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72.成長したね


「はぁ……はぁ……はぁ…………」


 僕と影森さんはあの怪奇の館を命からがら、抜け出ることに成功した。


 久々に入ったお化け屋敷は地獄……いやどんな言葉で例えようともそれを上回る恐ろしさだ。


 内容は……思い出したくもない。


 大雑把に言えることは、妖怪やお化け、海外モンスター、飛び交う血糊、チェンソ―、そしてこんにゃく。あらゆるホラー要素の長所を鍋に入れて限界まで煮詰めた物。


 お化け屋敷界の煮込みカレー。


 恐るべし、Bクラス。恐るべし流グループの財力。


 僕は影森さんの肩に捕まらなければ歩かけないくらい憔悴している。震えが止まらない……。


「ハハハ……光太郎君は小学校から相変わらずお化け屋敷が苦手だよね」


 あんな惨状を抜けたというのに影森さんは平然としている。


「そ……そういう影森さんだって……昔は僕と……おんなじだったじゃ……」


 僕がそう言い切る前に


「あ……」


 あることに気づいた。かすかに、ほんのかすかにかおる汗のにおい。


 そして肩から伝わる、ドクドクと早く動く心臓。


 表情や態度には現れてはいないけど、彼女も怖がっていたんだ。


 小学校の修学旅行のとき、今回みたく遊園地のおばけ屋敷に入らざる終えなかった。


 僕と影森さんを含めた3人で入ったんだ。なんてことはない、オ―ソドックスな日本風のお化け屋敷だ。


 でも僕と影森さんは怖がって、叫ぶわ泣くわでもう一人の友達に引っ付いていた。


 そう思い出したんだ、彼女もお化け屋敷が苦手だったんだ。


 あの余裕な表情だった彼女も、未だにお化け屋敷には抵抗があったんだ。


「ふふふっ」


「ん? どうしたんだい光太郎君」


 思わず笑っちゃった。


 こんなにかっこ良く、美人で、強くて、ストーキングもしてて……まあとにかく小さいころよりも成長した同級生に変わらないところがあった。


「いやさ、懐かしいというか……変わらない物もあるんだなってさ」


「む……光ちゃんと違って私は声はだしてないよ」


「でも怖かったでしょ?」


「それはそうだけど……君を守る為には弱いところなんて見せられないよ。それに約束したからね」


「約束……って」


「うん、翠野先輩と。君を守るってね」


 ダムの決戦の話は以降彼女と話してはいなかった。

 というより、触れる事で彼女を傷つけてしまうと思っていた。まさか彼女から話が出るとは思わなかった。


「翠野先輩の事……君に重みになってしまったと思ってた」


「確かに葛藤はあった。君の憧れの気持ちを知ってから今更に罪悪感に苛まれたよ。でも、翠野先輩は思い出させてくれたよ。守るための覚悟を」


「あの少しの間で気持ちを共有できるなんて……凄いね」


「道を違えど同じ男の子を好きになった者同士だから……それに重みと言うけれど、重いほうが力が入りやすいものだよ」


 彼女は力こぶを見せるようかのように腕を上げてはにかんだ。


 女同士しか分からない世界がある。

 一度本気で殺し合った二人だが、今回はお互いの理解し合った結果なのだろう。

 僕が心配するほど、皆弱くないんだな。


「確かに……変わった……いや成長したんだね」


 成長。

 このタイミングなら……聞けるかな。

 二人だけで話せる機会は中々ない。

 ずっと思っていた疑問を投げかけるなら今だ。


「ねぇ、影森さん」


「なんだい光ちゃん」


「どうして、中学から王子様みたいになったの?」


「どうしてっ……て?」


「僕が小学校時代の君と、あまりに印象が違うんだ。びっくりして、でも日々輝く君に近付けなくて聞き辛かった。今までなら……」


 僕が知る、昔の影森南さんは引っ込み思案な大人しい子だった。何処に行くも後ろにいて、同い年なのに妹みたいな。

 そんな彼女が、中学入学と同時に凛々しい王子様キャラになっていった。

 学業も運動も飛び抜けて上達していた。

 ここまで成長するには、決定的な出来事と決意が無ければ。


「もしかして、僕に関係する?」


 僕は彼女に問いかけると、彼女はゆっくりと頷いた。


「光ちゃんが暴漢から友達を救った日から……思うように自分を出せてないように見えた。ハツラツとしてた君が全力を出せず悩む姿は遠目から見ても辛そうだった」


 暴漢を半殺しにした事件。あれから僕は物事に全力で取り組めなくなってしまった。

 そうか、影森さんにもそう見えていたのか……最近はそうではなかったけど、あの時は自分が怖くて泣いていた。


「大好きな人が苦しむのは見たくない、でも傷付いた貴方にできることはあの時には何もなかった。だから、中学入学を期に強くなろうとしたんだ」


「やっぱり、あの頃から……」


「それでね、一杯勉強もして一杯スポーツも頑張った。それで引っ込み思案な性格も何とかしないとと思って……堂々として社交的なキャラを……演じようとしたんだ」


「演技だったの?」


「最初はね。でも、案外そういう振る舞いが合ってたというか……抵抗なく染み付いちゃった」


「なるほど……」


「そうやってたら王子様なんて言われて、色んな人に頼られるようになっちゃって。本当、小さい頃には考えられないよね」


「まさか」


「でも、私が強くなったのは……君のため。高校進学すれば知らない人達が一杯関わることになる。そうすれば君に危険が降りかかることも多くなる……強くなった私なら君を守れる。高校入学後、君を見守る事にしたんだ」


 それがストーキングの始まりか……!


「それで段々エスカレートしてきたが……そのお陰かあの公園の夜、ようやく君の目の前に立つことができたんだ」


「エスカレートの過程も気になるけど……それが経緯か……心配させちゃったね」


「ううん、やっと自分のやりたかった事ができたんだ。むしろ念願かなって嬉しいんだ」


 嬉しいという言葉なのに、彼女の表情は何処か悩むような、曇った表情に。

 僕の方へ向き、切り出した。


「光ちゃん、私は光ちゃんの前で本当の自分を出せているかな?このままでいいのかな?」

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