第 参拾零 話:煉獄の比叡山(上)
平安京の中央、信長と仲が良い僧達が営む本能寺では設営した陣内で明智 光秀、柴田 勝家、丹羽 長秀、池田 恒興、前田 利家が向かい合う様に床几に座って兜を脱いで軍議をしていた。
「とりあえずは都に迫って来た逆賊は退ける事は出来たが、次に攻めて来たら我々の手勢ではもう持たんぞ!」
少し黒みかかった浅葱色の甲冑を着こなした光秀が真剣な表情で言うと黒と赤の甲冑を着こなした勝家が下顎を触りながら考える。
「それは分かるが光秀よ。再編をしようにも兵が足らん!それにこちらに向かっている救援がいつ来るのか」
するとそこに黒い甲冑と頭形兜を着こなした伝令兵が慌てながら現れる。
「申し上げます!先程!豊臣 秀吉様率いる中国征伐軍が‼京へと入り今ここ!本能寺に向かっていると知らせが入りました‼」
片膝を着く伝令兵からの知らせに明智達は歓喜する。
「おお!秀吉が着いたのか!でかしたぞ‼」
勝家が喜びながら床几から立ち上がると同時に、そこに秀吉、官兵衛、三成、秀長、そして真斗、源三郎、平助、左之助、忠司が笑顔で現れる。
「親父殿!親方様の命に従い!中国より馳せ参じました‼」
秀吉がそう言いながら片膝を着くと官兵衛、三成、秀長、真斗、源三郎、平助、左之助、忠司も続く様に片膝を着き身を低くする。
すると長秀は笑顔で床几から立ち上がり秀吉達の元に向かう。
「秀吉!よくぞ京に戻って来てくれた!こちらの手勢は約一千、逆賊と化した延暦寺の僧兵と剝げ鷲天狗集は合わせて約三万だ。次に攻めて来たら全滅していたところだった!」
秀吉は立ち上がり軽く手の平で胸を叩き、自慢げな態度と笑顔をする。
「それはよかったです長秀様!こちらの手勢は六万!夜通しで走りましたからね!兵士達は疲労困憊で今は本願寺で休まています!」
「そっか!他の者達もよくぞ来てくれた!感謝する!」
長秀が笑顔で感謝を述べると秀吉と共に立ち上がった真斗達は笑顔で深々と頭を下げる。
「「「「「「「「ありがとうございます!」」」」」」」」
それから到着した秀吉達を交えた軍議で逆賊となった延暦寺と剝げ鷲天狗集に悟られない様に到着した豊臣軍約六万を左京の山中に潜伏させ、残った明智達の軍勢約一千を延暦寺へと続く道に配置し攻めて来た逆賊軍を迎え撃ちながら知恩寺まで引き付けたのちに潜伏させた豊臣軍が一気に背後を突く作戦となった。
■
翌日、朝の未の刻に延暦寺と剝げ鷲天狗集の逆賊軍が一気に攻めて来た。
「よーーーし!皆の者よ‼指示通りにまずは出来る限り逆賊共を引き付けよ!後は豊臣の兵達が後ろから奴らの尻を蹴り飛ばす‼それまで早まった真似はすな!よいな‼」
愛馬に乗り、その上から大声で言う甲冑と兜を着こなした利家に向かって前田軍の足軽達は大語で返事をする。
「「「「「おぉーーーーーーーーーーっ‼」」」」」
そして明智軍、柴田軍、丹羽軍、池田軍、前田軍は迫って来た逆賊軍と血と叫び声が飛び交う激しい戦闘を繰り広げる。
厳しい訓練といくつもの戦を経験した信長配下の足軽達であっても戦闘の猛者の様な強さを持つ延暦寺の僧兵達と剝げ鷲天狗集の天狗兵達は徐々に彼らを追い詰めて行く。
「はっ!何が魔王の軍勢だ‼恐るに足らずだ!このまま奴らに天誅を下せぇーーーーーっ‼」
「そうとも我らは逆賊ではない!この世を恐怖と暴力で支配しようとする大罪人‼織田 信長に罰を与えるだけなのだ!」
「者ども!我ら剝げ鷲天狗集に反逆の濡れ衣を着せた織田 信長の首を討ち取るのだぁーーーーーっ‼」
「信長が新たに手を加えた平安京など燃やし尽くせ!こんな魔王の邪悪が染み込んだ都など破壊するのだ‼」
延暦寺の僧兵達と剝げ鷲天狗集の天狗兵達は怒りとも身勝手とも取れる表情で言いながら前進を続ける。
一方、甲冑と兜を着こなした真斗は左京の山中の高台から愛馬の轟鬼に乗りながら折り畳み式の単眼鏡で戦場の様子を見ていた。
「よし!光秀様達は計画通りに知恩寺まで引いたぞ‼忠司!太鼓を鳴らせぇーーーっ‼」
「はい!若様‼」
轟鬼の右に立つ甲冑と兜を着こなした忠司は連続で置かれた大太鼓を力強く鳴らす。
鳴り響く大太鼓の音色を愛馬に乗り、甲冑と兜を着こなした秀吉、官兵衛、三成、秀長は勇ましい表情で愛刀を抜く。
「皆の者!時は満ちたぁーーーっ‼逆賊共を一人残らず滅するのだぁーーーっ!掛かれぇーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ‼」
秀吉は大きく号令をしながら抜いた愛刀の刃先を真っ直ぐに向けながら愛馬を走らせると後に続く様に官兵衛、三成、秀長そして足軽達は刀や和槍を構えながら勢い良く轟音と共に走り出す。
一方の真斗も勇ましい表情で和槍を構えながら轟鬼の手綱を大きくしならせ高々に前足を上げる。
「爺!平助!左之助!忠司!俺らも秀吉様達に続くぞぉーーーっ‼遅れるなぁーーーーーーーーーーーっ‼」
「「「「はい!若‼」」」」
真斗が轟鬼を走らせると愛馬に乗り甲冑と兜を着こなした源三郎、平助、左之助、忠司そして鬼龍軍の足軽達も愛刀や和槍を構えて轟音と共に走り出すのであった。
明智達をあと一歩まで追い詰めた逆賊軍ではあったが、突然と響き渡る轟音に気付き何事かとなる。
「何だ?この轟音は」
「一体どころから・・・・ッ‼」
延暦寺の僧兵達や剝げ鷲天狗集の天狗達が振り返ると言葉を失う程に驚く。なぜなら後ろから豊臣軍が物凄い表情と勢いで突っ込んで来るのであった。
「とっ!豊臣の軍だと⁉」
「ばっ!馬鹿な‼奴らは中国地方にいるはずではないのか⁉」
逆賊は突然の豊臣軍の奇襲に混乱状態となり、さらに追い打ちに大阪城を大群を連れて信長の軍が抜群のタイミングで到着し参戦するのであった。
真斗は乱戦の中で轟鬼を巧みに操りながら延暦寺の僧兵達や剝げ鷲天狗集の天狗兵達を次々と討ち取って行った。
「よーーーーーし!信長様もご到着なされた‼逆賊軍は完全に統率を失った!一気に畳み込むぞぉーーーーーーーっ‼」
真斗からの号令に鬼龍軍の足軽達は大きく返事をする。
「「「「「おぉーーーーーーーーーーーーーーーーっ‼」」」」」
それから一時間後、逆賊軍の約二万は完全壊滅し、残った約一万は逃げる様に比叡山へと逃げて行き、戦場には夥しい数の僧兵と天狗兵の死骸が転がっていた。
そして真斗達と秀吉達、そして明智達は愛馬で到着した信長の元に向かった。
「信長様!やりました‼仏の道を外れるだけでなく約定を破った逆賊軍を見事!我らが討ち返しましたぞ‼」
真斗が真っ先に喜びの笑顔で愛馬に乗り、銀色の和製南蛮甲冑と兜を着こなした笑顔で左横を向く。
「うむ!真斗よ!そして皆の者よ‼よーーーやったぞ!ではこれより勝鬨を上げるぞ‼」
そう言うと信長は腰に提げている愛用の太刀、長篠一文字を抜き高々に上げる。
「帝様と宿儺様に歯向かった愚かな逆賊共は敗走した!我らの勝利じゃぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ‼」
信長からの勝鬨に真斗達と秀吉達、そして明智達に各軍の足軽達は手に持つ刀や和槍を高々に上げる。
「「「「「「「「「「えい!えい!おぉーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ‼えい!えい!おぉーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ‼えい!えい!おぉーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ‼えい!えい!おぉーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ‼」」」」」」」」」」
その勝鬨の声は平安京全土に轟き渡り、後世ではこの戦いを“鬼門の戦い”として歴史書に記録されるのであった。