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6.〈我々〉

「え……?」

 

「タ……タク?」


 僕や残りの男2人は、何が起きたか把握できなかった。

 

 先輩の手が男の頭を貫通していた。

 

 いや、それはもう手では無かった。

 

 手であった部分は大きな鎌状の刃に変わり果てていたのだ。


drink(飲み物)が欲しくて欲しくてたまらなかったの」


 自分の目が信じられなかった。先輩は滴る血を啜り、男の頭を頭を貪り食い始めたのだから。


「タクが食われてるぅぅ!」


 仲間の二人は恐れ慄き、僕も動くことができなかった。


 タクと呼ばれた男は既に意識は無い。無意識の防衛行動か手に持ったナイフを彼女へ突き刺す。


 しかしナイフは金属同士がぶつかる音を鳴らすのみで彼女を貫か無かった。

 

「はぁ……美味しかった」


 抵抗虚しく男の頭は半分だけとなり事切れ、地面にドサリと捨てられた。

 

 口から血が垂らしながら、彼女は恍惚の笑顔を浮かべていた。


「噂の鎌の化け物だ!」

 

「逃げようエッちゃん!」


 残りの二人は、公園の出口を目指し逃げ走る。

 

 だが、出口を塞ぐように黒い高級車が停車した。


「あれって、昨日燃えたのと一緒の……!?」


 車から、黒一色のハット帽とコート着た男達が降りて来た。いや男かどうかは分からない。全員180cmほどのがっしりとした体格。しかし顔が全員


「こいつら顔がない!」


 顔がない!

 

 顔の部分が鉄で覆われたような銀色一色だった。


「バケモンが!来るな!」


 ゆっくりと近づく5人の顔無し達。彼らは武器で抵抗する。しかし、ぶつけた特殊警棒は顔無しを倒すどころかグニャリと曲がった。

 

 エッちゃんと呼ばれた男はスタンガンを必死に押し付けるも顔無しはピクリとも動じない。そして、顔無しはお返しとばかりに腰のハンドガンの引き金を引いた。


「あっ……カズ……だずげ……」

 

「うわあああ!エッちゃんが溶けたあああ!」


 ハンドガンは実弾ではなく謎の液体を発射したのだ。その液体は170cm半ばの男性をドロドロに溶かした。


「あっ……ごめんなさい……ゆるしっ……!」


 残った男にも魔の手が。顔無しの手が男の首を握っている。

 

 呆けている場合ではない。彼を助けなければ。彼のもとへ。


「必要ないわ」

 

「ぐっ!先輩!」

 

「やりなさい」


 駆け出そうとする僕の手を鎌と反対の手で掴み、阻止した。握る力がありえないほど強く、人間の握力ではない!

 

 顔無しに呼び指令を出す。

 

 男の首に指がめり込んでゆく。


「やめろ!」

「ぐぇっ!」

「ああっ……!」


 止められなかった。

 

 彼は顔無しに喉を潰され、地面に沈んだ。

 

 それだけでは終わらず、亡骸には溶解液をかけられ証拠隠滅と言わんばかりに溶かされてしまった。

 

 捕食され顔半分となった死体、人間の形を無くし溶解したスライム状の液体。普段見慣れた公園は凄惨な光景へと変わった。


 死体から滴る血と、血肉が溶け混濁した液体は地面におぞましい絵を書き、更には人が溶けた匂いが鼻腔を襲い僕の理性に限界をもたらせ嘔吐させる。


「あら、大丈夫?刺激が強すぎちゃったかしら」


 翠野先輩は吐瀉物と涙でグチャグチャになった僕の顔をハンカチで拭く。いつものように優しく献身的な表情と言動で。

 

 しかし僕はそれを拒否し、彼女へ叫ぶ。


「何なんですかこれは……なんなんですかぁ!」


 先輩の手が鎌みたいになって人を食べて、顔無しの怪人達を呼び出して。


 沢山聞きたい事がある。


 でも、聞きたくない。こんな信じられないような状況を理解したかない。


「ごめんなさい、怖がらせちゃったわね。本当はゆっくり説明したかったの」

 

「なんの説明ですか!こんな状況にどんな理由があるって言うんですか!」

 

「確かに酷いわよね。でもこれで理解しやすくなったと思うの。〈()()〉について」

 

「〈我々〉……?」


 翠野先輩と顔無し達の事か?

 

 それともまだ仲間がいるような組織なのか?


「〈我々〉は人間の限界を超越できる技術を持った素晴らしき組織よ。人間達の謳うGOD()rule(ことわり)すら破壊できる」

 

「それと僕に何の関係があるんです!?」

 

「〈我々〉は優秀か人間しか入れないの。私は……〈我々〉は貴方が欲しいのよ」


 先輩が……いや〈我々〉が僕を欲しいだって?


「僕は普通の高校生です!翠野先輩だって!何かの間違いですよね!?」

 

「貴方は特別よ。素晴らしい身体能力と超感覚を持っている」

 

「そんなこと……」

 

「時折貴方は飛び抜けた力を端々で垣間見せる、才能は隠しきれていない。さっきだって、助けに来てくれた時の走りはトップアスリートの比ではなかったわ」

 

「違う僕は……!ただの人間で……!」

 

「分かるわ。本当は何でもできる自信はある。でも自分の力の限界が分からない。本気で力を解放すれば自分が別の存在になるほど進みそう、その課程で誰かを傷付けてしまいそう。怖いのよね。だから全力を出せず己を縛りいつしか()()()()()()()()()()()


 ほとんど図星だ。

 

 決して思っていても口に出せなかった。

 

 傲慢で自画自賛に思えるが彼女の言葉は事実に変わりない。


 僕は小学校のある出来事から自分の力が怖くなった。

 

 そのトラウマなのか、戦えない体質のようなものとなり、部活動などのスポーツですら全力で取り組むような事から逃げた。誰かを怪我させてしまう恐怖は拭いきれなかった。


 でも、そんな力の出し方を忘れた臆病者が何に使えるっていうんだ。


「自分を卑下しないで。私は貴方に自分の力で自由に羽ばたいてもらいたい。だから私達と一緒に来て……私達の王になって……」

 

「改造……?王……になる?」

 

「貴方は〈我々〉を導く最強の改造人間として選ばれた。私はあなたを迎える為に使わされた。家の周りにいた車も監視のために私が命じたの」


 翠野先輩が使い……ということはまさか。


「僕に近づいて来たのは……最初からその目的で……」


 膝から崩れ、その事実に涙が止まらなかった。裏切られたショック、悲しみはどんな事実よりも重く鈍く響いた。

 

 その際、担いできたバックがするりと肩から地面に落ちた。


「――それは」

 

「本気で憧れてました……信じてました……。今日もどんな事ががあってもこれだけは伝えようかなって……先輩となら自分のトラウマを乗り越えられると思って……部活に顔出して見ようかなって言おうとしていたのに……!」


 バックに入っていたのバイオリンの楽譜とCD。散々拒否してきたけど、少しだけなら良いかなって翠野先輩となら大丈夫かなって思えていた。そんな自分の意思をこれで伝えようとしてた。

 

 なのに、こんなのって……!


「確かに始まりは命令だった。でも管弦楽部に入って欲しいかったことや一緒に演奏したかったことや……全てが嘘じゃ無いって事だけは信じて」


 彼女はそう言うと後ろを向き車の方に歩き始めた。それを合図とし顔無し達が僕を囲むように近づいて来る。

 

 もう動けない。

 

 声を出す気力もない。

 

 心臓の鼓動がバクバクと止まらない。

 

 このままだと、改造される。

 

 嫌だ……嫌だ!

 

 誰か……!


「――誰?」


 背中に視線を感じた。

 

 いつも感じる、暖かな謎の視線。

 

 その視線の熱がどんどん熱くなっていく。近づいているんだ。

 

 ここに来る。

 

 でもどこから?

 

 視線の出処は……上から!?


 瞬間、顔無しの一人がバラバラになった。


「っ!?」

 

「何事っ!?」


 後ろを向いていた翠野先輩も振り返り驚愕する。

 

 僕は見た。

 

 空から落ちて来た蒼い流星を。

 

 流星が地面に着地した瞬間、光が弾け宙を走る。

 

 その光の軌跡が、顔無しをバラバラに引き裂いたのだ。


「そう……貴方が昨日監視車を破壊したのね」


 その流星を僕は知っていた。


「影森さん!?」

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