第 弐拾壱 話：鬼神の帰還
晴れた昼時、大海蛇と戦った蔭洲升の浜辺では早朝から甲冑と兜を着こなし、武器を携えた源三郎達は真斗の痕跡を探していた。
「くそ！これだけ探しても若の手掛かりがないとは‼︎」
悔しくも悲しみとも読み取れる苦しい表現で探す源三郎。
「やっぱり沖に流されたと考えるべきでしょう。甲冑と兜を着こなした状態でしたし、もう若様は・・・」
「おっ！おい‼︎左之助‼︎やめろ！」
諦めを漂わせた表情で左之助が最後に言いかけた事を忠司は慌てて止めるが、小波の音で源三郎は聞こえていなかった。
（若はそう簡単に死ぬ様な若武者ではない！大丈夫だ‼︎若は必ず生きている！）
源三郎は心の内で真斗の生存を信じながら果てが見えない海の水平線を見ていると突如、暗雲が発生し源三郎はハッとする。
「まずい！皆‼︎大海蛇が来るぞぉーーーっ‼︎構えろぉーーーーっ！」
源三郎からの指示に平助、左之助、忠司は急ぎ加護を発動し武器を構える。
そして浜辺に向かって海中を泳ぐ大海蛇の影を見ながら源三郎も加護を発動し武器を構えた瞬間、水飛沫と雄叫びを上げながら海中から片目を潰された大海蛇が現れる。
一方、海中の砂道を走る白馬に乗った真斗は何度も何度も手綱をしならせながら急いでいた。
「頼む！爺っ‼︎皆っ‼︎死ぬなよ！」
真斗は源三郎達が再び大海蛇と戦っている事など知るわけがない。だが、それでも絆で繋がった者の同士で感じる不思議な直感に真斗は急いでいた。
するとぼやけてはいるが、確かに海面で激しい水飛沫を上げ暴れる大海蛇と人並み外れた動きで戦う源三郎達の姿が見えた。
「あそこだなぁ！よーーーーーーーーーしっ‼」
そして真斗は腰に提げている天叢雲剣を左に握ると親指で五芒星を素早く描き、封印を解くと右手で鞘から抜く。
「うーーーーーーーーー！りやぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ‼」
気合と殺気に満ちた掛け声を叫ぶ真斗は左手で掴んだ手綱を大きくしならせ、海面に向かって白馬を飛び上がらせる。
⬛︎
源三郎達は大海蛇と激しい戦闘を繰り広げていたが、徐々に追い詰められて行った。
「くそ！我々だけではここが限界か‼」
源三郎は死を覚悟した事を言うと平助、左之助、忠司も覚悟を決めた。
「しゃらくせぇ！死ぬ時は大海蛇を道連れだ‼」
「ああ！妖魔にも見せてやる武士の生き様をよぉ‼」
「うっしゃあ！屍になっても最後まで抗ってやるぅ‼︎」
平助、左之助、忠司はそう言いながら愛用の武器を構える。
「若！申し訳ありません‼︎しかし！この源三郎は最後まで若のお側に‼︎」
源三郎も覚悟を決め、氷鬼をゆっくりと迫って来る大海蛇に向けて構える。
すると大海蛇の後で白い水飛沫が上がる。そして水飛沫の中から白馬に乗り、右手で天叢雲剣を構えた真斗が怒る鬼の様な表情で現れる。
「キェーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーィ‼︎」
真斗は叫びながら大海蛇の首元を天叢雲剣で切り裂くと大海蛇は斬り口から血を噴き出しながら受けた痛みで暴れる。
そして白馬は砂を巻き上げ着地すると真斗は白馬から降りて勇ましく源三郎達の前に立つ。
「若！生きておられたのですね‼︎」
涙目で喜ぶ源三郎に真斗は笑顔で近づき自身の左手を彼の肩に置く。
「すまない爺、皆、心配をかけたなぁ」
「いえ！我々は若が生きておられるとずっと信じておりました！」
それを聞いた真斗は少しホッとする。
「ありがとう爺、皆。それじゃあの大海蛇を退治するぞ！」
源三郎は涙を拭い、キリッとした表情で頷く。
「はい！若‼︎お前らもいいな？」
「「「おう！」」」
源三郎からの問いに平助、左之助、忠司は気合いの入った返事をする。
そしてクルっと回った真斗は天叢雲剣を大きく構えて痛みでまだ暴れる大海蛇に向かって走り出す。
⬛︎
真斗を交えての大海蛇との戦いは一時間は経過した。激しい戦いで大海蛇の体は真斗達からの息の合った連携攻撃で体中が傷だらけとなっていた。
一方の真斗達は息切れをし、着こなしている甲冑と兜が汚れなどでボロボロにながらも力強く戦う。そして一度は大海蛇はダウンするが、すぐに起き上がる。
真斗達は一旦、浜辺まで下がり呼吸を整えながら竹水筒の水を飲む。
「あんなにも傷を受けてもしぶといな、あの大海蛇は」
左之助が少し苦笑いで大海蛇を見ながら言うと隣で竹水筒の水を飲む忠司が頷く。
「そうだなぁ。いくら何でもしぶと過ぎるなぁ。若様！何か策はありませんか？」
左之助を挟んで左にいる真斗に問うと真斗は竹水筒の水を一口飲むと自信に満ちた笑顔で答える。
「ああ！あるさ‼︎爺！平助！お前達は右へ広がれ！左之助と忠司は左へ！俺の合図があるまで決して大海蛇には手を出すな‼︎」
真斗からの指示に皆は力強い表情で頷く。
「「「「はっ‼︎」」」」
そして指示通りに源三郎、平助、左之助、忠司は素早く左右に展開する。
一方の大海蛇は何とか体力を回復させると目の前の浜で堂々と天叢雲剣を持ちながら立つ真斗の姿が目に入り、自分の片目を潰した怒りが沸く。
そして真斗を噛み殺さんと鋭い牙を剥き出しに襲い掛かる。
「今じゃぁーーーーーーーーーーーーーーっ！」
真斗の大きな合図で源三郎達は一斉に飛び上がり、左右から大海蛇に向かって強力な一撃を喰らわせる。
大きく怯んだ大海蛇を見て真斗は天叢雲剣を両手で持つと上段の構えで力強く大きく飛び上がる。
「雷天の剣！チェストォーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ‼︎」
真斗が言った呪文と共に天叢雲剣の刀身が青白く光出し雷と火花を放つ。
そして振り下ろされた天叢雲剣を受けた大海蛇の顔はまるでカマイタチに切り裂かれたかの様に大地と天を揺らす様な落雷音と共に綺麗に真っ二つになる。
そして顔を真っ二つにされた大海蛇は凄まじい轟音と水飛沫を上げ倒れる。それを見た真斗は水飛沫が止むのと同時に刀身に宿っていた力が消えた天叢雲剣を片手に持ち替え、高々と掲げる。
「民を苦しめし大海蛇！討ち取ったりぃーーーーーーーーーーーーーーっ‼︎」
大海蛇の討伐完了を大きく宣言すると源三郎達は喜びに満ちた笑顔で愛用の武器を高々に掲げる。
「「「「おぉーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ‼︎」」」」
こうして大海蛇が退治された事で蔭洲升村及び夜刀浦全体に平和が再び訪れる事となった。
