砲が配備されている。だが、これはあくまで大きな船に対する備えだ。その弱さを突くってわけさ」
「本当に上手くいくのか?我々もボートを使って上陸を試みた事もあったが、被害は大きかったぞ」
過去の経験から真斗の策が失敗する事を心配するジョナサン。すると真斗は笑顔で首を横に振る。
「心配するなジョナサン。肝心なのは動き続ける事だ。まっ戦が始まったらすぐに分かるよ」
揺るぎない自信に満ちた笑顔で言う真斗。すると今度はチャール・アイナを着こなしたラクシュミーが現れる。
「ここに居ました。キリュウ殿」
笑顔で現れたラクシュミーに対して真斗とジョナサンは合掌して一礼する。
「これはラクシュミー様。それと俺の事はマサトと呼んで構いませんから」
「そっか。ではマサト殿、遅れながら一言、言いたい事があってな」
するとラクシュミーは両膝をバルコニーの床に着け、深々と頭を下げる。
「マサト殿、渓谷での戦いに助力して下さり、ありがとうございます。あの時、駆けつけて下さった貴方様達はまさに私の救世主でした。この恩は必ずお返しします」
日ノ本式の感謝をしたラクシュミーに対して真斗は笑顔で片膝を着いて下げている彼女の顔を優しく上げる。
「いいえ構いませんよ、ラクシュミー様。我々はただやるべき事をやっただけですので」
真斗の真っ直ぐで揺るぎない純粋な意志を感じる眼差しと笑顔にラクシュミーは尊敬と憧れを持つのであった。
■
軍議から三日後の早朝、念入りな準備を終えた日ノ本・ムガルの同盟軍はインド半島の西部と南部の都市に築かれたカスティーリャ=アラゴン軍の砦に向けて陸と海から進軍を開始した。
まず初めに攻撃したのはコロマンデル海岸に面するインド半島と東南アジアを結ぶ最大の貿易都市、チェンナイの砦であった。
山岳での行軍に慣れている日ノ本軍とムガル軍は驚異的なスピードで昼頃には、まだ迎撃態勢を整えていな砦を包囲し、砦を守備する五百人足らずのカスティーリャ=アラゴン軍の騎士達は驚愕した。
「嘘だろっ⁉ジパング軍とムガル軍がこんなにも早く来るなんて!」
「信じられない!奴らはどう言った魔法でここまで来たんだ!」
「とりあえず手を動かせぇーーーっ‼奴らを砦の中に入れなぁーーーーーっ!」
完全武装で絶え間ない攻撃をする日ノ本軍とムガル軍に城壁や見張り塔の上から応戦するカスティーリャ=アラゴン軍の騎士達。
一方、砦から飛んで来る矢の中をムガル軍は円形型の盾で守りながら移動式の破城槌を手を押ししながら砦に向かっていた。
「くそ!下が泥るんでいて思う様に破城槌を押せないなぁ‼」
「でもどうにかして!このデカブツを城門前まで運ばないと‼」
「おい!あれを見ろぉーーーっ‼」
一人の持っている盾を高く上げながら進むムガル兵が大声で指を指すと他の兵士達も指を指す方を見ると、この世の物とは思えない表情で驚く。
破城槌に取り付けられている丸太以上に太い三本の丸太の束を軽々と持ち上げ、そして周りを置き盾を両手で持ちガッチリっとカバーする足軽達が降り注ぐ矢の中を物ともせず雄叫びを上げながら走り、城門の前まで着く。
「打ち破れぇーーーーーーーーーーーーーっ‼」
頭形兜と甲冑を着こなし、采配を振るう柴田軍の足軽隊長の命に足軽達は息の合った動きで目の前の分厚い門を力強く叩き始める。
門の内側では多くのカスティーリャ=アラゴン軍の騎士達が急いで多くの木材を軋みを起こす門の前に痞えせる。
「おーーーーーーーーい!もっと角材を持って来いぃーーーーーっ‼」
「急げぇーーーーーっ!このままだと門が破れるぞぉーーーーーーーーっ‼」
多くの騎士達は行ったり来たりしながら運んだ木材を重なる様に門の前に痞えるが、努力虚しく門はまるで爆破されたかの様に破られる。そして雄叫びを上げながら和槍や日本刀を持った足軽達がイナゴの群れの様に砦内に流れ込み、次々とカスティーリャ=アラゴン軍の騎士達を打ち倒して行った。
それを傍観していたムガル軍の兵士達もハッとなり、一人のムガル兵が腰に提げているタルワールソードを抜く。
「おい!何を見ているんだぁ‼そんな破城槌は置いて!我々もジパングのサムライ達に続くぞぉーーーーーーーーーーーーっ‼」
勇ましく人を奮起させる様に言う、そのムガル兵士は打ち破れた門に向かってタルワールソードを高々に上げながら走り出す。それを見ていた他のムガル兵達もタルワールソードやランスを持って雄叫びを上げ、走りながら後へと続く。
そしてムガル軍が混ざった事で砦内は更なる激戦となり、完全に勢いに押されたカスティーリャ=アラゴン軍は敗北した。
一方、チェンナイの砦を攻略するのと同時に海上の戦いでも同盟軍は圧倒していた。セイロン島にある貿易都市、コロンボに築かれたカスティーリャ=アラゴン軍の砦を鬼龍水軍、村上水軍、毛利・小早川水軍で組織された日ノ本水軍団が強襲していた。
日ノ本水軍団が砦に迫っている事を知ったカスティーリャ=アラゴン軍の騎士達は急いで砦に用意されたカノン砲の砲撃準備を大急ぎで行っていた。
「急げぇーーーっ!急ぐんだぁーーーーーーっ‼︎」
「もたもたするなぁーーーっ!準備が終わり次第‼︎確実、砲撃開始だぁーーーっ!」
そうしている内にいくつかのカノン砲は準備を終え、前へ押し出す。そして後部の着火口に追加の火薬を入れ込み、火の点いた縄が付いた棒を用意する。
「「「「「撃てぇーーーーーーーーーーーーーーっ‼」」」」」
各大砲の小隊長の騎士達が大きく命を出すと棒を持っていた騎士が着火口に火の点いた縄を入れ、砲弾が轟音と共に砲口から火を出しながら発射される。
カノン砲から発射された砲弾は物凄いスピードで迫って来る水軍団に向かって行ったが、射程が短くフリゲート艦には届かなかった。
一方、水軍団のフリゲート艦はカノン砲が届かない距離で錨を降ろし、停泊すると各フリゲート艦に搭載されている小早船を海上に下し、網を使ってフリゲート艦に乗船していた足軽達が乗り込んで行った。
そして乗り込んだ足軽達はそれぞれの旗印を掲げ、一斉に小早船は漕ぎ出し、砦でから絶え間なく発射されるカノン砲の砲弾の中をジグザグに大勢で進んでいた。
カノン砲から撃ち出された砲弾の着弾で高く上がる水飛沫の中を小早船の先で兜と甲冑を着こなした真斗が片足を上げて真っ直ぐと砦を真剣な表情で見ていた。
「若!危のうございます‼身を低くして下さい!」
兜と甲冑を着こなし真斗の後ろで身を低くし、少し慌てる様に言う源三郎に対して真斗は振り向き、首を横に振る。
「心配すな爺よ!カノン砲の命中精度は悪い‼それにこの水飛沫のお陰で敵はこっちに気付いていない!これは好機だ‼一気に進むぞ!」
すると小早船のほぼ中央に居る景と平助が下から八九式重擲弾筒に似た焙烙火矢筒二型を取り出す。
「真斗!いつでも焙烙火矢は使えるわよ!」
「若様!徹甲弾と火炎弾の準備は終えておりますので!」
景と忠司からの報告に真斗は笑顔で頷く。
「分かった‼景!忠司!もうすぐで射程距離だ!射撃の準備を行え‼」
真斗からの指示に景と忠司は頷く。
「はい!」
「はっ!」
そして景と忠司は再び下から四枚の飛行翼が付いた迫撃砲サイズの砲弾を取り出し、焙烙火矢筒二型を地面に着け左手で角度を付けると右手に先ほどの砲弾を持ち、砲弾先に付いている安全ピンを口に銜えて引き抜き、砲弾を筒の先に少し入れて構える。
すると水軍団の各フリゲート艦から40ポンドアームストロング砲の一斉砲撃が始まり、発射された40ポンド榴弾は砦の見張り塔と城壁の接している部分に全弾が命中し塔と一部の城壁は崩落する。
「なっ‼何だとぉーーーーっ⁉」
「馬鹿なぁ⁉こんな易々と砦の一部を破壊するなんてぇ‼」
「皆!落ち着くだぁーーーーっ‼とにかく今は砲撃の手を緩めるなぁーーーっ!」
敵からの砲撃で塔と城壁が崩れた事に半ばパニック状態となったカスティーリャ=アラゴン軍の騎士達ではあったが、すぐに立て直すのだが、崩落で舞い上がった土埃が晴れると海を埋め尽くす様な無数の小早船が砦に向かって進んでいた。
それを見たカスティーリャ=アラゴン軍の騎士達は驚愕と恐怖に襲われる。
「なっ!ジ‼ジパングの上陸部隊だぁーーーーーーーっ‼」
「噓だろぉーーーっ!まさか砲撃の中を進んで来たのか⁉」
「い!急げぇーーーっ‼トレビュシェットと小銃!それとバリスタの用意だぁーーーーっ‼」
沸き起こる負の感情を抑えながら冷静を保つ騎士達は急いで砦内に配備されたトレビュシェットとModel1728マスケット小銃、バリスタの用意を行っていると小早船から一斉に発射された焙烙火矢筒二型の徹甲弾が降り注ぎ、騎士達やトレビュシェット、バリスタに直撃する。
この攻撃の中で真斗達、水軍団の強襲上陸部団は砦の目の前にある大きな浜へと辿り着く。そして真斗は愛刀の赤鬼を抜き、刃先を前に向けながら後ろを向き大声で皆に言う。
「今だぁーーーっ!掛かれぇーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ‼」
真斗の命に源三郎達は武器を手に持ち小早船を飛び降り、真斗を先頭に雄叫びを上げながら他の足軽達と共に砦に向かって走り出す。
そして砲撃で崩落した場所にから続々と真斗達、強襲上陸団の兵士達が傾れ込み砦のカスティーリャ=アラゴン軍の騎士達と激戦を繰り広げた。圧倒的な兵力差の前にカスティーリャ=アラゴン軍の騎士達は成す術がなく一時間後には守備隊は全滅、日ノ本水軍に軍配が上がった。
それから破竹の勢いとなった同盟軍はカスティーリャ=アラゴン軍の砦があるコーチン、カリカット、ゴア、ディウを陥落させ、ついにカスティーリャ=アラゴン軍をムガル最大の貿易都市であったムンバイへ追い詰めた。
ムンバイの戦いはこれまで以上の激戦でカスティーリャ=アラゴン軍の手によってムンバイは都市要塞となっており、また本国からの救援が到着するまで死兵となったカスティーリャ=アラゴン軍の騎士達の粘り強い抵抗で攻略には悪戦苦闘していた。
だが、ムンバイ付近の海域まで迫っていたカスティーリャ=アラゴン軍の艦隊は日ノ本水軍艦隊とムガル海軍艦隊の待ち伏せに遭い、六隻が轟沈し内十隻の輸送船が拿捕、残りは逃げ帰る結果となった。
頼みの綱であった艦隊が待ち伏せで敗走してしまった事はムンバイを守るカスティーリャ=アラゴン軍に深刻なダメージとなり、食料や医薬品などの物資不足でムンバイ内は飢えと空腹、さらに疫病が蔓延し深刻な状態となっていた。
そしてムンバイ守備隊の指揮官はこれ以上の戦闘続行は不可能と判断し直接、日ノ本軍とムガル軍の本陣へ赴き降伏を宣言。こうしてムガルは日ノ本と共に奪われた領土を奪還しインド半島からカスティーリャ=アラゴンの勢力を駆逐する事に成功したのであった。
■
それから三日後の朝、ムガル帝国の首都であるデリーにある皇族の宮殿兼城塞のラール・キラーに一匹の白い伝書鳩が皇宮廷の二階にあるバルコニーの手摺に止まる。
そして威厳と美しさを合わせたクルタを着こなすムガル帝国第二皇帝であるリザードヒューマンの『ジャラールッディーン・アクバル』は鳩へ近付き、右足に付けられた魔法水晶が付けられた足輪を外し、ヒンディー語で魔術を唱え水晶から放つ青白い光を壁に向かえる。
壁に向けられた光はヒンディー語で書かれた文章が投影され、その内容にアクバルは喜びの笑顔を浮かべる。
「おおぉ!全てのカスティーリャ=アラゴンをインドから追い出したのか‼しかもジパングの軍隊は想像以上の力を持っているのだなぁ」
そしてアクバルは魔法水晶の光を消すと近くにあるテーブルに置かれた小さいベルを鳴らす。するとターバンを頭に巻いたリザードヒューマンの召使いが右側の入り口から現れ、アクバルに向かって両手を合わせて一礼する。
「お呼びでしょうか?陛下」
召使いからの問いにアクバルは笑顔で頷く。
「ああ。すぐに各大臣達を宮殿の議会場へ集めよ。直ちにだ」
「はい!陛下」
アクバルからの名を受け取った召使いは再び両手を合わせて一礼して、その場を去った。
その後、アクバルは集まった各大臣と宮殿の議会場で念入りに話し合った結果、日ノ本とはただの軍事同盟としてではなく国際的な同盟関係を結ぶ事となった。
また今回の勝利の立役者でもある織田連合軍を救国の戦友として盛大な祝勝祭を開く事なった。
議会から一週間後の朝、奪還され戦後処理が行われているムンバイにある大きな屋敷の大広間に作られた仮の同盟軍司令部で南蛮甲冑を着こなし床几に座る信長は椅子に座るラクシュミーから祝勝祭の事を聞かされていた。
「ほぉーーーっムガルの帝が我々を手厚くもてなしたいと」
信長は笑顔で目の前にチャール・アイナを着こなし座るラクシュミーに問うとラクシュミーは笑顔で頷く。
「はい、そうなのです。我が父、アクバルが今回の勝利の立役者であるジパングの皆様を盛大にもてなしたいそうなのです」
「なるほど、それは素晴らしい事ですね。分かりましたラクシュミー様。我ら織田連合軍、謹んでお受けします」
信長は笑顔のままラクシュミーに向かって深々と頭を下げる。だが、信長はある狙いがあった。
(ムガルの首都であるデリーへは行軍しながら行けば首都を含めた町や村々に我ら日ノ本の威厳を示せる。これはまたとない機会だ)
そうムガルに対して日ノ本の力を見せつけ“日ノ本との同盟は必須である”と意識させ、一方でおそらく居るはずの同盟反対者に対して“日ノ本との戦争は無意味である”と悟らせる信長の知略があった。
心の中で自身の計画を語るとゆっくりと頭を上げる。そしてラクシュミーから今後の計画を聞かされていた。
「では出発は三日後の早朝ですので、よろしくお願いします」
「はい、分かりました」
信長は再び頭を下げてラクシュミーの計画を承知した。
それから三日後の早朝。ラクシュミーを筆頭に隊列を組んだムガル軍が先にムンバイを出発し、その後を追う様に信長を筆頭に隊列を組んだ織田連合軍も出発した。
五日間の道のりで途中、通り掛かった町や村々で戦いに勝利したラクシュミーとムガル兵士達は民からの厚い賞賛の声を受けていた。
一方の織田連合軍もムガルの人々から厚い賞賛の声を受けていたが、かつて信長が京で行った馬揃えの様な凛々しさと美しさを感じる姿勢で行軍する隊列にムガルの人々は圧感されていた。
そして五日目の昼にはデリーに到着し、両軍共に民から厚い賞賛の声と都市全体を色鮮やかに染め上がる飾りで出向けを受けた。
その後、信長達は皇朝側が用意された屋敷と駐留所で休む事となった。
それから少し経ち夕暮れ時。肩衣姿の真斗は用意された屋敷の一室で椅子に座りテーブルに置かれた筆を手に取り筆先に硯に入った墨を馴染ませ、持って来た日記帳にこれまでの事を書き始めた。
「ふうーーーーーっ今はここでにするか。しかしムガルは凄いなぁ。こんな美しい建物は我が日ノ本にはないし、造形の一つ一つからは国の力を感じるなぁ」
筆を筆置きに置き、開いていた日記を閉じるのと同時に部屋の扉が開き、同じ肩衣姿の源三郎が笑顔で入って来る。
「失礼します。若、先程ラクシュミー様が来まして今夜、祝勝の為の宴会を赤い城で行われるそうです」
源三郎からの知らせに真斗は笑顔で頷き、椅子から立ち上がる。
「分かった爺、ありがとう。では大紋を用意を頼む」
「ははっ!」
真斗からの命に源三郎は一礼はして部屋を去る。その後、夕暮れ時には再び源三郎が政宗の大紋を持って部屋に現れ彼の手伝を借りながら真斗は着替えを終えた。
それから着替えを終えた真斗達は同じ様に着替えをした信長達と合流し迎えに来たラクシュミーの案内でラール・キラーへと向かった。そしてデリー門を通り城内へと入るとそこは色鮮やかや飾り付けと料理が盛られた食器で絢爛豪華となっており、美しく着飾った皇族の他に多くの大臣や貴族達などが集まっていた。
そんな中を信長達は威風堂々と歩き、アクバルの待つ玉座へと向かう。集まった者達はアクバルの元に向かう信長達が着こなすシンプルでありながら美しさと勇ましさを感じさせる和服姿に目を離さずにいた。
そしてアクバルの元に着いた信長達はアクバルに向かって両手を合わせて一礼し、アクバルも信長達に向かって笑顔で両手を合わせて一礼する。
「ジパングの偉大な皆様、遅れながら東の地の大国ムガル帝国へようこそ。私こそムガル帝国を治める三代目パードシャー、ジャラールッディーン・アクバルと申します」
アクバルは笑顔で自身の自己紹介を終えると信長達は日本式で両膝を地面に着け、一斉にアクバルに向かって深々と頭を下げ、皆の先頭に立つ束帯姿の信長が代表で口を開く。
「お初にお目にかかれて光栄の極まりです、アクバル大帝様。私こそ日ノ本の代表であります尾張の藩主で関白の織田 信長と申します」
彼らの上の者に対する礼儀にアクバルを含めて見ていた者達は驚きで開いた口が塞がらなかった。
(なっ⁉なんと‼両膝を地面に着け、深々と王や権力者に向かって頭を下げるなど!これはジパングの当たり前の挨拶なのか⁉)
日本を含めた太平洋に面する国では力ある者に対して両膝を地面に着け深々と頭を下げる挨拶は一般ではあるが、東アジアやヨーロッパでは力ある者に対して両膝を地面に着け深々と頭を下げるのは服従を意味していた。
心の内で驚愕していたアクバルは急いで玉座から立ち上がり、慌てて信長へと駆け寄る。
「頭を上げて下さい!信長殿‼そして皆様も!我々は友です!そんなかしこまった挨拶は抜きですよ」
アクバルが笑顔でそう言うと信長はゆっくりと頭を上げると信長は緊張が解けたのかホッとした様に笑顔となって立ち上がる。
「ありがとうございます。陛下」
「さぁ、他の皆様も立ち上がって。今夜は祝勝祭ですので大いに盛り上がりましょう」
笑顔でそう言うアクバルと立ち上がった真斗達はその通りと感じる笑顔となっていた。
「さぁーーーっ!諸君‼今宵は我ら帝国の偉大な勝利と新たな友との絆を祝おう‼」
そう笑顔で言うアクバルに多くの大臣や貴族達などは大いに喜ぶ。それと同時に場を盛り上げる音楽が奏で始まるのであった。