第 参 話:妖怪の都、裏平安と約定
平安京伊達武家屋敷に到着した真斗と源三郎は美しい三日月が昇る夜に都に繰り出した。
大通りを含めた道々には松明で明るく、道の脇には妖怪達が営む店が多く立ち並び人や妖怪によって昼間以上の賑わいをしていた。
「さすが裏平安ですな、若」
笑顔で周りを見渡しながら言う源三郎に真斗も笑顔で返事をする。
「ああ、そうだな爺。これも天智天皇様と安倍 晴明様のお陰だ」
時は遡るほど応仁の乱が終わり戦国時代に入って間もない頃、各地の大名達が天下統一を巡って朝夜問わず激しい戦を繰り広げていた事で人と滅多に関わらない妖怪達の住処が戦火で焼かれた。
そして住処を無くした妖怪達は全国各地で生きる為に悪事を行い、妖怪による人的被害が拡大し、それは平安京も例外ではなかった。
戦による妖怪の悪行は、いくら神格化され力持つ天皇家でも限界があった。そこで時の天皇、天智天皇は陽術師で占い師の安倍 晴明と共に恐山に住まう鬼の長で全ての妖怪の帝である大妖怪、両面宿儺の元に向かい此度の妖怪の悪行の終止符を相談した。
「ほぉーーーーっ戦を起こし、剰え妖怪達の住処を奪った人間の王が私に頭を下げるか?」
恐山の洞窟内に作られた石造りで階段が設けられた上座に腰を下ろす、腕が四本に目が四つある鬼神、両面宿儺が言う先には両膝を着き深々と頭を下げる天智天皇と清明が居た。
「はい。此度の妖怪達の悪行は全て我々の争いにあります。どうか両面宿儺様のお力で妖怪達を鎮めては貰えないでしょうか?」
頭を下げ、願う天智天皇の姿に両面宿儺は軽く溜め息を吐く。
「貧弱な人間とは欲深く、そして身勝手だ。だが、そんな王が全ての人間に代わり自ら我の前に頭を下げに来た。その姿に免じて妖怪達の悪行を鎮めてやろう」
両面宿儺からの前向きな答えに天智天皇と喜び、頭を上げる。
「本当でありますか⁉︎」
「ただし、天智よ。我と三つの約定を交わす必要がある」
「約定ですか・・・なんなりと」
「一つ目は“戦で住処を追われた妖怪達を平安京を含めた各大名の町村に住まわせ、商いをさせる事”」
「二つ目は“妖怪達は夜を好む。なので夕暮れから日の出までは戦をしない事”」
「そして最後の三つ目は“人と妖怪の繋がりを強固にする為に我、腹違いの妹で九尾の狐、『玉藻前』を天皇家に嫁がせ、そちらは天皇家または各大名の美しい親族の女を我、両面宿儺に嫁がせる事”だ」
両面宿儺が提示した約定に天智天皇と晴明は深々と頭を下げる。
「分かりました。この天智天皇、必ず宿儺様との約定をお守りします。晴明、証人はお前に任せる」
天智天皇の左隣に両膝を着いて頭を下げる晴明は返事をする。
「はっ!分かりました帝様。この安倍 晴明、いかなる時でもお二人の約定は死ぬまで忘れません」
それから二人が恐山から戻ると天智天皇はすぐに全国の大名に書状を送り、宮廷にある帝の大広間に集めた。
敵同士の大名達も天皇の召集には戦をやめ、何事かと騒がしくなる。
正座をし、集まった大名達がザワザワとしている中で天智天皇と晴明が現れ、そして階段が設けられた上座にある帝の椅子に天智天皇が座る。
「皆!我の声に答え!集まってくれて感謝する!」
一瞬でザワつきをなくし、深々と一斉に頭を下げる大名達。
「「「「「ははぁーーーっ‼︎」」」」」
一糸乱れない大名達の忠誠の姿に天智天皇は感心する。
「うむ。皆、頭を上げよ」
天智天皇からの命によって大名達は頭を上げる。
「実は皆をここに集めたのは国中で悪行を行う妖怪達についての話だ。詳しくは晴明、お主に任せる」
天智天皇の右横に立つ晴明は軽くお辞儀をし、大名達に説明を始める。
「皆!我と帝様は五日前に鬼の長で妖怪達の王、両面宿儺様の元に向かい妖怪達の悪行を鎮める相談をした!そして宿儺様は我らと約定を交わすことで妖怪達の悪行を鎮めると約束してくれた!」
晴明からの言葉を聞いた大名達は活気づく。
「宿儺様から出された約定の内容は・・・」
そして晴明の口から宿儺から出された約定の内容を話し、それを聞いた大名達は驚きのあまり言葉が出なかった。
だが、そんな光景に天智天皇は皆を一括する。
「皆の者!驚くのは分かるが、此度の妖怪達の悪行は我ら人の争いにある!ならば我らはその責務を果たさなければならい!」
天智天皇からの言葉によって大名達はハッとなり、深々と頭を下げる。
「「「「「はっ!」」」」」
そして天智天皇は改めて大名達に命を下す。
「これは天命である!我の意に異を唱える者が居れば!遠慮はいらん!立ってその意を示すのだ!」
しかし、大名達は誰一人、立つ事はなく深々と頭を下げながら息を合わせる。
「「「「「いいえ‼我ら大名!今は争う中ではありますが!帝様へ忠義は同じ!我らの為にお決めになった帝様の意に異を唱えるなど言語道断!むしろ心より感謝の極みしかありません‼」」」」」
大名達の深い忠義の姿に天智天皇は軽く頷くと立ち上がり片腕を大きく広げる。
「では皆の者!宿儺様との約定を果たすのだ‼」
「「「「「ははぁーーーっ‼︎」」」」」
それから天智天皇からの命を受けた大名達はお互いに一時、休戦とし約定の為に動き出した。
平安京を含めた各大名の村町に戦で住処を追われた妖怪達を住まわせるのと同時に商いを許可した。
そして天智天皇は宿儺の腹違いの妹である玉藻前を妻として迎え、一方で宿儺の元に嫁いだのは織田 信長の妹で戦国一の美女である『お市の方』であった。
こうして天智天皇と両面宿儺の約定は無事に交わされ、人と妖怪がお互いに商売をする事で文化及び文明的に発展する事となった。
⬛︎
真斗と源三郎はぶらりとしながら妖怪や人が営む店を笑顔で見物していた。
「さあ!さーあ!いらっしゃい‼いらっしゃい‼小豆洗いの小豆だよ!餡子菓子にはやっぱり!この小豆だよ‼」
「天狗の里で育った新鮮な野菜だよ!カボチャにトマト、ナスなどの夏野菜が今が旬だよ‼」
「ジョロウグモの糸で塗った素晴らしい着物だよ!しかも今なら一着たったの一朱銀、三枚だよ!」
「さぁ!若狭沖で獲れたイキのいい魚だよ‼あたし達!雪女が凍らせて持って来たから新鮮だよ‼」
そんな賑わいの中で真斗と源三郎は釣瓶下ろしが営み道具店で道具選びをしていた。
「これと、これと、これも。あとこれを買いたい」
真斗がそう言うと習字絵用の絵の具、質のいい松の太い枝とガラスの原材料、そして大量の和紙を釣瓶下ろしに出す。
「はいよ!全部で寛永通宝で三十銭です!」
釣瓶下ろしが提示した金額に真斗は頷き、後ろに居る源三郎に手の平に出す。
「はい若。少々お待ちを」
源三郎は懐から布製の財布を出し、真斗に渡す。そして真斗は財布から小判一枚を釣瓶下ろしの前に笑顔で出す。
「小判一枚だ。釣はいらんよ」
笑顔でそう言う真斗であったが、一方の釣瓶下ろしは驚愕する。
「えぇぇぇ⁉︎小判ですか!いや!でも!」
「いいんだ。ここの店は色んな道具を取り揃えているからな。気に入っているんだ」
「ははぁ!ありがとうございます‼︎」
釣瓶下ろしは笑顔でお礼を言う。そして真斗も笑顔で購入した品を手拭いで包み手を振る。
「じゃまたな」
「はい!ありがとうございました‼︎」
釣瓶下ろしの店を後にした真斗と源三郎は伊達家武家屋敷へと向かった。
「若、そんな物を買ってどうするのですか?」
大通りを歩きながら問う源三郎に対して真斗は笑顔で答える。
「これを使って竹取が申した品を作るんだ」
突拍子しもない真斗の答えに源三郎は軽く驚く。
「何ですと⁉︎ 若、本気ですか?」
「ああ。本気も本気だ爺。本物が手に入り難い物だからこそ本物以上に素晴らしい品を作ればいい」
「上手く行くといいんですが」
「上手く行く・・・いや、行かせてみるさ!」
すると二人の腹の虫が鳴り、お互いに苦笑いをする。
「そう言えば、夕食がまだでしたね若」
「ああ、何処かで腹ごしらえをしよう」
「そうですな。何が食べたいですか若?」
「そうだな・・・寿司にしよう。この頃、暑くなってきたからサッパリと冷えた物が食べたいな」
「確かに・・・では、あそこの寿司屋にしましょ。暖簾が汚れていますぞ」
「そうだな。寿司屋は暖簾の汚れで見よってな」
江戸時代、美味しい寿司屋を見分ける方法として暖簾の汚れで繫盛しているか、見極めていた。
寿司屋で食事を終えた客は出された湯飲み茶わんのお茶で指先を洗い、その指先を暖簾で拭くので汚れが多いほど繁盛している証なのである。
暖簾を掻き分け、人が営む寿司屋の屋台に入った真斗と源三郎は空いている椅子に座る。
「いらっしゃいませ!お二人様ですね。前金で一分銀、三枚だよ!」
男性店主の提示した金額を真斗は出し、手渡しで店主に渡す。
「ありがとうございます。お侍様!どうぞ、好きなネタをお皿に取ってお召し上がり下さい!今日は雪女の漁師さんから購入した美味い魚介類ですよ!」
店主が笑顔で言うと真斗と源三郎も笑顔になり、醬油の入った瓶を手に取り醬油の小皿に注ぎ、蓋付きの小瓶に入った山葵を醬油に溶かす。
「さて!いただくとしようか爺」
「ええ!若。たらふく食べましょう!」
そして真斗と源三郎は好きな寿司ネタを取って食べ始めるのであった。
登場するキャラのAIイラスです
《両面宿儺》
《天武天皇》