表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
FIERCE GOOD -戦国幻夢伝記-  作者: IZUMIN
【第一章・天下統一編】
40/65

第 肆拾零 話:武蔵の浮城

 会津を出陣した鬼龍軍は武蔵へ向かう途中で豊臣の命で同じく忍城(おしじょう)攻めに向かっていた石田 三成の軍、約三万と合流した。


 そして6月15日の昼に丸墓山(まるはかやま)古墳に陣を引きいくさの準備をしていた。


 その間に兜と甲冑を着こなした真斗は同じく兜と甲冑を着こなした源三郎達を連れて忍城(おしじょう)へと向かい、大広間で長親達と胡坐で謁見していた。


「長親殿(どの)、お願いします!相手は天下統一を目前とした信長様の軍です‼忍城(おしじょう)の兵力五百に合わせて義勇兵として参加する百姓二千五百を加えても!三千の兵力では二万の兵力に簡単に潰されますぞ‼」


 真斗は何とか上座に居る長親を必死に説得するが、兜を脱ぎ甲冑を着こなす長親は目を閉じ、真顔で首を横に振る。


「真斗殿(どの)・・・お気持ちはありがいたが、坂東(ばんどう)武者(むしゃ)の誇りに掛けてでも譲れないのだ」

「ですが・・・・」


 心配そうな表情の真斗に対して長親はフッと明るく笑う。


「なーーに、そんな心配そうな顔をしなさんなぁ。例え負けいくさになったとしても我らは死に物狂いで生き残るつもりなので」


 笑顔でそう語る長親であったが、その目には誇り高い武士としての意志が宿っており、真斗は同じ武士として納得し、それ以上、食い下がる事はなかった。


「分かりました長親殿(どの)、では我らは今ここに手切(てぎれ)としましょう」


 そう真面目な表情で言う真斗は左側に置いていた愛刀の赤鬼(あかき)を右側に置く。


 すると真斗の右後ろに居る源三郎は驚き、すぐさま彼の肩を掴み制止させる。


わか!ダメですぞ‼ここはもっと食い下がらないと‼このままでは忍城(おしじょう)はただ蹂躙されますぞ!」


 すると真斗は源三郎の方を振り向き、笑顔で頷く。


「分かっている。だが、長親殿(どの)や周りの彼に付き従う家臣達の目を見てみろ。あれは梃子(てこ)でも動かない意思だ」


 源三郎は真斗から言われたように長親と家臣達の目を見てみると確かに瞳の奥には揺るぎない意思がそこにはあった。


「長親殿(どの)、我々はこれで失礼します。戦場(いくさば)で相まみえる時は我ら会津の鬼武者達が容赦なくお相手しますので」


 真斗が軽く一礼をした後にそう笑顔で言った後に長親は怪しそうな笑顔をする。


「はい。我ら坂東武者、いつでもお相手てしますので研ぎ澄ました牙をご遠慮なくお使い下さい。ニッヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ」


 長親はそう言い、真斗達は立ち上がり大広間を後にする。


 そして真斗達は佐間の口から愛馬に乗って城を出る時に軽装の甲冑姿をした甲斐(かい)姫が現れ、真斗に声を掛けた。


「真斗!お前、本気で我々と戦うつもりか?」


 少し険悪そうな態度で問う甲斐(かい)姫に愛馬である轟鬼(ごうき)の上から真斗は笑顔で答える。


「ええ。でもいくさをするって決めたのは長親殿(どの)ですよ。私は必死に説得しましたけど、ダメでした。甲斐(かい)姫様、なんとか出来ませんか?」


 真斗の助けに少し悲しい表情となった甲斐(かい)姫は首を横に振る。


「私でも無理だ。長親は一度決めたら何があっても曲げん男だ」

「そっかーっさて、どうするか?」


 困った表情をする真斗に今度は笑顔になった甲斐(かい)姫は優しく彼を励ます。


「そう落ち込むな真斗。お前はよくやった方だよ。それに長親も私も、そして城に集まった者達もそう簡単に死にはしない!安心せい」


 甲斐(かい)姫からの励ましに真斗は笑顔となり頷く。


「ありがとうございます、甲斐(かい)姫様。では我らは参りますので、失礼」

「うむ。気をつけての」


 甲斐(かい)姫は笑顔で見送りの言葉を真斗達に送り、真斗達は愛馬を走らせ本陣である丸墓山(まるはかやま)古墳へと向かうのであった。


 そして丸墓山(まるはかやま)古墳の山頂にある本陣に着いた真斗はすぐに忍城(おしじょう)との降伏交渉が決裂した事を三成に報告していた。


「そっか。戦う事になったのか」


 兜と甲冑を着こなし、少し興奮気味の三成からの問いに真斗は申し訳ない表情で頷く。


「申し訳ありません三成様。何とか説得しまたけど、意思を曲げる事はないようです」


 真斗からの報告を聞いた三成は笑顔で忍城(おしじょう)を見た後に振り向き、兜と甲冑を着こなし、その場に募った信玄、幸村、謙信、兼続に命じる。


各々(おのおの)方‼︎天下統一の為に!早速‼︎軍議を開く!」

「「「「おぉーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ」」」」


 皆は気合いの入った返事をした後に自軍の兵力確認の為に本陣を後にした。


 すると豊臣の家臣である兜と甲冑を着こなした大谷 吉継が少し慌てた様子で再び忍城(おしじょう)を見る三成に近寄る。


「大丈夫か?忍城(おしじょう)は沼や小川を利用して作られた城だぞ。真っ向から戦って勝てるかどうか?」


 吉継の疑問に兜と甲冑を着こなし自慢げな笑顔で長束 正家が三成に変わって答える。


「お前は本当に心配者だな吉継。我らの兵力は三万、さらにまもなく小西 行長が率いる軍が到着する。合わせれば四万弱となる!こんな支城なぞ簡単に捻り潰せるわ‼︎」


 だが、吉継と同じく真斗も不安そうな表情で忍城(おしじょう)を見ながら正家に言う。


「俺もここはそう簡単には落とせないと思います。何度かここへ来ましたが、忍城(おしじょう)は地形を上手く使っています。例え我らの兵力が増えても落とすのは難しいですぞ」

「フハハハハハッ!真斗よ!所詮、忍城(おしじょう)は田舎(じろ)よ。兵力も少ないし問題はない」


 計画を軽視する様な傲慢な発言する正家であったが、真斗と吉継の悪い予感は翌日になって現実となった。


⬛︎


 翌日の早朝、昨日の内に到着した小西 行長が率いる軍が到着し三成の軍は四万弱、長親の軍は三千弱と圧倒的な兵力差で三成の本陣からいくさを開始する陣太鼓と法螺(ほら)貝が鳴り響く。


 忍城(おしじょう)の四方八方に配置された四万の軍は陣太鼓と法螺(ほら)貝を聞き、意気揚々と忍城(おしじょう)に向かって前進を始める。


 だが下忍口(しもおしぐち)からの攻めを行長と共に担当する事となった真斗は昨日から不安が消えずにいた。


(城に通づる各門口は道は狭く、何より入り組んでいる。やはり昨日(さくじつ)の軍議で決まった力押しで攻め落とす事はほぼ不可能だ!)


 自軍と行長の足軽達に囲まれている中で愛馬の轟鬼(ごうき)に乗り、兜と甲冑を着こなした真斗が難しい表情で忍城(おしじょう)を見ながら心で語る。


「行長様!ここは力押しではなく‼︎無難に秤量攻めで落とすのが得策と思われます!」


 真斗は危機迫った様な表情で左側で愛馬に乗り、兜と甲冑を着こなした行長に進言するが、行長は忍城(おしじょう)を真顔で見ながら否定する。


「真斗、それは出来ん。確かにお前の意見は正しいが、軍議で力押しと決まった以上、すぐには変えられん」

「しかしっ!」


 すると下忍口(しもおしぐち)に向かう足軽達の前に愛馬に乗り、さらに鉄砲兵を馬の後ろに乗せた十人の騎馬兵が乗る馬を引き連れた兜と甲冑を着こなした丹波が俊敏な速さで立ちはだかった。


「構えぇーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!」


 右手に和槍を持った丹波からの大きな号令に馬を操る騎馬兵が上半身を前に倒し、後ろの鉄砲兵が持っている二式火縄銃二型を構える。


(はな)てぇーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!」


 丹波の号令で一斉に二式火縄銃二型の銃口から火を噴き、轟音と共に弾頭が飛ぶ出す。


 銃撃を受けた前列の真斗、行長の足軽達は次々と悲鳴を上げながらバタバタと倒される。すると丹波が指揮する騎馬隊はすぐさま別の門口へと走って向かうのと同時に下忍口(しもおしぐち)の門から義勇兵として武装した百姓達が雄叫びを上げながら一斉に飛び出す。


 その光景に真斗は引き締まった表情となり、腰に提げている愛刀の赤鬼(あかき)を抜く。


「行長様!このままでは総崩れになります‼私が自ら最前に向かって直接!戦いながら兵の指揮を取ります‼」


 そう言うと行長も引き締まった表情となり持っている軍配を投げ捨て、腰に提げている愛刀である太刀、十侍華(じゅうじか)を抜く。


「ああ!だが私もく‼このまま見ている訳にはいかないからなぁ!」

「はい!では参りましょう‼」

「ああ!主よ‼どうか我に力を与えたまえ!」


 キリシタン大名である行長は祈りの言葉を唱える。そして真斗と共に愛馬の手綱を大きく振り、最前に向かって走り出す。



 忍城(おしじょう)の攻め落としが始まって約三時間、激しい戦いで初戦は三成軍が大損害を被り撤退、初戦は成田軍に上がった。


 真斗と行長は最前で足軽達を指揮しながら成田軍と戦ったが、沼地と湿地ゆえ上手く立ち回る事が出来ず、全滅を避ける為に已む無く撤退した。


 三成の本陣では三成、吉継、正家、行長、そして真斗以外の武将達は苦渋を舐めた様な表情をしていた。


「くそ!奴らを侮っていた‼︎まさかここまでの抵抗を見せるとわ!」


 謙信がそう言うと同調する様に信玄が頷く。


「ああ!だが、どうする‼︎いつまでも忍城(おしじょう)に手こずっているわけにもいかんぞ!」


 すると正家が物凄く不機嫌そうな表情で皆を怒鳴る。


「ならば早急に良い案を出さんかい‼︎甲斐の虎も越後の軍神もここまで無能だったとは!」


 正家からの身に余る言動に幸村と兼続が反論する。


「親方様は決して無能などしておりませぬ!正家殿(どの)‼︎先程の発言!お取り消し下さい‼︎」

「さよう!幸村殿(どの)の言う通りです‼︎正家殿(どの)!我が主人、謙信公に謝罪を‼︎」


 二人からの弁明申し出に正家のイライラはさらに強まった。


「なんだとぉーーーっ‼︎信長様の前に敗れたお前達が秀吉様の家臣であるこの俺に!楯突くかぁーーーーーーーっ‼︎」


 お互いに睨み合いながら正家、幸村、兼続は一気に間合いを詰めた時に怒りの様な険しい表情をした真斗が三人の間に割って入る。


「三人共!おやめ下さい‼︎こんな所で言い争っても何も変わりはしませんぞ!もしこのまま続けるのであれば‼︎私は容赦なく皆を切り捨てます!」


 そう言いながら真斗は愛刀の赤鬼(あかき)を少し鞘から出し、威圧する。


 すると忍城(おしじょう)を真剣な眼差しで見ていた三成が振り向き、口を開く。


「各々の方、初戦で負けた悔しさはよく分かります。だが、ここは一旦、心を落ち着かせ下さい。たった今!三成は良い策を思い付きました‼︎」


 三成は自信満々な笑顔で言った後に正家が問う。


「どんな策だ三成?」

「あの城は!水攻めで一気に落とす‼︎これなら落城は確実です!」


 三成からの水攻めの提案に皆は納得する。


「それでは各々の方!水攻めの具体的な計画が出来るまで一旦、自軍の本陣へお戻り下さい!」


 三成から命に信玄、謙信、幸村、兼続は気合いの入った表情で頷き、三成の本陣を後にした。


 だが真斗は不安な表情で再び忍城(おしじょう)を見る三成に進言する。


「三成様!忍城(おしじょう)相手に水攻めは得策ではありません‼︎もっと現実的な攻め方の方が!」


 だが三成は真斗の言葉に耳を貸さず、勝利を確信した様な自慢げな笑顔をする。


「いいや!あの城は確実に水攻めで落とす‼」


 そして三成は事細かい指示を紙に書き留め、各武将達に配布した。更に堤防作りに百姓達を大量に動員する為に朝は金百両(約100万円)に米俵三袋、夜は金百十両(約110万円)に米俵四袋と労働報酬を設定した。



 報酬目当てに集まった大勢の百姓達をフルに使った昼夜を通しての堤防は忍城(おしじょう)を取り囲む様に作られ、“石田(つつみ)”と名付けられた。


 更につつみは四~五日と言う超短期間で完成し、長さは二十八キロメートルにも達した。


 つつみが完成した五日目の早朝に三成、吉継、正家、行長、信玄、幸村、謙信、兼続、そして真斗がつつみに上り、忍城(おしじょう)全体を見る。


「これぞ天下人の戦いぞ!歯向かう者は圧倒的な力で全てを叩き潰し‼そしてなぎ倒す‼」


 自信満々な笑顔で忍城(おしじょう)を見ながら言う三成に対して同じく忍城(おしじょう)を見ながら呆れた表情をする真斗が言う。


「もう好きにして下さい。私はどうなっても知りません」


 そして三成は右手に持つ采配(さいはい)を高々と上げる。


「決壊させよぉーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ‼︎」

「「「「「「「「「「おぉーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ‼︎」」」」」」」」」」


 三成の号令に三成軍の足軽達は掛け声をし、その後に大太鼓が力強く鳴り響く。


 そして雇われた陰陽師達によってつつみの内側に城を取り囲む様に制作された大きな五芒星(ごぼうせい)の呪印札が青白く光出し、そこから轟音と共に大量の水が大量に流れ出す。


 流れ出した大量の水は様々な物を押し流しながら忍城(おしじょう)を襲ったが、各守りが流される中で本丸だけは流されなかった。まるで水の上に浮いている様な光景から“武蔵の浮城”と呼ばれた。


 だが、水攻めが始まって二日目の大粒の雨が降り頻る夜に事態は急変した。


 紫色の陣笠(じんかさ)と甲冑を着こなし、和槍を持った二人の三成軍の足軽がつつみの上を見廻っている時にピキピキと鈍い音が響き渡った。


「ん?なんだ今の音は」


 一人が立ち止まり音がする方を探していると足元の土台が急に揺れ始め、しかも大きなヒビ割れが起き始める。


「ああぁーーっ‼︎防が崩れるぞぉーーーっ!」

「いかん‼︎防が決壊するぞぉーーーーーーっ!」


 二人は慌てながら叫び、それを聞いた鐘撞(かねつ)き台の足軽が急いで釣鐘を力強く小槌(こづち)で叩く。


 鳴り響く釣鐘の警告音に丸墓(まるはか)山古墳に敷かれた兵舎で寝ていた足軽達が寝ぼけながら起きて外に出る。


 だが時すでに遅く、物凄い轟音と共に一部の石田(つつみ)が決壊し大量の水が流れ流れ込み兵舎を跡形もなく流し去ってしまった。


 原因は突貫工事でつつみを作った事で木の壁が増水の重みに耐えきれなくなり、さらに土台が濡れて柔らかくなった事が決壊に繋がってしまった。


 足軽からの報告を聞いた三成はすぐさまつつみの爆破を命令、至る所で束にした竹筒爆弾を使った発破を行い水抜きを行った。


⬛︎


 翌日の早朝、鬼龍軍の本陣では兜を脱ぎ、甲冑を着こなした真斗が床机(しょうぎ)に座り三成軍の足軽からつつみが決壊した事を聞いていた。


「そっか・・・分かった。お前はもう下がってよいぞ」

「はっ!では失礼します」


 真剣な表情で命じた真斗に向かって三成軍の足軽は軽く一礼し本陣を去った。


「さて、これからどう忍城(おしじょう)を攻めるか」


 右手で下顎を触りながら独り言を呟く真斗。するとそこに馬に乗った見知らぬ兜と甲冑を着こなした武士が突然、走りながら現れる。


「ご注進(ちゅうしん)!ご注進(ちゅうしん)いたすぅーーーーーーーーーーーーーっ‼︎」


 武士は慌て叫びながら落馬する様に乗っている馬から降りる。


「貴様!何者だ‼︎」


 兜を脱ぎ、甲冑を着こなした忠司(ただし)が厳しい表情で言いながら愛用の野太刀、岩鬼(がんき)を抜き構えるのと同時に浅葱色の陣笠(じんかさ)と甲冑を着こなした鬼龍軍の足軽達も持っている和槍を構える。


 すると現れた武士は息切れをしながら答える。


「私は北条 氏康様の使いの者です‼実は至急、真斗様にお伝えしたい事がありまして!」


 忠司(ただし)は彼の言葉を信じないと言わんばかりに斬り掛かろうとしたが、真斗は床机(しょうぎ)から立ち上がり、忠司(ただし)を制止させる。


「分かった。申してみよ」


 真斗からの問いに武士は一礼し、ご注進(ちゅうしん)を申す。


「はい!この先の(いくさ)はご無用‼本城である小田原城は昨日の内に落城いたしました!忍城(おしじょう)は速やかに開城せよとのご命令です‼」


 武士の口から出た小田原城の落城の知らせに真斗を含め皆が驚く。


「何だと⁉それは本当か?」

「はい!その証拠に真斗様にこの書状をお渡しせよと‼」


 武士は胸元から“命”と書かれた折り畳んだ書状を取り出し、真斗はその書状を受け取るのと同時に忠司(ただし)を含め皆は刃を治める。


 真斗は受け取った書状を開き、内容を確認すると確かに小田原城の落城と忍城(おしじょう)の開城が氏康の直筆で記されていた。


「まさか・・・こんな事が起きるなんて‼」


 未だに信じられない状況に少し戸惑う真斗であったが、書状を折り畳み真剣な表情となり武士に告げる。


「お前、名を何と申す?」

「はっ!私は猪井(いのい) 冴木智(さえきち)と申します」


 真斗からの問いに片足を付けて深々と頭を下げながら答えると真斗は自分の右側で和槍を持ち兜を脱ぎ、甲冑を着こなした源三郎に声を掛ける。


じい!俺はこの書状を持って三成様の元に向かう‼冴木智(さえきち)よ!お前は私と来い‼」


 真斗からの命に源三郎、忠司(ただし)冴木智(さえきち)、そして他の皆は深々と頭を下げる。


「「「「「「「「「「はっ‼」」」」」」」」」」


 そして真斗は冴木智(さえきち)を連れて馬で急ぎ丸墓(まるはか)山古墳の本陣へと向かった。


 本陣に着いた真斗はすぐに三成にさっきの書状を渡し、冴木智(さえきち)の口から小田原城が落城した事を伝えた。


「なんと!支城より先に本城が落ちるとは・・・ハッ!まったく運のいい奴らじゃ」


 三成は受け取った書状を真斗に返し、彼に命を下す。


「真斗、お前はつつみの水が抜け次第、書状とその者を連れてすぐに忍城(おしじょう)へ向かい開城の胸を伝えよ」

「はっ!」


 三成からの命に真斗は軽く一礼し、冴木智(さえきち)を連れて本陣を後にする。そして三成は残った武将達に命を下す。


「各々方、これ以上のいくさは無用だ!すぐに準備を中止し、自陣で待機せよ‼」

「「「「「「「おぉーーーーーーーーーーーっ!」」」」」」」


 返事をした信玄、幸村、謙信、兼続は自陣に向かう為に本陣を去るが、吉継、正家、行長は本陣に残り三成と共に忍城(おしじょう)を見る。


「ハハハハッ!まさか本城の落城まで耐え抜くとは‼このいくさ、この俺の負けじゃ!完敗だぁーーー‼」


 笑顔でそう言う三成に対して吉継も納得した笑顔で同情する。


「確かに。はたから見れば我らの勝利だが、落城しなかった点を見れば我らの負けだなぁ」


 一方で正家は物凄く悔しそうな表情で後頭部を右手で掻く。


「くそ!出来れば何とか落城させたかった‼」


 すると行長は笑顔で正家の右肩を左手でポンポンと軽く叩く。


「仕方ないよ正家、勝負は時の運だ。まぁこれはこれでよしとしよう。主よ感謝いたします」


 そして水が抜けた忍城(おしじょう)へ向かった真斗は再び長親達と出会い、小田原城が落城した事を伝えた。その後は開城の話し合い結果、兵糧の持ち出し自由と甲斐(かいひめ)姫を秀吉の側女にする事で忍城(おしじょう)の戦いは幕を閉じた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ