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55.本当の狙い


「でも……なんでそんな大それた事を!?」


 僕を今まで勧誘という名の拉致を数回僕へ仕掛けてきた。


 どれも直接、改造人間達が狙って来た。


 でも今回は、建物を破壊し多くの人を誘拐した。それだけでも大規模なテロ行動だ。


 僕を誘き寄せるには


「遠回りと思いますか?」


 僕の考えを見透かしたように、男は逆に僕へ問う。


「貴方を探すのは花屋で薔薇を探すくらい簡単。だが薔薇の周りには鋭い刺があった。同志達が刺に刺さってしまい、花屋へ行くのに怖じけづいた。だから花屋から森の中へ来てもらいました。刺のおまけ付きでね」


「ふん、その例えも遠回りね」


 流さんは男の分かりにくい例えを突っ込む。いつもの舌戦だが、冷や汗をかいて余裕はいつもより無い。


「そう?まあ〜簡単に言えば都市破壊と大量拉致を餌にすれば我が王は必ずここを察知して頂けると思ったんですよ。そして優秀な素体となれる追跡者達や、そこのお嬢さんを連れてくると踏んでいました。それがもうドンピシャ!」


 あんな大規模なテロを僕を誘う餌だって?


 僕なんかと、この人達や建物が釣り合うわけない。それに影森さんと流さんも来ることも計算の内なんて。


「それに……喜んでもらえるかと思いまして」


「は……?」


 喜ぶ?僕が?。


「我らの王なら、この人間倉庫は宝箱でしょう。食べて良し遊んで良し……ああ!エグい楽しそう! 我々に来てもらえればこれ以上の人を思いのまま。これは前金です」


 男は手を牢屋に掲げ深々と僕へ礼をする。


 へばりつくような笑顔向けて。


 この人は僕が本当に喜ぶと思っているのか?。


 食べろ?遊べ?


 同じ人間をそんなこと出来るわけないだろ。


 捕らえられた人達は100人以上はいる。それ以上の人数をあの人達のように牢屋に閉じ込め弄ぼうとしているのか。


 どうしてそんな酷いことができるんだ。


 なんのために!?……なんのって


「そう、全ては貴方の為に」


 貴方、僕の為に。彼らは王である僕のために動いてる。


 じゃあ牢屋に居る人達も、毒に苦しむ影森さんや流さんもなんでこんなことになっているかといえば全ては


「僕の……せいで」


「光ちゃん!?」




 〈我々〉の行動原理はほとんど僕に向けられている。それに皆が巻き込まれ、僕のせいで理不尽な目に会っているんだ。


「北野くん?なに立ち尽くしてんの!? 感傷に浸ってる暇なんてないでしょ!」


 僕がいなければこんなことには。


「光ちゃんを……あんた達と一緒にするなぁぁぁ!!」


「王子様! 待ちなさい!」


 その叫び声に真っ白な世界にいた僕は我にかえった。


 影森さんが神速の居合でモスへ飛びかっていく。


 ガスマスク越しでも通る毒が蔓延しているのに、飛びかかろうとする敵はその発生源。近づけ近づく程、毒の濃度が強いはず。


「影森さんダメだ!」


「馬鹿野郎!あんたまでいく必要無いでしょ!」


 彼女を引き止めようとするが、その僕を流さんが掴み止める。


 今退避している場所は毒が届いていない唯一の場所。


 少量吸っただけでも手足に痺れを起こす程だ。それもモスにとっては死なない程度に弱めているレベルだ。影森さんが危ない!



「死ねぇ!」


「うおっこわっ!」


 影森さんの神速をモスはひらりとかわす。


 モスの反応も早いが、影森さんの居合に少しブレのような違和感があった。やはり毒の影響はすくなからずある。


「ちっ!無茶しやがって!」


 流さんが拳銃をモスへ向け援護射撃する。しかし。


「そっち頼むわ~」


 ローブの怪人は目に止まらない速さで立ちふさがり弾丸を素手ではじく。脅威の動きと耐久性。


 顔や体付きは全く分からないが、得物の刃物はチラリと見えている。


 そのミステリアスさもあいまり並の改造人間以上の凄みがある。


「毒を止めろぉ!」


「止めたら俺居る意味無いやん!これが仕事なのよ」


 そう言ってりんぷんを牢屋にも飛ばし始める。意識が朦朧としていた人達も、毒を浴びるともがき苦しむ様子を見せる。


「さっきまで人形みたいなのに凄いでしょ? まあ、あの状態にしたのも俺なんだけどね〜」


「罪の無い人達に……貴様ぁ!」


 影森さんはカッターをモスへむけ何度も振るう。


 罪なき人々に理不尽にむけられる魔の手に彼女の怒りが爆発した。


 先程ぶれていた刃先は素早さを取り戻し、モスの羽を少しだけ切り込みを入れた。


「げっ!俺の羽!」


「とどめだ!」


 彼女はカッターを三段階に出し刺突の構えをみせた。鉄をも砕く刺突なら改造人間だって一撃だが。


「ぐっ……かはっ」


 空中で体勢が崩れた。そして体が痺れのせいか痙攣がみえる。


 さっきの連撃で限界だったのだ。毒を耐え攻撃するのは。


「ぐっ……うぉぉぉ!」


 彼女は雄叫びを上げた。自分の毒を気合いで押さえ込むように。


「おりゃぁぁ!」


「うおっ!」


 刺突がモスへ。


 しかし。


「……」


「ば……かな」


 突如割って入った怪人が、彼女の刺突を止めた。


「流石私の護衛だわい」


 瞬間、衝撃が影森さんを襲った。


 空気を伝わり僕らへ伝わるほどの衝撃だ。攻撃をしたようには見えなかったのに。


 影森さんは地面に叩きつけられる。その時、彼女のガスマスクが粉々になった。彼女は意識を失っている。


「影森さん!」


「ひゃ〜危なかった〜もうおっかないから全力の毒で始末しよ」


 モスの羽が黒く染まって行く。りんぷんが黒く変色しているのだ。これは本気だ。本気で影森さんを殺そうとしている。


「援軍はまだ……くそっ! 」


 流さんは毒から避け銃で牽制するので精一杯。しかしそれはすべて怪人に止められる。


「じゃあお嬢ちゃん。苦しまねぇ内にミイラになり」


 毒が彼女に迫る。


 先程の比ではないほどの毒が降る。


 彼女が、影森さんが死ぬ。


 僕は……僕は!


「待て!!」


「北野くん!」


 僕は、彼女とモスの間に立ち塞がった。


「王様! 毒あんのに小娘一人のために身を削なんて愚かじゃ〜」


 僕のせいで彼女は傷つき倒れた。


 僕のせいで罪の無い人が捕まり苦しんだ。


 僕のせいで影森さんが死んでしまう。


 僕の


 僕のせいで


 頭の中が一杯だ。


 感じたことのないほどの。


 いや、久しぶりに感じた。


 怒りっていう感情!


「北野くん貴方……この毒も効かないの……?」


「これ以上はやめて下さい……じゃなきゃ……」


 口元が息苦しい。


 邪魔だ、千切り取る。


「あなたそれはガスマスクよ!? 気でも触れたの!?」


「我が王ぅ?」


「じゃなきゃ!」


 口にあった物を黒い毒へおもいっきり投げた。


「ガスマスクに回転をかけて毒を吹き飛ばした……」


「うおっ……ガスマスク投げて毒を飛ばすとか……イカれとるん?」


「まだ……やるのか?」


「当たり前よ王様。手荒だけど許してほしいんじゃ」


「あいつ!こんな密室で風を!くっ!意識が……」


 こんどは眠くなる毒か、それを振るい落としながら先程以上の突風を起こしている。


「こんなに皆が苦しんでるのに……影森さんがこんなになってるのに……まだやるのかよぉ!」


 僕は突風に向かい飛んだ。


「なんで?なんで近づけるの王様?」


「毒や風をものともしてない……」


 僕は拳を握った。固く固く握った。


 その時、震えを伝えるトラウマは僕の頭の中から消えた。


 痺れは感じない。


「やめないなら!こうだぞ!」


 僕は数年ぶりに振るった。


 拳を。


 暴力を。



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