61.強敵！
ダムの一番高い場所、天端の上。
女剣士の一撃が、怪人の体に振り下ろされる。
怪人は何の声をも上げずにそれを受け止めた。
「私の刀を止める刃……あのドクターよりも手練れのようだな！それにそのローブ！布切れに見えるが……鎧の如く頑丈なようだ！」
怜央ちゃんの強烈な連撃にも血一滴も垂らさず全て受けきっている。
彼女は底の見えない振る舞いに身震いをした。
だが、ある違和感が付いて離れなかった
（こんな強い相手……初めての筈なのに……どうして？）
デジャブのような、かつて相対したような、はたまたどこかですれ違ったかのような類似感が纏わりついている。
だが、それを確かめるなんて余力はない。
長期戦は危険だ。
早期決着を狙った一撃に懸ける。
「光子流動剣・横一線！」
真横に振り切る光の一線。
改造人間なら胴は水平に斬られ真っ二つだ。
並みの改造人間とは違った。
「……！」
「二本目の刃だと！？」
怜央ちゃん渾身の必殺を二本の刃で相殺した。
激突時、空が震える。
(なんて衝撃！大地を揺らし割る力なのも頷けるっすよこれ！ 北野先輩と師匠はこんな重い衝撃を相手にしていたの！？)
怜央ちゃんの全身に刃が交わった衝撃が響いている。それは消える兆しが見えないほど細胞一つ一つが響き震えている。
そして、それは彼女だけではなかった。
「光子流動剣……！お前が震えるなんて……」
彼女、いや兜山家自慢の名刀も強敵の強さを認めるがごとく震える。
こうなれば、彼女にも焦りが現れる。
(突破口は切り札の奥義しかないけど……もし決めきれなければ最後の手の内を無意味に見せることになる……今は良くても後々不利……！)
手がない訳ではないが限られ始めている。一撃で仕留められればよいが、避けられれば押しきれなければ後は無い。彼を倒せたとしても別の敵が対策して来る可能性が高い。
「やむ終えない……かぁ〜」
彼女は息を整え突きの構えを見せる。だがその構えは、どの戦いでも見せたことはない独特の構えである。溜めにかなりの集中力を費やしている。彼女の周囲の空気が彼女に吸い寄せられている様だった。
「無言なる客人よ、その身で味わうが良い。万物を削り切る技を！」
敵の動きを読み、技を繰り出すタイミングを見計らう。
それを挑発するかのごとく、無防備といわんばかりに手を広げる。
「いざ……！」
彼女の足が動かんとした。
その瞬間！
「ちょっと待ったぁ！」
「おやぁ〜！」
彼女の目の前で突然、怪人が何らかの紐に縛られ拘束された。
背後からだ。
彼女は手を止め男の背後に目を向けた。
そこには
「せ……先輩！？」
勿論僕だ。
怪人をステンレスワイヤーで動きを止めた。
「今だよ！流さん！」
「ナイスよ北野君……さあ派手に行くわよ〜」
「き……機関銃なんてどうやって持ってきたんすか！」
「避けて玲央ちゃん！」
流さんが僕の背後でいつの間にか設置して重機関銃を敵と玲央ちゃんの方向に向けていた。
「うおりゃりゃりゃりゃぁぁっハッハッハァ！」
流さんは狂喜の雄叫びを上げながら機関銃を乱射する。
「わぁぁぁぁぁぁぉぁ！」
玲央ちゃんは驚愕の跳躍力で回避する。
機関銃の弾を撃ち終えた。
怪人のいた場所には激しく土煙が上がる。
「せんぱ〜い！ 無事でよかった〜！」
「うおっ！」
銃弾を回避し僕らの方へ飛び降りて来た玲央ちゃん。勢い余って僕に飛び付いてきた。
彼女の体が勢いよく密着する。
やっぱり柔らかい……けどそれどころではない！。
「れ……玲央ちゃん大丈夫！？」
「北野先輩〜スッゴい投げ縄技術ですね！先輩カウボーイみたい！ カッコよかったです！ 」
「その感じだと無事ね」
「無事ね……じゃないんですよ！ 私も撃ち抜く気ですか！ 背が小さすぎて私が見えなかったんですか！？」
「一発ぐらい当てときゃよかったわね。でも手の内見せる前に来れたんで良かったじゃない」
玲央ちゃん一人にこれ以上無茶をさせられない。だからこそ流さんは最高火力で奇襲を仕掛け彼女のかわりに最高の手の内を見せた。でも狭い一本道で無茶苦茶すぎる……。
「……モスがやられた」
煙が、怪人はぬらっと立っている。
血は流れずかすり傷すら負っていない。
だが、ローブは所々破け焦げていた。
「やっぱり大して通じてないみたいね……」
「ええ、私の剣を何度も受けた上でこれですもん」
「まだ本体を見せないね」
「余裕の現れか……それとも隠したいことがあるのかね」
「どちらにせよ今迄の改造人間とは性能が違う。お二人共、油断しいように」
無言のまま怪人は此方を見ているようだった。あまりに静かで不気味さを感じる。
僕らは彼女の秘める力を警戒しながらも相対した。
しかしこの時僕も察知できなかった。
僕らの背後に迫り来る影を。
