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73.幼馴染み

 日中の彼女にはらしくない、気弱な表情だ。

 本当の自分って……? 

 

「貴方を守るために強い自分を作った、そのせいで君と疎遠になっちゃった。高校でもそれは変わらずに、後ろで見守る事しかしなかった。ようやく公園で面と向かってお話できたのに……結局日中は離れた所にいる」


「それは……」


「君を守るためにやり始めた。なのに君との距離は離れていく。自分が分からなくなってきたんだ。本当に自分が求めていた姿なのか……偽っているのかな」


 影森さんも日々そんな悩みを持っていたなんて。

 それも僕との距離感について。

 影森さんが悩んでいることも知らず、疎遠になっていた。

 そんな僕が言える立場ではないかもしれない。

 でもこの数ヶ月、ストーキングされて〈我々〉と戦って感じた事気が付いた事は沢山ある。


「僕はね、王子様。君の事が誇らしかったんだ」


 それを伝えなければならない。


「中学からの君はとても格好良かった。勉強もできてスポーツもできて、男女共に人気で。幼馴染としてこれほど誇らしいことはないよ。正直、君の姿に男の子として憧れて見上げてた」


「光ちゃんが私に憧れてるなんて」


「それほど君の姿が様になって見えた。演技とか無理してたんじゃなくて、本当に王子様になってたんだって。でも、公園で見せた君の姿は昔の君だった」


 容姿が成長し、昼と印象がまるで違う。

 それで違和感を感じていたけど紛れもなくあの姿は小学校の時の影森南さんだった。

 いつも後ろからついてきて、甘えん坊な影森南ちゃん。


「それに、いつも背後に感じていた視線も悪意がないから安心していただけじゃなく……昔を思い出していた。だから悪い気はしなかったのかな」


 四六時中僕を見守って、クッキーを焼いてくれて、ロッカーまで整理してくれて。

 確かに他の人から見えたら不審な事かもしれない。

 でも全て僕のためにやってくれたって分かっていた。

 それは、知らず知らずに影森さんの事を思い出していたのかもしれない。

 何処に行くにもついてきてくれて、日が暮れるまで遊び回った。その時僕を見つめるあの視線を。

 彼女は強くなった。でも、そこは変わらない。


「確かにお互い遠慮してたかもしれないね。でも、僕は王子様な君をリスペクトしてたし、後ろで見守ってくれてるって知ってからは変わらない所もあるって分かった」


「そこまで私の事を考えてくれて……」


「強くなった部分も、変わらない部分もあるってだけで、ひっくるめて影森さんなんだよ。今の僕と君がそこまで距離が有るとは思わないよ……だから自分の成長を後悔しないで」


「光ちゃん……!」


 日中に話が無くても、二人きりでしか見せられない面があったとしても、それは間違った関係ではない。

  

 変わった見方、変わらない見方。


 それが、今の関係性というだけだ。


 僕らは互いを意識し合っている。


 紆余曲折あったとはいえ、縁は繋がっている。


 だから良いんだよ、君のままで。 


「それに、こうやって悩みを吐き出し合えたんだ。もっと距離が縮まったんじゃないかな」


「縮まった……昔みたいに?」


「むしろ昔以上に、ね」


「そっか……光ちゃんと……仲が縮まった……じゃあ……友達らしく……その」


 彼女の顔が段々と赤くなっていく。モジモジと言葉を出し渋っているようにみえる。

 僕が不安そうに見ると、影森さんは深呼吸し意を決したような表情で切り出した。


「その!私を!私を……昔の呼び方で呼んで貰えないかな……?」


「昔の呼び方……そっか」


 確かに、さん付けなんてよそよそしかった。


 綺麗に、強くなった彼女に遠慮して「影森さん」と呼んでいた。 


 でも、お互いの距離を再確認できた今なら。


「南ちゃん」


「っ……!!」


 彼女は更に顔を赤くし、顔を手で隠した。


「言ってとは頼んだけど……まさかこんなにも破壊力が……! これを毎日聞いてた昔の私って……幸せ過ぎ……!」


 ここまで悶絶されると、こっちも恥ずかしいな……


「大丈夫? みな……もっと落ち着いてからの方が良い?」


「いや、久しぶりに言われたから……免疫が……ふぅ……じゃあもう一回……お願い」


 お互い目を合わせる。


 何だかこっちまでドキドキしてきた。


 彼女の覚悟を決めた表情をしたのを確認し、僕は再び彼女を呼んだ。


「これからもよろしくね、南ちゃん」


「……うん!よろしく!」


「はは……なんか恥ずかしいね」


 僕達は何だかおかしくなって、顔を合わせて笑った。

  

 中学以降、お互いを別の視点で見合ってきた。


 そして複雑な関係性となってしまったけど、様々な出来事を通してようやく面と向かうことができた。


同じ目線で笑い合えた今、元の関係よりもさらに近しくなれた。


 一緒にいれば初めて体感することが沢山、そんな素敵な関係に。


「さて、そろそろ教室へ戻ろうか」


「うん。というか……さっきから気になってたんだけど」


 僕らの眼前には沢山のオーディエンスが。


 「王子と姫よ~!」「カワイイ!」「南様カッコイイ〜!」「姫……イイ……!」


 「ふふっ凄い注目されちゃったみたいだね」


 姫と王子がベンチで座っている、というのは珍しい光景であることは想像に難くない。


 僕らの会話は聞かれてはないだろうけど、感情豊かに話をする姿は良くも悪くも目立つだろう。


 南ちゃんのファンも集まって来て、ちょっとした有名人の囲みだ。


「どうやって抜け出そうか?」


「あ……良いこと思いついた」


「良いこと……うわっ!」


 イタズラっぽく笑った南ちゃんは、僕を急に持ち上げお姫様抱っこした!


「ふぁ……恥ずかしいよ……!」


「良いじゃないか。今は姫と王子なんだから」


「あの王子様力ある〜」「お姫様も照れちゃってカワイー!」「南様に抱っこされるなんてズルイ……けど!」「お似合いだわ〜!」「女の子になってるぜえ!」


「ほら、皆も褒めてる」


「み……みないでよぉ……」


 南ちゃんのアドリブが集まった野次馬達のボルテージを最高潮にまで引き上げた。


 そして、彼女は高らかに叫んだ。


「これより我らは2年A組城へ戻る!楽園を見たい者たちは私達に続け!」


 

 2年A組教室。


「光太郎達、そろそろ帰ってくるころか」


「ええ、そろそろ南様成分を接種したいわ」


「加藤お前……てか、なんか外が騒がしくね?」


「学祭なんだから当たり前でしょ」


「そうなんだけど、それにしてもって……」


「皆の者!待たせたね!」


「ま……またせたわね〜」


「おか……うおおお!?」


「み……南様、その方々は……!?」


 南ちゃんの呼び掛けが、教室までの道程にいた生徒や客様たちを根こそぎ従軍させたのだ。


 それはまさに大名行列、もしくは王の侵攻。


「従軍せし皆の者!ここは我等の城にして、楽園!甘美なるアイスや各種飲み物を美しき従者たちが提供する場である!至福の時を体験したい者たちは是非椅子へ座るがいい!」


「「「「「おおおおおお!」」」」」


 付いてきたてくれたお客さん達は迷わず椅子に座り注文してくれた。


 元々盛況だったカフェは満員御礼、大行列に!


 突発的な南ちゃんの宣伝は大成功だ!


「スゲェ大盛況!良くやった光太郎!いや皇后!」


「とはいえ……凄い恥ずかしかったよ……すっごく見られてさあ……」


「そうですよ南様……チト大胆すぎる宣伝では……?お姫様抱っこって……姫とはいえ」


 加藤さんは珍しく南ちゃんへ疑問を投げかける。何処か疲労困憊というか……殺気を感じられるというか……。


「王子と姫といったらこれだよ。それに私達は幼馴染、変な遠慮はないさ、ねっ光ちゃん」


「こ……光ちゃん!?」


「そんな呼び方だっけ?」


「そうさ、ねっ」


「……うん、南ちゃん」


「みなみちゃん!!??」


「光太郎……やるじゃねぇか」


 昔の呼び方、それを皆の前でも僕にしてくれる。僕も嬉しい。


「さあ、大勢のお客様にサービスだよ!ついてこれるかい?」


「え……まだなんかやんの?」


 教室の壇上に上がり、彼女は僕の両手を握った。


 そして、こう囁く。


「シャル・ウィ・ダンス」


 それと同時に壇上のライトが付き、音楽が流れ始める。 


 南ちゃんが僕を導く動き、これは社交ダンス!


 王子と姫の催しといえばコレだ。


 そうと分かれば、僕は彼女の動きに合わせる。

 

 流石、南ちゃん何処で習ったか知らないが見事な動き。凛々しく堂々としつつも、僕……姫を立てるようにしてくれる。


 お陰で未経験の僕も伸び伸びと動ける。


 教室内はダンスに釘付けだ。皆うっとりしている。


 今、僕らは本当に王子様とお姫様のようだ。


 さっきまでの抵抗は何処にやら、自然に役に浸っている。 


 おそらく音楽も終盤だ、最後に見栄を張りフィニッシュだろう。


 この演目、最期はどうするんだ。


「ダランと力抜いて」


「?」


 彼女の声に従い、僕は力を抜く。


 無防備な僕の体を彼女は腕で支え、抱き寄せる。


 そして、顔を近づけ……ってこれはまさか!?


「えっ!?影森それは」


「み……みなみさ……ま!?」


 教室内は全員息を呑む。


 僕らの顔を注視した。


 それもそうだ、この曲の最期は王子と姫のキス。


 息があたり、体温が感じられる程、僕らの顔は近づいて……ついに唇と唇が


「……冷た」


 当たらなかった。


 僕の口に冷たさと甘さが広がる。


 僕と彼女の唇は、アイスクリームに遮られた。


 勿論、アイスでキスを遮らせたは仕掛け人である南ちゃんだ。


「ドキドキさせたね。そんなキスもやめるほどチョコチップタップリ美味しいミルククロチップアイス……私達のオススメさ」


「お……美味しいですわ〜是非ご賞味を〜」


  教室内は安堵の声が起きた後、直ぐにオススメのアイスの注文で盛り上がった。


 一番人気のアイスの宣伝……にしては大胆過ぎた。


 動揺してる加藤さんもいる。


「キス……アイス越しのキス……! 何と羨ま……なんと恨めし北野……! しかし美しき……ダンス……負け……ガハッ!」


 加藤さんのようにショックで吐血するような親衛隊達や王子様目当ての人達による暴動が起きると思ったが、取り乱す人は無くむしろ凄かったと満足していた。


 大胆だったとはいえ、王子様とお姫様のダンスとしてはリアリティが高く皆世界観にのめりこむ事ができたのだろう。


 宣伝の為のダンスショーとして大成功だ。


「おいおい……いくら何でも大胆過ぎだぜ二人共……でも良いダンスだったぜ」


「ありがとう陸斗……とはいえ全て南ちゃんのアドリブさ」


「アドリブであそこまでとは、最高の幼馴染だぜお前ら」


 陸斗は加藤さんを介抱しに行った。

 

 君と雨宮部長には負けるかもだけど……最高の幼馴染……いい響きだよ親友。


 「大成功だね光ちゃん」


 「南ちゃん……やるならやるって言ってよ……」


 「ハハハ、ごめんね。でもいきなりなら面白い反応見れるからね」


 そう言って南ちゃんは、さっきのアイスクリームをペロリと舐める。


 というか、その舐めた部分は確かに僕が齧った所……!


「ほら、この赤くなった顔が見たいから」


「も……もう、からかっちゃってさ」


 僕の動揺を見て、南ちゃんは満面の笑みを見せた。 


 この小悪魔さは何処で覚えたんだ……本当に退屈しないな。


 「さて、お姫様。もうひとがんばりしようか!」


 「そうだね、沢山お客様連れてきたんだ、骨は折れそうだけど頑張るか……!」


 「失礼!大盛況と聞いて助太刀に来ましたよ先輩!師匠!」


 「怜央ちゃん!その姿は!」


 「クラスの方も落ち着いたので手伝いに来ちゃいました!見てください、可愛くないですかこの着物!」


「一年の兜山だ!」「コスプレしてるぞ!」「フリフリしてる……ギャップカワイイ〜」「着物なのに……スゲェスタイル……!」


 「和服に袴の大正町娘ですよ~どうですどうです?」


 「男装ではないが……侍的イメージと花がらの着物がベストマッチだ、良いセンスだよ怜央」


「コスプレの域超えてるよ。すっごく似合ってる!」


「えへへ~二人に褒められた〜」


「さあ光ちゃん、怜央、おもてなしに行くよ!」


「うん!最後まで盛り上げよう!」


「お二人の力になりますよ~!」


 最高の援軍も加え、僕らのカフェは最後まで満員御礼で有終の美を飾ることができた。


 ちなみに、お客さんのアンケートで男女別人気キャストを決めるランキングも開催していた。陸斗が減点と言われていたのはこれが原因。


 男装の部一位は南ちゃん。これは文句なしのぶっちぎり。


 女装の部はというと……。


「おい!後半の票が全部リコちゃんへの求婚票だぞ!」 


「ありゃ~生徒の票食っちゃったか」


「リコちゃんは、男装でもない只のコスプレだろ!なのに何で女装票なんだよ!」


「しかも、客に交じってアイス食って寝てたし……」


  メイド姿の中田リコ先生だった。


 男装じゃなく、メイド服を着ていたから女装票に流れたらしい。


 陸斗の見解だが、元々美人で隠れ巨乳な上、メイド服を着崩した事でアンニュイな色気を煽ったそうな……。


 大人の色気に、若造は遠く及ばないと僕等は思い知らされた。

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