第 肆拾伍 話:鬼神の覚悟
真斗の呼び出しで源三郎達の家臣一同と乙姫達の側女一同、そして竹取の翁と嫗が鬼龍家武家屋敷の大広間に集まった。
そして真斗は上座に胡座をし、目の前で正座をする竹取に問い掛けた。
「それじゃ竹取、俺にさっき言った事を包み隠さずに話してくれ」
少し悲しい表情で俯く竹取であったが、すぐに真斗を見ながら頷く。
「分かった真斗。改めて言うわね。私はここの世界、地上の人ではないの」
竹取の口から出たあり得ない事に事情を知らない集まった皆は動揺し、ザワザワとなる。
だが、すぐに真斗は手振りで皆の動揺を静める。そして竹取は話しを続けた。
「私は月の民、正確には月の都である月蘭郷を治める王族の姫君なの。私の本当の名は“織姫”」
そして竹取は今まで誰にも話す事が出来なかった本当の自分自身を語り出した。
竹取姫もとい織姫は月の都、月蘭郷を治める星の神、彦星之命と夜の女神、月読命の姫君で、ある時、あと二年で次期女王となる十八歳を迎えた日に王族の仕来りで一人、地上に降り立ち人を学ぶ事となった。
月では地上の人間は欲深く醜く、そしてすぐに争いを起こす存在と伝えられており、その教えで育った当時の竹取の心は氷結の様であった。
しかし、赤ん坊の姿で光る竹に入り地上に降り立った際に竹林で竹と筍狩りをしていた翁と嫗に拾われ貧しいながら赤ん坊であった自分を実の我が子の様に大切に育ててくれた事で彼女の人に対する見方を変えるきっかけとなった。
そして真斗と出会いが竹取の人に対する価値観が変わった。自分自身が望む物ではないものの真斗は真剣に竹取を愛し、そして皆に愛されようと努力する姿に地上の人が全て醜く欲深い存在でない事を知った。そして何より彼を、真斗を心の底から愛する様になった。
竹取は自身の事を全て少し悲しい表情で語り終えた。そして再び涙を流し始める。
「真斗、お爺様、お婆様、そして皆様、今まで隠していてごめんなさい。私は明後日の十五日に二十歳を迎えます。その日の夜、満月が高く昇る時に月蘭郷から迎えが来て私は・・・次期女王としての責務を果たす為に帰る事となったの!無論、もう二度と地上に帰る事はないの‼」
嘆き悲しむ竹取の口から出た事実に真斗達は驚愕する。
「なっ⁉ふざけるな!今までわしと婆様で大切に育てた竹取を!娘をおいそれと帰せるか‼」
竹取の右側に正座をし、平安貴族の服を着こなした翁は立ち上がり、怒りを露わにする。そして真斗の元に向かい、両膝を着いて深く頭を下げ、真斗を見る。
「真斗様‼一刻も早く兵を集め!城の守りを固めましょう‼例え誰が来ようとも必ず!竹取を守りましょう‼」
怒りと決意に満ちた表情と眼差しでそう言う翁の姿に他の皆も賛同し、真斗に促す。
「しかし・・・相手は月の民だ。どんな力を持っているのか分からない以上、真っ向から戦っても勝てるかどうか」
悩む真斗、だが翁と皆の戦う意思を強く固く決意した姿に真斗は押され戦う決意をする。
「分かった!爺‼今すぐ兵を集めて城の守りを固めろ‼」
彼から見て右側に正座をする源三郎に命を出し、命を受けた源三郎は深々と一礼をする。
「ははぁーーーっ‼」
こうして真斗の命で急遽、鬼龍軍の兵士達が城の守りの為に集まる。一方、翁も竹取を守る為に“ある事”の為に密かに組織していた郎党を会津へ呼び出した。
■
竹取が真実を話した翌日には彼女が月の民であり、月へ帰る話しは会津の民達の間で噂となって話題っていた。
そんな中で真斗達は竹取を守る為に城の守りをかつての会津合戦以上に固め、外や天守閣、さらに色んな屋根の上には和弓や火縄銃で武装し陣笠と甲冑を着こなした鬼龍軍の足軽達と立物を付けた小星兜と大鎧を着こなした武士達が待機していた。
そして迎えた十五日の夜、会津城は松明の光で明るく灯されていた。そして竹取は嫗と乙姫と桜華、奈々花と共に城の武家屋敷の一角にある塗籠の中に籠らせ、更に甲冑を着こなした愛菜、鶴姫、景、直虎が三人の警護をし、塗籠の外や屋根を陣笠と甲冑を着こなし武装した景と直虎の足軽達と鉢金を巻き軽装の甲冑を着こなした武者巫女達が守っていた。
「大丈夫ですよ義姉上。兄上達なら必ず月の使者を追い返せるはずです!だから心配しないで下さい‼」
正座をする竹取に向かって片膝を着いて自信に満ちた表情で言う愛菜であったが、竹取は悲しい表情のままで深く溜め息を吐く。
「ありがとう愛菜。でも無駄よ。月の民は皆、強力な神通力を使う事が出来るのよ。特に王族は下手をすれば一つの世界を滅ぼす程の力を持つのよ。私を迎えに来る使者も王族までとはいかないけど強力よ」
「それでも・・・・戦わないよりはましですよ!」
そう言って愛菜は立ち上がり壁に立てかけてあった薙刀を手に持つ。
一方、兜と甲冑を着こなした真斗達は大広間まで胡坐をして月からの使者を待ち構えていた。
「しかし、驚きましたよ。翁様が死んだと思われていた義経四天王の亀井 重清だったとは」
関心しながら上座で胡坐をする真斗は左側で胡坐をし、立物を付けた小星兜と大鎧を着こなした竹取の翁こと重清を見ながら言う。
すると胡坐をし、太刀と和弓を右に置く重清が真斗を見ながらフッと笑う。
「わしも竹取の事を言えませんね。わしは本当なら兄と共に最後まで義経様を守る為に討ち死にするはずでしたが、兄に説得され生きる為に落ち延びました」
そして重清は右手で大鎧の内側から竹で作られた小さい護符を取り出し、それを見て笑顔になる。
「最初、竹取と出会ったあの竹林に落ち延びたわしは義経様と一族再興の為に生きていた。だが、あいつと嫗と出会った事で全てが分かり、悟った。なぜ兄がわしを逃がしたのかを」
そう言うと重清は護符をギュッと握る。
「大切な家族を逃がすだけでなく郎党として主を守る武士としてではなく大切な人を守る武士として生きろと。それからわしは同じ想いで生き残った武士を集めて媼と竹取を守る為の郎党、“月竹党”を組織した」
重清の語りを聞いた真斗はどこか自分に似ていると感じ、フッと笑顔になる。すると、そこに頭形兜と甲冑を着こなした鬼龍軍の足軽隊長が慌てた様子で現れる。
「真斗様!来ました‼月からの使者が現れましたぁーーーっ!」
足軽隊長からの知らせに真斗達はキリッとした表情となり、武器を持ち立ち上がる。そして勇ましく堂々とした姿で真斗を先頭に皆は廊下を歩き竹取達の元へと向かう。
■
一方、外では満月が天高く昇った時に外で待ち構えていた鬼龍軍の足軽達と月竹党の武士達が眩い光と共に満月から神々しい貴族の様な服を着こなした五人の美しい女性が白い雲に乗って現れる。
幻想を超えた美しさと堂々な姿に鬼龍軍は言葉を失い呆然とする。また、その光景は城外の百姓達も目撃しており鬼龍軍と同じ様に呆然としていた。
すると見ていた健樞介がハッとなりキリッとした表情となると振り向き外に出て見ていた百姓達に大声で言う。
「皆ぁーーーーーっ!こおしちゃいけねぞぉ‼おら達も武器持って城に行くぞ!どんな人だろうが!竹取様はおら達にとっても大切な人だろう‼おら達も竹取様を守るぞぉーーーーーーーーーーっ‼」
それを聞いた百姓達は覚悟を決めた様な勇ましい表情で一斉に拳を高々に上げる。
「「「「「「「「「「おぉーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ‼」」」」」」」」」」
塗籠に着き、外で月からの使者達が到着した光景に真斗達も言葉を失い啞然としていた。だが、すぐに重清のハッとなり真斗に向かって言う。
「真斗様!早く!早く‼奴らを!月の使者を射抜き堕とさないと‼」
重清に言われてハッとなった真斗はすぐにキリッとした表情で大声で号令をする。
「弓矢隊!鉄砲隊!発てぇーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ‼」
真斗からの号令に鬼龍軍の足軽達と月竹党の武士達はハッとなり、ゆっくりと降りて来る月の使者達に向かって和弓と火縄銃を構えて応戦を始めた。
発たれた矢と弾丸は月の使者に向かって飛んで行くが、月の使者達のリーダーらしき茶髪の美女が右腕を前に出し横に向かってフワッと動かすと矢と弾丸が目に見えない波動であらぬ方向へ飛んで行き、その光景に鬼龍軍の足軽達と月竹党の武士達は驚く。
「お!おい!矢と弾が弾き飛んだぞ‼」
「くそ!とりあえず撃て!城に絶対に近づけるなぁ‼」
「ダメだ‼撃っても!撃っても!届かんぞぉ‼」
「撃て!矢と弾が尽きるまで撃ち続けるんだ‼」
鬼龍軍の足軽達と月竹党の武士達は慌てながらも月の使者達が来るのを阻止しようと必死になって撃ち続けるが、月の使者達は見えない力で矢と弾丸を弾き飛ばす。そして屋敷の屋根の高さまで月の使者達が近づくと見えない力で鬼龍軍の足軽達と月竹党の武士達は魂が抜かれた様に力が抜け動かなくなる。
そしてリーダーと思われる茶髪の美女が落ち着いた表情で塗籠の出入りに立ち塞がる真斗達に話し掛ける。
「竹取の翁よ我の名は天津甕星。なよ竹の竹取姫こと織姫の姉です。我が妹を月の都を治める次なる女王として大切に育てた事、感謝する。さぁ我の元に妹を、織姫を渡しなさい」
天津甕星からの要求に重清は怒りに満ちた表情で反論する。
「ふざけるな!竹取を‼大切なわしらの人生の宝をそう簡単に渡せるか‼立ち去れ!この月の使者を偽った賊めが‼」
重清はそう言いながら腰に提げている太刀に手を掛け抜きかけた時に天津甕星は呆れた表情をする。
「まったく業の深い人間め。さぁ妹よ、私の元に来なさい」
そう言うと天津甕星はフワッと右腕を真っ直ぐ伸ばし手をクイッと動かした瞬間、突風が吹き出し重清を含めた真斗達は後ろに吹っ飛び、後ろの塗籠の戸を突き破り室内の壁に叩き付けられる。
吹っ飛ばされて来た真斗達に嫗と乙姫、桜華、奈々花、愛菜、鶴姫、景、直虎が驚く中で竹取はゆっくりと立ち上がり外へと向かう。
「姫!竹取‼行ってはダメよ‼」
嫗は悲しさを感じる必死の制止を振り切った竹取は立ち止まり、悲しい表情で振り向く。
「ごめんなさい、お婆様。でもこれは私の運命なのです」
そう言って竹取は縁側に出た瞬間、手に武器を持った健樞介率いる百姓達が勢い良く竹取を守る様に天津甕星の前に現れる。
「皆さん!どうして、ここに⁉」
驚く竹取、そして健樞介が天津甕星に向かって強く訴える。
「おら達にとっても大切な竹取様を連れて行くなぁ!連れて行きてぇなら!おら達を倒してからにしろぉーーーーっ‼」
健樞介率いる百姓達は武器を掲げながら必死に抗議するが、天津甕星はフッと笑う。
「どう抗おうとも無駄です。さぁ退きなさい地上の人達よ」
天津甕星がそう言うが、健樞介達は退く気配はなかった。
すると竹取はその光景に温かく嬉しい気持ちと同時に申し訳ない気持ちが込み上がる。
「皆さん!もういいんです‼ありがと、私をここまで愛してくれて。でも私は皆さんの血を見たくはありません。道を開けて下さい。そして、どうか私を見送って下さい」
竹取は涙を流しながら笑顔で言うと健樞介率いる百姓達は振り向き彼女の姿を見て涙を流し、武器を降ろすとゆっくりと天津甕星に向かえる様に道を開け、その場で両膝を着き身を低くする。
そして竹取はゆっくりと歩き出し天津甕星の元へと向かい、差し出された彼女の右手を取り雲に乗る。
「それでよいのです織姫。愛さるのは素晴らしく時には残酷です。しかし、貴女が愛されるべき場所は汚れた地上ではありません」
そう言って天津甕星は竹取に青色の小さな壺を差し出す。
「これを。不老不死の薬を飲み天の羽衣を着なさい」
竹取は不老不死の薬が入った壺を手に取ると天の羽衣を持つ天津甕星の侍女が竹取へと近づく。
「待ってくれぇーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ‼」
するとそこに百姓達が竹取の為に開けた道を通って真斗が走りながら現れ、天津甕星の前に腰に提げている愛刀を抜き捨て、両膝を着いて深く頭を下げる。
「天津甕星様!一生のお願いです‼どうか!私の!私達の愛する竹取を連れて行かないで下さい‼私は竹取の夫である鬼龍 真斗と申します‼彼女は私の!いや!俺の人生の支えとなっています‼お願いします‼どうか彼女を!ここに居させて下さい‼」
必死に懇願する真斗。すると天津甕星は小さく頷く。
「鬼龍 真斗と言いましたね。分かりました。貴方様の熱意に免じて竹取を連れて行くのはやめましょう」
それを聞いた真斗は頭を上げ、喜びに満ちた笑顔をする。
「本当ですか⁉」
「ただし、条件があります。貴方様がもっと大切な物を私に差し出しなさい。それが出来ないのであれば妹の事は諦めなさい」
それを聞いた真斗は啞然とし、竹取は驚く。
「お姉様!それはあまりにも‼」
「貴女は黙っていなさい‼」
天津甕星は右の手の平を竹取に向けて彼女を制止させる。
一方の真斗は困った表情で深く俯く。その姿に天津甕星はフッと小さく笑う。
(やはり。どんなに勇ましく純粋な心も持とうとも所詮、地上の人間の根元は醜く汚らわしい欲望の塊。我が妹や宝以外、大切な物などないくせに)
そう心の内で嘲笑う様に語る天津甕星。すると真斗は決意した眼差しと表情で頭を上げ前を向くと兜と胴、そして袖、籠手を外す。そして筒袖を脱ぎ上半身裸となる。
そして抜き捨てた小太刀を鞘から脱ぎ柄を両手で持ち、刃先を自身の腹に向ける。
「爺!介錯を頼む‼」
真斗は右を振る向き、一緒に着いて来た源三郎にそう言うと源三郎は軽く一礼をする。
「はい!若‼」
そして源三郎は真斗の覚悟を受け止め、腰に提げている愛刀を抜き両手で柄を持ちながら真斗の右隣に立つ。
「愛菜!後は爺達と共に会津を頼む‼」
真斗は左を向き、彼の後に付いて来た愛菜にそう言うと彼女は真斗に近づき両膝を着き、覚悟を決めた表情で頷く。
「はい!兄上‼」
「皆の者よ!この俺の‼鬼龍 真斗の勇ましい最後をしかと目に焼き付けよ‼」
真斗が力強く命じると皆は両膝を着き、深々と頭を下げる。
「「「「「「「「「「「「「「「はっはぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ‼」」」」」」」」」」」」」」」
そして真斗は天津甕星を決意を固めた表情と眼差しで見る。
「天津甕星様!この俺の‼鬼龍 真斗の命と首を貴女様に捧げます!いざぁーーーっ‼」
そして真斗は小太刀の刃先を勢いよく自身の腹部に突き刺し、俯きながら激しい痛みに耐えながら左から右へと動かす。
「爺!・・・・頼む‼」
真斗は痛みに耐えながら源三郎の方を向くと彼は愛刀を高々に掲げて構えながら覚悟を決めた表情で頷く。そして。
「チェストォーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ‼」
掛け声を叫びながら源三郎は勢いよく愛刀を振り下ろし、真斗の首を斬り落とす。
そして源三郎は愛刀に付いた血を左の腕の関節に挟み拭き取ると真斗の死体に向かって深々と一礼をし、地面に転がった真斗の首を拾い上げると持っていた手拭いで汚れた真斗の顔を綺麗にし、片膝を着いて両手で真斗の首を持ち天津甕星に差し出す。
「天津甕星様!我が主‼鬼龍 真斗様の首です!どうぞ!お受け取り下さい‼」
あまりにも予想外の事に天津甕星は言葉を失う程に驚愕する。まさか真斗が愛する人の為に自らの命を差し出した事に。
一方、首を斬られた真斗は黒く暗い何も感じない世界を漂っていた。
(これでいい。これで。竹取が残ってくれば俺は何も悔いはない。あ!でも生まれて来る我が子を一度でいいか抱っこしたかったなぁ)
などと心の内で語る真斗。すると誰かの声が響き渡ると同時に真斗の体を眩い光が包み込む。そして次の瞬間、真斗は目を覚まし勢いよく上半身を起こす。
息を切らせ驚きがら自身の腹と首を触り、自ら小太刀で斬った傷口はなく源三郎の介錯で斬られた首と胴体がしっかりと繋がっていた。
「あれ?確かに俺は自分で腹を切って爺の介錯で首を斬られたはず‼」
「真斗‼」
するとそこに雲に乗っていた竹取が涙を流しながら真斗の胸元へ飛び込み抱き付いて来る。
「竹取⁉確かに俺は死んで!」
「ええ!そうよ‼でも、お姉様の力で蘇ったのよ」
涙を流し喜びながら言う竹取の頭を真斗は笑顔で優しく撫でる。
「真斗殿、貴方は本当に心の底から妹を、竹取を愛しているのですね」
真斗と竹取は離れて目の前の天津甕星を向き正座をする。
「はい。愛する竹取を救う為なら我が命を捨てでも守る覚悟です。どうか!竹取を連れて行かないで下さい‼」
「お姉様!私からもお願いします‼どうか!夫の!真斗の側にずっと居させて下さい‼」
真剣で固い決意に満ちた表情をする真斗と竹取は深々と天津甕星に向かって頭を下げる。すると二人の後ろでも源三郎達や乙姫達、そして健樞介率いる百姓達や今まで力が抜かれていた鬼龍軍の足軽達と月竹党の武士達も天津甕星に向かって正座をし、深々と頭を下げる。
その光景に天津甕星は何かを諦めた様な表情で小さく溜め息を吐く。
「分かりました。あなた達の意思を尊重し我が妹、竹取をこの地上に残します。ですが、その前に竹取、貴女を地上に永遠に残す事は二度と月の都へ帰る事は出来ませんよ。後悔はありませんね?」
頭を上げた竹取の表情は固く揺るがない決意に満ちており、彼女は迷いなく天津甕星の問いに頷く。
「はい!悔いはありません‼それでも愛する真斗と引き離すのであれば!私はこの場で舌を噛んで自害します‼」
竹取の答えに天津甕星は笑顔で頷く。
「分かりました竹取。お父様とお母様には私から話を通しておきます。真斗殿、何が何でも我が妹を、竹取を命に変えても守って行きなさい。貴方の大切な人々と共に」
笑顔でそう言う天津甕星からの約束に真斗は勇ましく固い決意に満ちた表情で深々と一礼をする。
「ははぁーーーーーーーーーーーーーーーーっ‼」
「では、さらばです」
天津甕星はそう言うと連れて来た侍女達と共に眩き光となって満月に向かって飛び去って行った。
頭を上げ安心した笑顔となった真斗は竹取の方を向く。
「竹取・・・⁉」
すると竹取が嬉しい笑顔と涙を流しながら真斗へ抱き付き、彼の左の耳元で優しく囁く。
「今日は色々、あったからゆっくり休みましょう」
その囁きで真斗は不思議と心と体を包み込む様に癒されながら頷く。
「ああ、そうしよう」
こうして武士としてではなく、一人の愛する人を命に変えても守る男としての覚悟を示した真斗によって竹取は永遠に真斗の側に居続ける事となった。