10.美藤ちゃんの告白
次の日、小学校で瑠奈ちゃんは昨日の占いについて教えてくれた。
占い結果をよく読んで、瑠奈ちゃんはご両親に聞いてみたようだ。
「話を聞いたら、お母さんが学生時代に飼っていた猫ちゃんが、網戸を破って逃げちゃったんだって。帰ってきたときには犬に嚙まれたのか、瀕死の重傷で、病院に連れて行ったけれど、助からなかったって」
そんな重傷の中必死に帰ってきてくれた猫が愛しくて可愛くて、瑠奈ちゃんのお母さんは逃がしてしまった自分をずっと責めてきたのだと教えてくれた。
瑠奈ちゃんが二度とそんなことはないように気を付けるし、家族として大事にお迎えすると約束すると、瑠奈ちゃんのお母さんの気持ちもほぐれたようだった。
「家族全員で気を付けて飼うこと。病院や何かあったとき以外は家の中から絶対に出さないこと。お父さんとお母さんと私で約束して、保護猫を見に行こうって話になったの」
「保護猫?」
「野良猫だったり、何匹も猫を飼っていてもう飼えなくなったり、高齢になって猫を飼えなくなったりしたひとから、猫を引き取って保護している施設があるんだって。そこに行って、家族がいない猫ちゃんを引き取ろうって話になったの」
最後の継承のカードは保護猫のことだったのか。
いい結果になったようなので安心していると、瑠奈ちゃんが私の手を握り締める。
「美鶴ちゃんの占い当たってた。占い結果を聞いてお母さんに話をしなかったら、飼っていいってことにならなかったかもしれない。ありがとう、美鶴ちゃん」
「少しでもお役に立てたならよかったわ」
「少しどころじゃなくてものすごく助かったわ」
その一か月後、瑠奈ちゃんは私にこっそりと教えてくれた。
「子猫じゃないんだけどね、何歳か分からない野良猫だった黒猫ちゃんがいて、その子の緑色の目を見た瞬間、可愛い! って思っちゃって、その子をお家にお迎えすることになったの」
お迎えするためにはお試しで一週間過ごして、変化がないことを確認して、猫の育成環境が整っていることを保護猫の施設のひとが確認してからということになるが、一週間のお試し期間から瑠奈ちゃんはものすごく楽しみにしていた。
お試し期間も無事終わって瑠奈ちゃんの家に猫が正式にやってきたのは、冬休み前だった。
冬休みには私は瑠奈ちゃんの家に泊まらせてもらうことになっていたので、猫に会うのが楽しみだった。
冬休みに私が瑠奈ちゃんの家に泊まる準備をしていると、横で美冬くんがリュックに着替えを詰めていた。
「美冬くん、瑠奈ちゃんのお家のお泊りは、私一人だけなのよ?」
「いやー! ぼくもいくー!」
ひっくり返って泣き始めた美冬くんを抱っこして父が宥める。
「美鶴がいない間、水族館に行こう?」
「エイいる?」
「いるかな? 探してみよう」
釣りをした日からエイが大好きになっていた美冬くんは父に水族館に誘われて機嫌が直ったようだった。
エイのぬいぐるみを持ってきて泳がせている。そんな美冬くんの周囲には守護霊のエイがふわふわと漂っていた。
瑠奈ちゃんの家に泊まりに行って、猫を見せてもらった。
「ルドルフっていうのよ。私の大好きな絵本から付けたの」
「ルドルフくん、綺麗な緑色のお目目」
ルドルフくんはまだ家に慣れていないのかキャットタワーの上から降りてこなかったが、餌を食べるときだけは降りてきていたので、そのときにじっくりと見せてもらった。
「黒猫は人気がないんだって保護猫の施設のひとが言ってた。こんなに可愛いのにね」
「本当に可愛い」
それにしても、ルドルフくんはちょっと大きいような気がしていたが、私には猫の普通の大きさなど分からないのでその件に関しては聞けなかった。
ご飯を食べてお風呂に入って、瑠奈ちゃんの部屋に敷いてもらって布団で眠る。
瑠奈ちゃんは聞きたいことがあったようだった。
「美鶴ちゃん、中学校、滑り止めはどこを受けるの?」
中学校の受験は、本命は中高一貫の女子校なのだが、私は滑り止めは考えていなかった。滑り止めというのは、本命の学校に落ちたときに行く学校を受けておくことだ。
「滑り止めは考えてないの。受験で落ちたら、公立の中学に行くと思う」
滑り止めで受ける中学は遠いところが多かったし、寮に入ってまで中学校に通うというのは両親は反対していた。
その話をすると瑠奈ちゃんが眉を下げる。
「私は滑り止め受けるんだけど、もしかしたら、美鶴ちゃんと別々の中学になっちゃうかもしれないね」
「そうならないために、努力しよう! 大丈夫よ、私たち、模試は全部A判定だもの」
気を落とす瑠奈ちゃんを元気づけようと声を大きくすると、瑠奈ちゃんが凛と顔を上げる。
「そうね。絶対に合格しよう」
冬休みが終わって、私と瑠奈ちゃんは中学受験に臨んだ。
試験と面接は緊張したけれど、うまくやれたと思う。瑠奈ちゃんも同じようだった。
結果発表の日、瑠奈ちゃんと私は小学校から帰って、両親にインターネットで結果を見せてもらった。
「私の番号、あった! 瑠奈ちゃんのも!」
合格していて私は全身から力が抜ける思いだった。
これで、中学も瑠奈ちゃんと一緒に通える。
春休みは卒業式に、新しい中学の入学手続き、制服の注文と慌ただしく過ぎていった。
白いセーラー服に紺のスカートに赤いリボン。
制服は可愛くて私はすぐに気に入ってしまった。
制服を着て美冬くんに見せると、「ぼくもほしい!」と言ったので、セーラー襟のシャツを買いに父が連れて行っていた。
中学に入る前に、美藤ちゃんが私に話したいことがあるようで、部屋で美藤ちゃんと二人きりになって私は話を聞いた。
『わたしはあなたのお父さんの家系で、長く生きられない病気の子どもだったの』
「美藤ちゃんは私と血が繋がっているの!?」
そのことには驚いたが、私は納得もしていた。
薄茶色の美藤ちゃんの髪と目は、私とそっくりだったのだ。顔立ちも私が大きくなるにつれて似てきているような気がする。
『わたしが長く生きられないことを、父も母も悲しんでいた。わたしはあなたと同じで小さいころから違うものが見えたから、死んでからも家にとどまっていたら、いつの間にか座敷童と呼ばれる妖になっていたの』
初めて聞く美藤ちゃんの真実。
美藤ちゃんは昔は人間で、父方の血筋で、病気で長く生きられなくて、死んだ後、両親や兄弟の悲しみを受けて家に残っていたら座敷童になっていたのだ。
「美藤ちゃんは、座敷童のままでつらくない?」
『つらくはないわ。わたしの兄弟たちの血筋が残ってこうして豊かに暮らしているのを見るのが幸せなの。あなたはわたしの小さいころに似ていたから心配だった』
「美藤ちゃん、いなくなるの?」
『いなくなるわけではないけれど、あなたはもう大人になりかかっている。そろそろわたしの声が聞こえなくなってくるころじゃないかと思って』
「私、美藤ちゃんの声が聞こえなくなるの!?」
気付いていなかったわけではない。
美藤ちゃんは年々言葉が少なくなってきていた。美藤ちゃんに守られて私は平和に暮らしていたけれども、美藤ちゃんと言葉を交わす機会は少なくなっていたのは確かだった。
『これからは言葉を交わせなくなるかもしれないけれど、そういうときはタロットカードで聞いてみて。きっとわたしの気持ちがあなたに伝わるわ』
「タロットカードで話ができるの?」
『できると思う。他のひとの守護霊とも話ができるようになると思うわ』
直接話ができなくなるのは寂しかったけれど、タロットカードで話ができるのならば、私はそれで我慢しようと思う。
「美藤ちゃん、今までありがとう」
美藤ちゃんの手を握ると、私より小さくなったその手は確かに温かかった。
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