第 肆拾捌 話:若狭湾大合戦
信長が十字軍に宣戦布告した翌日の早朝。先に攻撃を仕掛けたのは第10次十字軍であった。
「総員!撃てぇーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ‼」
腰に提げているアーミングソードを抜き、振りかざして合図をするギー。そして彼からの合図で十字軍のガレオン船に搭載された68門の32ポンド砲が一斉に轟音と共に火を噴く。
発なたれた32ポンドの砲弾は容赦なく若狭湾に面す地域に降り注ぐ。しかし、内陸に作られた支城には一発も砲弾は届いておらず被害はなかった。
ある程度の艦砲射撃が終わった後に浜辺に向かって進む多くのボートがガレオン船から出発した。
さらにボートには青い十字が描かれた白いサーコートとチェイン・メイルを着こなし、頭にサレットヘルムやノルマンヘルム、アーメットヘルム、バシネットヘルム、グレートヘルム、シュガーローフヘルム、ケトルハットを被った騎士達が乗船し、左腕に青い十字が描かれたカイト・シールドとヒーター・シールドを備え、右手にアーミングソードやショートソード、ブロードソード、バトルアック、メイス、そして小さい青い十字の旗を付けたハルバートとランスを右手に持って武装していた。
そしてボートが浜に着岸した瞬間に十字軍の騎士達は一斉に武器を掲げ、雄叫びを上げながら走り出す。
それから進軍する約二千万の十字軍の騎士達は各支城で激しい戦闘を繰り広げ、いくつもの支城を落城させた。だが落とした支城は防衛があえて手薄で、これは織田連合軍が立てた計画の一環であった。
「くそ!落とした砦はおろか周辺の集落は全て空だ‼食べ物や価値のある物は何もないぞ!」
一人の騎士が空っぽの城の倉庫を見て嘆くのも無理はない。織田連合軍は予め十字軍が遠征で略奪を行う事は知っており、また略奪しなければまともに進軍も出来ない事も知っていた。
そこで今回の第10次十字軍対策として徹底的に略奪目標である食糧と加工された木材を無くし、内陸へと引き込む事にした。
十字軍は急いで内陸へと突き進み是が非でも食糧と加工された木材を手に入れる必要があった。そして十字軍は殆ど抵抗に遭わず、各本城を取り囲み事に成功した。
⬛︎
第10次十字軍が上陸して五日目の昼。真斗達が守る蘇洞門城は海と陸から挟撃される形で十字軍に包囲されていた。
蘇洞門半島へと続く陸路は源三郎、左之助、忠司が指揮をし一歩も半島に入れない構えで激戦を繰り広げていた。
森に囲まれた城から南にある半島入り口の平野では耳を劈く程の刃がぶつかり合う音と鈍い血肉の音、足軽と騎士の叫び声が飛び交っていた。
目立たない様に森の中に敷かれた陣では兜と甲冑を着こなす源三郎が折り畳み式の単眼鏡で戦場の様子を見ていた。
「うむ。十字軍の騎士達もなかなかやりおるわ。しかし、いくら数に物を言わせようとも先に進む事は出来んぞ」
笑顔で戦場を見ながら言う源三郎。一方、左之助と忠司は最前線に立ち、向かって来る十字軍の騎士達を薙ぎ払っていた。
「おら!おら!どうしたぁーーーっ‼︎西洋の騎士はそんなものかぁーーーーーっ‼︎」
気合いの入った口調で兜と甲冑を着こなす左之助は愛用の野太刀、“岩鬼”を両手で持ち、霞の構えをする。
「そらよっとぉーーーーっ!ハッ!話にならねぇ‼︎西洋の騎士の力はこんな物かぁーーーーーーー!」
威圧する様に大声で言いながら兜と甲冑を着こなす忠司は愛用の薙刀、“炎鬼”を両手で持ち、突きの構えをする。
二人を囲む様に武器を構える十字軍の騎士達の顔には不安が現れていた。無理もない。二対五百と言う圧倒的な兵力差でありながら、激戦が始まって一時間の内に左之助と忠司は既に百人近い十字軍の騎士を倒しているからである。
「こんなのって!・・・強い!強過ぎる‼︎」
「何だよ!あの二人のサムライは!?」
「きっと人間じゃねぇ!あれはオーガだぁ‼︎」
想像以上の強さを誇る二人を前に十字軍の騎士達は息を荒げ冷や汗を流しながら一歩、二歩と後退りをする。
十字軍の騎士達が後退りするのを見て左之助と忠司はニヤッと笑う。
「「そっちが下がるならぁ!こっちは遠慮なく!前へ出るのみ‼︎」」
そう言う左之助と忠司は息が合った様に後退りする十字軍の騎士達に向かって襲い掛かる。
だが何十人かの十字軍の騎士達が防衛線を抜け、源三郎が居る陣を強襲していた。だが、源三郎とたった四人の足軽に十字軍の騎士達はなぎ倒されていた。
「どうした!どうした!こんな老い耄れすら倒せないとは‼貴様らはそれでも誇り高き西洋の騎士かぁーーーっ‼」
怒りを感じる口調で言う源三郎は愛用の氷鬼を両手で持ち、突きの構えをする。
「くそ!全員‼怯むなぁーーーーーーーーっ!一斉に突き殺せぇーーーーーーーーーっ‼」
シュガーローフヘルムを被り、アーミングソードを持つ隊長格が大声で命令すると源三郎を取り囲む騎士達は大声を上げながら一斉に襲い掛かる。
だが源三郎は物凄い力で一回し、襲い掛かって来る隊長格を含めた騎士達を吹っ飛ばす。しかも四人の足軽達も十数人の騎士達をなぎ倒していた。
⬛︎
半島の西方では砲兵隊と鉄砲隊を指揮する平助が守備をし、東方では重清が指揮する月竹党が守備に当たっていた。
「よーーーし!砲兵達は沖合のガレオン船への砲撃に集中‼鉄砲隊は引き続き浜に上陸した騎士達を足止めする事に集中せよ!」
兜と甲冑を着こなす平助からの指示に頭形兜と甲冑を着こなし彼の前に立つ砲兵体隊隊長と鉄砲隊隊長が同時に一礼をする。
「「はっ!」」
指示を受けた砲兵体隊隊長と鉄砲隊隊長は、その場から速やかに持ち場へと戻った。
木々が生い茂る中で鬼龍軍の砲兵隊は日ノ本でライセンス生産された新たなイギリス製の大砲、野戦移動式40ポンド アームストロング砲で沖合から砲撃する十字軍のガレオン船を攻撃していた。
イギリスと日ノ本の高い技術力で生まれた最新型のアームストロング砲は今までのカノン砲とは違い、全てが高性能で十字軍のガレオン船は次々とアームストロング砲の餌食となっていた。
「くそ!くそ!カノン砲の射程距離に居るのに‼︎どうして日ノ本の大砲はここまで届くんだ!」
アームストロング砲から発射された榴弾が次々とガレオン船の目と鼻の先に着弾し、絶え間なく水飛沫を上げる中で身を低くし、半ばパニックを起こして言う騎士。
すると一発の榴弾が一隻のガレオン船に命中。分厚い木の板を粉々し弾薬庫に着弾し爆破、燃え上がる炎と共に轟沈する。
一方、浜から少し先にある高台では塹壕を掘り、その中から鬼龍軍の鉄砲隊が浜を埋め尽くす様に上陸した十字軍の騎士達を日ノ本でライセンス生産された新たなイギリス製のスナイドルMk.Ⅲ小銃で攻撃していた。
スナイドル小銃からの絶え間ない攻撃に浜に上陸した十字軍の騎士達は一歩も前に進む事が出来ず、持って来たロングボウとクロスボウ、そしてフランス製のModel1728マスケット小銃で応戦した。
しかし、絶え間ないスナイドル小銃からの攻撃でロングボウとクロスボウは矢を発つ事が出来ず、またマスケット小銃も銃身内にライフリングない滑降銃身で長距離から射撃する鬼龍軍の鉄砲隊には届かずにいた。
スナイドル小銃から発射され、飛んで来る無数の弾丸を避ける為に騎士達は盾を捨て、近くの岩の影に縮こまっていた。
「くそ!何だよ‼日ノ本の小銃は‼こんな遠くまで届くのか⁉」
「畜生!盾はおろかチェイン・メイルも貫通するなんてぇーーっ‼岩の影に居ないとやられるぞ‼」
「こんなの有り得ねぇーーーよ!畜生‼このままじゃ俺達は終わりだぁ!」
喚き散らす騎士達、それは他の地域を攻める騎士達も同じであった。
一方、東方の浜辺に上陸した十字軍の騎士達は森の木々に隠れながら和弓とスナイドルMk.Ⅲ小銃を使う月竹党の武士達からの激しい攻撃を受けていた。
「よいか!何が何でも誰一人‼ここを通すんじゃないぞ!国賊共に日ノ本の力を見せ付けてやれぇーーーーーっ‼」
浜に上陸した騎士達の攻撃を木の影に隠れながら勇ましい表情で小星兜と大鎧を着こなした重清が大声で言うと、彼と同じ様に小星兜と大鎧を着こなし木の影に隠れながら戦う武士達は勇ましく返事をする。
「「「「「「「「「「おおぉーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ‼」」」」」」」」」」
東方は西方と違い、上陸した十字軍の騎士達は一歩一歩と確実に前へと進んでいた。だが、被害は甚大でスナイドル小銃のみならずロングボー以上の威力を持つ和弓の前に騎士達は次々と倒されていた。
⬛︎
北方の河岸では景と義昭が守備をしており、鉤爪を付けた縄を使って崖を登る十字軍の騎士達を上から攻撃していた。
「よし!岩と大木を落とせ‼︎敵の歩みを出来る限り遅くさせるのよ‼︎」
兜と甲冑を着こなす景からの指示に鬼龍軍の足軽達は大声で返事をする。
「「「「「おおぉーーーーーっ‼︎」」」」」
そして足軽達は上から容赦なく岩や大木を立ちながら崖を登る十字軍の騎士達に向かって投げ落とす。
一方の十字軍の騎士達は一列になって盾を構えながら落ちて来る岩や大木を防ぎながら一歩一歩、ゆっくりではあるが、崖上に近づいていた。
「小賢しい真似しやがって!でも案外、抵抗が弱いなぁ!」
「そうだなぁ!他の所は苦戦している様だけど!ここは余裕で突破出来るなぁ‼︎」
「まぁ!水中に仕掛けられていた巨大な妨害柵で船が近づけない事には少し焦ったが!それ以外はしょぼいなぁ!」
笑顔でそう言う騎士達。彼らの後ろでは景達が侵攻して来る十字軍の船対策として海中に仕掛けた先端を尖らせた無数の丸太の杭の前で無数のガレオン船が立ち往生していた。
侵攻時に景の合図で海中から引き上げられた杭の前でガレオン船は海岸へ近づく事は防げたが、騎士達はボートを使って杭の間を縫って進み、さらに崖上からの攻撃に遭わずに海岸へと上陸した。
岸壁が十字軍の騎士達で埋め尽くされると景はそれを見て、ニヤッと笑う。そして後ろに向かって手を振る
すると筋兜と大鎧を着こなした義昭と同じ格好をし、桶を持った数百人の武士を引き連れて、走って現れる。
「じゃやっちゃっていいんだよね景?」
義昭からの問いに景は笑顔で頷く。
「ええ!思いっきりやっちゃって‼︎」
義昭は左右を見て崖下を見ながら右腕を上に上げて下す。
「流し掛けろぉーーーーーーーーーーっ‼︎」
義昭の合図に桶を持った武士達は大声で返事をする。
「「「「「おおぉーーーーーーーーーーっ!」」」」」
武士達は一斉に登って来る騎士達に目掛けて桶に入った黒色の油を流し掛ける。油を受けた騎士達は不思議そうな表情をする。
すると火が点いた矢を持ち、和弓で構える義昭。そして義昭は下に向かって火矢を発つ。
海岸に居た一人の騎士が崖下の地面に突き刺さった火矢を見て、血相を変えて慌てて武器を投げ捨て、その場から後ろの海へと走り出す。
「逃げろぉーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ‼︎」
大声で叫びながら他の騎士達に言うが、時すでに遅く義昭が発った火矢は海岸の地面を埋め尽くす様に広がった油に引火し、崖を登る騎士達も巻き込み海岸一帯は大爆発する。
義昭達が流し掛けた油には炭やマグネシウム、さらに遠江国にある菅山村の相良から採掘された原油が混ぜられており広範囲に燃え広がる性質を持つ、いわば日ノ本製のギリシャ火薬であった。
爆破に巻き込まれて多くの騎士達は焼き殺され、中には火だるまとなって海に飛び込む者もいた。
時が経ち夕暮れには東西南北での戦闘は落ち着き始め、予想以上の被害を出した十字軍は已む無く撤退した。
一方、城内の大広間で床几に座り、兜と甲冑を着こなす真斗は目の前で片膝を着いて身を低くする鬼華からの報告を聞いていた。
「そっか。どの守りも敵を追い返して全勝か」
喜びに満ちた笑顔で言う真斗に対して鬼華も笑顔で頷く。
「はい。敵は圧倒的な兵力ではありましたが、各守りは獅子奮闘し想像を超える被害を与える事が出来た様です」
「よし!分かった。鬼華、お前は引き続き爺達と他の城との連絡役と偵察を頼む」
真斗からの命に鬼華は一礼をする。
「はい、若様。お任せ下さい」
そう言って鬼華は風の様にその場から消え去った。
緊張していたのか真斗は安心した様に大きく息を吐くと彼の右隣で兜と甲冑を着こなし、床几に座る直虎も安心した様に大きく息を吐く。
「何とか敵を退ける事は出来たわね真斗」
直虎が笑顔でそう言うと真斗は彼女の方を向き、頷く。
「ああ、でも十字軍はまだ諦めた訳じゃない。体勢を立てなおし次第で、また攻めて来るぞ」
「ええ。次はより一層の激戦になるわね」
同感する直虎、そして被っている兜を脱ぎしんみりとした気持ちとなる。
五日間の戦闘で真斗達が守る蘇洞門城を含めた支城と各本城は包囲する十字軍と激しい戦闘を繰り広げ、要塞攻略戦に優れている十字軍を織田連合軍は退ける事に成功した。
一方の十字軍は入り組んだ城下町の道と平野の少ない山々に十字軍の騎士達は悪戦苦闘した。日ノ本の城を落とす為に投入したトレビュシェットやベルフリー、移動式の破城槌とバリスタが返って邪魔になってしまい思う様に動く事が出来なかった。
しかも日ノ本の城はヨーロッパの要塞都市とは違い、守りに強く攻めにも強い面を持っている為、騎士達が使う従来の攻城戦術が全く通用しなかった。
十字軍の被害は予想以上に大きく、さらに兵糧の消耗も大きく仕方なく軍を二手に分け、一部は引き続き城の攻略に専念し一部は京を目指して南下したのであった。