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FIERCE GOOD -戦国幻夢伝記-  作者: IZUMIN
【第一章・天下統一編】
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第 参拾漆 話:白い桃ノ木の伝説

 賤ヶ岳(しずがたけ)の戦いから約数日後、安土城と京を経由して大阪へと戻った徳川軍。


 連戦が続く中で鬼龍軍の疲労困憊は大きく戦闘継続力が限界であった。


 朝方、大阪城の武家屋敷の大広間で和製南蛮甲冑を着こなし、上座で胡座をする信長に向かって甲冑を着こなす家康は胡座で両手を拳にし深々と頭を下げて先の賤ヶ岳(しずがたけ)の戦いの戦果を報告していた。


「なるほど。足利 義昭は撮り逃したが、室町時代は名実共に滅亡したのだな?」


 上機嫌な笑顔で問う信長に対して家康は答える。


「はい、信長様。義昭の首を討ち損じてしまいましたが、室町幕府はこの世を去りました。同時に信長様の力を日ノ本全てに広く知れ渡った事でしょう」


 それを聞いた信長は右手に持っていた扇子をバサッと広げ、嬉しそうな笑顔で開いた扇子で家康を指しながら敬意を示す。


「ムハハハハハハハハッ!家康よ‼︎よくぞやったぞ!大義であった!」


 信長から褒め言葉に家康は素直に嬉しい笑顔となる。


「ありがとうございます!信長様‼︎」

「他の者達も大義であったぞ!真斗よ‼︎お前の軍はだいぶ疲弊しているな」


 家康の後ろで甲冑を着こなし胡座をする真斗は真剣な表情で頷く。


「はい、信長様。いくさがかなり続きましたので足軽達の中には会津へ帰りたがっている者もります」


 真斗が信長に向かって自軍の現状を言った後に信長は開いた扇子を扇いで自分に向かって優しい風を起こす。


「よかろう。小田原の征伐には準備が必要でな。その間に己の軍を引き連れて会津へ戻り、骨を休ませつつ征伐準備を整えよ。よいな?」


 信長の明るくも心の優しさを感じる命に真斗はハッと満面の笑みとなり、信長に向かって深々と頭を下げる。


「ありがとうございます!信長様‼︎」


 真斗からの感謝に信長は首を軽く横に振る。


「気にする事はない。他の者達も故郷に戻り体を休めつつ準備を行え、これは命令だ。よいな?」


 信長の命を聞いた家康、利家、慶次も笑顔で信長に向かって深々と頭を下げる。


「「「ははぁーーーっ!」」」


 その後、武家屋敷を後にした真斗は急ぐ様に島津家の屋敷へと向かい、源三郎達を広間に集め信長からの命を話した。


「本当ですかわか‼︎会津に戻れるのですか!」


 胡座で鎧直垂(よろいひたたれ)姿となって驚く源三郎に真斗は笑顔で頷く。


「ああ。小田原征伐に備えての一時的な物だが、ゆっくりと会津で体を休めるぞ」


 それを聞いた源三郎を含めて左之助、忠司、平助は帰れる事に喜び、一方で正座で一緒に聞いていたきょうと鶴姫も会津へ行ける事を喜ぶのであった。


⬛︎


 それから五日後、真斗は準備を整え疲弊した鬼龍水軍と共に大坂港を出発。それから数日後の朝方に岩城港(いわきこう)に到着した。


 一方、会津城内に移転された竜宮城内にある“水瑚(すいこ)の中庭”で竹取(かぐや)と乙姫は大きな池の真ん中に建てられたていの中で過ごしていた。


「はぁーーーーっ真斗が会津城を発ってから何日が経ったかしらぁ。手紙も送って来ないわね」


 唐式の猫足椅子に座り、少し悲しげな表情で言う竹取(かぐや)。そんな彼女の目の前の椅子に座る乙姫が唐国から輸入した紅茶の入ったお茶碗を一口、飲み笑顔で励ます。


「大丈夫よ竹取(かぐや)。きっと忙しくて手紙が送れないのよ。必ず真斗はきっと皆と一緒に帰って来るわよ」

「そうね、ありがとう乙姫。でもやっぱり、手紙の返事がないと不安なのよ」


 竹取(かぐや)が思っている事に乙姫は同情し頷く。


「確かにね。はぁーーーーーっ早く帰ってこないかしら」


 乙姫は少し悲しげな表情で手に持っている、お茶碗を竹取(かぐや)を挟んで置かれてある唐式の猫足机に置く。


 すると、そこに袴姿で草履を履いた愛菜が嬉しそうな表情で走って現れる。


義姉上(あねうえ)‼乙姫様‼兄上が!兄上が!帰って来ましたよ‼」


 愛菜から知らせに竹取(かぐや)と乙姫は驚くような表情で立ち上がるとすぐに明るい笑顔となり、一目散に走り出す。


 また源三郎の屋敷では桜華(おうか)奈々花(ななか)が中庭が見える縁側で正座をし、眺めながら心配そうな表情をしていた。


「ねぇ母上、義父上(ちちうえ)何時(いつ)、帰って来ますか?」


 桜華(おうか)の左側に座る奈々花(ななか)からの問いに桜華(おうか)は答える。


「んーーーっそうね。色々と忙しいそうだから、冬頃には帰って来るかもしれないわね」

「そうですか・・・・」


 桜華(おうか)の答えを聞いた奈々花(ななか)は少し寂し気な表情をする。


 すると、そこに屋敷の下男(げなん)が嬉しそうな表情で二人の後ろに慌てながら現れ、彼女達に向かって頭を下げる。


「奥方様!お嬢様!旦那様が‼源三郎様が帰って参りましたぞ‼」


 下男(げなん)からの知らせに二人は振り向き、喜びに満ちた笑顔をし立ち上がる。


「本当に⁉本当に源三郎が!夫が帰って来たの‼」

「はい!かなりお疲れでしたが、無事に会津へとお戻りになられました‼」


 下男(げなん)が嬉しそうに桜華(おうか)の問いに答えると二人は立ち上がり、笑顔で駆け出して行く。


 一方、会津へ帰還した真斗達は城下町の大通りを隊列を組んで進み、彼らの帰還を会津の人々は大いに喜んだ。そして真斗達は久しぶりの会津城へと入る。


 城の者達は真斗達の帰還を城門前で大いに喜びながら出迎える一方で竹取(かぐや)と乙姫が笑顔で走って愛馬の轟鬼(ごうき)を降り、兜を脱いだ状態で甲冑を着こなした真斗の元に飛び込む様に涙を流しながら抱き付く。


「「真斗ぉーーーーーーーーーーっ!お帰りなさいぃーーーーーーーーーーーーーっ‼」」


 抱き付いて来た二人を真斗は強く抱き締め、少し涙を流しながら笑顔で二人の頭を優しく撫でる。


「ああ、ただいま。竹取(かぐや)、乙姫」


 また二人の後を追う様に現れた愛菜も少し涙を流しながら笑顔で真斗の帰りを出迎える。


「お帰りなさいませ、兄上」

「ああ、ただいま。愛菜」


 一方の桜華(おうか)奈々花(ななか)も走りながら愛馬の飛鷹(ひよう)を降り、兜を脱いだ状態で甲冑を着こなした源三郎の元に飛び込む様に涙を流しながら笑顔で抱き付く。


「あなたぁーーーーーーーーーーーーっ!お帰りなさいぃーーーーーーーーーーーーーっ‼」

義父上(ちちうえ)ぇーーーーーーーーーーーーーっ!お帰りなさいぃーーーーーーーーーーーーーっ‼」


 源三郎も真斗と同じく少し涙を流しながら笑顔で二人の頭を優しく撫でる。


桜華(おうか)奈々花(ななか)、長く留守にしてすまなった。それと・・・ただいま」


 それから疲弊した鬼龍軍の足軽達は武器や残った物資を倉庫に戻し、それぞれの家へと帰るのであった。


⬛︎


 しばらくして昼時、城屋敷の大広間とは別に作られた畳の広間では風を通す為に全ての(ふすま)が開けられた状態で真斗、竹取(かぐや)、乙姫、愛菜、それに竹取のおきなおうなきょう、鶴姫が共に四角く囲む様に台物(だいもの)に乗った昼食料理を食べていた。


「なるほどね。じゃ兄上は鶴姫様だけじゃなくきょう様も側女と迎え入れたのですね」


 愛菜からの問いに縁の方に胡座をし、鬼龍家の家紋が刺繍された大紋(だいもん)姿で茶碗に入った雑穀米を食べる真斗が頷く。


「ああ、武吉殿(どの)の直々の申し出でなぁ。引き受ける事になったんだ」


 真斗の左隣で正座をし、小皿に乗った沢庵(たくあん)を食べながら二人の会話を聞いていた竹取(かぐや)がふぅーーーんっとした表情をする。


「私は別に真斗が誰を側女として自分の元に迎え入れるかなんて気にはしないわ」

竹取(かぐや)、お前・・・」


 竹取(かぐや)の鶴姫だけでなくきょうを迎え入れる事に反対しない姿に真斗は少し喜ぶ。


 すると竹取(かぐや)は食べる手を止めて、キリッとした表情で真斗の方を見る。


「でもね真斗!側女に構って正室の私を蔑ろにしたら許しませんからね‼︎それとちゃーーーんと私との間に稚児(ややこ)を儲けてね!」


 竹取(かぐや)からの釘を刺す様な懇願に真斗は少し慄く。


「お!・・・おう!分かったよ竹取(かぐや)。アハハッそ、それとおきな様、おうな様、何か変わった事はありませんでしたか?」


 真斗は気持ちを切り替え、目の前で正座をし料理を食べる袴姿のおきなと小袖姿のおうなが笑顔で答える。


「いいえ、特に何も。変わったことは。あーっ!でも結婚祝いで鶴姫様から貰った種を竹取(かぐや)が中庭に植えて、一月もしない内に立派な木になりましたぞ」

「そうですね、じい様。真斗様の後ろに見えます大きな木がそれですよ」


 おうなが指を指す方に真斗は身を向けると中庭の中心に力強く、そして堂々と立つ一本の木が生えていた。


 木を見た真斗は感心する様に驚き、また真斗から見て左側に紅白の巫女服を着て正座し、食事をする鶴姫も食べる手を止め木を見て喜ぶ。


「うわぁーーーーっ!こんなにも早く木になるなんて!流石、“仙水湖(せんすいこ)桃木(とうぼく)”だわ」


 鶴姫が嬉しそうに言う木の名を彼女の目の前、愛菜の右側に正座をし食事をしていた乙姫が聞き、驚きのあまり手に持っていた箸と味噌汁が入っていた茶碗をボロッと落とす。


「ええぇ⁉︎嘘でしょ‼︎鶴姫!貴女から結婚祝いとして貰った種って仙水湖(せんすいこ)桃木(とうぼく)の木だったの‼︎」


 驚く乙姫に向かて鶴姫は振り向き、笑顔で答える様に頷く。


「ええ、そうなのよ。かつて唐国の商人が偶然、満州のとある山中で発見した種で私の元に売りに来た時は胡散臭かったけど、透視の呪術で本当だと知って買ったのよ」


 鶴姫がそう乙姫に説明するが、真斗達は何の事なのか全然、理解が出来ずにいた。


「おい、鶴姫。すまぬが、一体何なんだ仙水湖(せんすいこ)桃木(とうぼく)って?」


 竹取(かぐや)と共に振り返った真斗の問いに鶴姫は笑顔で頷く。


「分かったわ。じゃ説明するわね」


 鶴姫は改めて皆に竹取(かぐや)が植えた仙水湖(せんすいこ)桃木(とうぼく)についての説明を始めた。


⬛︎


 仙水湖(せんすいこ)桃木(とうぼく)はかつて飢えや災害で乱れた世を正す為に蓬莱(ほうらい)の山で修行した名も無き仙人の元に降り立った桃源郷の天女から授かった桃ノ木の種で最初は五つ存在していた。


 種を貰った仙人は自分の故郷である満州の山奥の地へと戻り、その地にある鏡の様な美しい湖の畔に種を埋め大切に育てた。そして一ヶ月の内に立派に育った木の枝に付けていた白い桃ノ実を獲り、この世の平和を願って食した。


 すると不思議な事に翌日には災害は収まり作物や穀物が豊作となり、飢えの苦しみが満たされ、乱れた世は正された。


 この食した者の願いを叶える不思議な白い桃ノ木を仙人は仙水湖(せんすいこ)桃木(とうぼく)と名付けた。だが、仙人と仲が良かった貴族の男性がその話を聞き、よこしまな心で白い桃ノ実を食べ、莫大な富を築いただけでなく桃の話を宴会で広めてしまい今度は仙水湖(せんすいこ)桃木(とうぼく)を巡る争いへと発展してしまい、仙人が桃の力で実現した正された世は再び乱れてしまった。


 そこで仙人はよこしまな者に白い桃ノ実が渡らないように木を根元から切り倒し、残った四つの種は誰も見つけられない場所へと散り散りに隠した後に仙人は人知れず姿を消した。


 以来、時の権力者がその木の桃の種を求めて探し続けたが、見つかるはずもなく木の話しは世界各地へと形を変えて広まり旧約聖書では“生命の木”、北欧では“世界樹(ユグドラシグ)”、仏教では“沙羅樹(さらじゅ)”、古事記では“高木神(タカギノカミ)”として知られている。


 鶴姫を含めて中央を向き座って彼女の説明を深々と聞いていた。


「なるほどね。じゃ俺達、鬼龍家は草薙(くさばぎ)の剣に次ぐ凄い神木(しんぼく)を手に入れたってわけか」


 両腕を組んで関心する様な表情をする真斗がそう言うと鶴姫は笑顔で頷く。


「そうね。でも本来、仙水湖(せんすいこ)桃木(とうぼく)ノ種は絶対に見つける事は出来ない物なのよ。それがどうして?」


 本物だと分かっていてもなぜ、見つかった疑う鶴姫に対しておうなは笑顔で言葉を掛ける。


「鶴姫様、きっとそれは誰よりも純粋な想いで戦乱の世を生きる真斗様に何か縁を感じて来たのかもしれませんよ」


 まるで無垢な子供に暖かい道徳心を教える優しい母親の様な答えに皆は納得する。


「そうだな、おうな様の言う通りかもしれないな。とりあえずだ、木に関しては誰一人として他者に話してはならん、よいな?」


 真斗が厳しく戒めると竹取(かぐや)達は真顔で軽く頭を下げる。


「「「「「「「ははぁーーーーーーっ!」」」」」」」


 皆の固い決意の姿に真斗は安心した様に明るい笑顔をする。


「よし!じゃ冷めない内に昼食の続きをしよう」

「「「「「「「はい!」」」」」」」


 真斗がそう言い竹取(かぐや)達が笑顔で返事をし、そして昼食の続きをするのであった。

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