54.アジト突入
そうしているうちに指定したポイントに到着した。
この場所は隣の市の境の山林。山に整備された県道から離れた所だ。
「こんな森に地下道があるのかい?」
「ええ、植物を利用した自然のカモフラージュを施していたけど確かにあれは人工物よ」
比較的都会の錘関市でもこの山には山間部並の自然が広がっている。たしかに一般人には見つかりにくいだろう。
「北野くん、あの映像はみてくれた?」
「うん……まだ信じられないけど」
「私も車内でみたけど……今までの被害とは比べ物にならないね」
僕らが見たのは、ビルが地割れに飲み込まれる映像だった。
しかも飲み込んだあとその地割れが意志があるかのように閉じていく様子まで映っていた。
そして驚きなのが、その光景を見ていた歩行者の足元にも地割れが起き地中に消えて行ったのだ。
そして割れた地面は元通りとなり、その場には何もない広場が現れた。
「兵器の力? 改造人間?」
「どちらにせよあいつらしかできないわ。現に私達の目の前で村瀬が埋まったわ」
捕虜となった仲間を助けに?。
いや奴らのことだ……かわいそうだけど。
「この映像は無人の車内ドライブレコーダーに映ってたそうよ。人がいたら間違いなく埋められてたわね」
その車の持ち主の方が無事で良かった。
「この映像を見た村瀬はひどく怯えていたわ、上位者とか言ってた」
これを引き起こしたのは、改造人間ですら怯える存在なのか。
身の毛がよだつ感覚を覚えた。もしかしたらこの先の地下道に居る可能性だってある。
「玲央には話をしていなかったのかい?」
「がきんちょ侍には私の部隊と待機してもらうように言って置いたわ」
「なぜ?」
「私が何か地下であったときに、状況によって突入してもらえるようにね」
煽り合う関係なのに報連相はしっかりしている。玲央ちゃんが僕らの後ろに構えていると考えると心強い。
そうこうしているうちに地下道の入り口についた。地面に寂れた扉があり、流さんの部下がこじ開けてくれる。そこには地下へ続く階段があった。
「ここからは私と王子様、そして貴方といくわ。この三人は周囲の警戒と待機組への報告をしてもらう」
「なぜ彼を中へ?」
「彼の超感覚があれば中の罠の類いも察知できる。この子だって何もしないのについてきたわけじゃないでしょ?」
「うん……影森さん僕は大丈夫!」
「光ちゃん……」
彼女達ばかりに戦わせたりなんてできない。僕だって役に立てるところを見せなくちゃ。奴らに少しでも立ち向かわなきゃ。
「それじゃこれつけて」
「ガスマスク?」
スズカの時に着けたものよりも大きく頑丈なものだ。
「私達の船を襲った奴もいるかもしれないわ。毒とわかってるなら対策くらいわね」
そう言われるまま、僕と影森さんはガスマスクを装着した。案外息苦しいな。それぐらいじゃなければガスから守れないか。
「それじゃ……いくわよ」
僕らは息を殺しながら階段を下っていく。
勿論明かりはなく暗い一本道が続く。
今のところ何もないように感じる。
でもこの奥に、下った先に何かを感じる。微かな反応ではない。静かだけど大きく沢山の反応を感じる。
僕らの足は自然と早くなる。
50mは進んだか。階段が終わった。
開けた場所へたどり着いた。
(ここが終点……近い!人の反応が!)
そう思ったその時。
暗闇に光が灯った。
「!?」
「みつかった!?」
「そうみたいね………なに……これ」
流さんが状況を察知し、拳銃を懐より引き抜こうとする。
が、彼女の視点は上を向いていた。
僕と影森さんも直ぐに天井へ目が釘付けとなる。
僕が階段で感じていた反応はこの異質な光景から発せられたと分かった。
「あ……あ………」
「うぅっ……あぁ……」
「お……檻。 天井から檻がぶら下がっている!」
「一体何人いるのよ! まさかビルの中の人や通行人全員!?」
天井に大きな檻がぶら下がっていた。
中には人が押し詰められていた。
その人達はみんな目が虚ろで意識があるかどうか、呻き声しか発していない。
しかも1つではない。十個以上はある。
「ん……お姫様首もとのあれ」
「スズカの首飾り……」
檻に入れられた人間は全員赤い宝石の首飾りを着けていた。村瀬が組を使いばら蒔いていたものだ。
「これじゃまるで……」
「人間倉庫よなぁ」
革靴の足音が奥から聞こえる。30代後半の白スーツを着た男がどこからともなく近いてきた。
「誰です!?」
「〈我々〉か……貴方がドクター?」
流さんとと影森さんは武器を彼に向ける。
「そうです、我々は我々です。日本には久しぶりに来たんよぉ遠路はるばると」
彼がドクター。のんびりとした独特な態度の男だ。つかみどころがない。
「もしかしてあんたが船を……」
「気持ちよくクルージングしてたからね、相席させてもらいました」
「どうしてあの人たちをあんな目に!」
「流石王!お目が高い!この日本の担当達にやらせていたんだよ、新たな同志を探すための人間採集をね」
「あの首飾りには改造人間に適した人間を選定するための物なのかい?」
「いい素材に選ばれた人間はビルと一緒に来てもらんたんよ。見ちゃった方々も一緒にね」
なんて大規模で徹底しているんだ。建物だろうがありんこ1つだろうが逃さず拉致してくるなんて。
「まあね〜手当たり次第連れてきたんでスーツにも的さない方々には残念ですが〜美味しくいただかせてもらいます」
「人を……なんだと思っているんだ!」
罪のない沢山の人々をこんにも拉致し、用がなければ食べ物だと?
なんて残忍なやつ!許せない!
「まあ確かにな、建物を消し大量の人間を拉致したのは人員確保もありますが、一番の目的があるんですよぉ〜」
「一番の……目的?」
「聞く必要はない。この外道め」
「悪いけど腐った口からは何も聞きたくない。ベタだけど仲間の敵打たせてもらうわ」
僕も彼女達も奴の外道な発言に怒りは頂点だ。カッターの刃と弾丸が放たれる。
「あら〜怖いのぉ……じゃあ頼んます先生」
男はクククと笑いながら両手の人差し指を立た
すると、暗闇からローブを羽織った何者かが飛び出てきた。
その謎の怪人は彼女たちの攻撃を受け止めた。
「もう一人!?」
「二人の攻撃が!?」
「さて、やろうかの」
攻撃を止めている裏で、ドクターは動く。何か危険な予感を感じる。
「二人とも下がって!」
僕の咄嗟の叫びで二人は壁際まで退避する。
だが少しだけ、遅かった。
「!? 粉!」
「毒の粉!」
謎の粉が天井から舞い降り始めた。僕らが退避した壁の方にも流れてくる。
この粉は追跡者達の船にあった毒の粉だ!
「知りたかったでしょ?これが私の正体なんじゃ」
ドクターが天井に羽ばたき浮いていた。
そして早々に招待を表した。
白い毛と触覚に大きな目玉がついたような羽。そして複眼が僕らを見下ろす。
こいつは蛾の改造人間!
「光ちゃんは平気なの?」
「え?」
「流石ね。こっちは高級マスクしたうえで粉から逃げてんのに……手がピリピリすんのよ」
「なんだって!」
このガスマスクは超性能だと解説してもらった。
それに粉からも逃げ続けている。なのに二人の体に毒の影響らしい症状が出始めている。こんなに早くに。
「私の粉はね! 簡単には防げないんよ〜」
二人は少し咳き込む様子が見られる。
まさかこの二人を誘い込む罠だった?
「極東支部で開発担当やらせてもらってます、codeコードモスです~よろしくお願いします〜」
codeモス。見た目通りの蛾の改造人間。
彼が日本や近辺国の〈我々〉を従える人物!
「貴方様をここへお迎えするためにね帰ってまいりました」
「僕を……迎えるため?」
敵対勢力を暗殺しビルを飲み込み、全ての人間を拉致する。
こんな大掛かりの作戦目的は檻の中の人達でも二人でもなく。
ただ一人僕の為に行われていた。